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ラストソード  作者: 稲瀬
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落ちる星、光る星

この世界の人々は生まれつき特殊な能力を秘めて誕生する。その能力は生きていく上でとても重要な要素であり人生を左右するものである。


「あの人、やっぱりスペア使えてないよ」

「なんでこのクラスにいるんだろうね」

 今日もオレについて、ヒソヒソと女子生徒の小声が聞こえる。

 この学校に来て授業を受けて知ったのだが、オレたちが身体に秘めている特殊な力は、この場所では『スペア』と言うらしい。

「なー、お前さ、クローリーだっけ? 何でこのBランククラスにいるんだ?」

仰向けで倒れているオレに向かって男子生徒はそう言ってくる。

ちなみにオレの名前はシャンステッド・クローリーという。

「…何でって言われても、学校側からこのクラスに入れと指示されたから」

 オレは上半身を起こしながら答える。

「はぁ? スペア修練校で発現しかできてない奴はCランククラスのはずだぞ」

 Cランククラスとはオレの知っている学校の表現で例えると1年生にあたるクラスだ。この学校は年齢による学年の分け方は存在せず、基本誰でも入ることができるらしい。ただ、Cランククラスから進級するにはスペアを一定以上使いこなせるようになるのが条件らしい。

 オレの特殊な力、つまりスペアは電気だ。手から放電することができる。でも、クラスの皆は自分の持っているスペアをかなり熟知しているようで、水を生成し弾丸のように飛ばしたり、石や岩を加工し武器にしたり、他にも原理は分からないが、空中を歩いている者、見るだけでは何をしているのか全く分からない者など様々な人がいる。

 そして今はそれを使って模擬訓練をしているところである。

 この学校は年齢の層が幅広く集めらているらしいが、周りを見る限りオレと同じ16歳くらいの同年代が多そうだ。

「お前、さっきも負けていたよな? 肉弾戦が得意なのは分かったが、電気っていうスペアがあるのにどうして使わないんだ?」

「…分からない」

 これが本当に分からない。何故戦闘訓練に電気のスペアを使うんだ? …分からない。

「なんだよそれ、学校の目も節穴だな」

 この少し威圧的な態度を取る男子生徒の言い分としては、Cランククラスを飛び級して転入してきたオレに対して良く思わない所があるからだろう。

 オレはつい最近訳あってこの学校に転入してきたのだ。

 その理由を簡潔にまとめると、今オレが所属している修練校の国に村が攻められ、オレも戦ったが敗北し、国のルールとしてここにオレが派遣されることになった。

 この国の人たちは敵であるが、一人で何かできる訳でもない。オレには力がない。

 ここに来て直ぐは怒りや悲しみの感情もあったが、時間が少し過ぎ、この国の生活、修練校の人達を見れば、それらの感情は収まる。何より、捕虜であるはずのオレへの待遇が良いことである。この学校に通う事が義務で与えられているが、それ以外は基本自由で、何をしてもいいのだとか。

 もっと酷いことをされると思っていたから、授業中に白い目で見られることは全然大したことではない。負け組であることには変わりないんだが…。

 オレは立ち上がり、辺りを見渡す。

 今いる訓練場所は修練校に付随する形で存在していて、学校の校庭みたいな感じだ。

 地面は普通の土で出来ていると思われるが、遠くにある鉄の柵には、何かモヤがかかっている感じだ。

 鉄の柵は牢獄で使われるような物ではなく、オシャレで国の景観を損なわないための工夫がされた柵で作られている。モヤがどのような役割を果たしているかは正直分からない。

 少し離れた所で女子生徒と男子生徒が戦っているのが見える。

 でも、何だが様子が変だ。

 女子生徒が一方的にやられていて、対戦相手の男子生徒はそれを楽しむように時折口元を緩ませる。

 周りにいる人たちは、あえてそれを見ようとしない者、男子生徒と一緒に女子生徒が苦しむ姿を楽しむように見る他の男子生徒。…多分仲間か友達だろうな。と言った所だ。

 正直、見世物にされているようにしか見えない。

 群がっている生徒たちはまだしも、他の人たちは何故彼女を助けないんだ? 

 先生は? 先生はどこだ? 訓練と言えど、あれはやり過ぎな気がする。

 オレは体をぐるっと回転させる。

 丁度180度回った所で先生を発見する。しかし、見えていないのか、見ようとしていないのか、先生はまるであの集団の存在を認知していない。

 仕方ない。まずは自分一人でいいか。オレは軽い気持ちで集団に近づいた。

「あの、彼女にそこまでする必要はないと思います」

 オレが声をかけたことでこの集団は静まり返る。まるで白けたかのように。

「あぁ?」

 女子生徒の対戦相手である男子生徒がオレの方を向き反応する。

 青みがかった黒髪で鋭い目つきをした男子生徒であった。

「誰だよてめー、勝手に首突っ込んで来るな」

「でも、彼女は怪我もしてるし、貴方の方が強いことは見ればわかることなので」

「あぁ、もういいよ、そういうの。はい、どっか行って」

 流れるようにオレは両肩を掴まれ、強引にこの場から引き離される。

 女子生徒に対する不要な攻撃が再び開始されたため、もう一度止めるよう説得しようか考える。

 でもこれ以上介入するれば、オレへの当たりが強くなる可能性も高い。

 オレは村で父から戦いの技術を学んでいた。それをこの修練校で活かせると思っていた。なのに、ふたを開けてみればスペアを駆使してくる戦いにはまるで通用しない場面も少なくない。

 もしオレがやりあうことになった場合、勝てる見込みはほとんどない。

 でも父は言っていた。『一番大切なのは強さじゃない』と。

 オレの心が彼女を助けろと言っているような気して仕方ないのだ。

 そう思う理由? そんな事知らない。見てて気になるから? 自分の中にある正義感?村では見ない光景だから? 被害を被っている人が女の人だから? 自分が弱くない勇気のある人間だと思われたいから? 少なからずどれも考えている事であるような気がする。でも、そもそも、人を助けることに理由が必要なのか? 

 まずい、速く決断しなきゃ。…どうする。

 どうしよう…どうしよう…どうしよう…。

 オレが勝手に一人で考えていると、授業終了のチャイムが鳴り始める。

 男子生徒たちは授業が終わったため、女子生徒にはもう興味を示さず、どこかへ消えてしまう。

 あの集団にもう一度入って正論を言う行為は流石にオレでも勇気がいる。だから、覚悟を決める時間が少し必要だったんだ。だけど、行きたくないというよく分からない矛盾した気持ちもあったため、正直、チャイムで強制的にこの現場と葛藤を解決してくれたことには感謝している。

 正しいことをしていると思って勝手に突っ込んだのに、結果何もできず、チャイムによって解決がなされるとは…何とも情けない話だ。後悔しか残らない。

 この事にオレが介入した理由は自分の中にある正義感や好奇心、父からの教えによるものが多きいと自分では考える。でも今の問題はそこではない。

 次同じような気持ちが生じた時、今度はすぐに対応するようにしよう。こんな後悔もう御免だ。


 修練校の授業は終わり、オレは最近借り始めた家に帰って来た。

 見た目は一階建ての一軒家で、一人暮らしには十分過ぎる広さ持ち、家賃も高くない。でも、前に住んでいた人が家をボロボロにして失踪したことが原因で、家は損傷している。もちろん、家の中の家具などもだ。

 この値段で提供できるのはその影響だろうな。

 よし、さっさとご飯を食べに行って、ゆっくりしたいところではあるが…。

「ちゃんとあるな。よしよし」

 オレは小汚い長い袋からとある物が入っているか確認する。

 それは剣である。ただの剣じゃない。オレの家に伝わる伝統の剣。家宝とでも言おうか。

 オレの村ではこれを伝統文化財として貴重に扱っていた。でも今の扱いはこの有様。

 村がこの国に攻められた時、一度この剣は奪われてしまった。でも、よく分からないが、剣はオレたちの元に返された。

 その代わり、剣はオレが持つように義務づけられた。事実上、村に剣は戻ってないし、この剣の管理や責任が全てオレに集中するため、個人的には大問題である。

 オレは一度、袋から剣を取り出してみる。

 剣の見た目は端から端まで基本的に黒で染まっていて、所々に金の装飾がなされている感じだ。

 見た目がかっこよく、オレは小さい頃からよく見入っていた。まさか、自分の物になるとは考えもしなかった事だが…。

 今度この剣の管理方法を考えなくちゃな。

 オレはそんなことを考えつつ、剣をしまった。

 さて、ご飯を食べに行くか!

 家の扉を開け、腹を満たしに出かける。 


 随分賑わってるなぁ~。

 家を出てしばらく歩くと、この町の中心部、いわゆる都市と言われる部分に入る。

 オレの村でも人の多い場所など、活気のある場所はあるが、それとは訳が違う。無数にそびえ立つ大きな建物、行き交う大勢の人々、夜とは思えない光量。村とは次元が違うのが一瞬で分かる。

「これが電柱と言われるやつか」

 町を歩いていると目に入る柱。等間隔で配置されている。これの凄い所はスペアを使わないで稼働しているところだ。

 オレの村は全てスペアからこれらのエネルギー源を供給しているはずだった。電柱が導入される話もあったが、この国の物とは少し作りが違うからか未だに話の進展はない。

 おっと、こんな話今はどうでもいいことだ。

 オレは遠くからでも物凄く目立つ大きなお城を見ながら、そこら辺のご飯屋にふらっと立ち寄った。


「ふー、おいしかった」

 今オレが食べて来たご飯屋のメニューには知っている料理から知らない料理まで様々あった。勿論、オレが食べたのは郷土でも出される料理だ。ただ、母の手料理とは味付けが違うのか、絶妙に味が違く感じた。でも、お店で出されているだけあって、良い方に味が違ったので非常に満足だった。

 家に帰っても何もなくつまらない…時間もあるし、せっかくだからこの町を散策してみるか。どこに何があるか、どうせしばらくここに住むことになるだろうし丁度いい。

 オレは散歩がてら町を歩くことにした。

 色々歩いてみる分かることがあり、その中でもオレの村になかったのが、店と店の間にある細い道である。表の大きな通りとは異なり薄暗く人通りもほとんどない。大体は店に繋がる細い管や機械と思われる物が置いてあり、他にもゴミ捨て場として活用されているみたいだ。場所によってはボロボロの服を着て、地面に座り込むという他の人とは一線を画す人もいた。オレの村ではありえない事過ぎて少し驚きもした。

 この細い道の名前を大通りにいる通行人に聞くと、少し不思議そうな顔をしながら「路地、かな」と答えた。

 この路地の面白い所は左右に曲がり角があって、曲がった先にもまた曲がり角があったりして、迷路のようで面白い所だ。また、長い路地もあれば、直ぐに行き止まりになる路地もあるのが個性的で面白い。入った路地とは別の路地に抜け出る所もある。

 オレはこのランダムな感じが好きでこの町の路地を入っては戻り、別の場所に出るという行為を繰り返していた。

 そして、とある路地を進んでいるとこんな声が聞こえて来た。

「―しろよ」

「そんなこと言われても私には…」

「ちッ」

 男の声、女の声と続いた。

 目の前にある道を右に曲がると直ぐその声の主たちがいるだろう。

 距離が近いため、オレはそっと覗き見るようにする。

 すると路地にしては少し開けた場所であり、男一人、女一人がいた。

 女の顔が見れそうだが、男の方の背中や頭と重なり、二人とも誰か分からない。でも…。

「ここなら出て来ると思ったんだけどなー」

 この声と見覚えのある青みがかった黒い頭髪、そして服装。修練校の男子生徒か?

「その…ごめんなさい」

「むかつく野郎だ」

 弱り切った声と怒気を含んだ声。

「アレが出てこねーならお前に用はない。学校の時みたいにボコされたくなかったら金置いてさっさと消えろ」

「…」

 今一瞬、女の顔と髪を見ることができた。修練校での記憶を思い出す。…間違いない、あのロングの紫色の髪色、整った顔立ち、学校で一方的にやられていた女子生徒だ。

 まさか学校外でもこんな目に遭っているとは。

「おい、早くしろよ」

 男子生徒が女子生徒の方に近づく。

 女子生徒は多分困っているだろうし、恐怖心もあるんじゃないだろうか? 

 こんな路地、普通だったら助けもこないだろう。

 今オレが飛び出さなきゃお金をむしり取られることは確定だ。

 もう二人は手の届く距離まで接近している。

 飛び出すら今しかチャンスはない。これ以上待っていてもただの傍観者になってしまう。

 またオレは迷っている。結局、オレはあの男子生徒のことを無意識に怖がっているのかもしれない。勇気はあるはず…なのに。

 学校であれだけ反省したじゃないか。

 行け、行けオレ。

「ちょっと待て!」

 オレは勇気を振り絞り姿をさらす。

「はぁ?」

 振り返った男子生徒と目が合い、その直後、女子生徒とも一瞬目が合う。

「何する気だ?」

 オレはあえてそう聞いた。

「学校で首突っ込んできたアホじゃねーか」

 アホ? ってなんだ?

「どういう経緯でここまで来たのか知らないけど、帰ってくれる?」

「オレはあんたが彼女に何する気か聞いてるんだ」

「何って、何もしてねーよなー」

 男子生徒は女子生徒の方を見て共感を促す。

「学校であれだけのことしておいて、こんな所で何もしない方がおかしいだろ」

「ま、何も知らないお前ならそう考えても無理はねーか」

「彼女も怖がっている様にオレは感じる」

「…ちッ、めんどくせー奴だな」

 面倒くさくて結構。困っている人を見かけたら助ける。これを大切にしていきたい。

「おい、フィルス、そこから動くなよ」

 男子生徒は彼女の動きを止めてからオレの方に近寄って来る。

 暴力が飛んで来るというオレの直感が働き、身構える。

「よくわかってんじゃん!」

 男子生徒から回し蹴りが飛んできて、オレは腹に直にくらう。

「ぐはぁ!」

 いきなり蹴りかよ。半身だったからこその蹴り攻撃か。

 怯んではいられない。視界を彼に戻さなくては。

 次はオレの顔を狙っている。

 顔への殴りをガードしつつ、オレはカウンターを放つ。

 カウンターは命中したものの、男子生徒は気にせず攻撃をしてくる。

 オレは顔に二発のパンチを受け、よろけてしまう。その後、蹴り込みを入れられオレは少し吹き飛ぶ。

 やば、絶対勝てない。早くも弱気である。

「これでスペアも使えないとか終わってんなー」

 追加で精神的攻撃もされる。

「これじゃあBランククラスでも底辺でAランククラスに行ってからも苦労するなぁ」

「オレは別にそれでかまわない!」

「口では何とでも言えるからな」

 そんなことよりこの状況を何とかしなければ。

 オレも彼女も男子生徒の餌食にされる。

 しかたない、奥の手を使うか。

 実は最近オレは新たな力を手に入れたのである。

 それは高速移動。今まで使わずに隠してきたからきっと驚くはずだ。ただ、男子生徒はまだスペアを使っていない。決着をつけるなら一瞬だ。

 オレはゆっくりと立ち上がる。

「まだ立ち上がるんだ」

 今が一撃を叩きこむチャンス。相手は多分油断している。

 オレは高速移動を発動させる。

 すーっと足が軽くなる感じがする。そして、オレは勢いよく飛び出す。

 まだ男子生徒は反応していない。オレは右拳に思い切り力を入れる。

 目の前まで来て拳を放ってから、ようやく男子生徒は対応しようと動き出す。だがもう遅い。

 オレが放った右拳が顔面に思いっきり決まる。

 予想だにしなかった攻撃に男子生徒は吹っ飛ばされ転がる。

 よし、今がチャンス!

「逃げて!」

 オレは彼女の目を見て促す。が…。

「…」

「どうしたの⁈」

 迷っているのか逃げようとしない。

「うぅ、いってぇ」

 そうこうしている間に男子生徒が動き出す。

 立ち上がってからではオレが優位に立てるか分からない。

 なら、動きを封じなければ。

 オレは男子生徒に急ぎ近づき馬乗りになる。

「あぁー、くっそ、完全に油断した。お前がBランククラスにいる理由がようやくわかったぜ」

 オレには全く分からない何か理由があったらしい。

 オレは両手も抑え拘束がほどけないようにする。

「交渉だ、彼女にちょっかいをかけるな! 代わりならオレがなる!」

「ハハッ、お前じゃ代わりにならねぇよ」

「どういうことだ?」

「お前には関係のない事だと言ってるよな」

「でもこれは良くない事でしょ」

「ああ、確かにな。じゃあ首を突っ込んだ責任を取ってもらおうか」

 男子生徒は続けてこう発言する。

「フィルス、今日は帰っていいぞ。また明日な」

 そう言われると、彼女は怯えるように帰っていった。

「これで満足か?」

「今日はってなんだよ。明日も明後日も、オレが言いたのは今後全てのことだ!」

「あぁもう、うるせぇな。いつからお前に決定権があると思ってんだよ」

「これは彼女のための行動だ」

「正義ヅラしやがって。てか、いつまでオレの上乗ってんだよ」

 突如としてオレの左手が耐えきれないほどの熱を検知する。

「あつ!」

 左手を確認すると何も起こっていない。

 すると次の瞬間、お腹に強烈な一撃を受ける。

 左手に気を取られたため見えなかったが、男子生徒の右拳が命中したのだろう。

 オレの体から力が抜けたことで男子生徒は拘束を振り切って抜け出す。

 男子生徒の方を見ると、立ち上がっていて右手が真っ赤に燃えている。そしてそれをオレに振るってくる。

 オレは痛みが抜けきっておらず、転がりながら避ける。勿論、高速移動の能力を使ってだ。

 それから両足を勢いよく男子生徒の足首に当てて転倒させる。

 その後でオレは急いで立ち上がり…逃走する。

「おい! 待ちやがれ!」

 男子生徒の雄叫びを無視して路地を逃げ出す。

 オレは壁に当たりそうになりながらも路地を抜け出す。

 目的は男子生徒の追跡を逃れること。

 大通りに出た。ここなら人が多く逃げやすい。まずはどこかに隠れてやり過ごすか。

 右に直ぐ曲がって大通りを走る。隠れる場所なんてぱっと思いつくのは他の路地に入ることしか考えられない。

 オレはしばらく走って、後ろから男子生徒が来ていないか確認する。よし、いない。

 すぐそばにあった路地に入り、能力を解除し歩き出す。

 路地は長すぎず短すぎない位の長さだが、行き止まりであった。

 オレは突き当りの壁に寄っかかりながら座り込む。

「あぁ~、疲れた」

 容赦のない本気の蹴りや殴りは体に凄く響く。

 ここ最近は修練校に通い始めたこともあって、人生で一番体を動かしているんじゃないかと思う。

…ちょっと待て。この路地に進んで来る足音が聞こえるぞ。ここはこの路地の一番奥、何か用事のある人以外はここに来ないだろう。まさか彼がここに⁈

「よー、随分お疲れじゃねーか」

 現れたのは男子生徒。額に垂れた汗を片手で拭ってそう言ってきた。

 どうしてここが分かった? 追跡は完全に逃れたはずだったのに。

「不思議そうな顔してるな」

「当然だろ。何で分かった?」

 男子生徒は自信満々にこう答える。

「オレはこの国のこの町出身だ。小さい頃からずっといる」

 それはオレを見つける上では大きな利点である。でもオレを発見する直接的な要因にはならないだろ。

「逃げたお前がどこに行くか考えたよ。お互い体が疲れ始めてきた頃だもんな。だからこそ近場で安全地帯を見つけたい。路地を出て直ぐの店に隠れると思ったが違った。少し先に走ってるお前の姿が見えたからな。じゃあどこに向かっているのか。それは路地だ。どこかの路地に入るつもりだ、ってな。この町はデカイからその分路地も多い。数ある路地から人間一人を探すのは難しいってのは状況的に思いつく」

 凄い分析だ。オレの頭が考えてたことを全て言語化されたような気分だ。

「後は簡単だ。最近来たお前は一つ一つの路地が分からず全て同じ道に見える。右側を走ってたお前はオレが視界に入っていないのを確認したら適当な右路地に入るだろうってな。だからオレはこっち側で唯一行き止まりじゃない路地を反対側から入ってお前がいないことを確認した。その後で効率よくお前を探してたって訳」

 それがこの速さの結果か。

 見た目よりもずっと考えて行動してるんだな。正直意外と思ってしまった。それと同時にこれが土地勘の差だと痛感する。

「ウソだろ…」

 思わず本音が漏れる。

「ここが戦場だったらスペアを使って暴れられたんだけどな」

「第二ラウンドか」

「安心しろよ。今度からお前を奴隷として使ってやっから」

「奴隷? ふざけんな!」

「じゃあオレの手下だ」

「断る!」

「…仕方ねぇ」

 張り詰めた空気間が包んだ。

 しかし、次の瞬間、「ドカーン!」と爆発するような大きな音が鳴り響いた。

 どうやらその物音はオレたちの直ぐ近くで起こったようだ。

「あ? 何だよ今の?」

「…」

 オレも男子生徒も普通じゃないことに戸惑いを覚える。

 だが、この遮蔽物に囲まれた狭い空間では、音のあった場所で何があったを知ることは当然できない。

「さて、続きやるか。お前のやり口はもう分かった」

「そ、そうかな」

 苦し紛れの抵抗。次は油断も隙も無いかもしれない。

「こんばんは」

 突如、建物の上から声が降って来た。

 慌てて上を見るとそこには端正な顔立ちをした真っ黒な髪に黄色い瞳を持った、オレより何歳か年上と思われる男性がいた。

「また面倒そうなのが現れた」

 男子生徒はそう吐き捨てる。

「君大丈夫? 随分疲れてるように見えるけど」

 君というのはオレのことだ。視線が完全にオレの方を向いている。

「え、ま、まぁ」

「そうか。じゃあ休憩でもしよう」

 男性はそう言って建物からサッと静かに飛び降りた。

「おい! 誰だよてめぇ。オレはコイツに用があるんだ」

「さ、行こうか」

「…」

「……おい、何無視してんだよ」

 この男性には男子生徒がまるで見えていないような対応をする。

「ちょっと待てよ」

 男子生徒は男性の肩を持って止める。

 すると男性は動きを止めて男子生徒と対峙する。

「俺の名前は教えられないが、さっきした音の正体は俺だ」

 鋭い瞳が男子生徒に刺さる。

「はぁ? 何したらあんな爆音が鳴るんだよ」

「中央大陸から吹き飛ばされて来た時の音だな」

「ハハッ、中央大陸から吹き飛ばされた? 何言ってんだお前」

「ここから中央大陸まではとんでもなく離れてるからな、信じられないのも無理はない」

「仮に吹き飛ばされたとしても、ここまで飛んでくるとかあり得ないし、その衝撃に耐えられはずないだろ」

「中央大陸から一直線にここまで飛ばされた。それが事実だ。これの意味する事、分かるよな?」

 男性から向けられる力強い眼差しに男子生徒は息を呑む。

「いつまでそこにいるの? ほら、早く来な」

 オレは男性に促され、この場を後にする。

 男子生徒はこれ以上突っかかってこなかった。

 オレはこの人の凄さを見たのだった。


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