第5話 ダンジョン攻略
話の着地点は決まっていたのですが、そこに至るまでが難産でした。遅れてすみません。
暗い洞窟ダンジョンの地下2層目を歩く男女4人と兎のパーティー。
どんな冒険者だろうと少なくとも初見のダンジョンを歩くときは警戒心を持って進むのだが、どうやらこのパーティーは違うようであった。
「さっきから、骨ごときが鬱陶しいのぉ…………、【ヒートバレット】」
何度も塵にしても、無限に湧いてくる骨人にイライラする御影。
そんな御影を置いといて、近くの壁を御影が貸し出したツルハシを片手に物色している3人は目を輝かせながら会話をする。
「おぉっ! ここにも魔鉄があるぞ! こっちはなんだ!? おほー! こっちは普通に銅もあるぞ!」
「これは銀…………? こちらは金………? これに至ってはミスリルですか…………?」
「なんかこれも金属っぽいから掘っておこー! うーちゃんなに? どうかした? え? ここにも何かありそうって? じゃあ、掘っちゃうぞー!」
まるで宝探しをする子供のようである。まぁ、事実ラウ達にとっては文字通り宝であるが。
ラウ達が採掘をする代わりに、地下1層目からずっと辺りの警戒等全てを御影がやっている。森を消失させた償いも含めて。
「どうじゃー? お主らー? そろそろ移動するぞー?」
そんな御影の言葉を聞き、ラウ達は作業を切り上げる。
「ちっ、とりあえずこのぐらいで良しとするか………」
「そうですね」
「ラウさーん! あとで良さげな物があるか教えてくださーい!」
「おう、いいぞー!」
すっかり仲良くなったラウとリエナがそんなやり取りをする。
「マッピング作業も済んだし、そこそここの辺の鉱石が何が出るかが分かったじゃろうし、次の階層に行くとするかの」
「ちなみに、そのマッピングした地図は売ってくれたりするか?」
ラウが実に冒険者組合の人間らしいことを言ってくる。
「別にいいんじゃが、何割くれるのかの?」
「あー、そのへんは…………またあとのお話ということで…………」
御影の食えない返答を聞き、逃げるラウ。
その様子を見て、御影は特に気にもしないで会話を続ける。
「ふむ、まぁ別にいいか。さてと、次の階層からお主らもある程度は気を付けておくんじゃぞ?ワシが警戒しているとしても一応じゃ」
「ん? どうしてだ?」
「次の階層から骨人の上位種が出てくるんじゃよ。まぁ、ワシにとってはただの骨人と何も変わらんのじゃがな」
「なっ、まだ3層目だぞ!? うーむ、普通の5級冒険者は2層目までだな………。ちなみにどんなのが出てくるんだ…………?」
そんなラウの質問に御影は何ともないようにこう答えた。
「全部じゃの。剣士骨人も弓兵骨人も槍兵骨人も魔術師骨人も騎士骨人も暗殺骨人もぜーんぶじゃ」
「……………は?」
「しかも、少し広い部屋とかに行くと、ボス格の骨人司令官と骨人ノ王もおったの」
「……………は?????」
御影からすらすら出てくる難易度が高いダンジョンに普通に出てくる魔物達の名前。
しかも、骨人司令官や骨人ノ王に至っては御影の言う通りダンジョンボスとして扱われることが多い、厄介な魔物である。
「それが本当ならここはとんでもないダンジョンになるということだが…………」
「本当かどうかは行けば、すぐ分かることじゃな。では進むぞ?」
御影の発言を聞き、気持ちを引き締める3人。
そうして、一行は地下3層目へと進んでいった。
10数分後……………。
「………………」
「………………」
「………………」
鉱石採取班は無言で壁にツルハシを振るう。
なぜ無言かと言うと…………。
「ンナハハハハハハ!! 全員まとめて塵に変えてやるわあ!!!!」
遠くから御影の声が木霊して聞こえてくる。
上位骨人達の絶え間ない襲撃によって、ブチ切れた御影が魔法で黒い騎士を作り出してラウ達の護衛を任せて、階層中の骨人を殲滅しに行くという暴挙に出たのであった。
「ほんととんでもねぇな………」
絶え間なく続く轟音に思わずぼやくラウ。
こうして、ラウがぼやいてる間にも「欠片1つ残さん!!!」などの怒声と轟音が響いてくる。
「ラウさん、これはオリハルコンでしょうか…………?」
「どれどれ? いまそっちに行く」
ラウがルーオのいる方に動こうとした瞬間、御影がラウ達の護衛にと置いていった黒い騎士達が動き、ラウの横の黒い空間に手に持っていた剣を突き刺す。騎士達が剣を引き抜いた瞬間に突如地面に黒い布を纏った骨人が倒れる。
「うおっ……! 暗殺骨人か…………。少し気を抜き過ぎたか……」
「いつの間に…………。この騎士達本当に強いですね…………」
「たしか、御影ちゃんは影の騎士団って言ってましたけど、本当に真っ黒でたまにいることを忘れちゃいますよ…………。あっ、これこのへんで取れましたけど何の鉱石ですかね?」
黒騎士達に守られながら、取れた鉱石の種類を確認するラウ達。
「そりゃ、魔銅だな。ぶっちゃけ魔銅は使わないから無視して大丈夫だぞ。ルーオ、でかした。そりゃオリハルコンだ。持って帰るぞ」
「使わないかー」
「オリハルコン…………初めて見ました…………」
すると、ラウがあることに気付く。
「音が止んだ…………?」
「確かに止んでますね………」
「御影ちゃん大丈夫かな…………?」
そんなリエナの呟きを聞いた2人は………。
((大丈夫だと思う))
見事に心の声が一致していた。
「んー、ありえないとは思うがやられたか…………?」とラウが呟いた瞬間。
黒騎士達が剣を掲げ、整列する。
「うおっ!? いきなり何だ!?」
「待たせたの」
その言葉と共に奥の通路から御影が歩いてくる。手に王冠を被った骸骨を持ったまま。
「お、おう…………。その手に持ってる………のは………?」
「ん? あぁ、奥にコレが大量に湧いておっての。1匹だけ最初に見せしめに首をもいでやったわ」
サラッとヤバいことを言ってる御影。複数体の骨人ノ王を相手に無傷で、しかも見せしめに首をもいでくるという蛮族もびっくりなことをしている。
この世界で目の前に骨人ノ王が複数体いるとなると、1級冒険者でもある程度の覚悟を決める必要があるレベルである。それを、御影は1体だけ頭だけ残して、他全部塵に変えとけばいいかっていう感じで始末しているのである。
「ちなみに、それは生きてるのですか…………?」
ルーオが恐る恐る御影が手に持っている骸骨を指差して問いかける。
「魔核はしっかりと砕いてあるから大丈夫じゃろ」
「なら、大丈夫ですかね………」
ほっとするルーオ。先ほどから御影が顎を持ち骸骨をブラブラさせており、骸骨が揺れる度にルーオと骸骨の眼孔と目が合い続けていたのだ。
ちなみに、御影が砕いた魔核というのはほとんどの魔物に存在する魔力を溜め込む器官のことである。魔物が強くなればなるほどその魔核は大きくなる。そして、魔核が大きければ大きいほど色々な物に使えるため高く売れるのである。
「さてと、お主らも採掘はそこそこ済んだじゃろ? なら、次の階層に向かうぞ」
「マッピングは………言う必要は無さそうだな」
「うむ、高速移動しながら殲滅したからの。バッチリじゃ」
また非常識なことを言っている御影。ラウは眉間に手を当て「駄目だ。突っ込んではいけない」と1人で小声で漏らす。
御影はラウ達の後ろで並んでいた黒騎士達を見て、「お前らも護衛ご苦労じゃ。還って大丈夫じゃぞ」と声を掛けると。
「労いのお言葉、有り難き幸せ。御用がありましたら、またお呼び下さい」
列の中央にいた黒騎士が膝をついて返事をする。
突如喋った黒騎士に「う、うむ」とだけ答え、還っていく黒騎士達を無言で見送る御影。
「アイツら、物凄く強かったが何の魔法だ………?」
「召喚魔法じゃが、最近ずっと喋らんかったからびっくりしたわい………(アイツら喋るの……………?ワシが適当に作った魔法なのに………)」
さらっと御影は嘘を付く。またファンタジーエクスプローラーズと違うところを発見して困惑する御影。しかし、ここはお得意の問題の先送りをして前に進む。
「4層への入口はここから近いし、行くとしよう」
「おう」
「分かりました」
「はーい!」
「キュイー!」
一行はこうして4層目に突入した。
御影は4層目を歩きながら、脳内マップを観察する。
(ここからマッピングされとる………。つまりはワシが落ちてきたのはこの階層か)
洞窟の上から潜ってきて、改めて別世界に落ちてきたということを実感する。
そして、先ほどから全く魔物にエンカウントしないことに気付く。
「そういえば、魔物を全然見かけないな」
「うむ、ワシが潜ったときには山程おったの」
ラウも気付いてそう呟くと御影もあのときのことを思い出し、返事を返す。
「ちなみに~、どんなのがいたんだ~?」
御影の言葉に恐る恐る聞くラウ。
「うーむ、まぁ3層目と余り変わらんが骨竜が出てきておったの」
「ぼ、骨竜…………!?」
御影からポロッと出てきた魔物の名前に驚くラウ。この世界では基本的に竜/龍という存在は魔物の中でも頂点に君臨する存在である。なんなら、竜/龍を信仰する宗教が存在するくらい強大な存在なのである。
そんな骨と言えど竜/龍と関する名前が付いてる魔物が弱いわけがなく、ファンタジーエクスプローラーズ内でもLv300を超えてからようやく渡り合える存在である。ちなみに、御影がこの世界に降り立ってから瞬殺した九頭骨竜はLv500以上からが適正である。
「このダンジョン、2層と3層以降の難易度の差が激しすぎる…………」
「ですね…………。僕でも3層目はキツそうですね………。潜るとしたら2層目への出口でキャンプですね」
そんな会話をしながら一行は魔物が出ない通路をひたすら歩く。
御影がボス部屋までのルートを最短で歩いてるせいか、ダンジョンでよくある宝物庫やモンスター部屋などをことごとくスルーしていく。
トラップなどもちらほらとありはしたが、御影により全て看破され落とし穴は魔力で床を作られ、落石罠は普通に魔力弾で粉々になったりと御影達にはどれも効果はなかった。
そうして、たどり着くボス部屋前。
「んで、ここに出てくるのは…………」
御影はボス部屋に入る前にボスの説明をしようとしたところで、あるイタズラを思い付く。
(あれ? 九頭骨竜ってこやつらにとっては良い驚かす材料になるのでは…………?)
完全にクソ野郎の思考回路である。
「出てくるのは対面してからのお楽しみにしておくのじゃ」
「いや、そこは説明しろや!」
「ミカゲさん、冗談はほどほどにしてください?」
「御影ちゃん! 流石にスケルトン上位種でも私は死にかけるのにこの辺りのボスとか攻撃喰らったら即死する未来しか見えません!!」
「キュイ、キューイ!」
リエナ、正解である。
そんな御影の言葉に非難轟々の面々。
「まぁ、ワシがおるから大丈夫じゃろ。ということで突入~!」
「ちょ、待てェェェェ!!」
ラウの静止は空しく、御影はボス部屋の扉を開ける。
しかしボス部屋には……………。
「ん?何もおらんじゃと………?」
広いボス部屋の中にはいるはずの九頭骨竜はおらず、ただ何もない空間が広がっていた。
「どういうことだ? 確かにボス部屋だよな?」
「えぇ、あの扉の先は基本的にボス部屋なはずですが…………」
「こ、コレがボス部屋…………」
「キュイ~」
ラウとルーオは困惑しながらボス部屋の中を散策する。
そうして、リエナがボス部屋に入りきった途端。
【条件達成者、確認。規定人数、確認。これより試練を開始します】
そんな機械的な音声が4人と1匹の脳内に鳴り響く。
そして、音声が消えた瞬間に床に魔法陣が現れる。
この異常事態にすぐに意識を切り替えたラウが声を上げる。
「おい、どういうことだ! ミカゲ!」
「ワシにも分からん! じゃが、そこの魔法陣にはロクなことが書いとらんのだけは分かる!」
「どうすればいい!」
「とりあえず、入口のところにリエナ、ルーオ、うーちゃんは固まっておってくれ! ラウ! お主はワシと一緒に戦え!」
「おう!」
「分かりました。リエナさん、兎さん、こちらへ」
「は、はひ!」
「キュイ!」
言われた指示通りに動いた2人と1匹を確認し、御影は魔法を唱える。
「我らに全てを守り通す盾を【アイギス】」
「………(こりゃあ、噂に聞く障壁系魔法の中の最高魔法じゃねぇか………。一体何が出てくるんだよ……)」
御影がリエナ達のところに障壁を設置し、目の前の光輝く魔法陣を見据える。
「さてとラウよ。覚悟はいいかの?」
「いや、覚悟云々の前に何が出てくるかも分からんのだが……」
「驚くんじゃないぞ?骨皇帝龍じゃ」
とんでもない名前が出てきて、声も出なくなるラウ。
皇帝龍。竜/龍種の中でも、ひときわやべー奴等である。
そんなものが今自分の目の前に出てこようとする事実にラウは完全に現実から逃避した。
「コレは夢だ」
「何言ってんじゃ、お前」
御影がジト目で突っ込む。
「いやー、夢だからかなー? さて、夢なら死なないしタタカッテミルカー」
後半からもう片言になってきているラウ。
そんなラウを励ますために御影がラウを往復ビンタをしながら作戦を言う。
「ラウ、(パンパンパン)ワシがお主に各種最強バフを掛ける。(パンパンパンパン)そしたらワシと2人で骨を砕く作業じゃ。分かったか?(パァン)」
「いてぇわ! やってやるわ! チクショー!」
無理矢理、ラウを現実に戻し覚悟を決めさせたところでソレはついに魔法陣から現れた。
とてつもなくデカイ骨の巨体。翼は広げきれずに畳まれている。圧倒的にドデカイ、ザドラゴンの骨!みたいなモノは、その赤く光る龍頭骨にある目で御影達を見下ろした瞬間。
「来るぞ!」
「クソッ!」
咆哮を放った。
「GOAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
「ぬっ!」
「どわっ!」
魔力を伴った咆哮により、辺り一帯の床が衝撃で捲れる。
「ほ、咆哮一発でこれかよ」
「とりあえず、お主にバフは掛け終わった。ここからじゃぞ」
「い、いつの間に…………。だがやってるやるよぉ!」
ヤケクソ気味に叫ぶラウ。
こうして御影達と骨皇帝龍の戦いは始まった。
明日から0時ぴったりに更新する予定です。0時に上がってなかったら間に合わなかったなコイツと生暖かい目で見てやって下さい。ということで31日0時に次は更新予定です!