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ミリア  作者: フジマル軍
一章 名もなき星と夢見た世界
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#6 過去と炎とシンクロと

ここは、どこなのだろう。


目が覚めると、雲一つない青空を、草原の上で両手を投げ出しじっと見上げていた。


「何で、こんなとこにいるんだっけ………?」


なにも覚えていない。なにも思い出せない。

私はどこにいた?名前は?家は?

何かしらのヒントを得ようと周囲を見渡せど、映るのはただ広い草原だけだった。


「とりあえず、探索でもしてみよっかな」


足を大きくふり、彼女は体を起こす。

だがその時彼女は自身の重心に違和感を持った。


肩掛け型のカバンを持っている。アルファベットのAの文字が刺繍されたシンプルなカバン。

なかにはある程度の路銀らしきものと少しの食料、そして汚い字で「ハルト」とかかれた紙が入っていた。


「―――――――――ッッ」


彼女の脳内に、見た覚えのない映像が外から流れ込むようにして浮かんだ。

焼け野原になる町、静かに歩み寄る影、真っ白でなにもない空間。

とても気分がいいものではない。その映像に吐き気の込み上げてきた彼女は思わず膝をつく。


「……大丈夫?」


そこへ声を掛けたのは、黒髪に猫耳と尻尾のついた小柄な少女だった。

どこから現れたのかは分からないが彼女は少女を見た途端に全力で抱きついていた。


「苦しい……」

「ご、ごめんね!?わ、私の方は大丈夫だよっよ!」

「そう………なら、バイバイ」


彼女は、自分でもなぜ抱きついたのか訳がわからず動揺して慌てふためいていたが、対し少女はそっけのない態度でそそくさとその場を去っていった。


「誰だろう、なんか冷たい子だったな………、いやでもそれよりこっちだ」


残された彼女は服についた草を払い、カバンの中身の見落としがないか確認し、先程は何故か気が付かなかったがあの少女のいた方角、灰色の壁の様なものを目指し向かって行った。




――――――――――――




「にしても、随分と大きな壁?だなぁ」


目的地にたどり着いた彼女は遥か空までそびえ立つほどの壁を見上げ感嘆を溢す。

そこへ壁を反射してか強風が彼女に突きつけられる。

その風で髪が乱れるのを嫌いひとまずフードを被る事にした。


「君!こんなところで何をしている!」


そんな彼女の元へ壁沿いを大柄な男が一人駆けて来た。

しかし男はその外見に似合わずあの少女と同様の耳と尻尾が生やしている。


「えっと………ちょっと壁の外側が見たくなっちゃって、かな?」

「そうか、まあいい。もうじき門の扉が封鎖されるから、ついてきなさい」


草原で目覚めた少女には獣耳も尻尾もない。

しかしフードのお陰で誤魔化せたのかこの男が間抜けなのか、彼女はそのまま男に連れられ壁の内側へと入っていった。




――――――――――――




街中では男女問わず皆、猫耳と尻尾がついている。

メインの街道沿いには木製の家や店が立ち並び、人通りはそれなりに多く賑わいを見せていた。




「すいません、ここはどこですか?」

「何だお前、見ない顔だな。冷やかしなら帰れ帰れ」


………………………


「あのー、この辺で黒髪の少女を見かけませんでした?」

「黒髪?そんな不吉なこと聞かないで」


………………………


記憶が無くとも、言葉を喋ることはでき普通に歩くこともできる。

しかしそれ以外はほとんどさっぱりだ、自分が何者でどのような経緯であそこで倒れるまでに至ったのか。

ひとまず彼女はカバンの中にあった唯一のヒントになり得そうなもの「ハルト」と言う言葉を自身と名乗り手当たり次第に色々と聞いて回る。

だが街中では何を訪ねても警戒され、怒鳴られ、追い返され、結果はあえなく収穫ゼロで失敗に終わった。

それでも、なんとか宿の確保は成功した。


「だめだ、もうわけわかんない。ここがどこかって聞いても誰も答えてくれないってどうなってるわけ?……………もうふて寝しよ」


ぶつぶつと文句を言いながら横になって目を閉じると、彼女はそのまますぐに眠ってしまった。






それから数時間後、彼女、ハルトは外の騒がしさで目を覚ます。


「まだ夜だよ………、こんな時間にお祭り騒ぎとは、けしからん………………ッ!」


陽はとっくに沈んだはずなのに、地平線が赤く染まっている。

その光景をを見るやいなや、ハルトは宿から駆け出した。

それは、昼間に見たあの気持ち悪い映像のひとつと似ていた。

原因の場所にハルトがつくと、そこでは業火が立ち上ぼり、元々あったであろう建物の原型はほとんど失われ、近くにいた人々はただ呆然と立ち尽くしていた。

ハルトは冷や汗をかき、その場にしりもちをつく。

怖い。訳も分からず涙がでてきた。




「………ジョーク?」




一言、無意識にハルトはそうこぼした。

彼女の声に一人の男が振り返ると、


「あいつだ……」


ハルトを指差し、小さな声で震えながら呟いたのは、ハルトが昼間に声をかけた男性の一人だった。

その声に、その場にいた全員が彼女へ視線を向ける。


「あいつ、昼間にここはどこだなんて、ふざけたことを聞いてきたんだ……」

「わ、私も、黒髪の少女を知らないかって言われたわ!」

「あっあいつ壁の外側でふらふらしてた奴だぞ」


一人、また一人と便乗するように声が上がり、気づけばその場にいた全員がハルトに注目し罵詈雑言の限りを尽くしていた。

理不尽な理由で犯人に仕立て上げられようとしているハルトを、誰も庇おうとはしない。

それほどまでに彼らは混乱していた。

炎の原因は誰にもわからない。その中で唯一、自分たちと違う異端者、ハルトの存在は疑いの目がかけられる第一人者としては適任だった。


「そ、そんな!私はなにも―――」


反論しようとする彼女に、炎の中から熱風が吹き付ける。

その結果被っていたフードが脱げ、一目で特徴的な耳が見えない事に獣人達の不信感は一層増していく。


「あいつが犯人だ!」

「きっと瞬絶もあいつのせいだ!!」

「引っ捕らえろ!!!」


その場にいた人々は世の悪事を全て押し付けんばかりに声をあげていき、ハルトの言葉に耳を傾けようとする者は誰一人いない。


このままここにいれば、私は何も分からないまま捕まってしまう。

そう思ったハルトはその場から無我夢中に走り出した。

理由はわからないが、体は不思議と軽い。だがそのおかげで追ってくる獣人達を簡単に撒くことができた。

しかし問題は、この壁からどう抜け出すか。

入ってきた門は恐らくまだ閉まっているだろうし、とても越えられるような高さとも思えない。

どうしたものかとハルトが壁に手をつくと、彼女の視界に何かが無理矢理割り込んできた。

突然起きた謎の現象に思わずしゃがみこむと、何事もなかったかのようにそれは消えた。


夢、にしては妙に鮮明な映像、壁伝いに進んだ先に木製の小さな扉があるのが視えた。

訳が分からない、彼女は試しに再び壁に手を当ててみるが何も起こらない。

特殊な条件でもあるのか、色々と試してみたい気持ちはあったが、生憎ハルトには時間もなかった。

いやに明るい街の方から叫び声の様なものが響いてくる。

「……考えても仕方ないか」

彼女はそう小さく溢し、視えたものに習って壁沿いを駆ける。

するとどうだろうか、本当に木製の扉がそこにはあった。

恐る恐る、徐々に近づきつつある声を背に扉を潜ると、そこにはあの本当に何の変哲もないあの草原が広がっていた。


それから、彼女は夜を越すと、失くした記憶を探すためいくつかの集落を周り、そして現在はクアロフ族の集落に落ち着いている。






ある日、自分と似たような境遇の子が現れた。

ハルトはその彼に親近感を抱いたが、同時に恐怖した。

もしかしたら、また悪夢がなにか現実になるのではないか。

あれ以来それらしい事はなかったが、少年を見た瞬間そんな思いがよぎる。

彼女の予想は、不幸にも的中してしまった。


ただし、今はあのときとは状況が違う。

あの炎はバンのせいではない。そう言って信じてくれるのは、今のハルトには一人しか思いつかない。

その一人、ハンスの安否が知りたい。否、安心したかった。

大丈夫、何も問題はない。自分にそう言い聞かせながらハルトは全力で走った。

あの角を曲がれば、いつも通り……………――――――





ハルトはその場でただ呆然と立ち尽くした。

彼女が目にしたのは、半壊した家と何人ものクアロフ族に囲まれ瀕死の状態で倒れているハンスだった。

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