第8話 開戦
受戦碑の横にヴォルフ達一行が立っていた。トラはヴォルフの肩の上で顔を洗っていた。
「何だよ半ベソかいてんじゃねーかよチビ助。なっさけねーな。男が泣いてもいいのは好きな漫画のキャラが死んだ時だけだぜ」
「うる……せえよ」
「……何だお前ら。何しに来た。ん?お前の顔どこかで」
「だから喧嘩しに来たって言ったろーが三下が。ただし、ただの喧嘩じゃねーぜ。国を賭けた全額勝負だ」
「あっ、お前は」
ヴォルフはおもむろにジーパンのポケットから白い手袋を取り出すと受戦碑に叩きつけた。
「カツェレーネ王国皇太子、ヴォルフ・レーヴェンブルク!貴国ベラルジオに宣戦布告する!」
「なっ」
ウーーーーーーーーーー
突撃国中にけたたましいサイレン音が鳴り響いた。
この音は聞いたことがある。ベルメスがこの国に戦を仕掛けてきた時に聞いた音だ。
『ヴォルフ・レーヴェンブルクによる宣戦布告を受理しました』
受戦碑から機械音声が聴こえてきた。
『これより開戦します。ヴォルフ軍を戦場に転送してもよろしいですか?』
「あーちょっと待ってくれ。あそこで寝てるチビ助も俺の軍に入れてくれ」
「えっ」
「なっ!んなこと認められるわけねーだろ!」
「うるせーなキャンキャン吠えんなよ三下チョビ髭」
「三下チョビ髭!?て、てめえ!」
「お互いの同意があれば軍への入隊は認められてんだよ。どうするチビ助、俺んとこ来るか?」
「!俺は……頼む!俺も連れてってくれ!!」
「フッ、いいだろう」
『ではヴォルフ軍を戦場に転送します。ご武運を』
「ま、待ちやがれ!」
ブゥゥゥン
幾重にも重なった光の環のようなものにヴォルフ一行とウェンゼルが包まれると、一瞬で姿が消えてしまった。
こうして後に『キジトラ紛争』と呼ばれることになる戦の幕が、ここに切って落とされた。