第2話 プールサイドに忍び寄る変態さんを退治するまんごー。
夏の強い日差しに曝され、高村まんごの肌はマンゴスチンのように赤くなっていた。
「うぁ〜、暑いよぉ〜」
「だなぁ。でも、もう少しで、楽園にたどり着くぞ。あと少しだ、頑張れ、まんご」
まんごと桃矢の2人は田んぼと畑の間の道をトボトボと、町立プールに向かって歩いている。
町立プールは畑と田んぼの真ん中にあり、大きな声で騒いでも問題が無いようになっている。
まんごは、水色のワンピースに麦わら帽子という簡単な服装をしていた。
ワンピースの下には、すでに水着を着ており、準備万端だ。
「じゃあね、お兄ちゃん!」
「あぁ、後でな」
2人は、町立プールに着くと、別々の更衣室に入ってゆく。
女子更衣室に入るとすぐに、まんごは水色のワンピースを脱いだ。
下に水着を着ているので、ワンピースを脱ぐだけでいい。
「へへっ。準備完了!」
紺色のスクール水着に着替えたまんごは、脱いだワンピースを水泳バッグに押し込んだ。
ものの3秒で準備完了だ。
「ひやぁっ、冷たいぃー」
まんごは、消毒槽に浸かった。
小学校の授業では、腰まで浸かるように教わったので、まんごは、冷たいのを我慢して、きちんと腰まで浸かる。
水に濡れた部分の水着の色が濃紺に変わる。腰より下の部分だけ濃紺色だ。
「あっ、お兄ちゃん。遅いよー!」
まんごがシャワーへと進もうとした時に、桃矢が消毒槽のところに現れた。
「お前、なんで俺より着替えるのが早いんだよ?」
「私は準備がいいからね。ワンピースの下に履いてきたんだ」
「あー、そういうことか。相変わらずしっかりしてるなぁ」
桃矢も、体を小刻みにブルブルさせながら、消毒槽に浸かった。
ジャー
ジャーーー
「きゃあ、冷たいー」
まんごは震えながら、シャワーを浴びた。
太陽の強い日差しで火照ったまんごの体が、シャワーの水で冷まされる。
まんごは、濡れた長い髪の毛を纏め、水泳帽の中に仕舞い込んだ。
緑色の水泳帽の後ろが、ぽこっと膨らむ。
「よしっ! 準備完了」
「ま、待てっ、まんご。準備体操をしないとダメだろ」
桃矢も体を小刻みにブルブルさせながら、冷たいシャワーに入っていった。
――――――――――――――
2人はプール遊びを楽しんでいた。
「ねぇ〜、お兄ちゃん。私、泳げるようになったんだ。25メートルくらい泳げるよ」
「俺も、25メートルは泳げるさ」
桃矢は小学5年生である。
25メートル泳げるというのは嘘ではない。
「じゃあさ、お兄ちゃん! 競争しよっか?」
「おっ、兄に勝負を挑むとはなぁ、いい度胸だ。返り討ちにしてやるぜ」
「はははっ。負けないんだからねっ」
「うん……。」
可愛い妹にわざと負けてやろうか、それとも、兄としての威厳を示すためにも本気で勝ちにいこうかと、桃矢は悩んでいた。
「あれ? ねーねー、お兄ちゃん! あそこにくっついてるのってさ、何かの蛹じゃない?」
2人が競争を始めようと、飛び込み台の近くに来た時だった。
「あーあれ? それにしても、大きいなぁ」
桃矢もそれに気がつき、目を丸くする。
町立プールから見える電波塔には大きな蛹がくっついていたのだ。
2メートルはあろう大きな蛹だ。緑色をしている。
「えっ、あれ。見て見て! 孵化するよ!」
まんごは、遠くの蛹を何度も指差す。
まんごと桃矢の視線の先で、蛹から蝶が孵化した。
巨大なモンシロチョウだ。
「きゃあー、あの蝶、超でかくね? ちょマ? マ?」
「こっちに向かって飛んでくるよー!」
町立プールに叫び声が起こる。
「あれは、きっとマンゴスチン・ハートを狙ってるやつだ」
まんごは、急いでプールを上がる。
「あっ、まんご、どこに行くんだ」
「私がなんとかするからっ、お兄ちゃんはここでじっとしてて!」
まんごは、プールサイドを早足で歩いた。
プールサイドは走ってはいけない、と、小学校で教わったからだ。
「あっ、まんご! 待てって!」
桃矢の声を置き去りにし、まんごは女子更衣室に急いだ。
「マンゴスチン・ハート! 大変だよ、大きな蝶が現れたよ」
女子更衣室に駆け込んだまんごは、大急ぎで、水泳バッグの中のマンゴスチン・ハートを取り出す。
(巨大な蝶か。妾が目当てじゃろうな。主人よ、早速変身じゃ!)
「うん。わかった。マンゴスチン・ハート!」
まんごは、右手にマンゴスチン・ハートを握りしめ、それを天に掲げた。
「行くよっ!
マンマンマンゴスゴスゴスチーン!
赤黒の衣に包まれし、清らかなる純白!
溢れる甘き果汁をその身に浴びて!
果物の女王の誇りを胸に刻む!
高村まんご! 妾は汝と共に歩まん!
マンゴスチン・ハート! カジュー! ヒャクパーセントー!」
キューイーン
ピカーーーーーン
まんごが持つマンゴスチン・ハートが、赤く光り輝いた。
女子更衣室の中に、眩ゆい赤い光が溢れる。
マンゴスチン・ハートから放たれた赤い光はまんごを包む。
まんごが着ていた紺色のスクール水着が消える。
しかし、ここは女子更衣室なので、今回は何も問題はない!
赤い光が線状になり、まんごの体にぐるぐると巻きつく。
赤いレオタードがまんごの全身を包み、赤黒いミニスカートが腰に現れた。
長袖の赤いジャケットを羽織る。
帽子がかぶさり、完了だ。
杖のような長い棒が右手から現れ、その先端にマンゴスチン・ハートがくっついた。
「ふぅ。魔法少女『フルプリマンゴスチン』、変身完了!」
赤い光が消えてなくなると、そこには、魔法少女『フルプリマンゴスチン』になったまんごが立っていた。
静かな女子更衣室の中だ。
「さてと、急がないと」
まんごは、女子更衣室の扉の方に向かう。
(待つのじゃ、主人。どこへゆく?)
「だって、更衣室の扉はこっちでしょ?」
(扉から出なくとも、そこに良い窓があるじゃろ?)
「へっ? あそこ?」
まんごは上を見上げた。
女子更衣室の天井には大きな天窓がある。窓から見える空は、雲ひとつない晴天だ。
(そうじゃ、あそこから空を飛んでいくのじゃ)
「ええええぇぇぇ。魔法少女『フルプリマンゴスチン』になったら空も飛べちゃうの?」
(当たり前じゃ! 飛べないマンゴスチンはただのマンゴスチンじゃ。魔法少女が空を飛んでも、何もおかしなことはあるまい)
「そっかぁ、確かにそうだね。じゃあ」
まんごは体に力を入れた。
まんごの意識に合わせて、まんごの体が浮かび上がる。
「はははっ。すごい、私、浮いてる」
まんごはそのまま、魔法少女『フルプリマンゴスチン』として、女子更衣室の上の大きな天窓から飛び立った。
――――――――――――――
大きな蛹から孵化した巨大な蝶は、畑の上をゆっくりと飛んでいる。
バサァ
バサァ
と、大きくゆっくりと羽を動かしながら、プールの方へと向かっている。
「これ以上は行かせないよっ! 魔法少女『フルプリマンゴスチン』、参上!」
巨大な蝶の前方で、まんごが叫ぶ。
(おぉ、主人よ、様になってきたようじゃの)
「えへへへ」
(では、主人! 手加減は無用じゃ!)
「わかった! いくよ!」
まんごは、両手で杖を構える。
巨大なモンシロチョウは、まんごに向かってゆっくりと近づいてきている。
「赤黒の強固な砦に身を固め、白金よりも白き果実!
果汁滲む妖艶なりし果物の女王!
妾は汝。汝は妾。妾と汝は共にあり!
妾の行く手を阻む、愚かなる畜生を!
妾の力を持ち、消滅させん!
マキシマム・マンゴスチン・マグナムッ!」
ピカーーン
杖の先端のマンゴスチン・ハートが赤く光り輝いた。
ギュルルルー
赤い光は絡まり合い、杖の真上に大きな光の玉を作った。
直径1メートルほどの大きなマンゴスチンの形をした赤い光の玉だ。
「一撃ひっさぁぁぁあつ!」
まんごは杖を振り抜く。
ゴシューーーーー
赤い光の玉は、衝撃波と共に、打ち出された。
それは、巨大なモンシロチョウめがけて飛んでゆく。
ドガーーーーーン
赤い光のマンゴスチンは巨大なモンシロチョウに当たり、爆発した。
大きな音と爆風が、畑のはるか上空に広がる。
「へへへっ。いっちょあがりっ、と」
(さすが妾の主人じゃ。随分と手慣れたもんじゃ)
「えへへっ」
爆発から少し離れたところで、まんごは、余裕の表情で空に浮かんでいた。
爆発の後には、何も残っていない。巨大なモンシロチョウは跡形もなく消滅したのだ。
――――――――――――――
「ふぅ」
女子更衣室に戻ってきたまんごは、魔法少女『フルプリマンゴスチン』の変身を解除し、元のスクール水着の姿に戻った。
「げげ〜。なんか、いきなり濡れた水着に戻るのも気持ち悪いなぁ」
まんごの体は乾き切っていたが、元に戻った時の水着は濡れたままの水着だった。
『果物型変身装置』は、変身の時に着ていた服を元に戻しただけだ。
まんごがプールに戻ると、桃矢はプールサイドの日陰で涼んでいた。
「お兄ちゃん、ごめん。お待たせっ!」
まんごは、舌をペロッとだす。
「無事でよかったよ、まんご」
「ここから応援してたんだぞ。こっそりと。大声で応援すると、あれがお前だってバレちゃうからなぁ」
「てへへ。ありがとう、お兄ちゃん」
まんごは、桃矢の目を見つめ、満面の笑みを浮かべた。
「さぁてと、なんだか疲れたなぁ。水泳競争はお預けだな。また今度だな」
「そうだね」
「じゃあ、帰ろうか」
桃矢は、立ち上がる。
2人は、太陽の容赦ない日差しで温められた水で目を洗い、少し温くなったシャワーを浴びた。
――――――――――――――
まんごは、女子更衣室で史上最大のピンチに陥っていた。
「あれっ? おっかしいなぁ?」
まんごは、水泳バッグの中をゴソゴソと探す。
入っているのは、ワンピースとタオルとマンゴスチン・ハートだけである。
着替えのパンツがない……。
「……。」
まんごは、タオルで体を拭き、ワンピースを着た。
「うーん。見た目は大丈夫かなぁ〜」
まんごは、くるくると体を回転させてみた。
麦わら帽子をかぶり、女子更衣室の外に出る。
「あっ、お兄ちゃん、お待たせ」
桃矢はすでに着替えを済ませ、プールの入り口でまんごを待っていた。
「んー。さて、帰ろうか」
「うん」
まんごは、桃矢の元に駆けていく。
太陽は少し傾いていたが、辺りはまだ明るい。
日差しは弱くなったとはいえ、まだまだ暑い。
2人は、畑と田んぼの間の道を家に向かって歩いていた。
ヒューーーー
畑を抜ける涼しい風が、2人の横を通りすぎた。
風は、まんごのワンピースの裾をバラバラとなびかせてゆく。
「涼しい風だね」
まんごの長い黒髪が風に舞った。
まんごは目を閉じ、風の涼しさを顔いっぱいに感じる。
「そうだな……。」
桃矢は、まんごの後ろから、風に髪をなびかせるまんごの姿を見ていた。
桃矢の頬は、少し赤くなっていた。
太陽の下でプール遊びをしたせいで、日焼けをしたのであろう。
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私、高村まんご。小学3年生。
魔法少女『フルプリマンゴスチン』に変身できるようになって、空まで飛べるようになっちゃった。なんか、らしくなってきたでしょ?
魔法少女っぽいよね〜。きゃ〜。
みんな! 読んでくれてありがとう!
みんな、だ〜い好きだよっ!
第2話はどうだった?
最高だった? バトルが? それとも?
おぉ〜っと、ダメよ!
あんまし変なこと書くと、怒られちゃうんだから。
想像で補うのが小説の醍醐味よね。だよねっ!
あれも、これも、それも、ぜ〜んぶ! 想像で補ってよねっ!
お願いねっ!
想像力豊かなのは、いいことだよっ!
変態さんも、ちゃんと出て来たでしょ?
しかも、完全変態だよっ。やばそうな響きだねっ! はははっ。
えっ? 変態の意味が違う?
あはは、かもね。
鋭いねぇ、みんなぁ。
でも、本物の変態さんなんて出てきた日には、私も遥さんもろとも吹っ飛んでっちゃうよ。はははっ。
色々と気をつけないとね。常にギリギリを攻めているからねっ。
でも、ギリギリじゃないと私、ダメなんだぁ。ははっ。
さてと。
次回は、新しいお友達が登場するよ。
さすがに私よりマズイ奴は出てこないだろうって?
そうだよね。さすがにねぇ。あんまし露骨だと、怒られちゃうからね。
だからね、最初のお友達は、普通よ!
安心してねっ!
それじゃあ、バイバイ!
次回!
魔法少女 マンゴ☆スチン
『第3話 金髪青目のお嬢様『ドリア・ヌ・ロドリゲス』ちゃんだまんごー』
だよっ!
絶対に読んでねっ!
マンゴスチン! カジュー! ヒャクパーセントー!