第2話 出会い
書くのを忘れていたところを書き足しました。
視界から転移陣の光が消え、目を瞬きさせ辺りの明るさに目を慣らす。
しかし、御影が想像していた光景とは違う光景が目の前に広がっており、ぐるりと辺りを見渡すと緑が溢れ、木漏れ日が差し込む立派な大森林が広がっていた。
「ようやく外かと思ったら、はてはて、ここはどこなんだ………? 見覚えはないが………」
後ろを振り返ると黒々とした洞窟の入口が大きな口を開けて存在を主張していて、入口の横にある転移陣から御影が出てきたことが分かる。
しかし。
「俺達が入ってきた場所とはちげぇ場所だな………遺跡ダンジョンは古代都市から入っていくはずなんだが……」
自分達がダンジョンに入る前に見た光景と全く違うことに困惑する御影。
じっとしててもしょうがないと考え、辺りを歩き回ってると御影の耳に小さく弱々しい声が聞こえてきた。
「………そ、そこに、誰か………、いるんです………か…………?」
「んあ?」
「たす………けて…………くだ……さい………。体が…………」
「分かった。今助ける。じっとしておるんじゃぞ」
人がいると分かり、ネカマスイッチをオンにする御影。同時に魔力探知を行い、声の主を探す。探してる最中に疑問に思ったことを頭で整理をする。
(しかし、ここはどこだ? あの遺跡ダンジョンの周りにこんな大森林は無かったはずだ。それに、VRMMO内であそこまでプレイヤーの体がズタズタになることは禁止されているはず)
魔力探知で見えた人物の状態はだいぶ凄惨なことになっていた。
VRMMO内での流血表現は結構厳しめに取り締まられており、18禁のFPSVRゲームなどのそういったものでしかゴア表現は許可されていない。一応、このファンタジーエクスプローラーズには流血表現はあるが、普通にダメージ負った箇所が若干黒くなり、そこからポタポタするレベルの流血表現である。
(一体何が起きてるんだ………?)
そんな考えをしている内に探知出来た人物の目の前に辿り着く。
「うっ………これは酷いの…………」
目の前に倒れていたのは、まだ若い黒髪の少女であった。
だが、倒れている少女の体には無数の裂傷があり、あまり直視出来るような状態ではなかった。
裂傷も動物や人によって切られたような傷痕ではなく、まるでそこにあった空間そのものが削りとられているような…………。
「【オールキュア】」
御影の完全回復魔法によって、まるで傷の部分が時間が逆戻りしていくのように癒えていく。
「ふあ……あ……」
「血は失ったままじゃ。しばらく安静にしておるんじゃぞ?」
「は、はい………」
だいぶ生気が戻った声で返事が戻ってくる。
その声を聞いて安心したのか、御影はアイテムボックスからクラフトという名の実験で作った特製エナジードリンク缶を開けて飲み始める。
なぜか、ストローをぶっ刺して。
ぶっ刺してる理由はいたって至極単純な理由で、狂信者達が絶対ストロー使った方が可愛い!!缶傾けて飲む御影ちゃんなんて見たくない!!と騒ぎまくり、御影が折れた形である。まぁ、御影自身ももうストローで飲むのが癖になってしまっているのも少し悲しい事実であるが。
ストローでエナドリをちゅうちゅう吸いながら、隣で横たわり、可愛いげのある寝顔を晒している少女に視線を向ける。
今、起こっている異常事態を考えるとこの少女と少しでも共に行動する方がいいと直感が御影に訴えかけてた。
数分間、少女の寝顔を観察し、容態が変化しないか見ている最中に、ふと御影は思い付く。
「むっ、そういえばチャット機能でアイツらに連絡を取ればいいのか。いつも固定のアイツらとやってるからすっかり存在を忘れてとったわ……」
そう言って、メニューを開きフレンド欄を確認しようとすると。
「どういうことだ………?」
御影の視界にあるメニューからはフレンド欄は消失していた。
慌てて他の項目を確認してみたところ、消失していたのは音声や視界など色々な項目を設定する設定欄、運営からのメールやフレンドからのメールを受けとるメールボックス、チャットシステム、そして………。
「ログイン関係のところも消失してやがる………。一応メニューから直接ログアウトするボタンは辛うじて存在じているが………」
何度押しても反応は無かった。
とりあえず、現実逃避するかのようにメニュー画面に生き残っている機能を確認する。
「マップ機能は生きてるがこりゃ駄目だな。ほとんど未探索領域になってやがる。あのダンジョンの中だと新規ダンジョンだしマッピングされてないことにまったく違和感無かったんだが………。次。アイテムボックス等々も生きてるな………。中身は無事と。中身ぶち消えてたら発狂してたぜ………。わりとマジで」
御影がアイテムボックスに溜め込んでる貴重なアイテム達はトッププレイヤー達も羨むモノばかりである。彼自身は最初の方は姫プをされたいと思っていたが、キャラの育成やレア掘りなどするうちに自然とそういう気持ちは薄れ、より高みに行きたいというゲーマー精神が生まれていった。
その結果が………。
「ステータス欄も生きてるな。いつ見ても自慢のキャラだ」
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名前 十六夜 御影 Lv1
種族 魔人 職業 極魔導師
HP 416916/416916 MP 999999/999999
物攻 235612 魔攻 999999
物防 556172 魔防 999999
敏捷 407862
スキル
【魔導神】Lv10 ………… >>スキル一覧を開く…
称号
【魔を極めし者】………… >>称号一覧を開く…
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「うむうむ。よう頑張ったわ俺って…………ん???」
見るからに圧倒的なMMORPG廃人のステータスで、このゲームのカンストレベルである1000レベルにまで上げていたはずだったのだが、レベル欄を見ると。
「Lv1? 表示がバグっているのか? ステータスはそのまんまだし、どうなってんだこりゃ。とりあえず、まぁ後できっちり見るとして、マジで魔人は苦労したなぁ…………。魔人への転生は本当に面倒だった………」
御影、再度現実から逃避する。逃避先は、ゲーム内で見慣れた種族欄だ。
実はこの男。魔法を極める為に、人外へと転生しているのである。
魔人への転生条件は一定のレベルと魔法系ステータスの数値とある条件を満たすと良いのだが、この条件というのがとんでもなく鬼畜であった………。
この種族、最初はファンタジーエクスプローラーズのストーリーに登場する敵専用種族かと思われていたが、学者系プレイヤー達が魔人達が出てくるストーリーエリアにある遺跡や文献を解析し、転生条件が解明。なんと1回他種族の魔物に転生し、その他種族でレベルを500上げ、魔人化の儀式という特定エリアでの儀式をこなさなければならず、御影はイエロー達と共にひたすら累計時間数千時間ものレベリング作業をしていた。
ちなみに、転生する度にレベルはリセットされる鬼畜仕様である。
御影はさらに魔法を極めるために吸血鬼の真祖といったレア種族を経て魔人化したために余計に時間は掛かったであった。
最初、御影は吸血鬼の真祖という種族に満足していたのだが、よくよく調べてみると魔人の方が魔法系ステータスがさらに伸ばせること、魔を扱う種族なだけに魔法の無詠唱化や魔力効率など吸血鬼の真祖とだいぶ差があることが判明し、魔人への転生を決意したのである。
それにファンタジーエクスプローラーズでは、転生すると覚えたスキルを全て、ステータスは半分引き継ぐという仕様があったので、ここまでのデタラメなステータスになっているのである。
職業も魔法系職業を全て解放されると現れる特殊職業であり、習得者はゲーム内でも数人しかいないというレア中のレア。覚えているスキルは○○神シリーズという特殊スキルであり、それぞれの武器スキルや魔法スキルを全て習得した者だけが習得できるスキルである。このスキルを取るために取ったスキルは御影には大量にあり、特定のスキルを探すという作業は今の御影にとっては地獄の作業になるだろう。
そうして、自分のステータスを見ながら現実逃避をしていたが、横に寝ている少女が起きそうな気配を醸し出してきたところで強制的に御影は現実に引き戻された。
「う、うぅん…………ここは……………」
「んむ? 起きたか。どうじゃ具合は? とりあえず血を作るためにも食事とするか。たしかアイテムボックスに食い物が入っていたはずじゃ」
しっかりとネカマモードもオンにして起きてきた少女を迎える御影。
実は、ファンタジーエクスプローラーズにはステータスには乗らない裏ステータスに空腹度や喉の渇きなど若干リアルな面も実装されていた。しかし、裏に乗らないと行っても設定でオンオフは出来たので知らないプレイヤーはほとんどいなかっただろう。そもそも、最初のチュートリアルの街で食べ物等が売っているのを見て、大半のプレイヤー達はこのゲーム内で食事が出来ることを察していたが。
ちなみに、トイレなどのそういう生理現象は実装はされておらず、運営も実装する気はないとはっきりと明言していた。まぁ、色々とややこしい問題にもなってくるため、そのへんは英断だったなと御影は考えている。
アイテムボックスから作り置いておいた料理を何種類か出す。
「ほれ、この肉サンドイッチを食うのじゃ。あと、このスープも飲むんじゃ」
「あ、ありがとうございます」
御影がポンポン渡す料理を少女は大人しく受け取っていく。
丁寧にプラ包装までされている料理を見て、まじまじと観察する少女。
そんな少女を見て、御影はあることに気付く。
「あ、飯食う前にその服とか洗浄と再生しておくかの。【ウォッシュ】【リペアー】」
血塗れになってボロボロになっていた少女の服をひょいっと洗浄すると同時に再生させる。この洗浄魔法は洗浄と名が付いているが、汚れそのものを直接消し去るタイプの魔法なので、びしょびしょになることもなく便利な魔法である。
普通にファンタジーエクスプローラーズ内でも返り血などによる汚れステータスなるものが存在しており、洗浄魔法は広く知られている。やはりあのゲーム、変なとこでリアルである。
再生魔法の方は地味に御影オリジナル魔法である。あくまでも適当に無くなった部分を魔力で作られた繊維で再生させるだけなので応急処置みたいなものである。御影が自分の服を直す際に使わなかったのはデザインが変になるぐらいなら別の着ようという理由である。
「す、すみません! 魔法を使って頂いて……」
「このぐらい、魔法職なら片手間で出来るもんじゃよ。お主見たところ、低レベルみたいな感じがするしの。覚えてない可能性も考慮すればワシが使った方が早いっていうことじゃ」
「なるほにょ………」
口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら相槌を打つ少女。もぐもぐする度にサイドテールが揺れて存在を主張する。
御影も小さめのサンドイッチを食べながら、目の前にいる少女を観察する。
パッと見、アバター年齢は中学生ぐらい。顔も中学生のような童顔だ。遠目で見れば、そこらへんにいそうな女子中学生だが、普通の中学生と違うところは目の色が赤色なことと、腰に短剣と短杖と短弓を装備していることか。サイドで髪を束ねるために赤色のリボンでまとめているところ、評価点高いです。
そんな観察をしていると、向こうとも目が合う。あちらもこちらを観察していたようだ。
「むっ、すまんのう」
「あ、いえこちらこそ………。あの………質問いいですか…………?」
「ん? 別に構わんぞ?」
スープをちびちび飲みながら、目の前の少女の言葉を待つ。
「あの、もしかして伝説の………ゴリキュアさん………ですか…………?」
「ブフォ!」
その口からとんでもない言葉が出てきて、御影は思わずスープを吹き出す。
「ゲホッ! ゲホッ!」
「あ! すみません! すみません!」
「ケホッ、別に良い………。まぁ不本意ながら確かにそう呼ばれておったの。ということは、この名前を知っているということはお主はプレイヤーじゃの?」
ちなみに、ゴリキュアとは御影が狩り場で深夜テンションで踊りながらエグイ高威力魔法を使い、モンスター達を殲滅しているのを目撃した他プレイヤーが名付けたプレイヤーが勝手に名付けたあだ名である。
ファンタジーエクスプローラーズにはプレイヤーからの噂で運営がおふざけで個別称号を贈ることがあり、御影は色々な意味で有名なプレイヤーであり何種類か特別称号を貰っていたりする。汎用姫型決戦兵器ももちろん特別称号で御影に贈られている。
「はい! リエナと言います! レベルはまだ70くらいですが………」
「リエナというのか。なるほど、良い名前じゃ。ワシは御影じゃ。好きに呼ぶがよい」
「御影さんですか! 分かりました! うーん、なら御影ちゃんと呼ばせて貰います! 」
「御影ちゃんのぉ。まぁ、呼び方なんぞよりお主がこんなことになってた経緯を教えてくれるかの?」
「分かりました。リアルの友人に誘われてこのゲームを始めたんですけど、少し強くなったしフレンドと初級ダンジョン行こう!って話になって、待ち合わせをしようとしたら、なんかいきなり出来た穴の中に落ちちゃって、気が付いたら体が少しも動かない状態でここにいました……」
「穴に落ちた…………」
リエナの穴に落ちたという発言を聞き、自分が落とし穴に落ちたときの状況とまるで同じということに気付く。
(穴に落ちた、当然の転移、フレンドとの待ち合わせということから街の外という訳でもない。メールボックス等の削除から何かしらのイベントなのかも分からない。一体何がファンタジーエクスプローラーズに起きてるいる?)
「ん? 待つのじゃ。気が付いたら体が動かなかったということはワシが外に出てきた時点でここにおったのか? それならだいぶ苦しかったと思うのじゃが」
「一応、初級回復スキルにあるリジェネで耐えてました。けど、御影ちゃんに見つけて貰ったときが最後のリジェネを掛けたときだったので運が良かったと思いますね………」
そう言って、両手で肩を抱き締め、身震いするリエナ。
確かに、あの出血量なら失血デバフでHPは余裕に0になっていただろう。初級回復スキルのリジェネは初心者が使うのならかなり破格のスキルであるが、あそこまでの大怪我になると回復量が間に合わないはずである。
「しかし、そうなると穴に落ちたワシは特に何も無かったのじゃが。何か違いがあるのかのぉ………」
「分かりませんね…………」
二人してむむむ……という顔で考えるが、特に何も浮かばなかった。
「そうじゃ、お主メニューを開いてくれないか?」
「あ、はい。いいですけど………。何を………?」
「今からワシが言うところを確認してくれないか?」
そう言って、御影は自分が見つけたメニューの欠落を伝える。
案の定、リエナのメニューも自分と同じ場所が消えており、ログアウトも出来なかった。
「むぅ。やっぱりか………」
「ログアウト出来ないって昔のラノベに書いてあったの見たことあります! まぁいざ、自分が直面すると嫌ですがね…………」
一瞬、テンションが上がるが、すぐテンションが下がっていくリエナ。
2010年代のラノベにそういうジャンルものがあったことを思い出す。まさしく、自分達の状況と一緒なことに乾いた笑いが出てくる。
「確かにそうじゃな………。本当にあまり考えたくないがの」
「そうですね…………。あのとりあえず辺りを散策してみませんか? 何か分かるかもしれませんし……」
「うむ、そうじゃの。お主はもう大丈夫なのか? あの出血量じゃ、無理はしなくて良いぞ」
「いえ、御影ちゃんが掛けてくれた回復魔法と貰ったご飯で元気はモリモリです! それに」
「それに?」
「多分、御影ちゃんの横にいるのが今この状況下だと一番安全な気がします」
そうキッパリ言って、御影を見つめるリエナ。
その視線と言葉に若干照れ、それを隠すために辺りを見渡す。
「と、とりあえず、道らしきモノがあるようじゃし、それを辿っていこう」
「分かりました!」
そうして、二人はこの森の中を歩き出し、十数分道なりに歩いていると。
「むっ。止まるのじゃ、リエナ」
「は、はい!」
森の少し開けた場所で突如として立ち止まる御影。リエナも御影に言われた通りに止まり、一体何が起きているのか理解しようと辺りをキョロキョロと見る。
すると、茂みが急に音を立てて揺れると、茂みの中から一角兎が飛び出てくる。
「あっ! 一角兎!」
そう言って、腰に装備していた短剣を構え、攻撃しようと前に出ようとして、一歩踏み出すと……。
「リエナ!! 本命はソイツではない! 下がっておれ!!」
その言葉の瞬間、再び茂みが揺れたと思うと茂みそのものが一角兎を追ってやってきたと思われる存在によって吹き飛ばされた。
「で、でっかい熊!?」
「狂戦熊じゃのう! 初心者殺しと名高い奴じゃ!」
そう言ってる間にも狂戦熊はリエナに攻撃しようと腕を振りかぶっていた。
「させぬ!【マナシールド】」
魔力で編まれた青色の半透明の盾がリエナの前に出現し、狂戦熊の爪を弾く。
狂戦熊は突如自分の目の前に出てきた盾に驚き、敵の様子を見るために御影達の周りをゆっくりと歩き始める。まさしくその姿は狩りをする肉食獣だ。
狂戦熊。ファンタジーエクスプローラーズの初心者の死因ナンバー1と名高いエリア徘徊型レアボスエネミーである。
初心者がレベリングする最初の街の近くにある森に住む森の主的な存在である。
基本的にコイツの適正レベル帯は200レベル以降であり、やりようによっては普通に100レベル辺りでも倒せるのだが。如何せん、初心者には即死級になる物攻の高さと圧倒的な敏捷、そして何よりもスキル【狂戦士】による死ぬ寸前になっても暴れ続けるという厄介な特性がある。
レベル100未満で倒せた者に専用称号が貰える程度には、運営も初心者を恐怖に陥れる存在として扱っている。
ちなみに、御影はハメ殺して称号をゲットしていたりする。
「さて。リエナがまた瀕死にというか、攻撃喰らったりしたら即死するからの。速攻で死んでもらおうかの!」
その言葉と共に、御影は魔力を瞬時に編み空中に黒色の魔力剣を10本、無詠唱で生成する。
御影の周りを守るように空中でゆっくりと廻る剣を見て、狂戦熊は攻め時を失う。
だが、そもそも狂戦熊は既に詰んでいた。御影を殺そうと思うなら剣が完成する前に何がなんでも突っ込んで行くべきだったのである。
「お主の素材は普通に有能な道具とかに使えるからの。綺麗に死ね」
その言葉が放たれると同時に魔力剣は残像が残るほどの速度で動き、狂戦熊は綺麗に部位毎に切断された。
あっという間に、狂戦熊が肉塊になったのを見てリエナは驚愕し、思わず言葉が溢れる。
「これがトッププレイヤー………」
改めて、目の前にいる存在が自分より遥か上の存在であることを知る。
本当にこの人が自分の前に現れなかったらどうなっていたかをリエナは考えると寒気が止まらなくなる。普段はこんなことを全然しないが、リエナはこの巡り合わせを神に感謝した。
「うむ、まぁ余裕じゃの。とりあえず丸ごとアイテムボックスに収納でいいかの」
「キュイキュイ!」
「ん?」
狂戦熊をアイテムボックスに収納しようとすると、自分の足元が可愛らしい声が聞こえてきた。
足元を見ると、最初に狂戦熊から逃げていた一角兎がピョンピョン飛び回っていた。
その様子を見たリエナがしゃがみこみ、一角兎を撫でる。一角兎も無抵抗でその手を受け入れる。
「わぁー! かわいいー! 何でしょうね。お礼でも言ってるんでしょうか?」
「まぁ、そんな感じかの? 読心魔法使えば余裕で分かるんじゃが、面倒だしいいかの」
「え~、使いましょうよ~。動物と心を通わせられるっていいじゃないですか~」
その言葉に御影は一回だけ魔物ペットに使ってみたときの思い出を思い出し、げんなり答える。
「どうせ、エサ食べたいか、寝たいか、うんこしたいかのどれかじゃぞ。期待するだけ無駄じゃ」
「なんてロマンのないことを言うんですかー!」
美少女の姿で普通にうんこと言って、ムードをぶち壊す御影。
ちなみに、読心魔法の御影の認識はゲームによる弊害である。あくまでペットと言ってもゲーム内なのでプログラミングされたものである。だいぶリアルに設定されてるとはいえ、性格パターンと特定の心理内の言動がプログラミングされているだけである。
リアルでは、ペットを一回も飼ったことがなかった御影はだいぶその現実に打ちのめされてしまっていたようである。
「それより素材じゃ。素材」と御影が狂戦熊の死体の方を見ると。
綺麗さっぱりと消え失せていた。
「なっ…………」
その光景を見て、息を呑む御影。
「あれ? 熊の死体が無くなってますね?」
一角兎をモフモフしていたリエナも御影の声で気付く。
一角兎はリエナに全てを委ねており、お腹を見せて寝転がっている。
御影は死体が消えていたことで、歩いてる最中に考えていたことが真実であることを確信する。
「ワシはこの森が探知をするとやけに魔物が多いこと、道は全然歩かれている形跡はないのにしっかりとあること、それに分かれ道が多いこと、このことからあることを考えていた」
「あること?」
「キュイ?」
一人と一匹が同時に首をかしげる。
「あることとは、この森自体がフィールドダンジョンであることじゃ。それが今死体が消えたことで確信が持てた。つまりじゃ………」
ここがダンジョンであったことに驚き、リエナは言葉がでなくなる。なんせ人生初ダンジョンに行こうとしたら穴に落っこっていたのである。全然ダンジョンと考えてなかっただけにそこそこショックを受けるリエナ。
だが、そんなリエナに全く気付かず、悪い笑みを浮かべる御影。
「つまりは、ここらへんを更地にして移動しても全然大丈夫ってことじゃあ!!!」
「私の初ダンジョン………って、えええ!? 何を言ってるの御影ちゃん!?」
「キュイイ!?」
御影の発言に驚くリエナと一角兎。
「ククク、知らないと思うから今教えてあげるのじゃ。ダンジョンというのは大雑把に2種類あるんじゃ。一般的なのが古い建造物や天然の洞窟などの何かしらの構造物がダンジョンになったタイプ。そしてたまーにあるワシらが今いるタイプのダンジョン。そうフィールドそのものがダンジョンになったタイプじゃ。有名なのだと灼竜火山とかじゃの」
「ほえー。でもなんでそれが更地にしていい理由になるの………?」
「それは構造物系には無くて、フィールド系にはあるものが関係しておるのじゃ」
その言葉を聞き、考えるが初心者ということもあり、よく分からないリエナ。
それを見て御影は言葉を続ける。
「それはの。フィールドの境目と呼ばれるものじゃ」
「フィールドの境目……」
「そう。フィールドの境目。これはダンジョン内の影響が外に出るのを防ぐために設置されたバリアみたいなもんじゃ。境目を超えると途端にダンジョンに入ったと分かるぐらいには分かりやすいんじゃ。まぁ、ワシらは最初っから中にいたせいか全く気付かんかった訳だが」
「ということはまさか………」
「クク、そのまさかじゃよ………。ワシがこの辺りを更地にするレベルの魔法を放っても普通のフィールドには影響が出ないどころか、ダンジョンはフィールドを勝手に再生してくるんじゃよぉ!!」
完全に悪役顔をしてフハハハハハ!と笑う御影。
フィールドダンジョンは普通の構造物ダンジョンより壊れやすい。あくまでも普通のダンジョンよりってだけで、壊そうと思うと並外れた力ではないと壊れないが。
「さてと。じゃあ、早速やるかの。早く外に出たいし」
「えっ!? ちょっと待って!」
「キュイ!」
「安心するんじゃ。きちんとこの辺は障壁魔法で防ぐんじゃから」
「そういう問題じゃなーい!!」
そんな抗議もむなしく、御影は魔法を完成させる。
「滅びを【ボルケーノメテオ】」
森の少し上の空中に現れた極大の魔法陣から一つが一つが1tトラックほどの大きさの溶岩で出来た隕石が数千個出現する。
「…………え?」
「キュ、キュイ………?」
一人と一匹が空を見上げ、その異常な光景を見て絶句する。
そして、隕石の着弾と共に鳴り響く轟音とまるで地震のような揺れが何回も起こる。
「きゃ、きゃああああああああ!?!?」
「キュイイイイイイイイ!?!?」
「あー、久しぶりに見たのぉ、これ」
降り注ぐ滅びを見て、各々感想を口にする。一人と一匹はほとんど悲鳴だが。
「む?」
御影は突如流れて来た音声に意識を奪われた。
そしてこの日、この世界で名も無いフィールド型ダンジョンが一つ消えた。
[十六夜 御影はLvが1上がった]
[十六夜 御影は称号【完全掃討】を手に入れた]
[十六夜 御影は称号【ダンジョン解体】を手に入れた]
御影の誤算が一つだけあった。御影がゲーム内でコレをしても運営がすぐさまダンジョンを再生し、御影にあまりやらないでくださいと直接メールで言う程度だったのだが、この世界ではダンジョンは神が直接作るか、自然発生するかのどちらかなのである。
つまりは、神が直接作ったダンジョンはゲーム内と同じく管理者がいるので再生するのだが、自然発生したダンジョンは溜め込んでいた魔力が足りなかったら普通に消滅するのである。
もう少し魔法の発動時間が長ければ、普通にダンジョン外の世界に影響が出ていたであろう………。
「ふむ。まぁ洞窟も見えるようになったの。向こうの方も見えるようになったし行くとするかの。【クール】」
「死ぬかと思った………」
「キュイ……………」
こうして、耐熱魔法を全員に掛け、地獄絵図と化したダンジョンだったところを歩いてる最中、御影は突如脳内に流れた音声について考える。
(レベルアップか。称号の方はどうでもいいが、レベルはちょっと気になるな。カンストまで上げていたはずのレベルがLv1になり、そして今さっきLv2になった。レベルが上がる? それならステータス関係もリセットされてるはずだが、そのまま。んー、よくわかんねぇな)
「きゃっ! いきなり乗らないでよ~。びっくりするでしょ~?」
「キュイ!」
一人と一匹はすっかり仲良しなっており、リエナの肩の上に一角兎は飛び乗り、普段とは違う視点の高さを楽しんでいる。最初、普通に殺そうとしていたのが嘘みたいである。
「御影ちゃん! この子の名前に何しますか!?」
そんなリエナの問いかけに思考を一旦止める。
「別に何でもええじゃろって、そいつ連れて行くのか?」
「はい! すっかり仲良くなりましたし! なんなら多分私より御影ちゃんの方がなつかれてますよ!」
「本当かのぉ? さっきの見て、すっかり怖がられてると思うのじゃがのぉ」
「だ、大丈夫ですよ~! 大丈夫だよね……?」
確認するように、肩に乗ってる一角兎を見るリエナ。
兎は無言で顔を逸らした。
「ちょ!? うーちゃん!?」
「うーちゃん?」
「あ、この子の名前です! ちょっと安直ですけど、兎のうーちゃんです!」
「まぁ、良いと思うぞ」
「フフ! ありがとうございます!」
「さてと、こんな会話してたらもう端じゃ」
二人はダンジョンの端へと到着する。まだギリギリダンジョンとしての機能は残っていてフィールドの境目がある。しかし、魔力が枯渇してダンジョンではなくなるのも時間の問題である。
そんなことは露知らず、二人は境目を見て盛り上がる。
「コレが境目じゃ。ほれ、この先の景色があまり見えんじゃろう?」
「そうですね! この先は草原……? ですかね?」
「そうっぽいの。さて、見知った土地であると嬉しいんじゃがの」
「まぁ、行きましょう!」
「うむ」
「キュイ!」
こうして、二人と一匹は境目を抜けダンジョンから無事に脱出出来た。
3話は遅くて明日には上がります。なるべく今日中に出したひ。