第11話 終戦
ディアベリオスが黒い魔人。
途中から薄々感じていたがやはりそうだったのか。
はたしてヴォルフ達は何なのだろう。何故誰もできたことのない『合体』などということができるのだろう。
モニターに映ったヴォルフ達は中央のシートにヴォルフ、ヴォルフに向かって右のシートにカヤ、後方のシートにサラ、左のシートにエミ、ヴォルフの肩にトラという配置だった。
「ヨッシャア!このヤローにイッパツブチコんでやれヴォルフ!」
「フフ、姉さんも普段からこれくらいハキハキしててくれれば私も楽なんだけど」
「タンポポタンポポ~」
「ニャー」
「おーし、やるぞお前ら。これで最後だ。エミ、アレ頼む」
「タンポポー!いくよー、『真夏の夜の夢』」
ディアベリオスは天高く飛び上がると翼の先を巨人の大群に向けた。
すると各々の翼の先から計六本のドス黒いレーザーが射出され巨人を次々と薙ぎ払っていった。
それは地獄の釜の中で、のたうちながら溶けていく亡者達を見ているようだった。一瞬であれだけいた大群は一匹残らず全滅した。
これが黒い魔人の力か。格が違い過ぎる。
「あ……あ……俺のチャック・ア・ラック達が……ゆ、許さねえ……許さねえぞお前らぁー!!!この技を見せるのはお前らが三人目だ!俺のとっておきの切り札を見せてやらー!アルゴース!!」
「はい、ボス」
「『トラントエカラント』!」
ゴゴゴゴゴゴと地面が大きく揺れ、何が起きたかと思えば砂中からチップで作られた超大型巨人が現れた。その大きさは優に100メートルを超えていた。
そんな、バカな。
ウェンゼルはただ啞然と太陽が隠れる程の巨体を見上げていた。
「姐御、頼んます」
「しゃーねーな。後でトウマと絵のモデルになれよヴォルフ。『ファウスト』」
ディアベリオスは巨人の周りを超高速で旋回しながら、左爪で巨人の全身を容赦なく切り刻んだ。最後に超高高度の上空に飛び上がり左爪を天に掲げると、爪が更に一回りデカくなった。そのまま地上に落下しながら、その爪で巨人の脳天から尻までを一気に引き裂いた。巨人の身体は真っ二つに割れ、ガラガラと音を立てながら脆くも崩れ去った。
「ポッカ―ン」
ベルメスは遂に自分の口で『ポッカ―ン』と言ってしまった。現実が受け入れられないのか目はどこか虚ろで、優雅に、とても優雅にチョビ髭を撫でていた。
ディアベリオスはゆっくりとバーデン=バーデンに近づいていった。
「ヒイッ!よ、寄るな、来ないでくれ!悪かった、俺が悪かったから!降参するから命だけは助けてくれ!」
「本当か?」
「ああ本当だ!もう二度と悪さもしない……とでも言うと思ったかバカがあ!」
バーデン=バーデンは僅かに残ったチップでナイフを作り、ディアベリオスに突進していった。
「サラ」
「ええ、絶技『プレストゥプレーニエ・イ・ ナカザーニエ』」
フォオン
とディアベリオスは持っている鎌でバーデン=バーデンを袈裟斬りにした。
が。
「ぎゃあああ……って、アレ?何だ?かすり傷一つ付いてねーじゃーか。ハハハ、ただの虚仮脅しかよ!この――」
ビシッ……バキバキバキバキ……バキン!
「えっ?」
バーデン=バーデンの斬られた箇所にヒビが入り、そこから牙が生えてきて巨大な口となった。
そしてその口はバリバリとバーデン=バーデンの躯体を喰らい始めた。
「なんじゃこりゃぁああああああ!!!!!!」
「先程この笛があなたを死に誘うと言ったでしょう?まあ今は笛というよりは鎌だけどね。この鎌の名前は『ディツァウバーフレーテ・フロイデ』。これで斬られた者は、善人なら全く無傷で済むわ。ただ重い罪を犯していた場合は、その口が冥府の門となってその者を地獄に誘うの。地獄では罪の重さの分だけ、延々と凄まじい責め苦を受けることになるわ。あなたの場合はざっと見積もって、そうね……500年てところかしら」
「ご、500年!ふざけんな!俺はそこまで悪いことはしてねーぞ!俺は分相応な力の使い方をしただけだ!力を持ってるやつは何をしても許されるんだよ!」
「でもお前俺らに敗けてるじゃねーか」
「えっ?」
「つまりお前は大した力は持ってなかったってことだろ?じゃあお前の理屈だとお前は何も許されねーよ。本当に強い力を持ってるやつってのはその力をむやみに人に使わねーもんだ。まあ人生勉強も兼ねて、地獄でじっくり反省してこいや」
バリバリバリ……バリバリバリ……
「い、い、い、嫌だああああああ!!!!!!助けてくれ助けてくれ死にたくない死にたくない!!アルゴス!お前もボケッとしてねーで俺を助けろ!!」
「はい、ボ……って助けられるわけねーだろ!!お前のせいで俺まで巻き添え食らったじゃねーか!!頼む!俺はこのボケに唆されただけなんだ!こいつのことはどーでもいいから俺だけでも助けてくれ!!」
「なっ、てめえ!」
アルゴスメッチャ喋るやん。
お前は『はい、ボス』しか言わないキャラじゃなかったのかよ。まあ今更どうにもできないだろうし、仲良く二人で逝っといでよ。
バリバリバリ……バリバリバリ……
「あああああああああああ!!!!!!」
「あ、そうだ。ずっと思ってたことあるんだけどよ」
「えっ?」
「そのチョビ髭、クソダセェなw」
「なっ、うわぁああああああああああああああ!!!!!!」
最後にとても妖艶な笑みを浮かべながらサラが言った。
「それでは、また会う日まで、御機嫌よう」
「ニャー」
「ちょま――」
バクン
冥府の門はバーデン=バーデンを喰らった後、スウッと霧の様に消えていった。
後には塵一つ残っていなかった。
ヒューパーン、パンパーン
突如国中で花火が上がり始めた。そして例の機械音声が聞こえてきた。
『これにて終戦となります。勝者はヴォルフ軍です。兵士のみなさんお疲れ様でした』
どこか間の抜けたアナウンスにウェンゼルは思わず苦笑してしまったが、これで終わったのだという実感が湧いてくるとグレール達の顔が浮かんで涙が溢れそうになった。
「ゴル!しっかりしろゴル!」
フィン王子の声で我にかえると、ゴルは地面に寝かされてハアハアと声にならない声を上げていた。
マズい!ゴルのことを忘れていた!
機人は肉体の再生能力が凄まじく、死なない限りは例え四肢が切断されようが、一週間以内に元の身体に再生すると聞いたとこがある。
ウェンゼルの母親も昔左腕を切断する大怪我を負ったことがあったが、数日で元通りに腕が生えていた。だが、今のゴルは右の脇腹を喰い破られており明らかに危険な状態だった。
するとディアベリオスがディツァウバーフレーテ・フロイデを口にあて、また演奏と歌を始めた。
まさかゴルにトドメを刺そうというのか!?それはいくらなんでも可哀想だ!フィン王子達は脅されて仕方なく従ってただけなんだ!
「やめてくれよサラ!この人達は何も悪くないんだ!」
「『アメイジング・グレイス』」
「えっ」
それはみどりのいえで、みんなでよく歌っていた賛美歌だった。
サラの歌声は澄み渡るように美しく、聴くものの心を優しく包み込んでいった。
「驚くべき恵み、なんと甘美な響きよ
私のように悲惨な者を救って下さった。
かつては迷ったが、今は見つけられ、
かつては盲目であったが、今は見える。
神の恵みが私の心に恐れることを教えた。
そしてこれらの恵みが恐れから私を解放した。
どれほどすばらしい恵みが現れただろうか、
私が最初に信じた時に。
多くの危険、苦しみと誘惑を乗り越え、
私はすでにたどり着いた。
この恵みがここまで私を無事に導いた。
だから、恵みが私を家に導くだろう。
そこに着いて一万年経った時、
太陽のように輝きながら
日の限り神への讃美を歌う。
初めて歌った時と同じように。」
するとゴルの身体がボウッと光ったかと思うと、みるみる内に傷が塞がって顔色も良くなった。
そんな、サラの曲には傷を治す力もあるというのか。
「……ああ……坊っちゃま……私は何を」
「ゴル!ああ本当に良かったゴル!あなた方、ゴルを救っていただいたこと、心から感謝する!」
「この曲が直接傷を治した訳ではないわ。この曲は対象者の身体に流れる時間を一瞬だけ数千倍に早めることができるのよ。つまりその人の肉体は通常の数千倍の再生能力を発揮したの。もっとも、これは機人にしか使えない治療法だけどね。大怪我をしている普通の人間に使ったら逆に一瞬で死んでしまうわ」
ディアベリオスはそんなこともできるのか。
つくづくヴォルフ達の特異さに背筋が寒くなった。これもサラの言っていた機人の可能性の一つなのだろうか。
「よし、んじゃ新元首として国民達にいっちょ挨拶でもしてくっかな」
「ニャー」
ヴォルフがそう言うと、ちょうど西の空に夕陽が沈むところだった。
ちなみにこれは余談だが、サラはベルメス達に刑期は500年と言っていたが、それは見積もりを間違っており、実際は1300年だったのだが、そのことはまだ誰も知る由もなかった。




