第8話 修行開始
「「し、深層…………?」」
リエナとラウの声が重なる。
「そう、深層じゃ。ワシの知ってるダンジョンのままじゃったら、おそらく100層まであるはずじゃ。じゃから、リエナを70層ぐらいまで連れてってからレベリングをするのじゃ」
「ひゃ、100層まであんのかよ……………」
「100層! 私行くまでに瀕死になってそうです~」
御影の100層という言葉に驚く2人。
「まぁ、100層まではいずれは行くと思うが、今すぐには行けんな。あれはガチでパーティーを組まないとやってられん」
御影はゲーム内で数回ほど100層までチャレンジダンジョンは攻略しているが、それでも毎回攻略の終盤にはボロボロになる位には90層から先は超高難易度となっている。
「は、はえ~」
「お前みたいのでもキツいとか俺達が入ったら即死するんじゃねぇか………?」
「実際するのぉ。タンク以外がノーバフだと一撃で体力4分の3ほど削れるからの」
「「えげつなさ過ぎる………」」
御影の言葉にドン引く2人。
「さて、早速ワシは道の整備をするとするかの。リエナよ。お主はそのへんでうーちゃんと遊んでるといいぞ。それかラウの隣で待ってても良いぞ? とりあえず、一応少しこだわりはするから今日1日は自由行動じゃ。では、行ってくるからの~」
「え!? ちょ、待って~!」
御影がふわりと浮き、リエナにそんなことを言って一瞬で消えていく。リエナの制止の声は間に合わなかったようである。
そんな空中に手を伸ばして固まるリエナを見て、ラウは声をかける。
「あ~、どうする? リエナ。待ってくれるなら書類仕事が終わったらダンジョンの講義とか訓練ぐらいなら出来るぞ………? おそらくミカゲの方がいいとは思うが……」
「…………いえ! ぜひ教えてください、ラウさん! 少しでも御影ちゃんに追い付きたい!」
リエナの真っ直ぐな目を見て、ラウは目を細める。自分にもこんな時期があったなと。
遥か昔のとあるギルドに入ったときの仲間や先輩を思い出すラウ。
「…………フッ。強くなりたいという若者には本気で答えてやらんとな! ミカゲの奴をびっくりさせてやれ!」
「はい!」
こうして、2人は冒険者組合へと向かっていった。
一方で御影の方は。
「さてと、ここからでええかの」
御影はこっそりと設定しておいた転移ポイントによってダンジョン前に転移していた。
ダンジョン前の更地の中心地点に立つと、御影は地形操作魔法を発動させる。
「【アースコントロール】」
御影の魔法により更地の下の地面が掘り起こし、丁寧に路床を作っていく。路床を作っら空中に岩塊を魔法で作り出し、それを粉々に魔法で砕いて砂利を作って路盤を整備していく。そして、仕上げにゲーム内でギルドハウス周辺の整備に使ったアスファルトを出し、それを敷いて基層を作る。
そして、最後に圧力魔法で均一にならして表層を作る。
更地の中心から草原へと出る辺りおおよそ800~900mの舗装工事がものの20分ぐらいで終わる。
日本の舗装工事従事者が見たらびっくりするレベルのスピードである。
「まぁ、こんなもんじゃな。さてとあとはひたすらこれじゃな」
出来た道路を見て、満足そうな御影。
こうして、御影はまる1日かけて街までの道を整備し続けた。
「む、もう寝てるか」
御影がすっかり日が暮れた時間に宿に帰ってくると、リエナはベットですやすやと寝ていた。うーちゃんはリエナの足元辺りで丸くなって寝ている。御影が帰ってきた瞬間にうーちゃんは顔を上げ、御影の顔を見たあと、すぐに二度寝を決めていた。
「まぁ、何をしていたかは明日聞くとするか………。俺も今日はとっとと寝るかぁ」
そう言って御影は、洗浄魔法で服と体から汚れを消し去り、パジャマに着替えてベットへと潜り込んだ。
「本当に出来てやがる…………」
翌日の朝、衛兵から「城門の横に黒い道が出来ております!」と報告を受け、見に行くと。
凹凸が全く無く、不思議な物質で加工されている道が遥か先まで続いていた。
「組合長、これは一体…………?」
「あー、俺の知り合いに頼んだもんだ。気にするな。この道の先は近々ラグナ男爵から説明があるはずだ」
「そういうことでしたか………。確かに昨夜夜も深まった時に妙な少女が中に入れてくれと報告がありましたね。その子ですかね?」
「まぁ、そうだ」
衛兵からの質問に答えていく、ラウ。
ラウは道にしゃがみ、道の材質を確かめる。
(金属ではない…………、だが土でもない…………。しかも凸凹も少ないと来た。これはまたアイツに問いたださんとな…………)
自分の想像していた道と何十倍も違うことにラウは御影を尋問する予定を入れる。
こうして、御影がラウへと教えた道の舗装技術はこの国の物流を変えて、色々と尋常ない影響を与えていくのだが、それはもう少し先の話。
ダンジョン近くの広い草原で2人の少女が対面し、話している。
「あの御影ちゃん………、いや師匠………」
「なんじゃ?」
「一体これから何をするんですか…………」
「大惨事大戦だ。おっと、失礼」
リエナの質問にネタで返す御影。
昨日の訓練の疲れでへとへとになっていて、体を水で拭いたあとにすぐに寝たリエナは起きたら、御影に「ほれ行くぞ」と早朝から草原に連れ出されたのである。
「今からワシとお主で戦う」
「師匠と戦うなんて、無理ゲーの始まりですか?」
「んなことせんわ」
そう返す御影にリエナはホッとする。
御影は会話を続ける。
「さてと、ここにお主を連れてきたのは、手っ取り早くお主を鍛えるためじゃ」
「え? どういうこと? 魔物はいなさそうだけど…………?」
「なに、簡単な話じゃよ」
そう言うと、御影は手を広げる。
「ま、まさか!?」
「ワシがゴーレムを召喚するから、それを倒し続けるだけじゃ」
その言葉と共に、空中から黒いゴーレムが数体召喚される。
「ええぇぇぇ!? こういうのって普通経験値とか入らないんじゃないの~!」
リエナは即座に武器を取りだし、戦闘態勢へ移る。
素早く、戦闘準備をしたリエナに感心しつつ、御影はゴーレムを動かす。
「昔はバグじゃったのだが仕様になってのぉ。PvPだと経験値は手に入らぬのじゃが、自分と敵対した判定になったプレイヤーが召喚した召喚物は別なのじゃよ。じゃから上級者が初心者を鍛える時はゴーレムなどを出して倒させると召喚したモンスターの通常経験値の10分の1が得られるようになっておるのじゃ」
そう説明しつつ、ゴーレムを動かしリエナを攻め立てる。
リエナを攻め立てるゴーレムを操作しつつ、御影はどんどんアドバイスする。
「今のうちに、試したい武器や職業があったら試すのじゃぞ。実戦は待ってはくれないからの」
「分かりました!」
「ほれ、脇が甘いぞ?」
「アイッタァ!?」
「近接戦闘で魔法を使うなら、移動しながら魔力を練るんじゃ!」
「ひでぶ!?」
御影のスパルタトレーニングは昼になるまで続いた。
「け、結局1体も倒せなかった…………」
「まぁ、初心者のお主に負けるほどワシもゴーレム操作の腕は落ちとらんからの」
「ぐぐぐ………」
悔しそうな顔で御影を見るリエナ。
そんなリエナを無視して御影は立ち上がり、リエナに次にやることを言う。
「さて、次は早速実戦じゃ。1層目ならレベルダウンも入って、お主でも倒せる雑魚が出てくるじゃろう」
「もう実戦!?」
あまりの実戦の早さに驚くリエナ。
「別にそこまで驚かんでもええじゃろ。ゲーム内でも戦闘はしたじゃろ?」
「うっ、そうだけど。やっぱりこの世界での戦闘は初めてだし………。それにゲームじゃないから攻撃当たるの怖いし………」
「そこら辺も含めて、とっとと実戦じゃ。では、行くぞ」
そう言って、御影は強制的にリエナを連れてダンジョンへと転移した。
もしかしたら、午後のどこかのタイミングで次話を出します。