第4話 蜘蛛の糸に絡まれて、まんごちゃん大ピンチ!だまんごー。
まんごと桃矢は一緒にお風呂に入っていた。
おばあちゃん家のお風呂は大きい。
おじいちゃんがお風呂好きだったため、家のお風呂場を大きくしていたのだ。
まんごは小学3年生で、桃矢は小学5年生である。
まだ、2人で入っている。
「ああ〜、いい湯だ」
桃矢は熱いお湯に肩までどっぷり浸かって、お湯を堪能している。
「お兄ちゃん、すごいね、よくこんな熱いお湯に浸かれるね」
まんごは、兄の桃矢に奇異の目を向ける。
今の季節は、真夏である。
この気温が高い季節に、兄の桃矢は熱々のお湯に肩まで浸かっているのだ。
「あ、やっぱり、無理……。」
まんごは片足立ちになり、湯船に右足を入れるが、足の先っちょを数秒入れただけで、我慢できなくなる。それほどお湯は熱いのだ。
「じゃあ、左足から」
まんごは、足を変え、左足の先っちょから湯船に足を入れた。
「あぁ、無理無理」
数秒で我慢できなくなり、足を湯船から出す。
「おいおい、まんご。そんなに熱くないだろぅ? 俺なんて、肩までどっぷりつかってるんだぜ」
「ん〜、私にはちょっと熱すぎるかなぁ。少し冷めるまで待つね。じゃあ、先に体洗うね」
まんごは、湯船に入ることを諦めた。
ビュッ、ドピュッ
まんごは、スポンジにボディソープを染み込ませる。
ジュポ、ジュポ
スポンジを握ると、次第に泡が立ってくる。
ゴシゴシ
「ふぅ。やっぱり、私は、体を洗っている時の方が気持ちいいかなぁ」
まんごは、体に泡をつけて、体を洗ってゆく。
「そうかぁ? 俺は、こうやってボケ〜と湯船に浸かっている方が気持ちいいけどなぁ〜」
桃矢は、まだ肩までどっぷりと湯船に浸かったままだ。
顔は少し赤みを帯びてきているが、満面の笑みを浮かべている。
次第に、お風呂場の中が湯気で満たされてきた。
「この中も熱くなってきたね。ねぇ、お兄ちゃん、窓でも開ける?」
まんごは、泡をシャワーで流している。
白い泡が、シャワーのお湯に乗って流れてゆく。
「あぁ、お願い。でも、まんご、そこ届くのか?」
「届くよ! バカにしないでよ! ほら」
ガラッ
まんごは立ち上がり、お風呂場の小窓を開けた。
風呂場の換気用の小さな窓だが、そこからは田んぼが見渡せる。
「あれ? ねぇ、ねぇ、お兄ちゃん! あれって、蜘蛛の巣じゃない?」
まんごは田んぼの向こうの山に、大きな蜘蛛の巣を見つけた。
「ねぇ、お兄ちゃん! マンゴスチン・ハートのためにも、早くあいつを退治しないと!」
まんごは興奮気味に声を上げる。
「えぇ〜、後でもよくないかぁ? どうせ蜘蛛は蜘蛛の巣から動けないし、明日でもよくないか?」
「よくない! マンゴスチン・ハートが食べられちゃったら、どうするの?」
「そりゃあ、困るけどさぁ〜」
「わかった。私だけで、行ってくるから!」
まんごは、風呂場を飛び出した。
「おい、ちょっと待て! まんご!」
桃矢は、湯船の中で体を起き上がらせる。
風呂場のすぐ横は脱衣所だ。
脱衣所の脱衣カゴの中に、マンゴスチン・ハートが置いてある。
ここのところいつも肌身離さず持ち歩いているのだ。
「マンゴスチン・ハート! 巨大な蜘蛛を見つけたの。早く退治しないと」
(巨大な蜘蛛か。まぁ、妾が目当てじゃろうな。よし、主人よ、早速、退治しに行こうか)
「うん。わかった。マンゴスチン・ハート!」
まんごは、右手にマンゴスチン・ハートを握りしめ、それを天に掲げた。
「行くよっ!
マンマンマンゴスゴスゴスチーン!
赤黒の衣に包まれし、清らかなる純白!
溢れる甘き果汁をその身に浴びて!
果物の女王の誇りを胸に刻む!
高村まんご! 妾は汝と共に歩まん!
マンゴスチン・ハート! カジュー! ヒャクパーセントー!」
キューイーン
ピカーーーーーン
まんごが持つマンゴスチン・ハートが、赤く光り輝いた。
おばあちゃん家の脱衣所の中に、眩ゆい赤い光が溢れる。
マンゴスチン・ハートから放たれた赤い光はまんごを包む。
まんごはもともと何も着ていないので、今回は何も消えない!
赤い光が線状になり、まんごの体にぐるぐると巻きつく。
赤いレオタードがまんごの全身を包み、赤黒いミニスカートが腰に現れた。
長袖の赤いジャケットを羽織る。
帽子がかぶさり、完了だ。
杖のような長い棒が右手から現れ、その先端にマンゴスチン・ハートがくっついた。
「ふぅ。魔法少女『フルプリマンゴスチン』、変身完了!」
赤い光が消えてなくなると、そこには、魔法少女『フルプリマンゴスチン』になったまんごが立っていた。
まんごは、脱衣所を飛び出し、玄関から飛び立った。
家の中も飛んでいくスタイルだ。
「あれっ? もう着替えて行ったのかよっ。魔法の力はすごいなぁ」
桃矢は、風呂場を飛び出したまんごの後を追って、風呂場から出てきた。
しかし、まんごは変身を完了し、すでに飛び立った後だった。
「待てよ〜、まんご、俺もいくよ」
魔法の力でほぼ一瞬で、魔法少女『フルプリマンゴスチン』の姿に変身したまんごに対して、桃矢は人力で着替える必要がある。
桃矢は、大急ぎでタオルで体を拭き、大急ぎで服を着た。
――――――――――――――
まんごは空を飛んで、巨大な蜘蛛の巣を目指した。
「見て、マンゴスチン・ハート! あれが蜘蛛の巣よ!」
(主人、油断は禁物じゃぞ)
まんごが蜘蛛の巣の近くについた時だった。
ビシュー
巨大な蜘蛛は1本の糸を吐き出した。
「えっ?」
それは、空を飛んでいるまんごの足に絡みついた。
(主人!)
「きゃあ〜!」
まんごはバランスを崩し、そのまま、糸にひきづられるように落下してゆく。
まんごが落下し終えた時、そこは、大きな蜘蛛の巣の上だった。
糸で絡められた足を上にして、逆さに宙づりになった状態で、蜘蛛の巣に捕らえられていた。
巨大な蜘蛛はまんごの方をギロリと睨んでいる。そして、糸を吐こうと構えた。
(主人! 急いで、魔法で防御をするのじゃ)
「魔法で防御?」
(そうじゃ、防御魔法『マンゴスチン・盾』じゃ。略して、『マン盾』じゃ!)
マンゴスチン・ハートは『マン盾』の詠唱呪文をまんごに教えた。
「わかった! マンゴスチン・ハート、行くよ!
赤黒の強固な砦のマンゴスチン!
汝の砦を妾に分け与えたまえ!
マンゴスチン! た〜て〜!」
シャキーーン
まんごの前に赤い光の壁が現れる。
(マン盾はマンゴスチンのように、古くなるほど硬くなるのじゃ。主人はまだ若いからのぉ、どれほどの強度があるかはわからぬが、何もないよりはましじゃろう)
ビシュー
蜘蛛はまんごに向かって糸を吐き出した。
カキーン
目の前に飛んで来た蜘蛛の糸を、マン盾が弾いた。
「きゃっ」
まんごは一瞬目を閉じたが、大丈夫なことがわかると、恐る恐る目を開ける。
「あれ、蜘蛛の糸が……。」
マン盾によって一旦弾かれた蜘蛛の糸は、意識を持ったようにまんごの前のマン盾を避けて、まんごの方に伸びてくる。
逆さ吊りになったまんごは、その糸を避けることができない。
蜘蛛の糸は、じわじわとまんごに近づいてくる。もちろん、目標は、まんごではなく、まんごが持つ杖の先端に付いているマンゴスチン・ハートだ。
「いやぁ〜。だめよ! さっきお風呂に入ったばっかりなのに〜」
まんごの足から太ももにかけて、蜘蛛の糸は伸びてゆく。
逆さになったまんごのスカートを超え、まんごの胴の上を沿ってゆく。
腕から杖へと伸び、先を目指している。
「だめよ! このままじゃ、マンゴスチン・ハートがぁ〜」
杖の先のマンゴスチン・ハートに蜘蛛の糸が触れようとした時だった。
「インフィニティ・シューティング・ドリアンッ!」
遠くから、大きな声が聞こえた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
蜘蛛の後ろから、山吹色の光が、蜘蛛に降り注いだ。
そして、幾多もの爆発が起きる。
「ドリアーーーーン」
ドガーーーーーン
大きな叫び声とともに、蜘蛛は大きく爆発した。
「きゃあ〜」
大きな爆風が起きたが、マン盾がまんごを爆風から守る。
蜘蛛は跡形もなく消滅した。
そして、蜘蛛の糸は力を失ったように動かなくなり、風に吹かれて、さらりとした小さな粒子になって、消えていった。
そしてまた、蜘蛛の巣を構成する糸も、消えてゆく。
「おっとっと」
まんごは、逆さ状態から復活し、そのまま空に浮かんだ。
(ふぅ、危ないところじゃったな)
「うん。誰かが助けてくれたみたい。私と同じ、魔法少女みたいだね」
まんごの視線の先には、ドリアがいる。
山吹色のゴスロリファッションをして、空に浮かんでいる。杖の先には、山吹色のドリアンがくっついていた。
ドリアは空を飛んで、まんごに近寄って来た。
「あの……、助けてくれてありがとう」
まんごは、近づいて来たドリアに、少し怯えながらも、お礼を言う。
「よろしくてよ。わたくしもこの蜘蛛を退治しに来ましたのよ。あなたが囮になってくれていたおかげで、ずいぶん楽に倒せましたことよ」
「あなたは?」
まんごは、ドリアの目を見つめた。
まんごの黒い目とは違い、ドリアの目は青く澄んでいる。
「わたくしは、ドリア・ヌ・ロドリゲスですわ、こちらがドリアン・クラブで。『フルプリドリアン』と名乗っていますのよ。おほほ」
「魔法少女『フルプリドリアン』ってことね。私は、高村まんご。で、この子がマンゴスチン・ハート。そして、この姿が、魔法少女『フルプリマンゴスチン』なの」
「あら、あなたも魔法少女『フルプリ』ですこと? 奇遇ですわね」
ドリアは、興味深かそうにまんごを見る。
「あ、はは、そうだね、奇遇だね。あっ、そうそう、助けてもらったし、なんか、お礼をしなくちゃね」
まんごの言葉に、ドリアは、目を見開き、不敵な笑みを浮かべた。
「お礼ね。ほほほっ。いい響きですこと。じゃあ、あなたは今日から、わたくしの『下僕』になる、というのはどうかしら?」
「えぇ〜、下僕?」
「そうよ。ん〜そうね、早速明日、わたくしの屋敷にいらっしゃい」
「う……ん。じゃあ、わかったよ」
まんごは、もじもじしながら答える。
「もちろん、手ぶらでよろしくてよ」
「手ぶら……で、わかったよ」
「では、明日。ご機嫌麗しゅうですわ〜」
ドリアは、笑みを浮かべると、空を飛んで帰っていった。
ドリアが飛んでいった先には、大きなお屋敷が見えている。
「あれがドリア……ちゃんのお屋敷」
まんごは、ドリアの行く先をずっと眺めていた。
「大丈夫だったか〜? まんご?」
桃矢が、下のたんぼ道の真ん中で大声をあげている。
走ったのであろう、息を切らしている。
「あっ、お兄ちゃん」
まんごは、兄の桃矢の近くへと飛んでゆく。
「大丈夫か? まんご? 心配したぞ!」
「うん。大丈夫。ドリアちゃんに助けてもらったから」
「そうか、よかった。お前が蜘蛛の巣に捕まったのは見えてたんだ。でも、俺には何もできなくって、くそっ! 目の前でピンチな妹を助けることができないなんてな。くそっ、俺も力が欲しいっ!」
ボコッ
桃矢は、悔しそうな顔を浮かべ、自分の右足を殴った。
「大丈夫だって。本当に、なんとも無いから」
「ほんとか?」
「ん〜、まぁ、助けてもらったお礼にって、ドリアちゃんの下僕になれって言われたけどね」
「下僕に? 大丈夫なのか、それ?」
「う〜ん、でも、なんかそれほど悪い子には見えないんだよね。なんか、お友達が欲しいのかなぁ? って思ったから」
「そうか。素直じゃないのかなぁ?」
「きっと、そうよね。明日、お屋敷に行ってみるよ」
2人は、帰路に着いた。
夏の長い日も終わりが近く、空はじんわりと暗くなり始めていた。
――――――――――――――
2人はおばあちゃん家に帰ってきた。
玄関を入ると、おばあちゃんがいた。
「あらあら、2人とも、お風呂に入ってたんじゃなかったのかい? どうしたんだい桃矢ちゃん、そんな汗だくで。それに、まんごちゃんも、えらく派手な格好をして。若い時のおばあちゃんみたいだねぇ。ほっほっほっ」
「う〜ん、色々あって……。」
まんごは、目を泳がせながら、答えた。
「ほほっ。じゃあ、2人とも。もう一度、お風呂に入っておいで」
2人は、おばあちゃんに言われるがまま、もう一度、お風呂場に向かった。
「さてと……。」
桃矢は汗でびしょびしょになった服に手をかけた。
「じゃあ、お先っ!」
まんごは、魔法少女『フルプリマンゴスチン』の変身を解除した。
一瞬にして、お風呂の準備万端だ。
「おいっ、まんご。待てって!」
「はは、お兄ちゃんが遅いのがいけないんだよぉ〜」
まんごは、風呂場にそそくさと入ってゆく。
「ずりぃよ〜、まんご。魔法の力かぁ。俺も欲しいなぁ〜」
桃矢はぶつぶつと文句を言いながら、服を脱いだ。
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私、高村まんご。小学3年生。
マンゴスチン・ハートに出会って魔法少女になっちゃったの。
今回は、初めての大ピンチ! 蜘蛛の糸に絡まっちゃって、大変なことにっ!
でも、エロくなかったよね?
エッチいのはダメなんだからね!
ほんとの本当に、危機一髪だったわよね〜。もう少しで杖の先っちょに到達するところだったの。
きゃ〜あぶな〜い!
でもっ! ギリギリのところで、『ドリア・ヌ・ロドリゲス』ちゃんに助けられちゃった。
そして、なんと、私、ドリアちゃんの下僕になっちゃったの。てへっ。
明日、ドリアちゃんのお屋敷を訪ねないといけないの。
ひゃあ〜怖いよぉ。
な〜んてね、冗談だよっ!
たぶん大丈夫だよ! ドリアちゃんは、ツンデレなんだよ、きっと。友達が欲しいだけなんだよね。
え? そこで何が起きるか?
そんなの、次回のお楽しみに決まってるじゃないの〜。
ヒントが欲しい?
そうねぇ、次回予告のタイトルでも見ればわかるんじゃない。
そうそう、今回はほんとビクビクもんだったよね?
何がって? お風呂のシーンだよっ!
体に関する表現は一切入ってないから大丈夫だろうけど……。
怖いよねぇ〜。
でもね、危険を冒してまで書く必要があったの。
重要なシーンなんだよっ!
もちろん、私のお風呂シーンじゃなくて、お兄ちゃんの方だよ。
えっ? お兄ちゃんお風呂シーンが重要?
って、思ったでしょ?
まさか、これが重要な伏線になっているなんて……ねっ。
ふふふっ。
どういう展開になっていくか、すっごく楽しみだねっ!
次回もよろしくねっ!
それじゃあ、バイバイ!
次回!
魔法少女 マンゴ☆スチン
『第5話 まんごちゃん、大人の魅力のビキニに初挑戦だまんごー』
だよっ!
絶対に読んでねっ!
マンゴスチン! カジュー! ヒャクパーセントー!