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機鎧大戦  作者: 間咲正樹
第一章 黒い魔人
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第3話 調律

「おしゃかわJKくのいち、カリンちゃんがお送りする前回までのあらすじ!ひょんなことから5億の賞金首かもしれないヴォルフ一行と出会った、貧しいスリのDSウェンゼル。変人達との出会いでメンブレ寸法のウェンゼルに、ヴォルフは『とりま、今からお前ん家でパリピがテンアゲよろ』と謎の呪文を浴びせてきたのだった。負けないでウェンたそ!カリンちゃんとウェンたそはズッ友だょ!卍!」

「ごめんちょっと黙ってて!てか誰に話し掛けてんだよ!?あとその話し方正直イラッとするんでやめてくんないかな!それに『ズッ友』って微妙に古くね!?」

「まあまあウェンたそ。あんまイライラするとお肌に悪いゾ。」

「そのウェンたそってのもやめてくれよ……。それに俺はDS(男子小学生)じゃないよ。学校行ってねーもん」

「それを言ったらあたしも今は学校行ってないんだけどね!てへぺろ!あと話し方の件は大丈夫。早くも作者のJK用語ストックが切れてきたから、今後はたまにしか使わないよん」

「たまには使うのかよ……」


 どうしてこうなった。

 狭いボロ屋の自宅で好き勝手にくつろいでいるヴォルフ(へんじん)達を、ウェンゼルは諦観にも似た気持ちで見ていた。


「オイテメェ、今俺の名前に『へんじん』ってルビ振っただろ。俺はそういうのには敏感なんだかんなコラァ!」


 何でわかるんだよ。

 それにしてもあれよあれよという間に、気が付いたらこんな厄介そうな連中を家に招くことになってしまっていた。

 ただこの敏感チンピラが賞金首の可能性は高い。何とか毒を盛るなどしてこいつを殺して賞金が手に入れば、こんな生活とはおさらばできるかもしれない。

 問題は目の前で料理の準備をしている、このアサシン執事の眼を掻い潜ってそんなことができるかということだが。


「すまんな少年、台所を貸してもらって。ウェンゼルといったか。俺の名はトウマ・キサラギだ。トウマと呼んでくれて構わん」

「あ、ああ別にいいよトウマ。食材はそっちで用意してもらってるんだし」

「流石に食材まで使わせてもらう程厚かましくはないさ。それに(あるじ)の命を守るのも俺の仕事だ。食材は自分の眼で選んだものだけを使いたい」


 !もしかしてこいつ俺のヴォルフに対する殺意を見抜いてたのか。いや、それは考え過ぎか。それよりも今こいつは『主』と言った。

 やはり。


「なあ、主ってのはあのヴォルフってオッサンのことなのか?」

「不本意だがそうだ」

「ふーん。もしかしてどっかの国のお偉いさんだったりするのかな?」

「……だとしたらどうなんだ」

「あ、いや!どうってことはないんだけどさ!」


 しまった。流石にあからさま過ぎたか。

 だがトウマはそれ以上言及してくることはなかった。とはいえ常に無表情なので腹の中はさっぱり読めない。

 同じ顔でも妹はウザいくらい表情が豊かなのに。


「じゃああんたの妹とあのメイド三姉妹もヴォルフの従者ってことか」

「従者なのはその男とカリンだけよ。私達は従者じゃないわ」


 いつの間にか巨乳メイド次女のサラが側に立っていた。


「あ、そうなの?じゃあサラさん達は何でメイド服着てるの?」

「サラでいいわ。私達がメイド服を着てる理由、それは、着てみたかったからよ(ドヤ)」


 えぇ。

 今日だけで何回ドン引きしたかわからないが、どうやら人間は要因さえあれば一日に何回でもドン引くことができるらしい。


「……でも、じゃあサラ達とヴォルフはどういう関係なの?」

「私達が飼い主でヴォルフが飼い犬ってところかしらね」

「おい()()。あんな男でも一応俺の主だ。あまり無礼な物言いは看過できんぞ。それに俺はまだお前達のことを許したわけではないからな」

「別にあなたに許してほしいなんてこれっぽっちも思ってないわよ。私達は何も悪いことはしてないしね」


 怖い怖い怖い怖い!何なんだこいつら!仲間同士ってわけじゃないのか?

 少なくともこの二人が犬猿の仲なのは今のやり取りだけでわかった。

 でも()()っていうのはいったい?もしかして魔法とかが使えたりするのか?いや、まさかな、漫画じゃあるまいし。まあ将来的には美魔女とか呼ばれそうな容姿はしているが。

 すると険悪な空気を察知したのか、ヴォルフが近づいてきた。肩にはトラが乗っている。器用なネコだ。


「何だお前らまた喧嘩してんのか。私のために喧嘩はやめて~w」


 ( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン


「……」

「何か言えよ!ついに無言でパーンしてくるようになりやがった!」


 あわわわ。トウマの前でそんなことしたらまた険悪な雰囲気になっちゃうよ。


「いや、今のは俺もイラッとしたから構わん。よくやった魔女」


 そうなのかよ。

 いまいちトウマのヴォルフに対する忠誠心がわからない。どちらかというと主従というよりは兄弟みたいな関係に見える。まあ、ヴォルフとトウマの歳は同じくらいだし、主従関係とはいえ実際は家族みたいなものなのかもしれない。


「ったく俺の周りにはろくなやつがいねーな」

「ニャー」

「はふーん!もちろんトラはろくでもあるよ~」

「ニャーン」

「キャワイイ~!(スリスリスリスリ)」


 厳ついチンピラがネコにスリスリしている様は最高にキモかった。

 こんな時こそサラにパーンしてもらいたかったが、サラは既に興味をなくしたのかカリンと二人でイチャイチャしていた。

 いや、そういうのはよそでやってもらえませんかね。


「まあ俺から見れば一番ろくでもないのはヴォルフだけどね」

「オイチビ助、何ひとのこと呼び捨てにしてんだオォ。俺は年上だぞ」


 うわぁ。こいつ最高に大人げない。トウマとサラは自分から呼び捨てでいいって言ってくれたのに、こいつだけ呼び捨てにしたらキレやがった。

 それに『俺は年上だぞ』って台詞は、この世でカッコ悪い台詞ベスト5に入ると思う。決めた、絶対にこいつだけは呼び捨てにする。


「なあヴォルフ、それを言うなら俺のこともチビ助って呼ぶのはやめろよ。俺にはウェンゼルって名前があんだからよ」

「お前みたいなチビ助はチビ助で十分なんだよ。そういういっちょまえな台詞は社会に出てから言いやがれ」

「……これはただの勘だけどヴォルフも社会出たことないだろ」

「ハ、ハアァ!?何言ってんのお前!こ、根拠もなくそんなこと言ってんじゃねーぞコラァ!……と、ところでお前、他の家族は留守なのか?」

「……図星だったんだな。……他の家族はいない。みんな死んだんだ」

「……そうか。悪かったな。ただこう言っちゃなんだがこの家は家族で住んでたにしちゃ少し狭くないか?」

「この家は一人になってから借りた借家だよ。家族と住んでた家は……ちょっと色々あって住めなくなっちゃったからさ。街外れの廃墟同然のボロ小屋だし、特別に格安で住ませてもらってんだ」

「でもタダじゃないんだろ?生活費はどうしてんだ?とてもは働いてるようには見えねーがな」

「!何だっていいだろそんなこと!」

「スリだろ?」

「なっ!お前、もしかしてさっきの現場見てたのか!?」

「何のことだ?んなもん見てなくてもわかるよ、お前の眼を見ればな」

「眼?」

「お前の眼は常に獲物を探してる眼だ。俺のダチにスリが多かったからな。お前みたいな眼は見慣れてんだよ」


 そうか、言われてみればそうかもしれない。この一年生きていくことだけで必死で、いつしか自分以外の人間は全員獲物だと認識するようになっていた。

 ただ、ダチにスリが()()()()と過去形だったのが気になるが。


「ああ、そうだよ。スリで生活してんだよ。悪いかよ!しょうがなかったんだよ!俺が一人になった時、大人は誰も助けてくれなかった!俺みたいな子供が一人で生活してくにはスリぐらいしか手段がなかったんだよ!だから俺は悪くない!!」

「いや悪いだろ、ひとのモン盗んでんだから。チビ助、俺は別にスリをやってること自体を責めるつもりはねえよ。スリしかなかったのは事実だろうしな。ただ不幸な身の上を免罪符にして『自分は悪くない』なんて責任転嫁するのは、最高にクソダセェからやめた方がいいぜ。悪を背負う覚悟がないやつには、悪事を行う資格はねーよ。もちろん、覚悟があれば何をしてもいいわけじゃねーけどな」

「わ、わかってるよそんなこと!自分がカッコ悪いこと言ってるのなんか言われなくても自覚してるよ!でも……でも……俺はそんな強い人間じゃないんだよ……」


 泣くつもりなんてなかったのに、ボロボロと悔し涙が出て止まらなかった。

 それはヴォルフに対する苛立ちにではなく、今まで目を背けてきた自分自身の弱さに対する涙だった。


「はい、タンポポのお花あげるね。だから泣かないで」

「えっ」


 いつの間にか三女のエミがタンポポを持ってすぐ側に立っていた。


「いや、エミ、別にタンポポは何でも丸く収められる魔法のアイテムじゃねーからな?」

「でもおにいちゃん、綺麗なお花を見てたら悲しいこともちょっとは忘れられるでしょ?それって魔法みたいなものじゃない」


 魔法みたいなもの。

 確かにそうかもしれない。現にタンポポの花とエミの笑顔を見ていたら、さっきまでのグジグジした気持ちが少しは晴れた気がするから。


 ~♪


 と、どこからともなくピアノの音が聴こえてきた。

 音のする方を見ると、この家の前の住人が置いていって処分に困っていたグランドピアノを、サラが弾いていた。

 ウェンゼルが住み始めてから一度も調律なんてしていなかった(そもそもできない)のに、心の芯を揺さぶるかのような見事な音色を響かせていた。

 まさかこの短時間で調律したのか。そんなことが可能なのか。


「楽器のことなら心得があるのよ。本当は一番得意なのはフルートなんだけどね」


 ウェンゼルの心を読んだかのようにサラは疑問に答えた。

 このピアノの演奏も見事なものだが、フルートはこれ以上なのか。これがいわゆる天才というやつなのかもしれない。

 それにしてもこの曲は聴いたことがある。これは確か――。


「『別れの曲』よ」


 そうだ、有名なクラシックの『別れの曲』。『みどりのいえ』の神父様がたまに弾いてた曲だ。もっとも神父様の演奏は、サラより大分下手だったが。


 その時、フワッと風が舞ったような気がしたので横を見ると、エミがサラの演奏に合わせてバレエダンサーの様に踊っていた。

 こちらの踊りも目を見張る程美しく、自分と同じくらいの歳のエミが妖艶な大人の女性のように見えた。

 それはまるで水面を優雅に泳ぐ、一羽の白鳥の様だった。


 ポロッ。

 

 頬をつたう熱い感覚に我に返ると大粒の涙を流していた。

 ただそれは先程流した悔し涙とは全く別のものだった。腹の底に沈殿していたドス黒い(おり)が、サラサラと洗い流されていくような感覚がした。

 いつの間にか演奏とダンスは終わっていた。


「料金は出世払いでいいわ」

「……金取んのかよ」

「もしくはパーン払いでもいいわよ」

「パーン払いって何!?料金分パーンされるってこと!?しゅ、出世払いでお願いします」

「フフ、冗談よ」


 ホントかよ。眼はマジだったぞ。

 でもまあ、気分は悪くなかったので、「ハイハイ、どーせ俺は悪者ですよ」と言って子供の様に拗ねているヴォルフのことも、暖かい眼で見てやることにした。

 

 ヴォルフの肩の上でトラが、ゴロゴロと喉を鳴らしながら寝ていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] >私のために喧嘩はやめて~w 相も変わらず先生の【w】の使い方が素敵です (`・ω・´)ゞ 敬服~♪
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