第2話 奇人
突然の出来事にウェンゼルはフリーズしてしまった。
「オイ、聞いてんのかチビ助。何ひとの愛猫を喉ゴロさせてんだって言ってんだよ」
「の、喉ゴロというのは喉をゴロゴロさせるの略でしょうか?」
「アァン!喧嘩売ってんのかテメェ!」
余りにもテンパり過ぎて至極どうでもいいことにツッコんでしまった。
「うちのトラにテメェのバイ菌が移ったら腹掻っ捌くぞ糞ガキ!」
「ニャー」
「あーん!ごめんよトラァ!大丈夫だよ。今このガキとナシつけるからな」
キジトラだからトラなのか。なんて安直な。そしてこいつ色んな意味で凄くイタい大人だ。
落ち着け、状況を整理しよう。目の前にいるこの男は人相書きのヴォルフ皇太子に酷似している。額に傷もちゃんとある。もし本物なら上手く捕らえて一攫千金も夢じゃないかもしれない。
ただ、お尋ね者がこんなに堂々と昼間から街中を歩いているものだろうか?それによく見ると髪と瞳の色が人相書きと違う。髪は見事な総白髪だし、瞳は燃えるような深紅だ。
髪はまだ染めれば何とかなるにしても、瞳の色はそうそう変えられない。それにこの白髪はとても染めたようには見えない。まだ若そうなのに。
それから男の服装が何というか、とても変だった。漫画か何かのキャラクターと思われる、フリフリのドレスを着た女の子の絵がプリントされたTシャツを着ていて、下はジーパンで足はサンダル。かなり筋肉質な体格をしているので、Tシャツはピチピチだった。
率直に言って変態にしか見えなかった。
「オイ、何シカトこいてんだよヤんのかコラァ!」
「あっ、えっと、その」
その時だった。
「ヴォルフ」
「アン?」
( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン
「ってーな!何しやがるこのブス!」
( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン
「すいません調子に乗ってました」
「わかればいいのよ」
突然女の人が現れて一瞬で男を手懐けてしまった。
歳は男と同じくらいか。しかも男からはブスと言われていたが相当な美人だ。黒髪のロングで右眼の下に泣きぼくろがある。身長は女性にしては高い。170cmくらいはありそうだ。
そして胸がとても大きい。
メイド服を着ているのでメイドさんなのだろうか?この性格で?メイド服にしては若干露出が多い気がするが。
目付きは少し鋭く、気難しい猫を連想させたが、それが一種の高貴さのようなものを演出している。瞳の色は男と同じ深紅だ。今までこんな血の様に赤い瞳の人間には会ったことがなかったが、実はさほど珍しくないのだろうか。
いや、それ以上に今は大事なことがある。この巨乳美女は今『ヴォルフ』と言わなかっただろうか。やはり目の前の男はヴォルフ皇太子なのか?
「突然このバカがごめんなさいね。脳線維の代わりに筋線維で脳を構築しているから頭がアレなの」
「アァン!誰の頭がアレだゴラァ!」
( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン
「そうです。私の名前は筋線維の助です」
何だかもう色々とどうでもよくなってきた。
既に男の頬は片側だけパンパンに膨れ上がっている。男の頬が破裂する現場を目撃してしまう前にさっさとこの場を立ち去ろうか。
などと考えていると、巨乳美女とよく似たメイド服を着た二人の女の人がこちらに近づいてきた。
「はうう、サ、サラァ、置いてかないでよぉ」
「サラおねえちゃん。おにいちゃん。ほらこれ見て、タンポポのお花が咲いてたんだよー」
サラと呼ばれた巨乳美女と二人共顔が似ているし、瞳の色も同じなので姉妹のようだ。見た目からしてサラが長女だろうか?
次女と思われる人はサラとは雰囲気が真逆で、何だかオドオドしている。
丸メガネを掛けていて、黒髪を左右で三つ編みにしているが、前髪が異様に長く、殆ど目元が隠れてしまっている。身長は160cm弱くらい。
ただ、サラと違って絶壁と言って差し支えない程の貧乳だった。
同じ姉妹なのに。
ウェンゼルは勝手にいたたまれない気持ちになっていた。
三女はウェンゼルと同い年か少し下くらいの少女で、明るく奔放そうでいかにも末っ子といった感じだ。
髪は姉達と違って金髪で、ツインテールにしている。
胸の大きさに関しては年相応といったところだが、果たしてこの子の胸は将来どちらの姉のルートを進むのだろうか?
それは兎も角、この子は何だか雰囲気が少しグレールに似ていて、思わずこみ上げてきたものをウェンゼルは必死に堪えた。
いや待てよ。そのことよりも今三女はもっと大事なことを言わなかったか?男のことを『おにいちゃん』と呼んでいたぞ。顔は全然似ていないが実は兄妹だったのか。
「ちょっとエミ、いい加減赤の他人のこのバカを『おにいちゃん』て呼ぶのはやめなさい。それから姉さんも、長女なんだからもう少しシャキッとしててよ」
赤の他人だった。
そしてオドオドメガネっ子が長女だった。
てことは見た目は若そうだがドオドメガネっ子は意外と歳はイッてるのだろうか?
まあサラの身長や胸に関しては第二子の方が色々と大きくなりがちだと聞いたことがあるからまだいいとしても、筋線維の助は赤の他人の少女に自分のことを『おにいちゃん』と呼ばせていたのか。
ウェンゼルは短いながらも今までの人生で一番のドン引きを実感していた。
「違うよ。エミがおにいちゃんのことを、おにいちゃんて呼びたいから呼んでるんだよ。はい、おにいちゃん、タンポポのお花あげるね」
「エ、エミー!!結婚してくれー!!!」
( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン
「調子に乗るんじゃないわよ、この白髪豚野郎!」
「えへへー、おにいちゃんまたサラおねえちゃんに怒られてるねー」
「いや、エミ!これは立派な虐待だ!お前からも虐待おねえちゃんに何とか言ってくれ!」
「でもエミ、サラおねえちゃんに虐待されてるおにいちゃんも可愛くて好きだよ」
「えっ、そうなのか(困惑)。カ、カヤ!カヤは俺の味方だよな!」
「はうっ、わ、私はヴォルフさんのというよりもヴォルフさんとトウマさんの……」
「んっ?俺とトウマの、何?てかトウマとカリンはまだ戻んねーのかよ。腹減ったよ俺」
「今戻った。お前はさっき売店でクレープを二人前も食べてただろうが。もう腹が減ったのか」
「ナッハハー!たっだいまー!とりま、この国の情勢はわかったよん」
!いつの間にかヴォルフ達の側に二人の男女が立っていた。
この二人どこから現れた!?瞬きをした一瞬で影の中から出てきたかのような唐突さだった。
特に男の方はただならぬ空気を纏っていた。物腰は柔らかそうに見えるが、その気になれば平気で人の一人や二人殺めてしまえそうな眼をしている。
というかこの二人も見た目がかなり変だった。男の歳はヴォルフと同じくらい。身長はヴォルフ程ではないがかなり長身の細身で、180cm以上はありそうだ。
髪はサラサラの黒髪で黒い瞳。端正な顔立ちをしている。
執事服を着ていて、ここまでなら優秀な若執事といった風貌だが、左腰に差している大小の剣がそれら全てを台無しにしていた。
何で執事が帯刀してるんだよ。
しかも剣の形が珍しく刀身が少し反っている。もしかしてあれが倭国刀というやつだろうか?ということはこの男は倭国人か?確かに顔立ちが自分達とは違う気がする。
もう一人の無駄に明るい女の人も顔が男にそっくりなので、この二人も兄妹なのだろうか。
歳はヴォルフより少し下に見えるが。
身長はカヤと同じくらいだが胸はまあ普通だ。
髪は黒髪のオカッパで顔は兄同様美人だが、着ている服が異彩を放っていた。何かの本で見たことがある倭国の忍装束という服に見えるが、服の色がピンクやら黄色やらの凄く目立つ暖色系ばかりだ。
忍というのはスパイみたいなものだとその本には書いてあったが、あれではとても諜報活動に向いているとは思えない。
「ご苦労様カリン。一息ついたら報告を聞かせてね」
「ナー!サラお姉様ー!私お姉様に一時間も会えなくて、ドチャクソつらたんでしたー!」
「フフフ、本当にしょうがない子ね」
何だろう。二人の背景に白い花が舞っているような気がする。
それにカリンという派手忍者がサラのことをお姉様と呼んでいるが、この二人はとても姉妹には見えない。
ウェンゼルはほんのわずかの間に色々と見てはイケないものを見てしまった気がするが、何となく今のが一番イケないものだった気がする。
何なのだこの一行は。これだけの人がいて、まともそうなのが猫だけというのは同じ人類として甚だ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「よしチビ助、長々と登場人物紹介ご苦労!褒美に俺様達をお前の家でもてなす権利をくれてやる」
は?