再会
そうして、俺は自分の特性:ドMをようやく発見したのだ。
この特性は相手に罵られることにより、一時的に全ステータスを大幅に上げるものだった。その時間は体感でせいぜい二、三分。だが、その一瞬で大抵の敵は倒すことができる。
ただ、途中で褒められたりすると、ステータスはめちゃくちゃ下がるのがたまに傷だ。
俺はその能力を駆使して、各地から罵り仲間を集め、新設したパーティー(名は、俺のハーレム)の勢力を広げて行った。その活躍は目覚ましいもので、たったの二年でルークの勇者パーティーと肩を並べるほどに。
逆に、彼のパーティーの成長は止まっていた。何があったかは知らないが、それはちょうど俺がパーティーを抜けた日からだ。
ある日、ルークから手紙が届いた。
内容は、『最近調子に乗ってて気に食わないから、ボコボコにさせろ』というようなものだった。ちゃんと読んでないが。
正直、俺も彼に会いたかったから、早速指定された村の外れに向かった。
「来やがったか、ダニエル。くそ雑魚のくせに、この二年間、随分調子に乗ってたみたいだがーー」
ルークの表情が固まる。
「なんだその格好……」
「え、きもっ。噂には聞いてたけど、どんな趣味してんのこいつ…… 頭おかしいんじゃないの?」
ジェニファーは不快感をあらわにし、容赦なく俺を罵倒してくれる。
二人の感想はもっともだ。
何せ今の俺は、側からみれば女性用の下着を身につけた、ただの変態なのだから。この布面積の狭さにも、パンツの異様なもっこり具合にももう慣れた。
「おやおや、酷い言われようだね…… だが、悪くない」
「え、性格まで変わってるんですけど…… パーティー追い出されて、精神病んじゃったの?」
「何とでも言うがいい。だが、覚えておくことだ。俺を馬鹿にしたことを後悔することになるとな」
俺はかっこよくそう言い放つと、戦闘の構えをとった。
一応説明しておくと、両脚を交差させ、つま先立ちになり、これまた交差させた腕を天高く伸ばす。これが俺の構え。上体を少し後ろにそらし、横から見たときに弓のような形をしているのがベストだ。
因みに、この構えにあまり意味はない。ただ、こうすると面白いくらいに、周りから気持ち悪がられるのだ。
「で、でた! 自称、魅惑のポーズ! 自分がキモいって自覚してないのヤバすぎ! 何回言えば自覚するのよ、このど変態! ていうか、脇毛の処理くらいしろ!」
シェリーちゃんが罵る。二年間一緒にいたからわかることだが、あれは本音だ。
「さすがはシェリーちゃん。今日も今日とて、抜群のトゲトゲしさだ。美しい花にはトゲがある。君は薔薇だ。そのなまめかしい唇は、さしずめ薔薇の花弁と言ったところかな? 戦いが終わったら、たっぷり堪能してあげるよ」
「うぅ…… 毎度のことなのに、どうしてこんな悪寒が……」
「ねえ。いつになったらその気色の悪い性格は治るの? この二年、毎日言ってるのにどうしてわかってくれないの? 馬鹿なの?」
平坦な口調で罵るというトリッキーな小技を見せるのは、黒いロングヘアーのレイラちゃんである。
彼女との出会いは、一年半前。俺がとある貴族同士のいざこざを一瞬で解決したのだが、その時貴族の主にぜひ娘をもらって欲しいと言われ、俺は快諾した。
彼女もパーティーに入ってから数分は、俺のことを本気で婚約相手と認識していたに違いない。しかし、すぐさま俺の本性が明らかになり、さりとて今更家に戻るわけにもいかないため、今に至る。彼女は俺を更生させようと、日々努力している。
「気持ち悪いです。地獄に落ちて欲しいです。子供にこんなの見せるなんて、人間じゃないです」
肩まで伸びた金髪をした八歳の少女、サラちゃんが一番辛辣だ。
彼女は、凶暴化したドラゴンの襲来によって壊滅しかけた村から救い出した子だった。身寄りがなかったため、俺が引き取った。
当初は、俺のことを尊敬し、お兄ちゃんとまで呼んでくれていたが、今ではこの体たらく。まあ、俺が散々彼女を幻滅させるような事をしたのだが。最近では俺のことを「キモいの」と呼んでいる。
「レイラちゃん、サラちゃん。それは少し酷すぎやしないかい? まあ、それもまた俺の力になるんだけどね。言ってみれば、俺にとってこれは君たちの愛そのものーー」
「キモいからこっち向くなです」
「いいね、サラちゃん。今のは効いた」
俺はフラフラと頭を揺らし、それから色っぽい吐息と共に、真面目腐った顔でウィンクをくれてやった。
「うわ」という声を上げて、サラちゃんは後ずさりした。そして、いつものように、シェリーちゃんが慰めるようにサラちゃんの背中をさする。
「おいおい、仲間にまで嫌われてるじゃねえか。なんだ、こいつら金目当てで集まったのか?」
ルークが嘲笑する。
「ふっ、お前は何もわかっていない。あの子たちと俺は運命の赤い糸で、お互いの身体をがんじがらめ、いや、きっこうしばーー」
「話が長い。早く終わらせろ変態」
「了解、レイラちゃん」
俺は澄ました顔で、また鼻をふっと鳴らした。
日々、こんな罵詈雑言を浴びていれば、常人なら今頃心がズタズタになっているだろう。だが、俺は真性のドM。全てごちそうだ。
「かわい子ちゃんたちが待ってるんでね。悪いけど、あんまり長くは遊んでいられないよ?」
「どこまでも気持ち悪い奴め! 二度と調子に乗れないようにしてやる!」
ルークはこちらに手をかざした。
「スーパーファイア!」
詠唱と同時に、赤い魔法陣が俺の真下に出現する。半径五メートル以上の、おそらく最強クラスの魔法だ。
だが、俺は一歩も動かない。
「来なよ。まあ、君がどんな攻撃をしようが俺はーー」
「喰らえええ!」
猛炎が地面から噴き上がった。俺の視界は瞬く間に、眩いオレンジに覆われる。