第9話 お家
だだっ広い平原で賑やかに喋りながら歩く冒険者の集団がいた。
「ふーん、それでライカちゃんはミカゲサマを探してる訳ね」
「はい…………。私にとって一人だけの主様なんです………。それが私の不注意でこんなことに…………」
「起きてしまったことはもうどうしようもないわ! 今大切なのはどう動くかよ!」
暗いオーラを出しながら、とぼとぼと集団の後ろを歩くライカを励ますために積極的にメリッサが話しかける。
メリッサの援護として、ギルもライカを誉める。
「まぁまぁ、ライカちゃんぐらいの腕前があったら、すぐに1級冒険者にはなれるだろうから、そこから有名になればミカゲサマとやらもすぐにライカちゃんに気づくさ」
「そうっすよ~! まさか、地下から急襲してきた大顎百足を一撃で倒すなんて凄いっすよ!」
ライカの前を歩いていたシミターを腰に引っ掛けている青年が振り返って、ライカのことを誉めちぎる。
「え、えと、ありがとうごさいます…………。たしか」
「プッシだ! これから宜しくな! ライカ姐さん!」
「ね、姐さん………?」
プッシからの唐突の姉さん呼びに困惑するライカ。
それを見たギルがライカに説明する。
「あぁー、コイツは自分より強い奴を見かけると兄さんや姐さんと呼ぶんだ。他意はないから気にしないでやってくれ」
「は、はぁ……………」
「とりあえず、あと1日はこの平原は歩くんだ、暇潰しに何か話題をくれねぇか? そのミカゲサマとの思い出話でもいいぜ?」
まだまだ続く行軍にギルが話題提供をライカに頼む。
「では、そうですね…………。私と御影様の出会いを…………」
「ほう、なれ初めとやらか」
「私すごく気になる~!」
「ライカ姐さんの強さの秘訣か!?」
「私が初めて出会ったのはとある洞窟の中でした……………」
こうして、ギルとメリッサとプッシはライカの御影が如何に素晴らしいかという話を夜それぞれのテントに行くまで聞かされ続けるのであった。
ライカは予備の寝袋を借りて中に潜り込む。勿論御影のことを思いながら。
「御影様…………。どこにいらっしゃるのですか……………」
ライカの呟きは闇へと消えていった。
☆
「土属性には風属性のエンチャントじゃ!」
「はい!【エンチャントソード ウィンド】!」
短剣に風属性をエンチャントし、遠距離から石ころを飛ばしてくるストーンエレメンタルをステップで飛んでくる石を避けて、一刀両断するリエナ。
御影は初心者の育成をしていた。
「ふむ、だいぶ動けるようになったではないか」
「あ、ありがとうございます。それにしても前に潜ったときこんな奴いましたっけ?」
リエナは地面に落ちたストーンエレメンタルの死体をそのままアイテムボックスに取り込みながら、御影に質問する。
「これがチャレンジダンジョンのレベルダウン現象じゃな。普通に出てくる魔物の種類も変わるんじゃ。より弱い種をダンジョンに出してより人をたくさん呼ぶようにの」
「より人を…………」
リエナは御影から貰ったマナポーションを飲みながら、相槌を打つ。
「この世界でなら、本当にダンジョンがより魔力を得られるようにって感じかの。言ってしまえば撒き餌みたいなもんじゃ」
「なるほど…………」
「さて、もう1層目じゃ大したヤツはいなさそうじゃし、2層目で狩り兼修行続行じゃ」
「し、師匠…………。も、もう休みましょうよぉ…………」
まだ狩りを続けようとする御影にリエナは泣きつきながら制止する。
「なんじゃ、だらしない奴じゃのぉ」
「だらしない奴って、すでにダンジョンに潜ってから1層目だけで16時間以上もいるんですよおおおおおおお!!!」
リエナの魂からの叫びが洞窟内で木霊した。
現在、朝の5時。昨日のゴーレム訓練からずっとダンジョンに2人は潜っていたのである。リエナの意識が飛びそうになると、御影が魔法やら特製ポーションでリエナを強制的に覚醒させ続けたのである。ブラック企業もビックリの肉体の酷使である。
「むぅ。休日のレベリング作業じゃと、このぐらいは普通じゃがのぉ……」
「廃人達と一緒にしないでください。とりあえず、下がっていたレベル1からはいくつか上がりましたし、本当に切り上げましょうよ…………」
リエナが目を潤ませて御影を見つめる。このレベリング中はずっと御影の頭の上で応援してたうーちゃんも前足で御影の頭をペシペシする。まるでリエナを休ませてやれと言いたげである。
「ふむ、まぁ仕方ないの。今回はここまでするとしよう。明日っていうか今日か。今日はお主はレベルも上がったじゃろうし、本格的に自分がやりたい構成を考える日にするのじゃ。その間にワシはここの5層目に挑むとしよう」
「や、やったー! や、休める! 構成はもう考えてます!ということでとっとと休みましょう!!」
終わりの言葉を聞き、洞窟内でピョンピョンして喜びを体全体で表すリエナ。
「とりあえずは、ダンジョンから出るとするか。【エスケープ】」
「うひょおおおお!!」
既にテンションがおかしくなってしまっているリエナを連れてダンジョンから出る。
外は若干明るくなってきていて、明朝特有の空気が辺りを包み込んでいる。
その空気を吸い、帰るのが面倒になった御影がボソッと呟く。
「なんかわざわざ宿に帰るのも面倒じゃし、建てるか」
「た、建てる…………???」
リエナが横で?顔をしてる横で、御影はアイテムボックスに入っていたアイテムを自分が引いた道路の近くに投げつける。
すると……………。
「い、家が出来た……………。これって…………」
「うむ。ホイ○イカプセルじゃ」
「そのまんまだッー!?」
御影がゲーム内で趣味で作った建造物などを仕舞い込める、空間魔法を付与したカプセルを開発したのである。もはや、開発運営に渡った方がゲーム運営も幸せであろう。
ちなみに、御影が開発したこのアイテムは運営がわざわざメールを送って課金クレジットでアイテムを買われるという珍事件を引き起こしたりしている。
運営もわざわざアイテムボックスや転移したりできる環境下なのに、建造物を持ち運ぼうと考える奴が出てくることなんて想定していないだろう。建築やアイテム作成など、ある程度自由にプレイできるファンタジーエクスプローラーズだからこそ、起こった珍事件であろう。
「さてと、ここで休むとするかの。このへんのアイテムが消えないで良かったわい」
「す、凄い豪華なお家ですね…………。これどうしたんですか………?」
「ワシと仲間で作った家じゃ。この家作るだけで建築スキルが鬼のように上がったわい。そういえば一応、これをやっとくかの」
さらっと自作の家という御影にリエナはドン引く。リエナがドン引きしてる間に、適当に出した黒曜石片を光魔法でカットして、この世界の文字で表札を作り日本語で作られている表札の下に設置する。
「はえぇ…………すごい………」
中に入ったリエナは家の美しさに言葉を漏らす。海外に住むセレブが作ったというレベルの大豪邸。しかし、金持ち特有の金持ち臭さがあるような豪華さではなく、質素ながらも品があるようなシンプルな飾りで家は飾り付けられていた。
こうして、2人と1匹は御影が出した豪邸で16時間以上に及ぶダンジョン探索から解放され、ぐっすりと眠りについた。
「ダンジョン前に着いたと思えば、なんだこの豪邸は………………」
舗装された道を馬車で走行してみるのと、ダンジョン前の土地調査のために、1人用の馬車でダンジョンまで1人で来たラウは、街の中心より少しダンジョンよりにある豪邸を見て、困惑する。ちなみに、道はダンジョン前までしっかりと舗装されており、従来の道と比べ全く馬車も揺れず快適な移動であった。
「とは言え、こんなことしでかすのは1人しか浮かばんな…………」
ラウの頭に浮かぶ、人形のような端整な顔から浮かぶ悪辣な表情を思い出して、苦笑いする。
「とりあえず、この家はどうやって人を呼べばいいんだ…………? ドアノッカーらしきものはないが………」
そうして、家の前の門の辺りをウロウロとする。すると。
「イザヨイミカゲ…………? これがアイツの名前か………? それとなんだこのボタンは………?」
表札に気付いたラウがミカゲのフルネームをここでようやく知る。そして、表札の横にあるインターホンに気付く。
「ええーい! まごまごしてても変わらない! 押してみるッッ!」
ラウが覚悟を決めて、インターホンを押すとピンポーンと間の抜ける音が聞こえてくる。そして、数秒後に「誰じゃあ?」と寝ぼけた声がインターホンのスピーカーから聞こえてくるのであった。
「ふわあああああ…………。もうこんな時間じゃったか」
「なんだこの豪邸は……………。王城ですらこんな豪華じゃなかったぞ………」
起きてきた御影にリビングルームに通されたラウはリビングの美しさに戸惑う。
リビングのど真ん中には大きなダイニングテーブルがあり、その奥にはフカフカのソファーがL字で設置されていて、ソファーの中心にはガラステーブルが静かに主張するように置かれている。その奥には暖炉も完備されている。
リビングの前にはカウンターキッチンが設置されており、そこにいま御影は立っている。
「まぁ、ワシらの世界でもこんな間取りは流石に高級じゃがの。作るのに時間はだいぶ掛けたもんじゃ。水はいるかの?」
「な、もう水道があるのか!?」
「いや、これは魔道具で作り出したもんじゃぞ? 流石に売らんし仕組みも教えん」
「くっそぉ………。じゃなくて、御影。あの道はどうやって作ったんだ! 教えてくれ! あれは国中に広めるべきだ!」
ラウは座っていたソファーから立ち上がり、そう熱弁する。それに対して御影の答えは。
「ん? そんなことか。別に良いぞ。ただし…………」
「ただし………?」
御影の言葉を待つラウ。
「これを自力で作れるようになるんじゃな」
そう言って、御影はアスファルト材をラウに渡す。
「これは…………?」
「お主が使ってきたであろう道に敷く材料じゃよ。おそらくこの世界でも作れるはずじゃ。それが作れなければこの道路は作れん。まぁ、精々頑張るんじゃな」
「フッ! これはうちの魔法開発局に頼まねぇといけねぇな! まぁ、ここのダンジョンの測地をしたら、俺はまた帰って今度は王都に行かねばならん。そのときに開発局に渡すとしよう」
道を通るときの自分のケツの負担を凄まじく軽減した現代日本の道路の良さを、この身で体感したラウはそう言って大事そうに保管庫にアスファルト材をしまった。
「さてと、俺は測地に出るとするがお前はどうするんだ? またリエナちゃんを連れて潜るのか?」
「いや、今日は自分の装備の構成を決めとけと言ったからの。ワシ1人でダンジョンに潜る。ラウよ。お主はどのくらいでこっちに帰ってくるのじゃ?」
「うーん、大体2週間後って辺りか? この先にあるパーシタル公爵のところにある転移門を使って、王都に一気に行かせてもらうから、そんなには掛からないはずだ」
ラウの予定を聞き、御影はダンジョンをどこまで攻略するかを決める。
「なら、大体20層辺りまでは攻略しておくから、地図の買い取りを頼むぞ」
「おうよ。こちらこそ頼むぜ」
「では、早速ワシは支度して行くとするかの」
「なら、俺ももう測地を始めるかぁ…………。あぁこのソファーから立ち上がりたくねぇ………」
ラウはすっかりソファーの虜になってしまったようである。
「んじゃ、また」
「うむ。気を付けるのじゃぞ」
「あいよー」
御影に案内され、ラウは豪邸から去っていった。
「さてと、念のために共有倉庫に食材とこの家のマニュアルを置いてと。これでしばらくは大丈夫じゃな。あとは書き置きじゃな」
そうして、御影もリエナへの書き置きをして、ダンジョンへと向かった。
自分を包み込む明るい日差しを感じ、のそりと起き上がるリエナ。リエナが起きたのを感じうーちゃんもピョンピョンとベッドの上にやってくる。
「おはよう! うーちゃん!」
「キュイ!」
「ふわぁー。よく寝た~。いま何時だろ?」
メニューを開き、時間を確認するとちょうどおやつの時間を過ぎた辺りを差し示していた。
「うわっ、だいぶ寝ちゃってた…………。御影ちゃんは既に起きてるみたい…………」
寝るとき、横で寝ていた御影がいたベッドを見ると、すでにきっちりとベッドは整頓されており、使用者はいないことがすぐに分かる。
寝室がある2階から1階のリビングに降りると、ダイニングテーブルの上に書き置きがあることに気付く。
『 リエナへ ワシはダンジョンの攻略を進めてくる。食べ物等は冷蔵庫の形をした共有倉庫に詰め込んであるので、自分で調理すること。調味料各種も入っています。お風呂とかもあるので分からないことは倉庫にあるマニュアルを読むこと。 追伸、装備構成が決められなければ無理して決める必要は無いからゆっくりとやればよいからな』
「アハハ、もう師匠すっかりのじゃ口調に侵食されてる~。やっぱり優しいなぁ………。もっと御影ちゃんの役に立てるようになろう!」
御影の優しさが分かる文章を見て、ほっこりとした気持ちになるリエナ。
「なんか御影ちゃんの為に料理作るか~!」
お腹が空いてきたリエナは料理に取りかかることにした。
「【クール】」
御影は溶岩が煮えたぎる5層目に到達した。
光景も骨皇帝龍を倒したあとに来た時と同じである。
「さてと、ささっと攻略するかァ!」
そうして、御影は5層目の攻略に取りかかった。
何時に投稿すればいいんだああああ




