第20話 空の旅と遺跡
眼下に広がる緑の森冠が、物凄い速さで後方へと流れていく。矢のような速さで、樹上スレスレを飛び抜ける深紅の機竜の轟音に驚いた鳥たちが一斉に飛び立つのを尻目に、オレはひたすらドライグを飛ばし続けた。
ドライグ・スカイモード。
『シン・ジークフリート』の主人公専用の乗り物としてオレが設定、デザインした訳だが、もしその設定が受け継がれているとすると、飛行速度は通常は時速450㎞。最大加速で500㎞超ということになる。もちろん実際に試したことはない。というか、スカイモードを使うこと自体、今回が初めてだった。
頭にはあったし、いつか試そうとは思ってはいたんだけど、この世界にきてこっち、街の探索やら、冒険者登録やら、初クエストやら、令嬢護衛ミッションやらと、なんやかんやあって後回しにしていた。とんだ初飛行になっちゃったよ。まあけど、人助けの役に立つんだから文句は無い。
「はうぅぅ~……」
「シ、シン君。す、少し飛ばしすぎじゃないか?」
ハンドルを握るオレの後では、変な呻きのような声を漏らすアリエルが、オレの腰に手を回して背中にしがみ付いている。そんな彼女の後ろでは、青い顔をしたラティナが引き攣った声を上げていた。意外に速いのが怖いらしい。いかにもクールな女性護衛官といった彼女の思わぬ一面に、なんかちょっと可愛いと思えた。
「善は急げ、です。領主様の為にも、一刻も早く戻らないと」
「そ、それは、そうなんだが……」
領主の命を救う為、という殺し文句でラティナの抗議を封殺し、オレは現状のスピードを維持し続ける。
実を言うと、これが最高速度という訳じゃない。いま出している速度はせいぜい300㎞くらいだ。その気になればもっと速度を出すことも出来る。けど、さっきも言った通り、スカイモードのドライグにはまだ一度も試乗していなかった。ぶっつけ本番で、しかも無関係な人間2人と3人乗り状態で最高速度を出すのはさすがに危険かと思ったからだ。けど事情が事情だし、領主の容態も気になるので、無理がない程度に急ごうと考えてこの速度にしたのだが、それでもラティナにとってはかなり速いようだった。
一方で――
「わふーん!」
オレの頭にしがみ付き、気持ち良さそうにスピードを堪能しているモコモコが一匹。はい、うちのモコです。
空を飛ぶなんて生まれて初めての経験なはずだけど、まったく怖がる素振りも見せず、むしろ普通に楽しんでいる。可愛い。
「お、お嬢様、大丈夫ですか?」
そんなモコとは対照的に、震える声でラティナがアリエルに尋ねる。
「だ、大丈夫です。お父様の為にも、一刻も早く戻らなければならないんですから、むしろ喜ばしいくらいです」
と、明らかに上ずった声でアリエルは即答した。
「た、ただ……その……」
「ただ、なんです?」
「お、お父様以外の男性にくっつくのは、は、初めてなので、その……恥ずかしいというか……」
背中にくっつかれた状態でそんなことを宣うもんだから、オレは危うくハンドル操作を誤りかけた。
そもそも前世では女性と全く縁がなく、会話したことすらほとんどなかったオレにとっても、若い女性2人とトライクに相乗りするなんて未知の経験だったんだよ。だからなるべく考えないようにしてたんだけど……
「シン君。一応、忠告しておくが、変な気は起こさないようにな? アリエル様は領主様の娘で、伯爵令嬢であらせられることを忘れないように」
「起こしてません! 起こしません!」
さっきとは打って変わって冷めた声で忠告してくるラティナに、オレは思わず大声をあげた。何故かすぐ後ろで「そう、ですよね……」と消え入りそうな声が聞こえたような気がしたが、空耳だろう。
「それよりも、良かったんですか?」
話題を変えようと、オレはラティナに別の話を振った。
「なにがだい?」
「……盗賊たちのことですよ」
少し声のトーンが落ちていることに、オレは自分でも気づいていたが、どうしても気分が暗鬱になることは避けられなかった。
「気にすることはないさ。あの状況では、あれが最善だった。相手は盗賊。法的にも問題ない」
「……」
峡谷前での襲撃の後、オレたちはドライグで空から領都へ向かうことにした訳だが、その前に片づけなければならない問題があった。
オレたちを襲撃した、例の盗賊たちだ。
一応、オレは殺さずに全員を無効化したのだが、なにしろ状況が状況だった。ドライグしか移動手段がない中で、20人近い盗賊たちを引き連れて行くことなんか出来ないし、かといって野放しにする訳にもいかない。フィジーに連絡して、引き取りの為に人を寄こしてもらうという案もあったが、その場合は到着まで盗賊たちが逃げないよう、オレたちが見張っておかなければならない。しかも場所が魔物が多く生息する危険地帯のど真ん中。フィジーからでは、たとえ順調に進んだとしても到着には数時間は掛かるし、下手したら道中で魔物に襲われる可能性もある。領主の為にも一分一秒を争う状況で、そんなことに掛けられる時間的余裕はない。
ならば、取り得る選択肢は1つしかなかった。
その場で全員を処刑することだ――
元日本人のオレとしては、正直、それはどうかと思う気持ちもあったが、ここは日本でも、地球でもないことを思い出して、ぐっと堪えた。元々、兵士崩れの盗賊として街路を通る車や輸送トラックなどを繰り返し襲撃していたらしく、犠牲者も出ているって話だ。フィジーでも懸賞金付きで手配されていた凶悪犯だとか。
実際、オレたちを襲撃した時もアリエルやラティナを「好きにする」とか言ってやがったし、オレに対してはいきなり頭を狙って銃を撃ってきやがった。
そんなことを考えているうちに同情心はさっぱり消えてなくなって、連中の自業自得。これまでの行いの報いと割り切ることにした。全員が気を失った状態で逝くことができただけでも、情けとしては充分すぎるくらいだ。
遺体はどうしたのかって? 谷底にポイだよ。
一応、後の確認の為にラティナが携帯していた小型カメラ――なんかスマホみたいなもの――で写真だけは撮っていたが。
ちなみにそれらはすべてラティナがやってくれた。襲撃に対してほとんどなにもできなかったので、これくらいは、と自分から志願してくれた。盗賊とはいえ、無抵抗の、気を失っている人間を手に掛けるのはさすがに抵抗があったオレも、彼女の好意に甘えてしまった。
ラティナが昏倒している盗賊たちの頭に淡々と銃弾を撃ち込む様に、アリエルはさすがに目を背けていたが、オレは最初から最後まで見届けた。正直、いまも胃の辺りがムカムカしているが、オレも冒険者という職業を選んだ以上、いつかは同じ所業に手を染めることがあるだろうから、その時に迷わないよう、オレは一連の処刑をきっちりと目に焼き付けた。
もちろん、オレが仕留めたの狙撃手もだ。
盗賊たちの処分を済ませた後、オレたちは念の為に狙撃手の遺体も確認することにした。
狙撃場所は判っていたのでドライグに乗って向かうと、驚いたことに狙撃手の正体はエルフだった。おそらくは橋に仕掛けた爆弾のものであろうスイッチ付きのリモコンを握った状態で、身体のど真ん中に大穴を開けて死んでいるエルフの男は、見た目は20代くらいに見えたが、この世界のエルフの平均寿命は1000歳前後らしいので、具体的な年齢は判らない。
この時、オレは初めて気づいたことがあった。
オレの<竜眼>のスキルを使えば、人間、魔物問わず他者のステータスを確認することが出来る。けど、死んでしまうと確認することが出来なくなるらしい。実際に確認しようとしたら『エルフの遺体』と表記された。どうも生命を失った死体は“物”という扱いになるようだ。
その後、エルフの死体も他の盗賊と同様、写真を撮った後に谷底に遺棄したが、その際、ラティナがなにやら神妙な顔で狙撃手の顔写真を凝視していたのが少し気になったが、時間も押しているので急いでその場を後にした。
「時にシン君、ひとつ尋ねて良いかな?」
盗賊の処刑シーンを思い出して少し鬱な気分になりかけていたオレに、ラティナが声をかけて来た。
「……なんです?」
暗くなっていた胸の内を悟られないよう、努めて普通の声色で答える。
「君はこれまでに、人を殺めた経験はあるかい?」
「!?」
予想の斜め上を行く質問に、オレは一瞬、言葉に詰まった。それはオレだけではなく、オレにしがみ付いているアリエルもまた、ラティナの質問にぎょっとしているのが背中から伝わってきた。
「……どうしてそんなことを?」
「いやなに、さっきの盗賊たちのことと、例の狙撃手を撃った後の君の表情が少し気になっていてね。ひょっとしてだけど、君はこれまで人を殺めたことは……」
さすがプロの護衛官というべきだろうか。言動や表情の機微だけで判ってしまうもんなんだな。あるいは、オレの未熟さが原因かもしれないが。
「……初めてです」
「えっ!?」
驚きの声を上げたのはアリエル。
そんなに驚くことか? オレってもしかして、危ない奴だと思われてた?
「じゃ、じゃあ、私のせいでシンさんは人を……」
あ、なるほど。そっちでショック受けたのか。自分のせいで、オレに人殺しをさせてしまった、と。
「気にしないでください。冒険者になることを選んだ時点で、覚悟はしてましたから」
「でも……」
いやいや、なんであんたが泣きそうになってんだよ。意外と責任を感じやすいタイプなのか? 依頼者で護衛対象なんだし、気にすることないと思うけど。
「オレとしては、ちょうど良いタイミングだったと思ってます。冒険者になった以上、いつかはやらなきゃいけなかったことだし。むしろ、オレが躊躇したせいで、アリエル様やラティナさんにケガをさせる方が嫌ですから」
「……」
そこまで言うとアリエルは黙りこくってしまった。背中にしがみ付いているから見えないけど、心なしが腹に回された手の力が強くなった気がした。
「私たちの為に、すまなかったね。改めて礼を言うよ」
「冒険者として護衛依頼を引き受けた以上、依頼者を守る為に当然のことをしただけです。気にしないでください」
その会話を最後に、暫し会話は途切れることになった。
その間も休むことなくドライグを飛ばし続ける。当たり前だが陸路を地道に行くよりも遥かに速い。地形や障害物、魔物なんかを無視出来るのも大きい。当初予定していた最短ルートは、深い森林と山岳地帯を縫うように曲がりくねっている為、普通に走っていたら結構な時間がかかる上、魔物なんかもいるから速度が出せず、どうしても時間が掛かってしまう。けど、空ならそんな障害なんか一切気にせず、文字通り一直線に飛んでいける。
あと、道中に他の待ち伏せがいないとも限らないしな。もし仮にいたとしても、まさかこっちが空を飛んで行くとは予想していないだろう。妨害も受けずに済むし、アリエルの事情を鑑みれば、これが最善の選択だったはずだ。
「そろそろ森林地帯が切れるはずだ。人に見られないよう、もう少し高度を落としてくれ」
「了解です」
少々名残惜しいが、空のドライブもおしまいだ。元々それほど高度を取っていた訳じゃないが、ラティナに言われた通りさらに森冠すれすれまで落とす。
「スピードを落としてくれ。直に林道が見えてくる。そこに着陸して、あとはそのまま陸路を行こう」
彼女の言う通り、しばらくして森の隙間を縫うようにして走る林道が見えてきた。道と言っても舗装もされていない土が剝き出しの悪路で、幅も狭いがドライグで走る分には問題ない。人もいないようだし、ちょうど良い。
機首を下げて高度を落としつつ道に角度を合わせ、停止することなく低速で進みつつ格納していたタイヤを展開し、そのまま接地。ふぅ、初めての着陸だったけど、上手くいって良かった。
「とっても楽しかったです! 空を飛ぶって、気持ち良いんですね!」
興奮気味に捲し立てるアリエルの声は嬉々としていて、恐怖の欠片も感じられなかった。この子も意外と根性据わってるよな。一方のラティナはというと、声にこそ出さないものの、あからさまに安堵したような溜息をついていた。やっぱ怖かったんだな。
その後、しばらく森の中を進んだ後、今度はちゃんとした舗装道路へ出る。片側一車線のれっきとした車道だ。ラティナの指示した方向へ走っていると、道の脇に案内標識が立っていた。『領都エスタールまで70km』と書いてある。
日本の感覚だとまだまだ遠いように思えるが、ドライグの足ならもう目の前だ。いまも時速150kmで走っているしな。飛ばそうと思えばもっと速く走れるけど、いまは3人(+1匹)乗りの状態だし、安全優先ってことで。
やがて道の左右に広がっていた森が途切れた。
その先には、地形の起伏のほとんどない平原だった。平坦な大地に草木が多い茂り、浅い森や湖がぽつぽつと点在している。森の木々がなくなり、地形がほぼ平坦で道がまっすぐな為、地平線の彼方まで道路が続いている光景は、幻想的にすら見えた。
日本ではこんな光景、北海道のごく一部でしか見れないはずだ。オレは北海道には行ったことがないので、これにはある種の感動すら覚えた。信号も障害物もない、ただ見晴らしの良いまっすぐな道ってのは、ドライブ好きには最高の環境だからな。
しばらくするとチラホラと人家や集落が見えてきた。オレたちがいま走っている幹線道路沿いに、数軒から十数軒規模の小さな集落が築かれている。
事前に調べて知ってたけど、エスタール伯爵領ってのは本当に――
「田舎だな――とか思ってません?」
唐突なアリエルの質問に、オレは図星をつかれて思わずギクリとしてしまった。たぶんそれが伝わったのだろう、アリエルがクスクスと笑う声が聞こえてきた。
「い、いや、そんなことは……」
「良いんですよ、誤魔化さなくても。実際、私だってそう思ってますから」
朗らかに笑いながらアリエルは言い切った。まあ実際、見た感じ、100人中100にんが「田舎だ」と断言できるくらいには田舎だと思うけどさ。
「ご存じかもしれませんが、元々この辺りにはミスリルを始めとした希少鉱物が豊富に存在していて、200年くらい前の頃は女王国で最も豊かな領地と言われていたそうなんです」
「ええ、知っています」
オレがそう答えると、アリエルは少し声のトーンを落として続けた。
「ですが、鉱物なんですから当然、採ればなくなります。最初の頃は豊富に採掘されていた鉱物資源も年を追うごとに減少し、私の祖父の代には完全に枯渇して、まったく採れなくなってしまったそうです。鉱物の無いエスタール領は、ただ広くて魔物の多いだけの辺境。あっという間に人口は流出し、いまでは最盛期の10分の1以下にまで減ってしまいました」
「そんなに、ですか?」
エスタール領に関するオレの知識は、前日にネットで調べて知っただけの、一夜漬けとも言えないお粗末なものだったけど、おおよその歴史は把握していた。一時は希少鉱物の採掘で賑わっていたが、採掘量の減少と共に寂れていった、という内容だったが、人口が10分の1以下になってしまうほどだとは知らなかった。
そういえば日本にもあったな。元々は炭鉱町として栄えていたが、それが掘りつくされ、鉱山が閉鎖された途端に衰退の一途を辿り、最終的には財政破綻してしまったり、廃墟になってしまった街がいくつも。
元の世界でもこの世界でも、金の切れ目が縁の切れ目なんだな。世知辛い。
けど考えてみれば、この世界は地球と違って魔物という脅威が存在している。特にエスタール領は辺境で森林や山岳地帯がほとんど。定住するには危険が多く、うま味は少ない。しかも魔物が多い上に移動には不便。そういう意味では、安全な場所にさっさと移住したくなるのも仕方ないことなのかもしれないが。
「祖父や父は、そのせいで随分と苦労をしていました。人が少なくなって、税収も落ち込んで、けど魔物の被害は止まず、その為の防衛費を捻出しようとしても予算がなく……父は私には心配をかけまいとしてなにも言いませんでしたが、私だって子供じゃないんです。一緒に暮らしていれば嫌でも気づきます」
なるほど。伯爵だの、領主という言葉を聞いて、てっきりありがちなラノベに出てくる貴族をイメージしていたんだが、アリエルの口から紡がれる言葉を聞く限り、なかなかに世知辛く、苦労も多い役職であるようだ。もっともこれはエスタール伯爵の話で、他の領主はどうか知らないが。
「シンさん、私、いまは国外に留学しているって、お話ししましたよね?」
「ええ。領主様の件で、急遽、帰国することになった、と」
「実は私、薬用植物の研究を学んでるんです」
薬用植物。薬草か。なるほど、なんとなく彼女の意図が判った。
「うちは辺境で開発も進んでない分、豊富な植物が自生しています。中には薬になる植物も多いですし、それを活かしてポーションの開発を増やしたり、新薬の開発なんかに繋げられれば、いまより領地も発展出来て、お父様の手助けになるんじゃないか、って。それに、薬草が増えればポーションなんかも増えて、冒険者の方々を始め、ケガに苦しんでる大勢の人たちの助けにもなると思ったんです」
彼女の言葉のひとつひとつに、父親に対する気遣いと、心配と、それを見ていることしかできなかった自分自身への無力感、それをなんとかしたいという決意がありありと込められているのが感じられた。
本当に親想いで、優しくて、健気な子だ。
「それは、素晴らしい考えだと思いますよ」
率直な気持ちを口にすると――
「ホントですか!」
アリエルは子供みたいに喜んでいた。自分の目標を、努力を、夢を認めてもらえたのが嬉しかったんだろう。オレ自身、自作のゲームが大ヒットした時は驚愕と歓喜が入り混じって、自分でも訳が分からない感情が爆発したのを覚えているし。
実際、アリエルのやろうとしていることは本心から素晴らしいことだと思う。
父親の為、領民の為、未来の薬学の為、そしてそれによって救われるであろう多くの人の為に頑張っているんだから。これが素晴らしくなくてなにが素晴らしいと言えるだろう。
「オレが冒険者になって最初に受けたのも、薬草採取の依頼でした。オレが採ってきた薬草で大勢の人の助けになれば良いな、と思って。だからアリエル様のやろうとしていることは、とても良いことだと思います」
「そ、そうですよね。えへへ~」
自身の頑張りを肯定されてよほど嬉しかったのか、アリエルが表情を緩ませて笑っているのを背後に感じながらトライクを走らせていると――
「ん? あれは?」
前方、道からやや外れた山林の中に、明らかに自然のものとは違う異物が存在しているのが目に入った。ボロボロに朽ち果て、全体に植物に覆われているのではっきりとは判らないが、大きな尖塔のような構造物だ。
「ああ、あれはオルティア文明時代の遺跡だよ」
ラティナが答えてくれたが、初耳な単語が出て来たぞ。
「オルティア文明?」
「知らないのかい? 5000年前に滅びたとされる古代文明だよ。セレスティアを中心に、複数の大陸に跨って栄えていたといわれている」
「なんでも、現代よりも遥かに進んだ科学技術があったそうですよ。けど、5000年前の女神戦争でオルティア文明は滅び、当時の科学技術なんかもほとんどが失われてしまいました。その後、生き残った人々がどうにか当時の技術を再現し、復興させたのがいまの文明なんです。けど、私たちが扱っているのはオルティア時代の技術の中でも、どうにか理解できたごく一部でしかないと言われています」
ラティナの説明をアリエルが引き継いで話してくれた。
古代オルティア文明。
女神戦争。
どちらも初めて聞く言葉だ。少なくともオレが作った『シン・ジークフリート』の中にそんな設定はない。やっぱりこの世界は『シン・ジークフリート』と似て非なる世界だということがはっきりしたな。
「オルティア文明が栄えていた当時、この辺りにはかなり大きな都市があったそうだ。もちろん、それも女神戦争で滅び、いまは樹海に飲まれて見る影もないが、それでもたまに生きた遺跡が見つかることもある」
「生きた遺跡?」
妙な表現だな。遺跡なのに生きているとはこれいかに?
「オルティア文明時代の遺跡では、稀に貴重な文献や当時のテクノロジーで作られた魔導具なんかが見つかることがあるそうです。そして、そういった遺跡には多くの場合、遺跡を守護する為の守護機兵が配されているんです。もちろん、大抵はその守護機兵自体が壊れている場合がほとんどなんですが、中にはいまだに動いているものが見つかることもあるそうです」
守護機兵。よく判らないけど、文明当時に作られたオートマタみたいな感じかな?
それが5000年も経っているのに動いているってことか。マジですごい技術力だったんだな。
アリエルの話を聞いて、オレの中にワクワクとした気持ちが沸き上がってきた。
失われた文明。
ロストテクノロジー。
古代の遺跡。
その奥に秘められた未知の秘宝。
それを守護するガーディアン。
実に冒険者心を擽られるワードだ。ってきうかこれにワクワクしないようじゃ、冒険者失格だろ。
叶うことならオレも見てみたい。ってか実際に遺跡を探検してみたい! と思うのは、冒険者として当然のはずだ。
「領内ではそういった遺跡が多く存在していてね。もちろん発見されている遺跡はすべて調査済みなんだが、樹海の中にはいまだ発見されていない遺跡も多く眠っていると言われている」
なんと! ラティナの言葉を聞いてますます冒険心が燃え上がってくる。
決めた。どうせ行く当てもない旅だ。アリエルの護衛が終わったらしばらく領都に滞在して、遺跡探索と洒落込もう!
そうこうしている間に見えてきた。
地平線が切れた先――大きな湖の岸辺に築かれた街。白亜の市壁。その内側に見えるいくつもの構造物。さっき見た遺跡とは違う、本当の意味で生きている街。
あれが領都エスタールだ。




