表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

覚醒

 「お前はクビだ、ダニエル」


 王都の宿屋で、ルークにいきなりそう切り出されて、俺はびっくりした。


 「じょ、冗談だろ、ルーク? なんでクビなんだ? 今まで楽しくやってきたのに」

 「楽しくやってきただ…… ?」


 急にルークの目が鋭くなる。


 「使い物にならねえ奴が良く言うぜ! お前はろくに魔法も使えない。それに、誰もが持ってるはずの特性もねえ。おまけに頭まで悪いとか…… さっさと出て行け、穀潰し野郎。これからはジェニファーと二人だけでやっていく」

 「そうそう。あんたみたいな無能、いらないのよ」


 金髪の美少女、ジェニファーは周りに飛ぶ羽虫にでもするように、空中を手で払う。もちろん、羽虫とは俺のことだ。


 「そういうわけだ。あばよ、役立たずのダニエル君」


 この短い問答によって、俺は三年間籍をおいていた、勇者パーティーから追放された。


 去り際に、「やっと消えてくれた、あのくそ童貞」ジェニファーの声が聞こえ、なんとも言えない熱いものが胸にこみ上げてきた。そういえば、こんな酷い言葉をかけられるのは生まれてこの方初めてだ。


 元々、俺は昔のよしみでルークと二人だけで冒険をしていたのだ。その時は楽しくやれていた。お互い、小言の一つもなかった。

 だが、ジェニファーが途中で加入してから、なんとなく雰囲気が変わっていた。あの女がルークをそそのかしたに違いない。


 「確かに自分に無能の自覚はあったよ! 特性もないし! でも、ちょっと可愛いからって、友情よりも、たった数ヶ月の女を選ぶなんて! まじ許せねぇ!」


 ちなみに、特性とは一人につき一つ備わった、特殊な能力のことである。一説では神が与えてくれた御加護とも言われている。

 ルークの特性は魔力強化EX。全ての魔法の威力を大幅に上げるという、まさに最強の特性だ。

 対する俺は、なぜか特性を持ち合わせていない。無能の中の無能。神から見放された存在だ。


 というか、今は恨み言を言ってる場合じゃない。

 世界でも最強と名高いパーティーで、腐るほどあった収入。それがゼロとなった。荷物をまとめる暇もなかったのだ。


 俺は王都を抜け出し、故郷へ続く林道を歩いていた。泊まる場所もないから、実家に戻るしかない。最強になると意気込んで出て行ったのに、親にはなんとどやされるだろう。


 「帰ったら、どうやって働くか……」


 俺は大きくため息をついた。まだ二十八歳だから、簡単な肉体労働くらいならできるが……

 色々考えていく内に、この先の不安に押しつぶされそうになる。


 そんな時だった。


 「きゃー!」


 普通じゃない、女性の悲鳴が聞こえてきた。


 「な、なんだ?」

 「誰か! 誰か助けて!」


 俺は急いで声の方へ走った。


 (やぶ)をかき分けていくと、女性の姿が見えた。ゾッとするような醜い人形をした、ゴブリンと一緒に。だが、あれは低級の魔物だ。

 これなら俺でも倒せる!


 「待て! その子には指一本ーー」


 颯爽(さっそう)と藪から飛び出した俺は固まった。

 一体だけではない。でこぼこした緑の小さい頭は、見た限り数十個は並んでいたのだ。


 「え、こんなにたくさん!?」


 俺は思わず叫んでしまう。そのせいで、ゴブリンの黄色く鋭い視線が一気に集まった。


 「そこのお方! た、助けてください!」


 女性が俺の方に気づいた。


 「え、いや…… 俺は……」

 「胸に付けてるそのワッペン! ルーク様のパーティーの方ですよね! お願いします! お金ならいくらでも払いますから!」


 うっかりしていた。同じパーティーの証であるワッペンを外していなかったのだ。 


 「ち、違うんだ。俺は…… そんなんじゃなくて……」

 「ググググ!」


 突然、群れの内の一体だけがこちらに突っ込んでくる。一つの躊躇(ちゅうちょ)もない。

 

 「一体だけしか来ないって! 俺ってそんな雑魚だと思われてるの!?」


 普通は睨み合いが続く場面じゃないのか!

 って、驚いてる場合じゃない。とりあえず向かってくるやつだけでも倒さないと。


 「ちょ、ちょっと待て! まだ、魔法の準備が!」


 呪文を唱えると現れる魔法の型ーー 魔法陣に体内の魔力を注ぎ込んで初めて本物の魔法となる。これが魔法の仕組みだ。

 だが、残念なことに、俺は初級魔法ですら発動に時間がかかる。猛進なんかされたら、間に合わない。


 「嘘だろ…… 俺、こんなところで死ぬのか……」


 なんだか世界の動きがゆっくりになる。そして、頭には昔の数々の思い出が、コマ送りのように流れてきた。よく見れば、そのどれもが俺が足でまといになっているシーンだ。

 走馬灯って奴か?


 もう終わりだ。俺はここで死ぬんだ。仲間にバカにされ、そして、その日のうちに低級の魔物に殺される。


 「グギギギィ!」


 ゴブリンはもう目の前。


 「まあ、俺にふさわしい最期かもな……」


 俺は自嘲気味に笑う。もうどうでも良かった。


 「え、嘘…… ゴブリン一体も倒せないの? あいつ、よりによって、勇者パーティーの偽物!? 無駄に期待させておいて……」


 女性の声がはっきりと聞こえてくる。


 「最低」


 その声が、妙な熱を持って俺の心に響き渡った。


 「この感じ……」


 最低? 今俺は罵倒されたのか? しかも、心からの罵倒。

 落ち込むべきところなのに。なんだこの感覚は。力が湧き上がってくる。


 「うおおおおおおおおおおお!」


 魔力が身体からほとばしる。同時に見覚えのない呪文が頭に浮かんできた。


 「被虐趣味者の暴発(マゾ・ブラスト)


 唱えると、(てのひら)から魔法陣が展開され、そこからピンク色の光がゴブリンの群れを飲み込んでいった。

もしこの作品を気に入ってくださったら、ブクマ、評価をよろしくお願いします!励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ