第15話 令嬢と護衛依頼
しばらく道なりに走っていると、さっきダムド・チェイサーに追われていた車が路肩に停っていた。よかった。無事だったらしい。向こうもオレに気付いたようで、運転席から女性が下りてきた。
黒い男装のスーツをビシッと決めた麗人で、黒髪のショートヘアもあって一見すると男に見えなくもない。見た感じオレよりも背が高く、いかにもクールで仕事の出来る女性って感じだ。
オレがスピードを落として近づくと、彼女は整った美顔に少なからず驚きの色を浮かべて言った。
「……無事だったのか?」
「お互いに、ね」
どうもオレが無傷で無事だったことに驚いているらしい。
「さっきの魔物は……?」
「倒しました。もう大丈夫です」
オレがダムド・チェイサーを倒したと教えると、彼女は一瞬、ビックリしたように目を見開いたが、すぐに真顔に戻って――
「すまなかった。自分たちだけ逃げてしまって……」
オレに頭を下げて謝った。
なるほど。ダムド・チェイサーに襲われていたところを助太刀してくれたオレを置いて、自分たちだけ我先にと逃げてしまったことに対して負い目を感じているようだ。オレが自分にまかせて逃げろ、って言ったんだから、気にしなくても良いのに。真面目な性格なんだろうな。
「気にしないでください。オレがそう言ったんですから。それに、守らなきゃならない人もいたんでしょ?」
オレが言い終わる前に車の後部座席のドアが開き、1人の少女が下りてきた。さっき見た長い金髪の少女だ。年はオレと同じか少し下くらいか? まだあどけなさが残る丸みの帯びた輪郭に、顔つきは美人というよりは可愛らしいと言った感じか。背丈も小柄でオレより低い。
あと、何気に気になるのが着ている服だ。白を基調とし、赤と黒のレースの入った清楚なデザイン。短めのスカート――学生服に見えるのは気のせいか?
「あの……先ほどは危ない所を助けていただき、誠にありがとうございました!」
緊張しているのか、少し詰まりながらも少女は健気に礼を言って頭を下げた。
「申し遅れました。私、アリエル・フォン・エスタールと申します」
ちょっと待て! いまこの子、なんつった!?
「え? エスタール?」
オレの聞き間違いでなければ、エスタールってのは領主の性。ミドルネームの「フォン」は貴族の証だったはず。反射的に<竜眼>で鑑定してみたところ――
名前:アリエル・フォン・エスタール
種族:人族
年齢:15歳
性別:女
レベル:3
HP:53
MP:100
SP:30
魔力:100
体力:23
筋力:15
敏捷:10
防御:17
耐久:25
スキル
魔法系
<光魔法LV10>
技術系
<礼儀作法LV50><裁縫LV20><歌唱LV30><舞踏LV35>
特殊系
<浄化の祈り>
称号
伯爵令嬢
――「伯爵令嬢」の称号。どうやらマジっぽいな。少なくとも、モノホンの貴族様だ。
おいおい、縁が無いだろうと言ってる側からコレかよ……
「はい。エスタール領領主、レオナール・フォン・エスタール伯爵の娘です」
しかもご本人まで認めちゃったよ。
テンプレなら、お姫様か貴族令嬢が乗る馬車が盗賊に襲われているところを助けて仲良くなる、ってのが定番なんだろうけど……
っていうか、いいのか、そんな簡単に名乗っちゃって。
「お嬢様! 見ず知らずの人間にそのように軽々しく名乗ってはなりません!」
と思ったら、やっぱダメらしい。お付きの女性に注意されていた。
「まあ、ラティナ! この方は私たちの命の恩人ですよ!」
「例え命の恩人でもです!」
言い返すアリエルに厳しい口調でお付きの女性――ラティナという名前らしい――が咎めた。
そりゃそうだよな。貴族がこの世界でどういう存在なのかはよく知らないが、普通に考えて伯爵令嬢がこんな場所で、碌に護衛も連れずにほっつき歩いているなんて知れたら、悪党どもが踊りだすだろうよ。
「すまない。いまのは忘れてくれ」
などと真剣なラティナが顔で頼んでくるくらいだから、オレの想像は間違っていないはずだ。
っていうか、こんなとこでなにしてんだ、伯爵令嬢?
「了解です」
ひとまずラティナの要請に了承を返しておく。
「すまない。それと、改めて礼を言う。君がいなかったらお嬢様も私も命は無かっただろう。本当に、ありがとう」
そう言ってラティナはオレに深々と頭を下げた。この人も礼儀正しいな。
「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな」
「ああ、失礼。オレはシンといいます。シン・スカイウォーカー。それと――」
オレの頭にしがみ付いていたモコを抱き上げる。
「こいつは相棒のモコです」
「わんっ!」
「まぁ! なんて可愛らしいのかしら!」
早速アリエルが目を輝かせて食い付いて来た。
やっぱりこの手の女の子って可愛いものに目がないんだな。
「いちおう冒険者をやってます。まだ7級ですが……」
「7級?」
オレの冒険者ランクを聞いて一瞬、ラティナが怪訝な顔になった。なんだろう?
「やはり冒険者だったのですね!」
と思っていたら、何故か喜色満面でアリエル嬢が会話に割り込んで来た。
「お嬢様、私が話しますので少し大人しくしていてください」
再度ラティナに注意されて、渋々といった様子で黙り込んだ。
なんて言うか、随分と感情豊かで子供っぽいな。
「それはそうと、こんな辺境でお二人はなにを?」
どうして伯爵令嬢、領主の娘などと言う重要人物がこんな辺境にいるのか、ふと気になったので尋ねてみることにした。ここは領都からもだいぶ離れているし。
「元々お嬢様は他国に留学されていたのだが、訳あって急遽、帰国しなければならなくなってな。それでお忍びで領都に向かう途中、この道で突然あのダムド・チェイサーに襲撃されたんだ。他の護衛が殿になって私たちを逃そうとしてくれたんだが……」
留学? じゃあいま来ているのはその学生服って訳だ。
護衛――それを聞いてオレはさっき見た、路上で大破した2台の車を思い出した。
「その護衛って、お二人が乗っていたのと同じ車に乗っていたのでは?」
「ああ、そうだ。2台だが」
じゃあ間違いないな。
「ここへ来る途中、路上で大破しているのを見ました。乗っていた人たちも、全員……」
「……そうか」
仲間の死を知ってラティナが沈痛な表情で目を伏せた。アリエル嬢も悲しそうに俯いている。だが、すぐになにかを決意した顔でオレの方を見て――
「あの、シン様は冒険者なんですよね!?」
は? いまなんつった? シン様って言ったか?
「様付けなんてやめてください。オレは平民なんですから!」
さすがに伯爵令嬢に様付けされるなんて、恐れ多すぎて無理。
「では、シンさん。あなたを護衛として雇うことは出来ませんか?」
「護衛?」
「お嬢様、なにを――」
言いかけたラティナを制して、アリエルは続ける。
「私たちは急ぎ、領都へ戻らねばなりません。しかし、また先ほどのような襲撃がないとは限りません。なので、領都に着くまで、是非とも私たちを護衛していただきたいのです。無論、冒険者ギルドを通して正式に護衛依頼を発注し、無事に到着した時は相応の依頼料をお支払いしますので、どうか!」
おいおい、マジかよ。
護衛依頼? 伯爵令嬢を? オレが?
「いやしかし、冒険者と言っても昨日登録したばかりの新人です。依頼だってまだ一度しか受けたことが無いし……」
冒険者になった次の日に貴族令嬢の護衛とか、展開が速すぎるだろう。
しかもこの世界はテンプレな中世ヨーロッパの異世界じゃない。科学が発達し、文明の進んだ世界だ。護衛だってラノベのようにはいかない。魔物ですらさっきのダムド・チェイサーみたいな機械系もいるんだし、それが人間ならさらに知恵を絞って文明の利器を使ってくるだろう。例えば、狙撃とか。
「勝手なお願いなのは重々承知しております。ですが、そこを曲げてどうか――」
さらに畳みかけるようにして頭を下げられると、こっちも断り切れなくなってくる。
「私からもお願いする。ダムド・チェイサーを倒したその腕を見込んで、頼めないだろうか」
ラティナにまで頭を下げられたオレには、もはや退路は無かった。
シン道大原則ひとつ――か弱い女性のお願いを断ってはならない(ただしヤバい女は除く)。
シン・スカイウォーカーとして生きると決めた以上、その道に反することは出来ない。
「……判りました。オレでよければ、引き受けましょう」
「ありがとうございますッ!」
オレが了承した途端、アリエルは太陽のような輝いた笑顔で礼を言ってきた。オレとしては貴族なんかに関わりたくないっていうのが本音だが、見た感じ悪意もない素直で優しい女の子って感じだし、本当に困っているんだから見捨てるのはダメだろう。
「すまない。命を救ってもらった上に勝手なお願いまで……」
「気にしないでください。どっちにしろ領都に向かう途中だったので」
「そう言ってもらえると助かるよ。では、さっそく出よう。日が落ちる前にフィジーに着いておきたい」
「了解です」
なんの縁か、オレは伯爵令嬢を護衛して親元に届けることになった。
その後は幸いにも襲撃を受けることなく、夕方にはフィジーに辿り着くことが出来た。
少し解説しておくと、先に説明した通りフィジーは領都エスタールとエンディムとの間に築かれた街だ。人口は約4000人。田舎だと思っていたエンディムよりもさらに小さい。一応、周囲を塀に囲まれてはいるが、狩猟と林業――あとはエスタールとエンディム間を行き来する輸送業社の宿場で成り立っている田舎町だ。
それでもれっきとした市であって、冒険者ギルドもあるが、やはりエンディムと比べると随分小さい。
街に到着したオレたちが最初に向かったのは冒険者ギルド。ここでアリエルが正式に依頼者となり、オレを指名して護衛依頼を発注し、受諾。
内容は、フィジーから領都エスタールまでの護衛。やれやれ、冒険者としての2度目の仕事が貴族令嬢の護衛で、指名依頼とはね。
ただその時、ふと気になったことがあったのでアリエルに尋ねてみた。
「オレなんかを雇わずとも、領都に連絡して護衛を寄こしてもらった方が良いのでは?」
いくら辺境だからといっても領主だ。腕の立つ兵士ならいくらでもいるだろう。わざわざオレみたいな見ず知らずの、しかも行きずりの冒険者に縋らなくても、領主である父親に連絡すれば護衛くらい寄こしてくれるはずだ。それを待ってから領都に向かえば良い。ていうか、普通はそうするはずだよな?
「……それでは間に合わないのです」
アリエルは、ともすれば悲痛とも言える表情でそう答えた。
理由は教えてくれなかったが、どうやらなにか抜く差しならぬ事情があって時間に追われているらしい。危険を冒してでも、一刻も早く戻らねばならぬという悲痛とも言える覚悟が感じられた。
やれやれ、なんかヤバいことに関わっちまった気がする。まあでも、いまさら見捨てることなんかできないし、どうにでもなれだ。
護衛依頼を受注した後で、オレたちはフィジー市庁舎へと向かった。市長に事の次第を説明した上で、ダムド・チェイサーに殺された護衛たちの遺体を回収してもらう為だ。
市長とのやり取りに関してはオレは部外者だったので席を外していたのだが、面会から戻って来たアリエルは何故か浮かない顔をしていた。
「フィジーから領都へ向かう最短ルートが、夜間閉鎖されるんだ」
ラティナの説明では、ここフィジーから領都エスタールへ向かうには2つのルートが存在している。近道と遠回りだ。近道を使えばエスタール市まで1日足らずで行けるが、道中は魔物が多い危険地帯な上、深い峡谷を沿うように造られた悪路であり、地元の人間や輸送業者、冒険者に至るまで滅多に通らないらしい。
遠回りのルートは比較的安全だが、険しい山脈や森林地帯を大きく迂回するルートである為、到着には最低でも3日は掛かる。
時間に追われているアリエルとしては当然、近道一択なのだが、先述の通り危険地帯である為、夜間は閉鎖されてしまうらしい。既に時刻は夕刻になっており、間もなく道は閉鎖される。なので通るには明日まで待たなければならないそうだ。
時間に追われているアリエルはどうにかして今日中に通してほしい、と市長に懇願したそうだが、向こうも折れてはくれなかったと。
まあ、当然と言えば当然だろう。そんなことして領主の娘になにかあれば、市長の責任問題にあるだろうし。
しかし、そこまでして戻らなければならない理由ってなんなんだろう? 領主の娘程の重要人物が、我が身の危険を冒してでもって覚悟するなんて、ただ事じゃなさそうだな。
「お嬢様、焦りは禁物です。それに、時間はあります。それに、ここで無理をして万が一のことがあれば、それこそ最悪の事態になります。領主様を信じましょう」
「ラティナ……」
焦りを隠せないアリエルをラティナがなだめていた。
結局、この日はフィジーで一泊することになった。幸い、宿場町だけあって宿屋やホテルは良いものが揃っており、ペットOKのホテルを見繕って泊まることになった。あ、ちなみにもちろん別室だよ。オレとモコ。アリエルとラティナで二部屋ずつ取った。護衛とはいえ、さすがに年頃の若い男女が同室には泊まれない。領主の娘、伯爵令嬢という立場のある人間なら猶更だ。無論、万が一に備えて隣部屋を取った。
その夜――
そろそろ寝ようかと思っていたところに、ラティナが尋ねてきた。
「すまないな、こんな遅くに」
「気にしないでください。護衛ですから。アリエル様は?」
「さっき眠ったよ。魔物に襲われて危険な目に遭ったし、精神的に随分と疲れていらしたようだ」
そりゃまあ、普通のお嬢さんがあんな目に遭ったのだから精神的に参るのは当然だろう。むしろ、そんな目に遭ってまで領都に戻らなければならない事情が気になる。
「それより、君はその若さで随分と腕が立つんだな」
「まあ、そこそこ……」
「そこそこなんてレベルではなかった気がするが……あのダムド・チェイサーも、おそらくはLV40はあったはずだ」
鋭いなこの人。確かにあのダムド・チェイサーのLVは45だった。
「そんなダムド・チェイサーを、君は無傷で倒した。しかもあのトライク――あんなデザインは見たこともない」
「……なにが言いたいんです?」
だんだんと会話の内容が不穏になって来たぞ。それにこの人の目――この値踏みするような視線は覚えがある。エリーさんのそれと同じだ。
「単刀直入に聞く。シン・スカイウォーカー。君はいったい、何者なんだ?」
「いや、そんなこと聞かれても……」
返答に窮する質問はやめてくれないかな。何者かと聞かれて、どう答えりゃいいんだよ。
「君は7級冒険者だと言ったね?」
「そうですが……」
「冒険者になったのは昨日だとも言った。まだ依頼を1つしか熟していない、と」
あ、なるほど、ラティナが聞きたいことが判ったぞ。
「冒険者になったその日に、1つしか依頼を熟していないのに、7級になれることはあり得ないと思うんだが?」
言われてみれば確かにそうだ。普通は冒険者になったばかりの人間はすべて10級からスタートし、そこから承認試験や実績を重ね、時間をかけて昇格していく。冒険者になったその日に、1つしか依頼を受けていないのに7級冒険者です、なんて不審に思われて当然だ。
ここは正直に話した方が良いだろう。
「オレが冒険者登録したのはエンディムだったんですが、ちょうど昨日が10級の昇格試験の日だったんですよ。で、実技試験で試験官の冒険者と一対一の勝負で勝ったら、あなたは7級が相応しいですって言われちゃって……」
「ほぅ……」
感心したような、それでいてまだ警戒している色をにじませつつラティナが言った。
「ひょっとして、天職持ちか?」
「……まあ、一応」
「天職名を聞いても?」
「それはちょっと勘弁してほしいです」
「では、レベルは?」
「それもノーコメントで……」
レベル389で天職は英雄天職の「ジークフリート」です、なんて言えるか! まして領主――貴族の関係者なら猶更だ。
「そうか。では、君はどうして冒険者になったんだい?」
「別に大した理由じゃないですよ。親と色々あって、家を飛び出したんです。あのトライクは自作みたいなもので、冒険者しながら路銀を稼ぎつつ、世界を旅して周ろうと思いまして……」
「……」
嘘ではないが、すべてが本当でもないこの話をどこまで信じてくれるだろう。一応、ラティナのステータスも確認しているが、エリーさんと違って彼女は<虚実看破>は持っていない。ただ、それでも護衛官だし勘も鋭そうだ。
「そうか……無粋なことを聞いてすまなかった」
が、彼女はそれ以上は追求しようとはせず、思いの外あっさりと引き下がった。
「……いいんですか? 自分で言うのもアレだけど、オレみたいな身元の怪しい人間を信用して?」
「馬鹿にしないで欲しいな。これでも人を見る目はあるつもりだ。過去や素性はどうあれ、君と言う人間は信用に足る人物であることは話をしていれば判るさ。それに――」
彼女はオレの膝の上で寛いでいるモコに視線を落とした。
「わふ?」
こてん、と首を傾げるモコが可愛い。
「シエルカニスにそこまで懐かれる人間が、悪人であるはずがないだろう?」
「なるほど……」
犬好きに悪い人間はいない、と言うしな。モコは幻獣だが。
「野暮なことを聞いてすまなかった。私もそろそろ休むよ。君も早めに寝ておいた方が良い。明日は魔物の生息する危険地帯を突破することになる。行ずりなのに申し訳ないが、君の力に期待している。お嬢様を守る為に、どうか力を貸してほしい」
「もちろんですよ。任せておいてください」
オレが答えるとラティナはもう一度、深々と頭を下げてから部屋を出て行った。
彼女の気配が無くなるのを確かめてから、オレはふとため息をついた。
「魔物、ね。果たして魔物だけで済めばいいけど……」
「わふ?」
「なんでもないさ」
首を傾げてオレを見上げるモコの頭を撫でてから、オレは夜の帳の降りたフィジーの街に目を向けた。
闇に隠れてオレたちを見ているであろう、何者かに向かって。
★★★
「オレだ。先ほどターゲットがフィジーに到着したと連絡があった」
『なんだと!? 娘は生きているのか!?』
「そのようだ」
『馬鹿な! LV45のダムド・チェイサーを送り込んだんだぞ! 小娘の護衛如きに対処できる相手ではないはずだ!』
「護衛は始末したようだが、運悪く通りかかった冒険者に倒されたようだ。娘とその直属の護衛官は無事だ」
『冒険者だと! クソッ、奴らめ、使えないガラクタを掴ませよって! それで、娘の動向は?』
「どうやら今晩はフィジーで一泊し、明日早朝に領都に向かうだろうとのことだ」
『確かか?』
「本人と直接面会した市長からの情報だ。間違いない。いまは市内のホテルに泊まっている。市長が道路の封鎖を理由に足止めしてくれたそうだ。あと、例の冒険者をそのまま護衛に雇ったらしい」
『では寝込みを襲って始末しろ!』
「それは街のイメージダウンになるからやめて欲しいと、市長から言われていてな」
『ふざけるな! そんな戯言に付き合っている場合ではない。娘を始末しなければ我々の計画に重大な支障が出るんだぞ!』
「そちらは知らんが、確かに領主の娘を街中で殺せば大騒ぎになることは必至。そうなれば別の意味で支障を来すと思うが? だったら街を出た方が後々、面倒が少なくて済むだろう? 道中で襲った方が確実性が増すし、事故を装うことも容易だ。死体を始末すれば、魔物に襲われて喰われたと誰も疑わないだろうよ」
『……一理ある。良いだろう。お前に任せる。ただし!』
「失敗は許されん、だろう。判っているさ」
『必ず殺せ! 最悪、足止めするだけでも構わん!』
「了解した」