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ラストソード  作者: 稲瀬
3/4

作戦開始


「修行の前に聞いておきたいことがある」

「聞いておきたいこと?」

 師匠は唐突に言ってくる。

「クローリーのスペアを教えてほしい。できるだけ簡潔でいい。お互い能力を知っておいた方が、いざって時に役立つかもしれないから」

 確かに。余計な混乱を避けるためにも事前に味方である師匠の能力を知っておいた方が良いだろう。師匠…味方。

 オレの中には師匠を信用しきれない部分があるのだろう。出会ってまだ間もない。それなのに背中を預けることになるから不安になるのは仕方のないことだよな? 多分。

「そんなに心配するな。俺はクローリーを裏切ったり陥れるようなことはしない。まずは俺のスペアの能力から説明する」

 オレが不安がっているように見えたのか、師匠はそう言って先に自分から開示を行おうとする。

「俺のスペアは全てを否定し肯定する能力だ」

 全てを否定、肯定する能力? なんだそれ⁇ 全然分からない。

「そ、そうなんですね…」

「クローリーは?」

 お、オレのスペアかー。なんて説明しよう。電気と高速移動。それ以上でもそれ以下でも説明する必要のない内容だ。

「痺れる感じと高速移動ですね」

「分かった」

 なんとつまらなくユニークのない発表だろうか。

「結構荷物あるね」

「色々選んでたら増えちゃいました」

 ちなみに師匠に荷物はなく手ぶらだ。

「動きずらいとかあるか?」

 師匠はオレの目を見てそう言ってきた。

「いや、特に大丈夫です」

「じゃあ、俺についてこい」

 師匠は急に走り出す。

「え、ちょっと待って下さいよ!」

 それでも師匠は振り返ることなく行ってしまう。

 置いて行かれて仕方ないのでここは付いて行くしかない。

 オレも走り出す。

 だが、全然追いつかない。高速移動のスペアを使うか。

 このスペアを使うと体が凄く軽くなり、動きが速くなる。

 師匠との距離が適切になった。


「着いた」

 師匠が口を開き、急に動くスピードを緩める。

 オレは反応に遅れてしまい、師匠を追い越してから、能力を解除し動きを止める。

「ここが目的の場所」

 師匠はそう言いながらゆっくりと歩いてくる。

 先ほどいた都市などとは打って変わって、木々が多く、また土地が高くなっている。

「あの砦が修行場になる」

「おー、あれですか」

暗いからか、木々の間から見えた石垣で作られた砦は大きく見える。

 そんなことより…。

「師匠、急に走り出さないで下さいよ」

「スペアで移動系を持ってるから余裕かなって思ったんだけど。きつかった?」

 少し挑発的な言い方。師匠は余裕なんだろうな。

「荷物もあったし、坂道も多かったから大変でしたよ」

「…気をつける。でも、こういう時は荷物をなるべき少なくしてきた方が良い」

 素直に謝罪とアドバイスを送って来る。

何となく想像より遅かったと思われてそうだな。まぁ、気にすることじゃない!

オレと師匠は歩きながら塔に近づく。

「これから修行の内容を説明する。この砦は本来サイカヤが保有してる拠点のはずだが、今は謎の集団に占拠されている。だから俺たちで解放する」

「塔の中にいる人たちを制圧する感じですね」

「勝利条件はここを支配してる人物の制圧。それと、クローリーに一つルールを設ける」

「ルール?」

「それは諦めてはいけないことだ」

 諦めてはいけないこと? 何で諦めることがあるんだ?

「分かりました」

 それからオレと師匠は更に進んだ。

 砦の入口近くまで着くと、二人見張りが立っているのが見える。

 オレと師匠は見つからないように隠れている。

「見張り、どうしますか?」

 オレが聞くと師匠はオレの肩に手を置く。

「修行開始だ」

 そう言って、師匠は隠れるのを止め、何故かフラフラと表へと出ていく。

「師匠?」

 オレも渋々師匠を追う。

 師匠は下に落ちてた石を拾い上げ、それを見張りの方へと投げつけた。

 投げられてた石は弾丸のように飛んでいき、石垣に命中する。

 短い炸裂音と共に、師匠はその場に倒れ込んだ。

「師匠⁈」

「敵襲だぁー!」

 備え付けられた鐘が鳴る。

 見張りの目線はオレの方を向いている。

 まるでオレがやったみたいな事になった。

 見張りの二人がこちらに走って来る。

 まずい、どうする? 戦うか一旦逃げるか…。

「師匠! 起きて下さい!」

 師匠の体を揺さぶるがまるで反応が無い。

 見張りの兵士たちは槍を持ってる。剣で応戦するしかないだろ!

 リュックの横に括り付けた剣袋を外し、剣を取り出す。

 見張りの男たちはオレに攻撃を仕掛けて来る。だが、その動きは速くない。

 剣で槍の突きを上へ押し上げる。それから、刀身を翻し片方の見張りの顔面に思いっきり押し当てる。その後、もう一人の見張りに持ち手部分を腹に打ち込み二人とも気絶させる。

 見張りを無力化したため、師匠に寄りそうが、何故か師匠も気絶している。どういうこと? 何かしてたか? 石を投げただけでスペアを使い果たした? 相手にビビった?

いや、病気か? 分からない。でも、とりあえず敵から見つからない場所に避難させよう。

 オレは師匠をおんぶし、先ほど隠れていた木々の所まで運んだ。

 砦の方を見ると増援に駆けつけた四人の敵たちが仲間の元へと来ていた。

「四人か」

 流石にこの人数を相手にするのは大変だ。師匠が動けていればもう少し楽だった。

 敵に動けない師匠の存在を知られるとマズイから、早くどうにかしないと。それに、家宝の剣もあそこに置いたままだ。気が付かれたら絶対に持っていかれる。

 これは修行…だよな。だったらオレがこんな受け身じゃだめだ。それに、オレはスペアのことについてもっと知りたい。だから、自分のスペアとも向き合わなきゃだ。

 オレは自分の手から電気を発生させてみる。

 ビリビリと小さな音が鳴る。これを発生させることも、維持することもそれほど難しいことじゃない。でも、人に対してコレを使うのは何故か気が引ける。

 今一人で考えても仕方ない。ここを突破するにはスペアを駆使していく必要がある。

「うぉー!」

 オレは敵に突撃する。

「アイツが侵入者か! 殺せ!」

 オレの存在に気が付いた敵たちと対峙する。

 だが、これらの敵も大したことなく、手の平から発生させた電気を体に押し当てれば、ビリビリと感電し倒れていく。

 これで外にいる敵は制圧できた。後は中だな。オレは剣を拾い上げ、砦へと侵入する。

 砦の中は椅子や机などの生活用品はあるが、部屋自体が薄暗く、壁に取り付けられている松明のみが部屋の光源となっている。

 壁に沿って歩いていると、途中で階段があるのが分かった。

 そのままゆっくりと次の階に上がって行く。

 二階に着いてすぐ、複数の足音がこちらに近寄る。

 オレは剣を構える。

 正面から初撃と思われる攻撃が来る。後ろには壁があるため避けることはできない。

 剣で攻撃を受ける。その後、素早く横に移動する。

 ようやく目が暗い場所に慣れ、敵を捕捉できた。全員で四人。

 さっきの電撃を四人一気に当てることができたら便利だな。

 手の平に発生させた電気を拡散させるように広範囲に広げるようにしたい。

 オレは剣を持っていない左手から電気を発生させ前で構える。そして、発生させた電気の出力を思いっきり上げる。

 すると電気は手に収まらないくらい大きくなり放電を始める。

 放電したまま何秒か放置した結果、それを止めた時四人の敵たちは床に倒れていた。

 おおー、凄い威力だ。一気に複数の敵を無力化できた。

 敵が息をしてることを確認し、オレは次の階に向かった。


 さっきと同じ様に階段を上がると、三階は明るく、長椅子に腰を掛ける中年代くらいの男性がいた。

「お前が侵入者だな」

「貴方がこの砦のリーダーですか?」

「そうだ!」

 この人を倒せれば修行の目標を達成できる。

「俺はこれからもっと強くなる。だから、お前は俺の養分となれ」

「嫌です。オレも貴方に勝たないといけない理由があるので」

 男は立ち上がり、オレの方に歩いてくる。そして、走り出した。

 この砦で出会た敵の中で一番速い。

 殴りを当てようとしてくるが、オレがそれを回避する。

 剣で相手の体をかすめる程度に当ててみたが、まるで刃が通っていない。

 攻撃を避けつつ、今度は電撃を当ててみる。

 一瞬痺れた様子を見せ動きを止めたが、直ぐに動き出す。

 攻撃を当ててもダメージには繋がらず、段々とオレの体力が削られていく。

「疲れてきたんじゃねーかー?」

 男の方の体力は減るどころか、オレが疲れてきているのを感じると、むしろ攻撃のペースを上げて来た。

 攻撃する隙は無くなり、オレは避ける事で精一杯になってしまう。

 そして、男は突然蹴り攻撃を仕掛ける。

 反応できなかったオレはその攻撃をもろに食らう。はずだったが、男の攻撃はオレを吹き飛ばすことなく、よろけさせることもなかった。

「あれ?」

「…どうなってやがんだ?」

 男の顔は疑問と困惑といった感情が渦巻いていそうだ。そして、その感情はオレも同じ。

感覚で例えるなら小さい子供に抱き着かれるような感じだろうか。とにかく、この男の攻撃とは到底思えない威力だった。

男は諦めず、再び殴りを入れて来る。しかし、今回はそれを回避する。

男が次に放った攻撃はタックル。この攻撃には被弾してしまう。だが、やはり痛みどころか衝撃すら無い。

タックルの流れからオレのことを持ち上げようとするが、オレの体は宙に浮かばず、男の疲れ切ったうめき声しか上がらなかった。

 オレはそんなに重くないはず。この男がオレのことを持ち上げられない訳がない。

 オレは何故か敵である男の心配をしていた。

 男の両手から解放させたオレは即座に左の手の平から電気を発生させ、男の胸部に押し当てる。

「効かねーよ」

 男はそう言っているが、さっきの電撃よりは効いてるような感じがする。

 その後も何度か攻防を繰り返すが、オレはダメージも何も受けない。男もそれほどダメージが蓄積してる感じが見られない。

 これじゃあいつまでたっても決着がつかない。

 オレに付いている謎の防御力もおそらく有限だ。なるべく早くこの状況を解決できる打開策を考えなくては。

 オレは男の攻撃を避けながらそんなことを考える。

 男に何度か攻撃を当てても、時間が経てば回復してしまう。回復力を超える攻撃回数を当てることは今のオレには不可能。ならば、一撃で大ダメージを与えることがオレが勝つための唯一の勝算。

 放電では男を倒せないだろう。もっと一点に電力を集中させて放つ強力な攻撃が必要だ。

 オレは男の隙を見て数歩後ろに下がる。

 右手に持っていた剣を床に突き刺し、右手に力を籠める。

 男はチャンスと思ったのかオレの方に突撃してくる。

 オレはこの短い時間で右手に電気のスペアエネルギーを集中させる。

 それを今回は拳に乗せる。

 拳の形を作ると電気は弾けるように、でも纏うように拳の周りで帯電する。

 ついでに高速移動の能力も発動させる。

 オレは走り出し男に近づく。

 男は急接近したオレに驚きつつも攻撃を合わせて来る。

 オレはここで防御を捨て、攻撃に全力を注ぐ。

 そして、オレの全力のパンチが男の体に命中する。

 一瞬電気が弾けるような爆音がした。

 男は衝撃によって大きく吹っ飛ばされ、後方にあった壁に激突し動かなくなった。

 勝った。…ついに勝った。決着したのだ。オレの勝ちだ!

 修行クリア。

 後は師匠を起こして報告したら終わりだー。

 だが、気の緩みと疲れから、オレは仰向けになって倒れてしまう。

 瞼が段々と落ちていく。

 薄れゆく視界の中、足音と共に誰かがこちらに歩いてくる。

 視界の中に映った人物は師匠であった。

「師匠、オレ、勝ちましたよ」

 そう言ったつもりだったが、師匠は顔を傾け疑問の顔をする。どうやら聞こえていないようだ。

 師匠のことをじっと見ていると、右手に漆黒に染まった刀を持っている事に気が付く。

 そして師匠はオレに対してその刀を振り上げる。

「し、師匠?」

 ここでオレの意識は途切れるのだった。



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