第一章 海洋研究所 5ヴァシリス様の離宮
念のため15禁です
ふと気になった事を聞いてみた。
「でも、こんなに早く離宮を賜られたのは、お妃候補が立ったのですか?」
今、私がいる場所は、王宮ではなくて、彼の離宮。
この国で、王室が離宮を与える、という事は、婚姻で独立する予定だから、のはず。
「いや、王立アカデミーの高度課程を卒業して、王立海洋研究所で仕事をする事に決まった時に、父上から離宮をいただいたのだ。
王宮からは、少し研究所は遠いだろう。
それに成人して、王位を継がない私が、王宮にいるのも、兄上に悪いと思ってな。
妃はいらぬから、海洋研究所が欲しい、と父上に願い出たのだ」
すこぶる笑顔で答えてくれた。
お妃と研究所って、比較対象が全く違う話で、王様と交渉したの?
「ヴァシリス様、それで、よく王様が納得されましたね?」
よくぞ聞いてくれた、と得意げな顔で
「兄上がお2人とも、すでに妃を迎えて、王子を得て、世継ぎ候補の心配もないし、
今の海洋の環境問題を鑑みれば、海洋研究が我が国にとっても、世界にとっても重要だ。
ましてや、最近の女子は、みんな似たような服をチャラチャラ着て、王子という役目に群がってくるのだぞ。
相手をしている暇もない。
私からみれば、オキアミの大群だ。優先度が違うのだ。」
お妃候補を《オキアミ》とな?
それにチャラチャラした服って、興味なくても、意外と観察してるんだ。
「其方もそれがわかっているからこそ、アカデミーで高度課程で学び、研究所を希望したのだろう?
それとも、私の側にいたくて、研究所に入るために、必死に学んだのか?ん?首席ではなかったがな」
こいつ、また言った!首席じゃないと!
更に、男を出してきたな!さっき女性をオキアミと言ったくせに!
うぅーー噛みついてやる!
「アリエッタ、顔が鮫になっているぞ」
更に追い討ちをかけられ、
豪快に笑い飛ばされた。
ぐっ!
「ヴァシリスさまっ!!!!
あまりの言いようでございますわ。
アカデミーや学問では、切磋琢磨は必要でございますが、私は順位にはこだわりません。
順位争いなど、つまらぬ殿方の競争ではありませぬか?
それに成績は、次席でございましたっ!
バカバカしいっ」
ヴァシリス様は、顎を触りながら、ニヤニヤと笑っている。
もうっ!
腹が立つ!
人の気持ちに、グサグサと!
カジキマグロめっ!!
「私がアカデミーを卒業してからの3年は寂しかっであろう?
私の離宮で、布団に包まり、寝着のままの恥ずかしいであろうに、それでも私と会話したいのだろう?違うか?」
まだ言うか!
「何が寂しいものですか?そう言う言葉は、オキアミにおっしゃればよいのです。
それに、寝着の乙女の寝室に入ってくる方が非常識ではありませんか?
更に、私が、海洋研究所に入ることは、王様がお決めになられたからです。
それもずっとずっとずっ〜と前に。」
言い切ってやった!と満足するはずが、
何か、が頭を横切った。
ずっとずっとずっ〜と前から、決まっていた事が、、
思い出そうとしているのに。
カジキマグロが更に追い討ちをかけてきた、
「私の離宮の私の寝室に入って何か問題あるか?
それに、其方の寝着姿など、其方が生まれた時から、見ておるわ!今更、乙女などと、はっはっ!」
えっ?
この部屋、客室じゃないの? ヴァシリス様の部屋?まさか?
それに赤ちゃんの時の話まで引っ張り出してきて、
恥ずかしいのか、腹が立つのか、わからなくなってきた。
そして切れた。
寝着のままで、ベッドに仁王立ちになり、
私は、上司&王子に向かって叫んだ。
「意味不明です、このカジキマグロ!」
ヴァシリス様は、私を見上げて、目を細めて、笑いを堪えている。私が着ていたのは、男性用の寝着だった。
「あらあら、坊っちゃまも、姫さまも、リビングまでお声が聞こえておりますよ。」
ヴァシリス様の乳母のオランだった。
ベッドに仁王立ちになってる私に、懐かしいオランが、手を差し出してくれた。
「まあ、オラン、何年ぶりでしょうか」
「アリエッタ姫さま、お久しゅうございます。お美しくご成長なされて、ばあは嬉しく存じます」
「オラン、ありがとう。オランも元気そうで嬉しいです。ばあ、だなんて。でもヴァシリス様には、私が鮫に見えるそうです」
「お2人のテンポのよい、おしゃべり(口喧嘩)は昔からですからね。姫様がアカデミーに入られ、王宮にいらっしゃる事がなくなって、寂しく感じたものです。
久しぶりに、楽しく聴いておりました。」
オランは、何でもお見通しだ。
「さあさあ、姫さまのエネルギーも回復なさったようですし、お着替えをなさって、朝食になさいませんか、
坊っちゃまは退室くださいまし。」
読んで下さりありがとうございます。
兄のように、妹のように、
喧嘩するほど仲がいい2人です。