第伍拾伍話 カズノコ天丼
「はぁ……。はぁ……。」
息を荒げ、山の中の獣道を走っていたのは、青年と少女だった。
青年は『着流し』、そして、少女は『白い肌襦袢』のままであった。つい先ほどまで寝ており、急いで起きたかのような姿である。
青年は、右手に業物の名刀を携えつつ、左手で少女の手を引いていた。そして、少女は、青年に右手を引かれながらも、必死に走っていた。着ていた肌襦袢ははだけ、真っ白な足があらわになっていたが、その足のはだけを気にする余裕は彼女にはない。
「はぁ……。はぁ……。」
彼らの後ろには、大きな炎が燃え盛っていた。
月明かりのみで照らされる薄暗い真夜中の山道に、それは、その麓であたりをひときわ明るく照らしている。
そこには、10数件の小さな家からなる小さな集落があった。そして、その集落は、今、炎につつまれているのだ。
「おいっ! おまん! 急ぐぞっ!」
そして、その集落の真ん中に、ひときわ大きな屋敷を構えていたのが、その集落の長である平田家だった。
平田家には、村の長である平田果実とその妹の平田萬こと『おまん』が住んでいた。
その集落は、深山家の刺客に襲われ、火を放たれた。そして、2人は、命からがら集落から逃げ出し、集落の近くの山に入ったのだ。
「はっ、はぁ……。あっ、兄上っ……。わかっておりまする。しかし、足が……。」
おまんは、足を押さえて、立ち止まった。走り続けることに限界がきたのだ。
「大丈夫か、おまん? しかし、急がなければ……。深山家の刺客に追いつかれる!」
急に足を止めたおまんを心配して、足を止めた果実ではあったが、おまんの左手を握る手を強め、おまんに走ることを促す。
「あっ……! 兄上。あそこと、あそこに、人が……。」
おまんが、肩を少し震えさせながら、指差す。山の麓からは、複数の松明の明かりが、2人に向かって近づいてきていたのだ。
「くっ……。どうやら深山家の刺客に追いつかれたようだな……。このままでは、2人とも……。」
果実は、ギリッと歯を噛んだ。そして、右手に握りしめた刀を体の前へと持ってくる。
「おまん! おまえだけでも、逃げろっ!」
果実は、松明の明かりから、おまんの姿を隠すように、彼女を自分の背中の後ろに置いた。
「いいえ……。兄上こそ、お逃げください。ここで2人とも死んでしまえば平田家の血が途絶えてしまいまする。兄上さえ生きておられれば、お家を再興することも可能です。しかし、私では、平田家の再興にはいささか力不足でございます!」
おまんは、唇をくいときつく閉じ、真剣な眼差しで、果実に視線を送る。
「今は、私が囮になります! その隙に、どうか兄上はお逃げくださいませ!」
「ダメだっ!」
果実は、声を荒げ、大きく首を振る。
「ダメです! 兄上は生きてくださいませっ!」
そう言うと、おまんは、果実の左手に掴まれていた自身の右手を振り切り、深山の刺客の方に向かって走り出した。
果実は、去ってゆくおまんの姿を、引き止めようとしたが、彼の左手は、空を切った。
その左手の先の、小さくなっていくおまんの背中に向かって、果実は名前を叫ぶことしかできなかった。
「おっ!! おまーーーーーーーん!!!!!」
――――――――――――――
「こっ! こっ……、ここは……?」
高村まんごが、急に声を出し、目を大きく見開いた。
彼女の目の前には、ドリア・ヌ・ロドリゲスと宮村まんごの顔があり、心配そうに高村まんごの顔を覗き込んでいた。
「ん……、あれ? ここは……どこ……?」
高村まんごは、身体中を汗でべったりと濡らし、顔にも数滴の汗が光っていた。彼女の額に置かれた、濡れたタオルが、高村まんごが顔を上げた時に、地面にぽとりと落ちた。
そこは、まんごたちがツボタコと戦った場所からすぐ近くの木の下だった。まだ湖のほとりである。
「まんごちゃん、大丈夫でございますか?」
ドリアが、高村まんごの手を握りながら、心配そうな声を出す。
「よかった。目を覚まして。それにしても、まんごちゃん、相当うなされていたけど、怖い夢でも見たの?」
宮村まんごは、高村まんごが起きた時に落としたタオルを拾いながらも、彼女に笑いかける。
「……あっ、はい。山の中を逃げている夢でした……。そう……。とても、怖い夢でした……。」
高村まんごは、視線を落とし、ふぅ、と大きく息を吐いた。
「あっ! で、あの……、ここは?」
そして、我に返り、あたりをキョロキョロと見回した。
「まんごちゃんが急に眠ってしまわれたので、こうやって、ここで休憩をしているのでございますわ」
「そういうこと。私たちが『ツボタコ』の魔石を集めている間に、まんごちゃんが地面で寝ちゃってたからねぇ〜。気が付いた時にはびっくりしたよ」
「あっ……。そうなんですか」
高村まんごは、ドリアと宮村まんごが『ツボタコ』の魔石とドロップアイテムを集めているのを後ろで見ていたはずだったが、彼女は座ったまま眠りに落ちてしまっていたのだ。
「まぁ、どうやら眠っていただけみたいだっただから、軽く介抱しただけだったけどね。ほんと、おおごとにならなくてよかったよ。あ、そうそう、まんごちゃんも、お腹すいたでしょ? 今、ちょうどご飯が炊けたところだから、まんごちゃんのぶんも作るからね」
宮村まんごは、先ほど『ツボタコ』を倒して手に入れたばかりの『タコのツボ』を自身の『アイテムボックス』から取り出し、それに炊きたての『お米』を粧った。そして、その上に『数の子天ぷら』を置き、特製のタルタルソースをかけた。
「はい、まんごちゃん。どうぞ。特製の『数の子天丼』だよ。ゆっくり食べてね。まだ疲れも取れていないだろうし」
「あ、ありがとうございます」
宮村まんごに差し出された『タコのツボ』を、受け取った。
『タコのツボ』の中の『数の子天丼』は作りたてであり、白い湯気がほんわかと登っていた。
「そうでございますわ。ゆっくりと食べてくださいませ。まんごちゃんには、まだ無理は禁物でございますわ」
ドリアも、高村まんごに笑いかけた。
「うん。ありがとう」
高村まんごは、ニコッと笑いながら、『数の子天丼』を食べ始めた。
――――――――――――――
「お米が……、タレでトロっトロっ……だっ……。」
お米はすでに炊かれて、ご飯と呼ばれるにふさわしい状態になっているにもかかわらず、高村まんごは疲れているのだろうか、それを、お米と言う。
数の子の天ぷらの上にたっぷりとかけられたタルタルソースは、天ぷらだけでなく、下のお米までもをグジュグジュに湿らせていた。
「ホフホフ熱い……。」
のお米は、まだ湯気が立つほどに熱い。その熱々のお米を、タルタルソースとねっとりと絡ませながら、まんごは、それをお口に運ぶ。
「あつぃ……。タレが……。」
口の中では、熱々のお米が、舌の上で踊る。
「うん。いいお米だねっ……。」
笑顔を浮かべたまんごは、次に、お米の上に鎮座している『数の子天ぷら』に箸を伸ばし、それを優しく摘まむ。
『数の子天ぷら』もまた、大量のタルタルソースをかけられ、その衣をトロンっと柔らかにさせていた。
「トロトロの『数の子天ぷら』だぁ……。」
まんごの小さいお口の中に、それよりも少し大きめの『数の子天ぷら』が運び込まれる。そして、まんごは、柔らかな衣に、自身の真っ白い歯を突き立てた。
ジュクッとした衣は、柔らかくほぐれ、その中の数の子もまた、コリっと軽快な音を立てて割れた。
「タルタルに絡みつく衣と、その中のコリっとした数の子……。実に優雅な味ねっ……。」
まんごは、口の中で、数の子のブツブツとしたつぶつぶを堪能しながら咀嚼し。口一杯にその風味を味わった。
「はふ〜ん。幸せ〜。美味しいなぁ〜これ。ふぅ〜〜〜ん」
まんごは、大きく息を吐き、幸せをかみしめた。美味しいものを食べた幸せだ。
「あんっ……。それにしても、体がしんどいよぉ〜」
『数の子天丼』に舌鼓を打ちながらも、高村まんごは、しんどそうに首を左右に動かす。必殺魔法『ボクアルバイトー』を使ってからというもの、その後遺症の疲れを感じていたのだ。
高村まんごのその姿に、宮村まんごもドリアも、心配そうな目を向ける。
「まぁ〜、そのうちましになると思うよ。でも、この体の痛みは、必殺魔法『ボクアルバイトー』のせいかもしれないし、いつもと違う果物型変身装置を使って変身をしたせいかもしれないし……。まぁ、今度使うときは要注意ってことだね」
宮村まんごは、顎に手を当てて、考える風なポーズをした。
「そうでございますわね。今回はまんごちゃんが危なかったでございますからね。次は、そうならないように、私がきちんと、まんごちゃんを守るでございますわっ!」
「うんっ! ありがとう! ドリアちゃん!」
高村まんごは、ドリアに満面の笑みを返す。
「今回は、いきなり襲われちゃったからね。まぁ、気をつけないといけないね〜。」
宮村まんごも、2人に合わせて笑う。
そして、まんご達は、会話を弾ませながらも、『数の子天丼』を楽しんだ。
今回は、『タコのツボ』が4つあったので『数の子天丼』を4つ作り、コアラもそれを食べることになった。
そう、コアラも、普通のご飯を食べる時もあるのだ。
精霊の『コアラ』は、動物の『コアラ』とは違うのである。
「ごちそうさまぁ〜。あぁ〜美味しかった〜。ご飯のあとは、何か甘いデザートでも食べたいなぁ〜。アイスクリームとか、ないかなぁ〜?」
高村まんごは、『数の子天丼』を食べ終わり、空になった『タコのツボ』を地面に置く。
「え? デザートにアイスクリームが食べたい? それは、ダメよっ!」
宮村まんごは、高村まんごの方を向き、大きく首を振る。
「そうでございますわっ! まんごちゃん! アイスクリームは禁句でございますわよっ!」
ドリアも、宮村まんごに合わせるようにして、首を振った。
なぜだかわからないが、アイスクリームは禁句なのだ……。
「あっ! そっか……。はははっ!」
3人は、目を合わせ、声をあげて笑った。
ドン!
次回に続く!
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私、高村まんご。小学3年生。
マンゴスチン・ハートに出会って、魔法少女『フルプリマンゴスチン』に変身できるようになっちゃったの。今は、マンゴスチン・ハートが大変なことになっちゃったから、それをなんとかするために、ダンジョンを冒険中なんだ。
前回はひどい回だったけど、今回はましになったでしょ?
いやぁ……、それにしても……、怖い夢だったよね〜?
ほんと、ギリッギリ! ほんと、怖いわぁ〜!
大丈夫かなぁ?
そして、それにさらに追い討ちをかけるように、天丼だからね。
まぁ、天丼だけにねっ〜!
はははっ! なんちゃって!
でも、名前を叫んだだけだし、そして、『数の子天丼』を食べただけだしっ!
何にも問題はないよねぇ〜。
えっ、点を取る?
あぁ〜、例えばっ! この濁点はいいよっ。
なぜならぁ、『カスの子天丼』になって意味が通じないからねっ!
そして〜えっと〜、この濁点とこの点も、いいよっ。
『カスの子天井』だからねぇ〜、意味が通じないっ。
でもっ! この点は、ダメ〜よっ!
だって、意味が通じちゃうから!
ダメなもんはぁ〜! ダメなんだよぉ〜!
いい? わかった? 絶対に、点は忘れちゃあいけないんだよっ。
うん。
よくわからないけど、うん。
こういうことだからねっ。てへっ!
そして、まさかの夢の中編の開始だったよねぇ〜。
おまんちゃんがどうなったのかも気になるし、また風呂敷を広げちゃって、ちゃんと話をまとめられるかどうかも気になるよね。大丈夫なのかなぁ〜?
終わらせる気あるのかなぁ〜?
で、次回はついに、マンゴスチンの世界樹にたどり着くからねっ!
長かったダンジョンの旅も、クライマックス!!
盛 り 上 が っ て 来 た ね ぇ 〜。
さぁ、次回に、満を持して登場するのは、誰なのかなぁ〜。
誰だろうねぇ〜? 気になるねぇ〜。
ははっ! それじゃあ〜、バイバイ!
次回!
魔法少女 マンゴ☆スチン A’s
『第56話 熊!だまんごー』
だよっ!
絶対に読んでねっ!
マンゴスチン! カジュー! ヒャクパーセントー!




