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ミリア  作者: フジマル軍
一章 名もなき星と夢見た世界
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#4 疑問と力と日常と

「そういや、バンは結局何族なんだ?」


ハンスの唐突な質問に,バンは少し黙りこんだ。

成り行きでバンのすむ場所が決まり、まさしくゲームのように都合よくことが進んでいるが、獣人やヨフミの存在など、いまだにわからないことだらけだった。

そんな中、ハンスから質問されたのは、四日目の昼頃だった。


「その、えっと……」

「まさか、『瞬絶(しゅんぜつ)』の生き残りだったり?」

「しゅんぜつ?がなんのことかは分かりませんが、その………、族って言うのはなんのことですか?」


それを聞いたハンスは、一瞬間の抜けた顔をすると、大きなため息を吐いた。

そのまま少しの沈黙が過ぎると、


「もしかしてあんたも記憶喪失か?」

「あんた"も"?」

「ん、ああ、そこのハルトの奴は部分的な記憶喪失らしいからな。自分がどこの生まれか覚えてなくて色んなとこを点々としながらそれぞれの種族の集落を見てまわってるらしい。といっても、もう一年近くここにいるからそれが真実かどうかは定かじゃないがな………」


ハンスはそういい細めた目で窓の外を睨んだ。

二日前、バンはハルトに「プレーヤーかどうか」と質問を投げかけたが、あっさり「なんのこと?」と返されそこで話は終わってしまった。

はじめは彼女もプレーヤーかと思っていたが、そもそもあの場にハルトのような姿の人はいなかった。

知らないふりをしている可能性もあるが、特別そのような怪しい動きもない。

加えて一年もここに住んでいるというのならプレーヤーの可能性はほとんどないだろう。


「んじゃ種族についての説明だけど、この世界にゃ様々な獣人(スレイビースト)の種族がいるんだが、それぞれ集落やら群れやらを作って生活してる。この辺だと、俺みたいに翼の生えてるクアロフ、全員が甲冑をつけてるホーマー、湖の畔に住むヘーネビス、もっと特徴やら他の種族やらもあるけど、全部説明すると日がくれちまうからパスで」

「予想以上にしっかり設定が作られてるんですね」


「え?」


「え?」


「……設定?」


ハンスは先程よりもきょとんとした顔で言葉を返した。

バンは思わずハッとする。


ヨフミの言葉を信じるなら、ここはゲームの世界である。

バンが勇者や英雄のように迎え入れられているならともかく、今はただの居候という形でこの家に住まわせてもらっている。

ハンスは受け入れてくれているが、何か怪しませるような話をすれば、どこの誰ともわからない自分など簡単に追い出されるかもしれない。


「あー…………その、言葉のあやってやつです。それより、ハルトさんは今どこに?」


バンは必死に取り繕う。

彼はどちらかといえば寝覚めのいいタイプの人間だった。今日も恐らく七時頃に目を覚ました。だが、その時から正午あたりを越えてもハルトは戻っていない。


「ハルトなら今はさっき言ったとおり記憶うんぬんでクアロフの集落を見て回ってるよ」

「ただいま~」

「お前、ほんとタイミングいいよな………」

「なになに、なんの話してたの~」


とても殺し合えと言われたとは思えない平和な風景に、バンはここがゲームの中であることをわずかに忘れかけていた。





――――――――――――





慣れてきた。


ゲームの世界に半強制的に飛ばされてから特に大きな出来事がないまま一ヶ月ほどが経ち、バンはハンスの家で特に不自由なく暮らしていた。

多少の家事を手伝い、家の付近の地理はある程度覚える程度には馴れていた。

とは言え、ハンスの家はなぜか集落から孤立しており、近所付き合いなどの問題はない。


「にしても、バン君は属性持ちなのかねぇ」


ハルトがそう呟く理由は、前日の夕食の出来事にあった。





不思議とバンは、この世界に来てから空腹感を一切感じていない。

食事は人並みにあたえてもらっていたが、小腹がすくなどのことは全くなかった。

恐らくこれはゲームの仕様なのだろうとバンは考えていた。

そんなことを思いながら、少年は一人で夕食の支度をするハンスを眺める。

今のハンスは顔がフクロウのように変化し、それ以外は人間と同じ体になっている。

バンが(物理的に)拾われた時と同じ格好である。


獣人は生まれつき、自分の体を部分的に変化させることが出来るらしい。どの種族も、普段は獣耳と尻尾があるような半獣人の姿をしており、理由は人それぞれらしいが、ハンスはその方が落ち着くからだと言っていた。

だが、ハンス含めクアロフ族は腕が翼の方が安定するらしいが、料理などのときはやむ終えず現在のような少し不気味な見た目になる。


「おーいバン、ハルト、飯出来てんぞ!」


ハンスに呼ばれ、二人は席についた。

テレビやラジオはない。恐らく電化製品などは存在しないのだろう。実際にはどうなのかは、この間のように怪しまれぬよう警戒し聞けてはいないが。

しかし頭上にはごく自然に電球が吊るされている。先ほどのバンの予想を裏切るかのように、不自然かつ普通に光っていた。


普段は、どの日も大体ハルトの話を聴きながら、今日はシチューのようなものを食べていた。


「今日ねー、広場のど真ん中でアウルが属性を全開に使って遊んでてね、みんな物珍しさに集落はその話で持ち切りだったよ」


バンも1度だけハンスにつれられて集落の中央広場に行ったことがある。普通の公園ひとつ分ほどの広さがあり、そこを囲むように家や店が広がっている。

合掌造りのような家が主で、独特の風情を感じさせた。


周囲からはいやに冷たい目で見られたが、それはきっとバンがそこでは見慣れないはずの制服を着ていたからだろう。

彼は、外出時は制服に着替え屋内ではハンスの服を借りて生活している。


「そういえば、お二人の属性はなんなんですか?」


ここに来てから、一番始めに浮かんだ問題。

二人の属性がわかれば自分の属性がわかるヒントになるかもしれない。バンはそう算段を立てていたが、二人とも目を丸くしてこちらを見つめていた。


「え、え、俺なんか変なこと言いました?」


ゲームと言ってしまった時と同様の空気感、また地雷を踏んでしまったか。

バンの予想とは違った行動を二人がとったため、言葉に戸惑いを隠せていなかった。


「もしかしてバン君って属性持ちなの!?」


挙動不審となったバンにハルトは食い気味に体をのめりだし、目をキラキラさせながら顔を寄せた。


「ハンスさん!確かこの近くに属性岩あったよね!明日バン君連れてってもいいかな!!」

「属性岩に連れてくのは構わねえがな、さっさと机から降りろ!!」


ハルトは興奮のあまり机の上に足まで乗っかっていた。

バンは今のところこの二人としか接触していないが、NPC(ゲームのキャラ)にしては表情と感情があまりにも豊富で、ここが本当にゲームの世界なのか疑念が深まってくる。


「それとな、バン。お前いい加減敬語やめろ。そのせいで自分家なのに落ち着かねえ」

「私も同感、なんか距離おかれてる気がして寂しいしぃ」


バンは今まで彼らがゲームのキャラだと思い、それなりに心を開いたつもりでいたが、どうやら無意識に避けていたようだ。

指摘されたバンは一瞬間を置いてから口を開く。


「わかりま………わかった」


それを聞き二人は同時に首を縦に振る。

バンは、三人の何かの距離が縮まっていったように感じた。

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