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ひじき姫  作者: 正髏丸
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じゃまもの

シカオナがホンダワラ王国の部外者であるというアカモクの訴えに、会場の人魚達はざわつき始めます。

すかさず、サルガッサムがフォローします。


「まて、シカオナはワシの娘じゃ! 詳しいことは言えんが、部外者ではない!」



いつのまにか娘にされたシカオナは少し驚きましたが、それを咎めようとは思いませんでした。

記憶のない自分に優しくしてくれるサムおじさんのことを、父のような存在に感じていたからです。



サルガッサムに対し、アカモクが答えます。


「仮にシカオナさんがサルガッサム様の娘だとしても、黒髪の人魚なんて見たことがありません。サルガッサム様、もしかしてシカオナさんは、かつてこの国に訪れたという海上の悪魔との間にできた娘なのではないでしょうか? 確か、仲が良かったそうですよね? サルガッサム様が大切に持っているその鎧もその悪魔の形見らしいですし」



アカモクの発言に会場はいっそうざわつきを増します。

しかし、シカオナだけはアカモクが何を話しているのか理解できずにいました。



「彼女のことを悪魔と呼ぶのは止めるのじゃ。確かに海上の者はワシらの存在を脅かす危険な存在じゃ。しかし、彼女は大怪我したワシを手当てしてくれた恩人じゃ。それに、シカオナは彼女の娘ではない。乗り物の故障で帰れなくなった彼女はこの環境に適応できず、数日で亡くなってしまったんじゃからのぉ」



サルガッサムが目に涙を浮かべて言いました。

それ程までにサルガッサムにとって辛い出来事だったのでしょう。



それでもアカモクは容赦なく、サルガッサムへ意見します。


「確かに、シカオナさんが彼女の娘というのは辻褄が合いません。それは認めましょう。しかし、シカオナさんの得体が知れないことには変わりありません。私はその黒髪が邪悪な存在である証だとも考えています。姫どころかこの国に置いておくのも危険な存在だと私は思います」


「髪色なんて関係ないじゃろッ! シカオナは絶対に悪人魚あくにんぎょではない!」


「根拠もなしによくそんな無責任なことが言えますね。まったくもって論理的でありません。美しくありません!」



ここで、パンッパンッ!と手を叩く音がしました。


「静粛に! 2人とも落ち着きなさい!」



ナノリソは2人を静止させると、シカオナに問います。


「シカオナ。あなたから何か言いたいことはありますか?」



言いたいこと。喧嘩をやめて欲しい。

シカオナはそのために必要な言葉を紡ぎました。



「姫になるのは諦めます。それで誰も喧嘩をしないなら……」


「シカオナ…………分かりましたわ。それでは、改めて次期姫じきひめを発表いたしますわ!」



ナノリソは宣言を終えました。

そして、アカモクの元へ泳ぎ、頭の上にティアラを乗せます。

この瞬間、ホンダワラ王国に新しい姫が誕生しました。

アカモクが姫となったのです。



「アカモク、おめでとう。このティアラは貴方にこそ相応しいわ」


「ナノリソ様、ありがとうございます! そのようなお言葉を貰えるなんて光栄です。天国にいる母もきっと喜んでくれています」


「え? わたくし何か言いましたか??」


「え……? 幻聴でしょうか……? まぁ、何はともあれナノリソ様。あとはお任せください。私が姫になったからには、ホンダワラ王国に襲い掛かるありとあらゆる危険を徹底的に全て排除いたします!」



アカモクが自信満々にそう言うと、ナノリソは眉をひそめ、耳打ちします。



「アカモク、あなたは少しやり過ぎなところがありますわ。ほどほどにお願い致しますわね」


「もちろん分かっておりますよ、ナノリソ様」



アカモクは小声で返事をすると、勢いよく正面を向き直し、右手を振り上げて言いました。



「ではさっそく、シカオナをホンダワラ王国から追放します!」



そんなアカモクの発言に、会場の空気が変わりました。

水温はまるで季節が冬であるかのように冷え冷え状態です。



ナノリソが困った顔で聞きます。


「わたくしの言ったことは理解できておりまして?」


それに対し、アカモクが笑顔で答えます。


「ええ、処刑はやめましたよ! シカオナが邪悪な存在である確かな証拠もない訳ですし。これでも牢屋に閉じ込めたりしないだけ、マシだと思っています」


ナノリソは困り果てました。

そして、サルガッサムは激怒します。


「ふざけるなッ! なぜ、シカオナが追放されなくてはならないのだッ!!!!」



サルガッサムの怒号にアカモクは返事をしませんでした。

シカオナが危険な存在であるからと、既に何度も理由を言っているからです。

アカモクは無駄なこと、つまり合理的でないことを嫌います。



「ギバサ! ギンバソウ! ナガモ! しばらくの間、サルガッサムを牢屋に入れておきなさい!」


「アカモク姐さん、承知致しました!」

「んだんだッ!」

「サルガッサム様かんべねぇ」



アカモクのことを姐さんと慕う屈強な人魚3姉妹が、サルガッサムの両手両足を捕らえます。



「はなせぇ! はなすのじゃああ!!!」



サルガッサムの声が静まり返る会場に響きます。

会場の人魚達が固唾を呑んで見守る中、シカオナはもうこれ以上、黙っていられませんでした。



「ちょっと待ってください! なんとか私が邪悪な者でないと証明することはできないでしょうか!?」


「そんなこと……、いや、ちょっと待って、うん。証明できるわ」



アカモクの意外な返事に「本当ですか!?」と笑顔になるシカオナですが、アカモクは厳しい口調で言います。



「では、これよりあなたに試練を与えます! 自分の命を掛けなさい! 邪悪な者であれば、恐らく自分の命までは掛けないはずです。無事に試練を乗り越え、生きて帰って来れたならば、あなたをホンダワラ王国の民、いや、ホンダワラ王国の姫として向かい入れましょう」



アカモク自身、会場の半分は自分の事を冷ややかな目で見ていると察していました。

黒髪というだけでシカオナを追放するのは、大分強引だったからです。



アカモクは賭けに出たのです。

アカモクは勝てば「国民の納得」を得て、「シカオナの排除」が出来ます。しかし、負けた場合は「姫の座」を失います。

シカオナは勝てば、「身の潔白」を証明し、「姫の座」を得られます。しかし、負けた場合は「自身の居場所」、最悪「命」を失います。



アカモクの提案をサルガッサムは必死に止めようと叫びますが、シカオナもアカモクもそれを無視して話を続けます。


「分かりました。命を掛けます。試練の内容を話してください」


「では話しましょう。シカオナ、その黒髪を別の色に変えるのです」



アカモクは試練の内容を皆に説明しました。



3つの選択肢から1つを選び、無事に髪の色を黒から別の色へ変えることができたならば試練達成とのことです。



1つ目の選択肢を選ぶならば南の方角。

カラーギャングの巨大イカ達が暴れ回る危険な海域へ行くことになります。

辺り一面をカラフルに染め上げる彼らの強力な墨を髪に塗れば、長い間、髪を染めることが出来るでしょう。……彼らの餌にならなければ。



2つ目の選択肢を選ぶならば東の方角。

世界一巨大な海底火山の奥底へ行くことになります。

そこには火山が噴火しないように食い止め続けている海の神様がいるらしく、会うことが出来れば願い事を叶えて貰えるという伝説があります。……あらゆるものを溶かし尽くすマグマの海を泳ぐことが出来たならば。



3つ目の選択肢を選ぶならば西の方角。

美しい姫が住む、龍宮りゅうぐうと呼ばれるお城へ行くことになります。

そのお城では、髪を白くする玉手箱という不思議な箱が存在するという噂があります。……噂の通りであれば、若さを失う必要がありますが。



「ふふ、さぁ、どれを選びますか?」



シカオナは答えました。


「1つ目を選びます。私はマグマの海を泳ぐことも、若さを捨てることも出来ないので」


「そうですか。赤、青、黄色、どんな髪の色になって帰ってくるか楽しみにしています。あと、今後も黒髪を染め続けることが出来るくらいの量のイカ墨を貰ってきてくださいね。黒髪の人魚なんて、この国に存在してはいけないのですから。では行きなさい!」



アカモクが城の入口へ勢いよく手をかざすと、会場の人魚達が左右によけて道を作りました。

しかし、シカオナは入口の方へは進まず、アカモクの部下達に抗っているサルガッサムのもとへ泳ぎます。



「サムおじさん。ごめんなさい。私、行くね」


「ぐ……、謝るのはワシの方じゃ。こんなことになるとは……。せめて、この鉄の鎧を着ていきなさい。腕に方角をしめすコンパスが埋め込まれておる。絶対に帰ってくるのじゃ」


「でも、これは大切な鎧のはずじゃ」


「馬鹿いえ、娘よりも大切なものなんてこの世にないわい。それに鎧の下半分は家に置いてある。じゃから、無くしてしまっても構わん。シカオナが無事ならそれでよい」


「サムおじさん……、ありがとう。行ってくるね」



サルガッサムは心の中で思います。

本当に彼女にそっくりだと。

今日、この鎧がシカオナの元へ流されたのは、運命だったのかもしれないと。



「シカオナ、必ず潔白を証明して戻って来るのです。自信をお持ちになって。あなたは今、まぎれもなく、ホンダワラ王国の次期姫じきひめですわ!」


両手でガッツポーズを作り、ナノリソがシカオナを応援します。



「ありがとうございます。ナノリソ様。行ってきます」



シカオナは上半身だけの鉄の鎧を被ると、尾びれで水を蹴り、お城を飛び出しました。






――岩のアーチをくぐり抜け、シカオナは南の海を目指します。

泳げば泳ぐほど辺りは暗くなり、振り向くとホンダワラ王国は既にありませんでした。



ここは、あちらこちらで生物が光る暗闇のネオン街。

何を考えているのか分からないクラゲや、イカツイ顔をしたお魚たちがふらふら漂う無法地帯です。



シカオナはできる限り周りに刺激を与えないよう、発光する生物を避けながら泳ぎます。

避けながら泳ぐ都合上、ここからはコンパスで方角を見ながら進む必要があるのですが……。



「暗すぎてコンパスがよく見えない!」



問題発生です。

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