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1:プロローグ

「あんた、大丈夫かい?」


しわがれた声に目が覚めた。

なんだか全身がだるく、気分もすこぶる悪い。


「ったく、王都の奴らは本当にヒドイことをするもんだよ。あんた、見る影もないほどズタボロだったけど……。ボロクズみたいな布っきれだった。でもあれはシルク。しかもかなり上質なもの。それを身に着けていたんだ。それに今はヒドイ状態だが、間違いない。そうなる前は別嬪さんだったはずだ。それを牛で引き回した上に森で捨てるなんてさ。あんた、一体何をしたんだい?」


え、私、そんなヒドイ状態なの?

自分の体を見ようとするが。

瞼が重くて開かない。


「まあ、無理はなさんな。回復の魔法をかけたから。10日も経てば傷は癒える。でも……。あっちの方はさすがにね。まあ、命が助かったんだ。良しとするんだね」


その声を最後に、また意識が途切れた。



10日後。

すっかり元気に覚醒した。

そして……いろいろなことを思い出すことになる。

私の名前エレーヌ。

オラール伯爵家という由緒正しき貴族の令嬢だった。

だった、という過去形である理由。

それは……。

私は断罪された。

この国の王太子であり、元婚約者に。

彼が主催する舞踏会の場で「この美しいマリエットに散々嫌がらせをしたこの性悪女め。もう騙されない。貴様との婚約を破棄する! すぐ様、この場から立ち去れ!」と。


マリエットというのは最近、力をつけ始めた伯爵家の令嬢だったのだが。彼女こそが、性悪女だった。


まず貴族の令嬢というのは、舞踏会で素敵なドレスを着て、未来の旦那様を見つけようとする。縁談話を待っていても、公爵家の令嬢、伯爵家の令嬢でも伯爵家としての序列が上位でもないと、いい縁談話は持ち込まれない。


だからの舞踏会。舞踏会の場で素敵な未婚男性と仲良くなりたい。そのために思いっきりそこにお金をかける。つまりはオーダーメイドでドレスを仕立て、まずは男性の目を引くというわけなのだが。


マリエットは大変姑息な手段を使う。彼女は所謂コピーキャット。人気のある令嬢に近づき、そのドレスをどこで仕立てたか聞き出す。仕立屋が分かるとそのデザイナーにドレスを注文するふりをして近づき、ドレスのデザイン、アイデアを盗み出す。もしくは真似をする。つまりは模倣、猿真似、盗作を行うのだ。


マリエットは盗んだアイデアでお抱えの仕立屋にドレスを即行で作らせ、それを着て舞踏会へ向かう。元々スタイルは完璧なマリエットは、ドレスを着れば普通に映える。しかも人気のある令嬢が着ていた次の新作ドレスを盗作したデザイン。当然、「おお、なんて素敵で斬新なドレス!」と男性の注目を集め、一躍時の人となる。


こうして多くの男性と知り合い、そのつてを辿り、私の婚約者だった王太子と知り合うことに成功する。王太子なんて、舞踏会にいてもそう簡単に話しかけることなどできない。側近と護衛がガチガチに脇を固めているし、変な輩が近づかないよう、しっかりガードしている。だからこそ、知り合いを通じて王太子を紹介してもらう作戦に出たのだ、マリエットは。


王太子に婚約者である私がいることをマリエットは知っていた。だから策を練る。つまりは私にやってもいない濡れ衣を沢山被せたのだ。しかも証拠まで捏造して。


王太子と私の婚約なんて、親同士が決めたもので、そこに愛はあるんかい?と問われたら、正直なかった。一方のマリエットは多くの男性を手玉にとり、その心を転がすことに慣れている。しかも金髪碧眼で肌は白く、スタイル抜群なのに顔はあどけない少女のように可愛い。あっという間に王太子の心も掴んだ。


そして行われたのが私の断罪なのだが。私はこの流れに不可抗力だった。

なぜかって?

だってここは『腹黒ヒロインでも幸せになりたい』という乙女ゲームの世界なのだから。


普通の乙女ゲームを作っていては、売れないと考えたベンチャー企業のゲーム会社があった。そして新機軸で売り出した乙女ゲームが、通称『腹黒ヒロイン』だ。


腹黒ヒロインのマリエットが、その腹黒属性をいかし、ハッピーエンドを掴むという破天荒な設定なのだが。人の不幸は蜜の味と考える大衆心理を掴み、そこそこに売れた。そして第二弾の制作が決まり、私はそのゲームのデバッグ作業のアルバイトをしていたのだ。


なぜ死亡したのかは覚えていない。そしてなぜ乙女ゲーム『腹黒ヒロイン』の世界に転生してしまったのかも分からない。でも死亡し、転生していた。しかも悪役令嬢として。そう、ヒロインに断罪されるために存在する、王太子の婚約者の悪役令嬢に。


ヒロインの王太子攻略が王道ルートだが、攻略対象はあと3人いる。この3人のいずれかをヒロインが攻略しようとしても、悪役令嬢は活躍する設定になっていた。でもヒロインが既に腹黒なのだ。悪役令嬢は何をするかって、腹黒ヒロインの魔の手に攻略対象が堕ちないよう、あの手この手で阻止しようとする。正直、もう悪役ではなく、ただのイイ人。でもヒロイン視点に立つと、それはただの攻略を邪魔する悪役令嬢に変わりなく。最後は断罪される運命なのだ。


ゲーム会社でアルバイトをしていた。しかもデバッグ要員。だから悟っていた。フラグ回避などできない。ゲームの制作陣は全力で想定外の動きを排除しようとしているのだ。どんなにフラグ回避の行動をとろうとも、それは潰される。フラグを折ることなど無理なのだ。


ということで大人しく断罪されたのだが。

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