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4 女主人






 セレナは屋敷の主要な使用人を集め、己の力不足を詫びた。

「ごめんなさい。クラーラさんの問題について、ルーベン様に理解して頂けませんでした。屋敷の女主人として力不足を謝罪します」

 頭を下げるセレナに使用人たちは慌てた。

「奥様、お顔を上げて下さい。奥様の所為ではありません。クラーラ様が長年、旦那様に取り入って判断力を失わせているのです。あれはもう”洗脳”の一種ではないでしょうか」

 そう言ったのは侍女頭だった。「洗脳」という穏やかでない言葉にセレナが思わず息を呑むと、執事のセバスティアンが口を開いた。


「奥様。実は5年ほど前から、私は旦那様に幾度となく、クラーラ様と距離を置かれるよう苦言を呈して参りました。それはクラーラ様に不信感を持っていらした先代奥様のご意向でございました。『母親が口を出すとルーベンが意地になるから』と私にお命じになったのです」

「まあ、そうだったの……」

「けれども旦那様は私の苦言にも一向に聞く耳を持ってくださいませんでした。2年前には、業を煮やした先代奥様が、とうとう自らクラーラ様に『もう、この屋敷に来ないように』と、きつく言い渡されたのですが、その後すぐに事故が起きて先代御当主と共に亡くなってしまわれて……結局、クラーラ様は変わらずこちらに自由に出入りされているのです。クラーラ様のその様子を見て、まるで先代御当主夫妻の事故死を『これ幸い』と考えているようだと、多くの使用人がクラーラ様に不信感と嫌悪感を募らせました」


 セバスティアンの話を聞いて、セレナは愕然とした。何と言う根深さだろう。とても数ヵ月前に嫁いで来たセレナが、一朝一夕に解決できる問題ではなさそうである。しかし、現在進行形で使用人達がクラーラの対応に困っているのだ。この屋敷の女主人として、放って置くわけにはいかない。全面解決に時間がかかるなら、取り敢えず今すぐ取り組める事からやっていこう。



 セレナは使用人に向けて”クラーラ対応マニュアル”を作成した。

《一つ、クラーラにされた命令は受けずに、必ず主に確認を取る。主からの指示によってのみ行動する。》

《一つ、その場に主が居ない場合は、クラーラに対して”命令への拒否”をはっきりと伝える。クラーラがその拒否に対して何を言おうと無視して良い。「女主人からそう命じられている」と一貫した姿勢で臨む》


 

 使用人達がこのマニュアルに従ってクラーラの命令を聞かなくなると、クラーラはルーベンに泣きついた。

 ルーベンは困ったような表情でセレナに言った。

「君はクラーラに冷た過ぎないか?」

「この屋敷の使用人を守るのは私の役目でございます」

 硬い声でセレナがそう答えると、ルーベンは大袈裟に溜息をついたが、それ以上は何も言わなかった。ルーベンも、使用人達がクラーラに不満を抱いていることは肌で感じているのだろう。それにしても――と、セレナは思う。溜息をつきたいのは、こちらの方だ。小姑でも何でもない全くの他人であるクラーラに、何故こんなにも振り回されねばならないのか?



 自室に戻り、セレナは一人窓辺に佇んだ。きっとルーベンに、夫の意に背く生意気な女だと思われただろう。ルーベンは、引き受け手のない自分を娶ってくれた恩人だというのに……。彼を怒らせたら、自分はまた居場所を失くしてしまうかもしれない。セレナは暗澹たる気持ちになった。


「エドガルド様……」

 愛していた国王ひとの名を、そっと呼んでみる。エドガルドの側妃に迎えられた時は、後宮が自分のついの居場所になるのだと信じていた。けれど、セレナはたった3年で後宮を出され、ルーベンの妻として此処にやって来た。


「エドガルド様……此処は本当に私の居場所なのでしょうか? 私はいつまで此処に居られるのでしょう?」

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