第一章 海洋研究所 2ヒーリング
ヒーリング開始だ。
私は、大きく深呼吸をし、数秒、手のひらを合わせてから、亀獣の上で、太極拳のような、ラジオ体操のような感じで、両手を大きく回し始めた。
「森羅万象の光よ、この生命の限りあるまで生かし給え」と詠唱しながら、
願いを込め集中していくと10秒ほどで、
手のひらから、透明感のある濃いグリーンの光が溢れ、渦巻きながら、亀獣に降り注いでいく。
これは、魔法じゃなくて、《気》から出される癒しのパワーだ。
ヴァシリス様も同じく「森羅万象の、、」と詠唱され、
亀獣の腹側から、手のひらをかざしている。
手のひらからは、透明感はあるが濃いオレンジ色の光が溢れ、下から包むように光が上がってきている。
ヴァシリス様のオレンジの光は、生命エネルギーの素。
私のグリーンの光は、癒しの素。
グリーンの光を亀獣に吸い込ませるように、集中する。
プラスチックの固まりが反発してくる。負けずに、プラスチックを分解して溶かすイメージで、光を送り続ける。
反発がふとなくなって、光が吸い込まれ消えた。
その後、亀獣の口から濃紫黒色のモヤのようなものが出てきて、私の手のひらに吸い込まれていく。
これがなかなか苦しいけど、私のエネルギーの中に取り込まなくてはならない、
毒物の濃紫黒色のモヤが、薄くなり、すっ〜っとかき消えた。
毒物の回収と中和は、グリーン光をもつ癒しのヒーラーの担当だ。
腹の下から亀獣全体を包んでいたオレンジの光が、一層濃さを増し、
ヴァシリス様の生命の気が、更に亀獣に流れ込み、必要生命量が、飽和状態になったのだろう、光が一瞬、銀色に近い白に光って消えた。
海亀が、「クゥー」と鳴いて、閉じていた目を開け、少しずつ手足を動かしている。
治療成功だ。
「よくやった、アリエッタ。」
「ヴァシリス様、お疲れさまでした。」
「首席ではなかったが、特級ヒーラーの力は間違いないな」と呟いている。
所長、まだ言ってるし!!
ヴァシリス様の厳しい表情が少し緩み、次の指示が出た。
「プールの扉を開けるので、亀獣を海に返して来なさい。」
「はい、行ってまいります」
亀獣を海に返すまでが、私たちの役目。
治療プールには、海と繋がる水路があり、
プールの底の扉を開くと、すぐに亀獣は泳ぎ出した。
私は亀さんに伴走?ならぬ《伴泳》をしながら、海まで一緒に移動する。
シースーツに包まれていて普通に呼吸できるので、溺れない。
亀獣の泳ぎを見ていると、完治したのだと、ホッとする。500年も生きてきたんだ。
感慨深く、泳いでいると、水路の終点についた。
この先は、広い海への入り口。
私が、元気でね、と声をかけようとした時に、
亀獣は、私を見て、こういった。
「アリエッタ、久しいのう」
へっ?
読んでいただきありがとうございます。