第1話 新しいお友達は、『マンゴスチン・ハート』だまんごー。
「熟れた茫栗の実が、妖艶な白い汁を滲み出す……。」
鼻息を荒げて、本を読んでいるのは、『高村桃矢』だ。
祖父の書斎でこっそり隠れて本を読んでいる。
『熟れた茫栗』と書かれた小説に手を伸ばし、数行読み進めた時だった。
「こらぁ、お兄ちゃん! なに読んでるのぉ! おじいちゃんの書斎には勝手に入っちゃダメだって言われてるでしょ。おばあちゃんに言いつけちゃうよ」
桃矢の妹の『高村まんご』だ。
小学3年生の女の子である。
バシッツ
まんごは近くに積んであった一番上の本を手に取り、桃矢の頭をひっぱたく。
「痛てて。実の兄を本で殴るとは、教育がなってないぞ。親の顔が見てみたい」
バシッツ
「お兄ちゃんの親の顔と同じでしょ」
まんごは、もう一度、桃矢の頭をひっぱたく。
「どれどれ、お兄ちゃん、何読んでたの? 私にもちょっと見せて。ふむふむ。熟れた茫栗の実が、妖艶な白い汁を滲み出す頃には、私の茫栗の実も熟れる……。」
まんごは、桃矢から本を奪い取り、それを読んだ。
「何よ、これ? お兄ちゃんて、もしかして変態なの?」
まんごは、桃矢を細い目で見る。
「いや、待て。俺は、この本をここで見つけただけだ。変態なのは、むしろ、この本を買ったおじいちゃんじゃないのか?」
「あー、そうかもね」
まんごは納得する。
「それにしてもお前、よくこれが読めるな。難しい漢字ばかりじゃないか」
「うーん、私はちっちゃい時から、国語は得意なんだ。割と色々読めちゃうの」
「そうか。どうか、頼むから俺より頭は良くならないでちょうだいよぉ、およよ」
桃矢はおどけてみせる。
「だったら、ここで変な本読んでないで、勉強したらいいじゃん」
まんごは呆れ顔で、『熟れた茫栗』を閉じた。
「ただいまぁ」
玄関から声が聞こえる。
「あっ、お兄ちゃん。おばあちゃんが帰ってきたよ。ここにいると、私まで怒られちゃう。早く行くよ、お兄ちゃん!」
「おい、待てよ。まんご」
桃矢は、『熟れた茫栗』を急いで本棚に戻した。
――――――――――――――
「おかえりーおばあちゃん」
まんごは、玄関にかけていき、おばあちゃんを出迎える。
「まんごちゃん、さっきね、川でマンゴスチンを拾ったんだけどね」
おばあちゃんは、右手に持っていたマンゴスチンを、まんごに手渡した。
「はいよ。マンゴスチンはね、古くなると硬くなるんだけどね、こんなに硬くなったマンゴスチンも珍しいからねぇ、まんごちゃんにも見せてあげようと思って、持って帰ってきたんだよ」
「わぁー、すっごい硬い。カッチカチだねぇー」
まんごは、硬くなったマンゴスチンを、柱に当てる。
コン、コン
と、硬くなったマンゴスチンは、甲高い音を立てた。
コン、コン、コン
「ほんと、カッチカチだぁ」
まんごは、マンゴスチンを何度も柱に当てる。
(妾で遊ぶではない)
まんごは、どこからか声が聞こえた気がした。
「ん? お兄ちゃん、今何か言った?」
「いや」
桃矢は首を振る。
「おばあちゃんは?」
「いんや」
おばあちゃんは首を振る。
(妾だ、妾。汝の目の前のマンゴスチンじゃ)
「えええええぇぇぇ! マンゴスチンがしゃべったー?」
まんごは驚いて大声をあげた。
――――――――――――――
小学校の夏休みが始まった。
高村桃矢とまんごの2人は、都会から離れ、田舎のおばあちゃんの家に泊まりに来ている。
おじいちゃんはまんごが生まれてくる前に亡くなり、おばあちゃんは一人暮らしをしている。
「ねぇ、お兄ちゃん」
まんごと桃矢は、縁側に座っている。
広い庭には二羽鶏がいた。おばあちゃん家に飼われている家畜だ。
「どうしたんだ、真剣な顔をして。何かあったのか、俺に話してみなよ」
「あのね、お兄ちゃん。さっきおばあちゃんが拾って来たマンゴスチンなんだけどね」
「あーあの硬いやつね。お前が、えー、しゃべったーとか驚いていたやつだろ。てか、マンゴスチンがしゃべるわけないだろ。暑さで頭がおかしくなったと思われるぞ」
「でもね、本当にしゃべったんだもん」
「そんな訳ないだろ。ちょっと貸してみろ」
桃矢は、まんごの手からマンゴスチンを奪う。
(こら、妾を乱暴に扱うでない)
「えええええぇぇぇ! マンゴスチンがしゃべったー?」
桃矢は驚いて大声をあげる。
桃矢は、思わずマンゴスチンを手から放した。まんごは、それをさっと受け取る。
「ほら、お兄ちゃんも、そうなるでしょ?」
口をあんぐりと開ける桃矢の姿を見て、まんごはクスクスと笑う。
「だってさ、考えてみろよ、まんご。どうしてマンゴスチンがしゃべるんだよ。マンゴスチンは、こんな名前をしてるけど、ただの果物だぜ」
(妾は、ただの果物ではない。果物の形をした『果物型変身装置』じゃ。そして、妾の名は『マンゴスチン・ハート』じゃ)
「そうなの? じゃあ、よろしくね、マンゴスチン・ハート……さん?」
まんごは、首を少し傾げた。
性別がわからないので、『くん』にしようか『さん』にしようかわからなかったのだ。
(妾には性別はない。呼び捨てで良い。汝は妾の主人になるのだからな)
「えっ? わ、私が主人?」
(そうじゃ、汝じゃ。名を何と申すのじゃ?)
「私は、まんご。高村まんご」
(高村まんごか。まさに妾の主人にふさわしい名じゃ)
「そうね。じゃあ、よろしくね、マンゴスチン・ハート!」
まんごは、マンゴスチン・ハートに笑顔で呼びかけた。
「ちょっと、ちょっと。俺は?」
2人の会話に、桃矢が横から加わる。
(汝は、妾の主人にはなれない。器が違う。しかし、汝も素質はあるようじゃの。名を何と申すのじゃ?)
「俺は、桃矢。まんごの兄で、高村桃矢だ」
(ほぉ、桃矢か。汝もそのうち、汝の『果物型変身装置』に巡り会うじゃろう)
「そうなのか、じゃあ。楽しみに待ってるぜ」
桃矢はよくわからないけど、納得しておいた。
コケーーーー
コケーーーー
その時、庭にいる二羽の鶏が鳴き声をあげて暴れまわった。
「きゃー、何あれ?」
まんごも悲鳴をあげる。
「わぁ、何だあれ。でけー」
桃矢も大声をあげた。
体長2メートルはあろう巨大なショウジョウバエだ。
庭の向こうの畑の上を、2人の方に向かってゆっくりと飛んでくる。
(早速、来よったな妾を狙う虫けらどもが)
「え? なにアレ? マンゴスチン・ハートの知り合い?」
まんごは、右手に握りしめたマンゴスチン・ハートに聞く。
(知り合いではないが、あやつらは妾を狙っておる。妾の力を取り込みたいのじゃ)
「そうなの?」
(さて、主人よ。妾とともに、あやつと戦おうか)
「ええぇぇ。無理よ、無理、無理。あんなのと戦えるわけないじゃない」
(案ずるな、妾も汝に力を貸す。妾の力で『フルーツプリンセス』に変身すれば、あやつなど、一撃じゃ)
「フルーツプリンセス?」
(そうじゃ、略して『フルプリ』じゃ。さぁ、早速あやつに力を見せつけてやろうぞ。主人、行くのじゃ!)
「うん!」
まんごは、立ち上がる。
「まんご、待て! 危ない!」
桃矢は叫ぶ。
「お兄ちゃんは下がってて、私は大丈夫だから」
まんごは、縁側を飛び出し、庭を走る。
まんごは、畑の上を飛んでいる巨大なショウジョウバエを睨む。
(主人よ、汝に『始動キー』を教える。これを唱えれば、『フルーツプリンセス』に変身できるのじゃ)
「うん」
マンゴスチン・ハートは『始動キー』をまんごに教えた。
「まんまん……?」
(コラッ! 変なところで区切るでない! 変な意味になるじゃろ。心配するな、この始動キーに変な意味は全くない! 果物の名前じゃ! わかったか!)
「うん、わかった。私、ガンバるよ、マンゴスチン・ハート!」
(主人よ、頼んだぞ!)
まんごは、右手にマンゴスチン・ハートを握りしめ、それを天に掲げた。
「行くよっ!
マンマンマンゴスゴスゴスチーン!
赤黒の衣に包まれし、清らかなる純白!
溢れる甘き果汁をその身に浴びて!
果物の女王の誇りを胸に刻む!
高村まんご! 妾は汝と共に歩まん!
マンゴスチン・ハート! カジュー! ヒャクパーセントー!」
キューイーン
ピカーーーーーン
まんごが持つマンゴスチン・ハートが、赤く光り輝いた。
マンゴスチン・ハートから放たれた赤い光はまんごを包む。
まんごが着ていた黄色のワンピースが消える。
履いていた薄水色のショーツも消えた。
赤い光が線状になり、まんごの体にぐるぐると巻きつく。
赤いレオタードがまんごの全身を包み、赤黒いミニスカートが腰に現れた。
長袖の赤いジャケットを羽織る。
帽子がかぶさり、完了だ。
杖のような長い棒が右手から現れ、その先端にマンゴスチン・ハートがくっついた。
「ふぅ。魔法少女『フルプリマンゴスチン』、変身完了!」
赤い光が消えてなくなると、そこには、魔法少女『フルプリマンゴスチン』になったまんごが立っていた。
「まんご、お前……。魔法少女になっちまったのかぁー?」
桃矢は、まんごが変身した魔法少女『フルプリマンゴスチン』の姿に驚く。
「えへへ、そうみたい。お兄ちゃんは、そこでじっとしててね。私が何とかするから」
まんごは口元に大きく笑みを浮かべる。
桃矢に笑みを浮かべると、視線を前に戻した。
巨大なショウジョウバエは、今にも庭に侵入しようとしていた。
「私が相手になってやるんだから」
まんごは、フルプリマンゴスチンとして、巨大なショウジョウバエと対峙した。
それは、ゆっくりと、まんごめがけて飛んでくる。
(汝は魔法少女じゃ。魔法を使って戦うのじゃ)
杖の先に嵌められたマンゴスチン・ハートが話す。
「魔法って?」
(妾が教えてやる。その通りに唱えれば大丈夫じゃ。まずは、『マキシマム・マンゴスチン・マグナム』、略して『スリーエム』じゃ)
マンゴスチン・ハートは『スリーエム』の詠唱呪文をまんごに教えた。
(よし、行くのじゃ)
「うん! マンゴスチン・ハート! 私、ガンバるから!」
まんごは、両手で杖を構える。
巨大なショウジョウバエは、まんごのすぐ目の前まで迫っていた。
「じゃあ、いくよっ!
赤黒の強固な砦に身を固め、白金よりも白き果実!
果汁滲む妖艶なりし果物の女王!
妾は汝。汝は妾。妾と汝は共にあり!
妾の行く手を阻む、愚かなる畜生を!
妾の力を持ち、消滅させん!
マキシマム・マンゴスチン・マグナムッ!」
ピカーーン
杖の先端のマンゴスチン・ハートが赤く光り輝いた。
ギュルルルー
赤い光は絡まり合い、杖の真上に大きな光の玉を作った。
直径1メートルほどの大きなマンゴスチンの形をした赤い光の玉だ。
「いっけぇぇぇぇえ!」
まんごは杖を振り抜いた。
ゴシューーーーー
赤い光の玉は、衝撃波と共に、打ち出される。
それは、巨大なショウジョウバエめがけて飛んでゆく。
ドガーーーーーン
赤い光の玉は巨大なショウジョウバエに当たり、爆発する。
大きな爆風が、周りに広がった。
コケー
コケーー
庭にいる二羽の鶏も爆風で少し飛ばされる。
「くぅううぅ〜」
まんごは、両腕で顔を隠し、爆風をやり過ごした。
爆発の後には、何も残っていなかった。
巨大なショウジョウバエは完全に消滅したのだ。
「はぁ、やった。やったよ! マンゴスチン・ハート!」
まんごは、興奮した息を落ち着けながら、声を出す。
その場で小さく、ピョンピョンと飛び跳ねた。
(さすが妾の主人じゃ。あやつなど敵ではなかったようじゃの)
「うん。でも、マンゴスチン・ハートのおかげだよ」
まんごは、大きな息とともに、肩をなでおろした。
「すっげーー」
桃矢は、口を半開きにして、事の一部始終を見ていた。
はっ、と我に返り、桃矢はまんごの元に駆けつける。
「おい、まんご! 無事か? すごいなぁ。お前が魔法少女になるなんて、俺は、びっくりだ。しかも、あんな大きなハエを一撃だなんて。スッゲーぜ。ははは」
「あっ、お兄ちゃん。お兄ちゃんも、怪我はない?」
「俺は大丈夫だ。後ろで見てただけだからな。はは」
桃矢は、まんごが変身した魔法少女『フルプリマンゴスチン』の姿をまじまじと見た。頭にかぶった帽子から、爪先まで、舐め回すように観察した。
妹ながら、可愛い魔法少女だなぁ、と思った桃矢であった。
気温もじわじわと上がり続ける7月末のことだった。
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私、高村まんご。小学3年生。
マンゴスチン・ハートに出会って、魔法少女『フルプリマンゴスチン』に変身できるようになっちゃったの。
わぁ、みんな、読んでくれてありがとう!
みんな、だ〜い好きっ!
どうだった? 私とマンゴスチン・ハートとの出会いの物語。
面白かった? でしょ?
呪文詠唱も、かっこよかった? でしょ?
え? まずいって?
何もまずくないよ! 果物の名前だよ!
次回は、プールの話だよっ。もちろん水着になっちゃうよ、ドキドキだね。
私は困らないけど、お兄ちゃんは困っちゃうね。はははっ。
もぅ、お兄ちゃんったらぁ。硬くなるのは古くなったマンゴスチンだけで十分だよぉ。はははっ。
だいたいこんな感じで進んで行くからね。よろしくね。
それじゃあ、みんな!
ちゃんとブクマして、ついてきてね。
ブクマ剥がしには、『スリーエム』をぶちかましちゃうんだからねっ。
それじゃあ、バイバイ!
次回!
魔法少女 マンゴ☆スチン
『第2話 プールサイドに忍び寄る変態さんを退治するまんごー』
だよっ!
絶対に読んでねっ!
マンゴスチン! カジュー! ヒャクパーセントー!