第一章 海洋研究所 1特級ヒーラーの仕事
研究所にきて、3日が過ぎた。
新米スタッフの私は、まだ当直免除のため、
夜はゆっくりできる。
色々と覚えなくちゃいけないことが山積みなので、
夜は勉強時間になる。
ヒーリングの練習や瞑想訓練も欠かせない。
海の生き物も、更に覚えなくちゃ。
そのための、当直免除ともいうけど。
勉強を終えて眠りについた。
2時間くらい眠っただろうか、
夜中に、当直室から緊急の呼び出しを受けた。
治療室に駆けつけると、目を見張った。
怪獣がいた、、亀のカタチの。おっきい。
治療プールの中で怪獣?は、微動だにしてない。
5人のヒーラーが、
パステルイエローの光を、怪獣?に送っている。人でいう点滴みたいな感じ。
パステルカラーの光を持つのは、2級ヒーラー。
と言うか、怪獣ウミガメさん?大きすぎる。
体調は3メートルはある。まあクジラと変わらないと言うと、そうなんだけど、、
怪獣ウミガメさんに一番近いところで、所長のヴァシリス様が、診察中。
「ただいま参りました」診察中のヴァシリス様に到着を伝える。
「来たか、アリエッタ」と、顔も見ずに難しい顔のまま頷いた。
この大先輩は、基本ストイックなので、柔らかい笑顔なんて、、無い、はず、見目麗しいご尊顔だけど、、、
ヴァシリス様は、右手を怪獣?にかざして、
レントゲンのように、見透して所見を述べた。
「推定500歳の亀獣だろう。かなりの量の細かいプラスチックやガラス片、
海水に溶け込んだ汚水の毒物を内蔵に蓄積している。プラスチック片は、体内で固まりになり、吐き出せず消化も出来ずに、泳げなくなっている。
外科的処置では、抉り取る部分が広範囲になるため、生命が持たない。」
亀獣だったんだ。同時に命のエネルギーがほとんど無いのを感じた。
海に流れ込んだ毒が蓄積している。
一呼吸おいて、ヴァシリス様が淡々とした表情と落ち着いた声で、私をちらりと見た。
うっ、見ないで、緊張感で怖い。
「アリエッタ、ヒーリングパワーで毒物を取り出すしかないが、この量を分解し解毒できるか?」
内容は理解した。
「はい。異物の塊と毒物はまとめて一回で取り去るしかないでしょう。
複数回に分けてしまうと、毒物が、体の中で更に溶け出し広がり、危ないですね。」
「そうだ。一気に取り除くので、よろしく頼む」
「承知いたしましたっ」
「アリエッタ以外は、みな下がりなさい。ご苦労。」
この研究所で、命にかかわる物理的対処ができるのは、特級ヒーラー以上の所長と私。
そして所長は、何と国内では、唯一の超特級ヒーラーだ。
どれほど凄いのか、その凄さがあるから、私が特級ヒーラーになっても、アカデミーの成績が悪い!と、お叱りを受けていたのだけれど。
今はそれより、目の前の亀獣の命を守らねば。
特級以上のヒーリングエネルギーを多く使う時は、他のスタッフの体調に影響を与える場合もあるので、ヒーリング時は人払いをする。
ヴァシリス様以外のスタッフ全員がプールから上がり、一礼して治療室から退室していく。
入れ替わりに、私はシースーツをまとい、プールに入る。
研究所のヒーラスタッフは、シースーツという海水そのものを薄い膜のように全身に纏う能力あり、
そのおかげで、海の中では呼吸ができて、泳ぎやすく、生き物達には違和感がなく、私たちも海に溶け込める。
簡単なイメージとしては、一瞬で、ラップに包まれて、人魚化し、かつ呼吸が普通にできるような優れものなのだ。
シースーツは、海洋系ヒーラーの必需品だ。使い方は、王立アカデミーの海洋学科で習得するので、ここのスタッフは全員標準装備だ。
「亀ちゃん。早く楽になるように頑張りますから、少しの間、我慢してね。」
と、亀獣の頭に優しく触れながら、声をかけると、つむっていた目を少し開けて、私を見てくれた。
「アリエッタ、始めるぞ」
「はい」
ヒーリングの開始だ。
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