第5話 報告
「ナー。そいじゃここからは大事な話だから、特別にJK用語抜きで説明するね」
「いや、大事な話じゃない時もJK用語は使わないでくれ」
「まったくもー、ヴォルフはチャチャを入れてばっかなんだから」
「お前が言うな」
「では改めまして、この国、<ベラルジオ王国>は一年くらい前に元首が今のベルメス・オリューホスって男に代わってから、急速に世界屈指のカジノ大国になったんだって」
ドクン。
アイツの名前が出たことで、ウェンゼルは急激に脈拍が早くなるのを感じた。
「それまでは砂漠の中心にある、オアシス的な立ち位置の国だったみたいなんだけど、ベルメスがあの高台に見えるおっきなカジノを建ててからは、世界中から観光客が集まるようになって、今では国家資産も世界ランキング4位に入るお金持ちの国になったんだ。ただカジノを建てる時に大分無茶な立ち退きをやったみたいで、国民からは相当嫌われてるみたい。でもベルメスの機鎧のバーデン=バーデンってのが超強いみたいで、誰も逆らえないんだってさ。契約機人のアルゴスって大男も常に一緒にいるし、隙なしって感じだね。んっ?どったのウェンたそ?顔色悪いよ」
「あ、いや何でもないよ。気にしないでくれ……」
「ふーん。あれ?どこまで話したっけ?ああそうそう、ベルメスがメッチャ厄介ってとこだ。しかも性格もクソみたいなやつで、自分が殺した前元首の息子のフィアンセ、つまり未来のお姫様になるはずだったひとを人質に取って、王子様を無理矢理手下として使ってるんだって。まあ控えめに言ってクソ・オブ・クソだね」
「辛辣ゥ!でもまあ俺も同意見だ。ただその感じじゃ、そいつ相当恨み買ってるだろうな。オイチビ助」
「え、何だよ」
「お前もそのベルメスってヤローに一物あるクチじゃねーのか?」
「なっ!何でだよ!」
「いや、何となくそんな気がしただけだがよ。違うなら気にすんな」
「ああ……」
マズい。今ここでヴォルフ達に自分の気持ちを悟られるわけにはいかない。
「だが、もしベルメスをぶっ飛ばしたいってんなら良い方法があるぜ」
「え?」
「戦を吹っ掛ければいいのさ」
「いくさ……」
「ああ、国のあちこちにある受戦碑ってあるだろ」
「あの慰霊碑みたいなもの?」
「それだ。だがありゃ慰霊碑じゃない。宣戦布告の受付所みたいなモンなのさ。そして宣戦布告の方法は簡単だ。核人じゃねえと宣戦布告は出来ねえが、自分の私物を何でもいいんで受戦碑に叩きつければいい。それだけで宣戦布告成立だ。自動的に戦場に転送されて戦が始まる。どちらかの大将の核人が死ぬか、降参すれば戦は終了だ。お前も知っての通り、各国は薄繭と呼ばれる謎の透明なバリアみたいなもんに守られてて、機鎧の攻撃は一切効かない。その上、薄繭の中じゃ他国の機人は機鎧化できない。つまり相手から国を奪いたいなら、正面から堂々と宣戦布告して戦に勝つしか方法はないってことだ」
「ちょっと待ってくれよ。俺は別に国が欲しいわけじゃないし、核人でもないからそんな話聞いても意味ねーよ」
「でも将来核人になる可能性はゼロじゃねーだろ?つまりお前がこの国を欲っするなら手順はこうだ。その1、超強い機人と契約して核人になる。その2、この国に宣戦布告をする。その3、ベルメスをぶっ飛ばす。その4、二人は幸せなキスをして終了」
「最後何かおかしいぞ!いや、最後以外も色々おかしい!超強い機人なんかそうそういないだろ!」
「わかんないぞ。意外とヒョッコリ伝説の機人とかを雨の日に拾うかもしんないぞ」
「そんな捨て猫みたいな!はあ、もういいよ。俺のことはほっといてくれよ」
「あっ、そういえばあたしさっき大事なこと言い忘れてた。そのベルメスだけど、明日からこの国にいなくなるらしいよ」
「えっ」
今何と言った?いなくなる?アイツが?
「アン?どういうことだカリン」
「何か資金も十分貯まったし、満を持して明日から他国に戦を吹っ掛けまくるんだってさ。だから下手したらずっとこの国には戻らないかもね」
なんだと。じゃあ俺はどうすればいいんだ。まだ色々と準備は終わってないのに。
クソッ!一か八かだが今日やるしかないのか。
「悪いみんな!俺用事を思い出したわ!夜までには戻るから、みんなはここでくつろいでてくれよ!」
「アッ?オイチビ助。どこ行くんだよ」
ヴォルフの声を無視してウェンゼルは家を出て裏の倉庫に行き、倉庫から黒い塊を取り出しカジノの方に走り出した。
頭の中では一年前のあの日のことがフラッシュバックしていた。




