第18話 魔女
クロマルは左の手のひらだけでヴォルフとトラを運んで、ルーエの森の奥を進んでいた。
「なあカリン……お前ホント大丈夫か?」
「ニャー」
「ナッハハーヴォルフ、若干つらたんだけど、とりまおけまるっしょ」
そうは言っているが明らかに辛そうなのがトウマにはわかる。何せ右胸に穴が空いているのだ。右腕はもう使えないだろう。
一応今はカリンの特製丸薬で痛みは少し抑えられているようだが、如何せん血が足りていない。いくらカリンが機人でも、このままでは長くは持たないのは明白だった。
クソッ!俺があの時あと少しだけ早く反応できていれば。
余りにも絶望的な状況にトウマは珍しく弱気になっていた。
「あっ、オイトウマ!あれって……」
「!」
どこに向かっているかもわからずガムシャラに森の奥に進んできたが、開けた場所に出たと思えば目の前に神殿が立っていた。
これは。
昔ヘルマン団長に聞いたことがある、魔女が封印されているという神殿か。
こうして近くで見るとかなり大きな神殿のようだ。入り口は機鎧でも通れるくらいの広さがある。
団長には決してこの神殿には近付くなと言われていたが。
ヒューパーン、パンパーン
「なっ!これは!」
突如国中で花火が上がり始めた。
そして終戦を告げる機械音声が聞こえてきた。
『これにて終戦となります。勝者はイヴァン軍です。兵士のみなさんお疲れ様でした』
「……そんな……」
「……親父……」
キングアーサーの全身には大きな穴がいくつも空いていた。
操縦席のアルブレヒトとヘルマンは折り重なる様に死んでいた。
「ハァ……危なかった……。流石は鬼神だ。怪我もしてたみたいだし、それがなかったら勝敗はわからなかったかもね……」
「大丈夫か?もういいから機鎧化を解け、私が止血しよう」
「ああ……頼むよ」
アルゲウスの左腕は切断されていた。それは手負いの鬼神が見せた、最後の意地だったのかもしれない。
「まさか『トールパリトー』まで使うことになるとはね……」
「……そうだな。……見事だ」
イヴァンは心なしか笑っているようにも見えるアルブレヒトの顔を見ながら、ゆっくりと眼を閉じた。
「……親父……親父ー!!!」
「陛下……」
「そんな……陛下……」
「ニャア」
「い、いたよ姉さん!ハハッ凄いでしょ!僕が見つけたんだよ!」
「!」
「ウフフ、そうね、よく見つけたわパーヴェル」
「……テメェら!」
木々の隙間からミハイロフスキーが姿を現した。
クソッ、状況は最悪だ。
「こちらとしてはもう戦は終わったのだから、素直に降伏していただければ、悪いようにはしないのだけれどどうかしら?」
「ふざけんな!テメェらは絶対に許さねえ!絶対に俺の手で殺してやる!」
「ウフフ、若いっていいわねえ。殺すのが惜しくなっちゃいそう」
「ダメだよ姉さん!こいつは絶対に僕が、生きたまま腹を掻っ捌いて、大腸を引きずり出して、小腸を引っ張って、胃を……アレ、何だっけ?とにかくメチャクチャにするんだから!」
「アラアラすっかり滾っちゃってやっぱり男の子ね。いいわ、あなたの好きになさい」
「やったあ!!」
どうする、どうすればいい。
何か手はないか。
考えろ、考えるんだ。
「兄……貴……」
「……!カリン」
「神殿の……中に……」
「……わかった」
一先ず今はこの場を切り抜けることを第一に考えるしかあるまい。
団長の言葉は気になったが、そうも言っていられない。
クロマルは踵を返し、脇目も振らず神殿の中に入っていった。
「!待てよ!絶対に逃がさないぞ!」
思い通りにミハイロフスキーが後を追って来た。
よし。
「今だ!カリン!」
「蝉柳流忍法『遠雷』」
クロマルは左腕だけで入り口の天井に数本のクナイを投げた。
クナイは天井に当たると大きな爆発を起こし、崩壊した天井は巨大な瓦礫の雨となり、ミハイロフスキーの上に降り注いだ。
「なあああ!!」
ミハイロフスキーは瓦礫で生き埋めとなり、すっかりその姿が見えなくなった。
よし、これで少しは時間が稼げるはずだ。
今のうちに。
「ご……ごめん兄貴……」
「カリン!」
カリンも既に限界だったらしく機鎧化が解けてしまった。カリンは気を失っている。
くっ、流石にクロマルなしではこの場を切り抜けるのは無理だ。この神殿から出ようにも、入り口はたった今自分達の手で塞いでしまった。
その時だった――。
「「「きれいはきたない、きたないはきれい」」」
と神殿の奥の方から女の様な声が重なって聞こえてきた。
トウマはその声を聞くとゾワッと全身の毛が逆立つのを感じた。それは地獄の底から聞こえてくる、亡者達の呻き声の様にも思えた。
「何だ……今の声は……」
「……!待てヴォルフ!あの声の方には行くな!」
何故かはわからないが本能があの声は危険だと言っている。まさか本当に伝説の魔女がここに?そんなわけはないと思いつつも、トウマは言いようのない不安を拭い切れないでいた。
「アア。アア。やっと来た。やっと来たわ。24645回目の新月と、24646回目の満月を経てやっと来た」
「でも待って。この人が本当に私達のメシアとは限らないわ」
「ううん、きっとこの人がメシアだよ。だってとっても優しい眼をしているもの」
神殿の中は昼間なのに薄暗かったが、中央の部分だけがボウッと行灯の様に光っていた。
よく見るとそれは5メートル四方くらいの巨大な水晶で、その中に三人の女の形をしたナニカが漂っていた。
まさか、伝説は本当だったのか。
あれが、伝説の悪しき魔女なのか。
「オイ、お前ら」
「よせヴォルフ!アレに話し掛けるな!」
「……もしかして引きこもりなのか?」
「……は?」
こいつ、この状況でボケをかますとは。
余程の大物なのか。
それとも本物のバカなのか。
「いや、お前らアレだろ?例の伝説の魔女ってやつだろ?まさか魔女が三人だったのには少しビックリしたけど、そんなとこに引きこもってねーで、たまには外に出た方が楽しいと思うぜ。外には猫もいるしよ」
「ニャー」
「しかもよく見りゃ三人ともなかなかカワイイじゃねーか。瞳の色も綺麗な深紅だしよ。その黒いドレスも『魔法少女ヴァチキャブリ』の衣装みてーでイカしてるよ。ああ、魔法少女ヴァチキャブリってのは俺が着てるこのTシャツのキャラで」
「フフフ、面白いわねあなた。流石あの男の子孫なだけあるわ」
「アン、子孫?もしかして俺のご先祖様のこと知ってんのか?てか何で俺がレーヴェンブルク家のもんだってわかったんだ?」
「あなたがあの男と同じ眼をしているからよ。というより、私達はこの世界のことをある程度は知っているわ。この中にいても人々の声は聞こえていたのよ」
「へえー意外とその中も便利なんだな。もしかして漫画とかの内容も聞こえてたの?」
「ええ、有名なものならね。まあ、漫画は姉さんの方が詳しいけれど」
「やめてよサラ!私が詳しいのは主に薄い本のことだけだし……」
「ん?薄い……何?てかそっちのメガネっ子の方がねーちゃんだったんだな。似てるから姉妹だとは思ってたんだけどよ」
「エミは三女だよー。歳は10歳」
「こらエミ、何万回言えばわかるの。あなたはもう11歳になったでしょ」
「あっ、そうだったー。エミは11歳だよ。ねえねえ、あなたのこと『おにいちゃん』って呼んでもいーい?」
「えっ?おにいちゃん……」
ヤバい。色んな意味でヤバい。
ヴォルフは今完全に魔女の術中にハマっている。
このままでは本当に伝説通り魂を抜かれてしまうかもしれない。
「おい、ヴォルフ!もういい!こいつらの話は聞くな!」
「あなたは口を挟まないでもらえるかしらハンサムさん。私達は今この人と話をしているのよ。それに私達ならあなた達のことを助けてあげられるわよ。今とても困っているのでしょう?」
「……何だと」
「ヘエ、これがよく漫画で見る『悪魔との取引』ってやつか。確かに伝説の魔女ともなりゃ、こんな状況の一つや二つどうにかしてくれそうだよな。でも、お高いんでしょう?」
「フフフ、今ならどんとお安くしておくわよ。出血大サービスで、この世界を統一してくれるだけで手を貸してあげる」
「……ほう」
「何!?」
さっきのイヴァンに続いて、こいつらも世界征服が目的だとでもいうのか。
しかし何故こいつらは。
「悪くない話だが、俺はこう見えて平和主義者なんでね。自分家の庭で猫を撫でながら、漫画が読めればそれだけで幸せってタチなんだが、どうして世界征服がしたいのか理由を教えてもらえねーか?」
「それは今は言えないわ。ただこれだけは教えてあげる。今世界は大きく動こうとしているわ。長年保たれてきた均衡は崩れ、<機鎧大戦>とも言うべき、世界を巻き込んだ大きな戦争が起きる。これは誰かがこの世界を統一するまで終わらない。あなたが猫を抱きながら漫画を読む生活を守りたいなら、あなたが世界の王となる意外に道はないわ。さあ、あなたにできる選択は二つだけよ。何も言わずに私達と取引するか、このままここで死ぬかよ」
「……わかった。取引しよう」
「!ヴォルフ!」
「何も言うなトウマ。どの道このままじゃ俺達は、あの変態姉弟に殺されるだけだ。それしか手がなくて1%でも勝機があれば、迷わずそれに賭けるのが男だろうが」
「……しかし」
「どうやら商談成立のようね。では早速私達と奉刻をしましょう。そうすれば私達を覆っている、この封印は解けてなくなるわ」
「奉刻?お前ら機人なのか?てか私達って……」
「フフ、私達は普通の機人よりも少しだけ特別なのよ。私達は三人で一つの機鎧になるの」
「は?」
「何っ!?」
三人で一つの機鎧。
そんな話聞いたことがない。いや、だからこそ伝説なのか。
だが、それは相当な。
「なるほどな。確かにそりゃ特別だ。でも三人いっぺんに奉刻となりゃ、それなりにリスクもデケェんじゃねーのか?」
「察しがいいわね。確かに少しリスクはあるわ。私達の刻日は20000日なのよ」
「!」
バカな、20000日だと!約55年じゃないか。
それではこの場を切り抜けられても、もう何年も生きられない。
そういうことか。
だから魂を抜かれると言われていたのか。
「ヴォルフ!」
「20000日っていうと……5年くらい?」
は?
「バカかお前は!55年だ!」
「ああ、そっか55年か……うん、よし、いいぜ」
「は?」
「フ、フフフ、フフフフフフ。いい、いいわよあなた、凄くいいわ。では早速奉刻に移りましょう」
「ああ、本当にあなたがメシアだったんですね」
「ありがとうおにいちゃん!エミおにいちゃんだーい好き!」
「ま、待て!早まるなヴォルフ!それじゃお前は……」
「あなたは口を挟まないでと言ったのが聞こえなかったかしら?」
「うるさい!」
「いや、うるさいのはお前だトウマ」
「!ヴォルフ……」
「同じことを二度言わせんじゃねーよ。例えどんな条件だろうが、それしか手がねーなら俺は迷わずそれを選ぶ」
「でも……それじゃ……お前が……」
「大丈夫だ。俺は多分百まで生きる。なら55年くらいくれてやったって後25年は生きられるだろ」
「そんな……でももし……」
「もしすぐ死んだらそん時はそん時だ。俺は後悔はしねーよ。お前に遺書は渡してあるしな」
「……ヴォルフ」
「では今度こそ奉刻に移りましょう。今奉剣を精製するわ」
「待て魔女!俺が、俺が奉刻する!」
「トウマ!」
「ダメよ。私達はこの人としか奉刻はしないわ。それにあなたはもう核人でしょう?」
「……だが……」
「お前も覚悟を決めろトウマ。俺を信じろ」
「ヴォルフ……」
俺を信じろだと!?ふざけるな!そうやってまたお前は、自分だけが犠牲になって俺達を助けるんだ!俺とカリンがこの6年どんな気持ちで毎日を過ごしてきたと思ってるんだ!
俺はまだ何一つ、お前に返せていないというのに。
カリンが気絶していて、ヴォルフが自分達のために犠牲になろうとしている今の光景は、否が応でもヴォルフと初めて出会ったあの日を、トウマにフラッシュバックさせた。
「「「きれいはきたない、きたないはきれい」」」
「……!」
「「「きれいはきたない、きたないはきれい。さあ飛んで行こう霧の中、汚れた空をかいくぐり」」」
カシャーンと金属がぶつかるような音を立て、三人の魔女の前に輝く奉剣が現れた。柄には『20000』と彫られている。
ヴォルフはその奉剣を掴んだ。
ボガーン
「なっ!」
「よくもやってくれたわねえ!せっかくのお化粧が崩れちゃったじゃない!」
「大丈夫だよ姉さん!姉さんはいつでも宇宙一綺麗だよ!」
瓦礫の中からミハイロフスキーが勢いよく飛び出してきた。
クソッ!もう脱出してきたのか!
いや、今はそれよりも。
「ヴォルフ!」
「トウマ」
ヴォルフはあの日と同じように、トウマの方を見てニカッと笑ってみせた。
そして――。
ザクッ
「ヴォルフー!!!!」
ヴォルフが奉剣を自らの心臓に突き刺すと奉剣は激しい光を発し、瞬く間にヴォルフの胸の中に吸い込まれていった。
すると魔女三姉妹を覆っていた水晶は崩壊し、ヴォルフと魔女三姉妹に、服の上からでもわかるくらい機紋が眩く光りながら、左胸の下辺りに刻まれた。
ヴォルフの機紋は人間の様な形をしており、魔女の長女は獣の爪、次女は死神の鎌、三女はコウモリの翼の様な機紋だった。
そして見る見るうちにヴォルフの金色の髪は透き通る様な白髪になり、金色の瞳は魔女と同じ深紅の瞳となった。
「えっ、何よ今の!?もしかして奉刻!?」
「ええ、その通りよオバ様。ちょっとだけ来るのが遅かったようね。化粧直しにお時間を掛け過ぎではなくて?」
「オバ!この小娘がぁ!」
「いや、サラっていったっけか?お前千年前から封印されてたんだろ?だったらお前のがよっぽどオバサンじゃん」
( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン
「ってーな何しやがんだこのブス!」
( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン
「何をおやりあそばれておられるのでしょうかお美しいお嬢様」
「ニャー」
「ちょっと!私達を無視してふざけてんじゃないわよ!」
「アラ、お待たせしてごめんなさいオバ様、今参りますわ。早速のデビュー戦だけどやり方はわかるわよねヴォルフ?」
「ああ……わかるぜ。まるで生まれてからいつの間にか言葉を覚えてたみてーに、自然とどうすりゃいーかが手に取るようにわかる。いくぞお前ら!」
「ええ」
「は、はい!」
「はーい」
「ニャー」
「我が元に集え、冥府の門を守護する三つ首の番犬にして、死を司る漆黒の悪魔よ。顕現せよ、機鎧銘:ディアベリオス」
ドウン
ドウン
ドウン
瞬時に魔女三姉妹は機鎧化し、一箇所に重なって本当に一つの機鎧となった。
それは正に地獄から這い出た、黒い魔人の様な禍々しい姿をしていた。
「な、何よそれ。フン!どうせハッタリでしょそんなもの!パーヴェル、あなたならヤれるわよね!?」
「任せてよ姉さん!こうなったら四人まとめて掻っ捌いて引きずり出して引っ張って握り潰して交換して塵になるまで愛でてあげるよー!!!」
電光石火の勢いでミハイロフスキーがディアベリオスに突撃してきた。
「絶技『プレストゥプレーニエ・イ・ ナカザーニエ』」
「えっ?」
ディアベリオスはミハイロフスキーの攻撃を優雅に躱すと、右手に持っている鎌でミハイロフスキーの躯体を切り裂いた。
「キャアアッ!……ってアレ?何よ!本当にハッタリじゃないの!」
ビシッ……バキバキバキバキ……バキン!
「おやっ?」
ミハイロフスキーの斬られた箇所にヒビが入り、そこから牙が生えてきて巨大な口となった。
そしてその口はバリバリとミハイロフスキーの躯体を喰らい始めた。
「い、いいやああああああ!!!!!!」
「ね、ねえさああああああん!!!!!!」
「これの説明はもう1章でしたから概要だけ言うけど、あなた達は地獄に落ちて何百年も酷い目にあいます。以上マル」
「そ、そんなああああああ!!!!!!」
「ちゃんと言ってよおおおおおお!!!!!!」
バリバリバリ……バリバリバリ……
「あ、そうだ。ずっと思ってたことあるんだけどよ」
「えっ?」
「オバサン、興奮すると目尻にメッチャ、シワ浮かぶよなw」
「なっ、コ、コスメエエエエエエエエエエ!!!!!!」
最後に満面の笑みを浮かべながらサラが言った。
「それでは、また会う日まで、御機嫌よう」
「ニャー」
「カネボ――」
バクン
冥府の門はミハイロフスキーを喰らった後、スウッと霧の様に消えていった。
後には塵一つ残っていなかった。
「オウオウオウ、オメェなかなかヤるじゃねーか気に入ったぜ!ヨシ、今度オメェとあそこのイケメン兄ちゃんで私が一本描いてやるよ!」
「あれ?あなたそんな性格でしたっけ?えっ、描くって何を?」
「すごーくかっこよかったよ、おにいちゃん!はい、タンポポのお花あげるね」
「あ、ああ、ありがとう。……この花どっから持ってきたの?」
「ガハッ」
「あ、カリン!クソッ!再生が間に合ってねえ!せっかく敵は倒したってのに!」
「私に任せて」
「えっ?」
「『アメイジング・グレイス』」
ディアベリオスが手に持っている鎌を口にあて、サラが演奏と歌を始めたるとカリンの傷がみるみる内に塞がっていった。
傷が完全に塞がったのを確認して、サラ達は機鎧化を解いた。
「これも詳しくは1章を読んでほしいのだけれど、とにかくこれでもう命に別条はないわ」
「そ、そうか!サンキューな、助かったぜサラ!」
「フフ、こちらこそ」
「ん?」
「とは言えその子もまだ一命を取り留めただけで予断は許さないわ。この国にはまだ沢山敵兵力もいるんでしょうし、残念だけど一旦この国は出てどこかで身を潜めるべきでしょうね」
「ああ……それなら特に当てはねーが、このまま森を南に抜けて南下してってみるか」
「う……ん……」
「おお、カリン!目が覚めたか!」
「ん……ヴォルフ……無事だったんだ」
「ああ!こいつがお前のこと助けてくれたんだぜ!」
「えっ?あ、あなたが……」
「初めましてカワイイお嬢さん。私はサラ。これからよろしくね」
「ハ、ハイー!あ、あの……あなたのこと……サラお姉様って呼んでもいいですか?」
「んっ?フフ、本当カワイイ子ね。好きになさい」
「ハイー!サラお姉様ー!!!」
「ニャー」
実の妹が大きく道を踏み外す場面を目の当たりにし、何とも言えない気持ちになるトウマだったが、それよりも何よりも、身命を賭して守ると誓ったヴォルフのかけがえのない命の刻を守れなかった自分自身が、トウマは心の底から許せなかった。
「そんな顔すんなよトウマ。俺は微塵も後悔しちゃいねーよ」
「ヴォルフ……」
「俺が辛いことがあるとすりゃ、今お前がそんな顔をしてることだけだ」
「……ふっ、お前ってやつは……」
その後ヴォルフ一行がカツェレーネ王国を南下しつつ、途中山賊に襲われながらもそれらをバッタバッタと返り討ちにし、『砂上の享楽』と呼ばれるベラルジオ王国にたどり着いたところから物語は動き出す。
第二章 三人の魔女 完




