#3 三度と森とフクロウと
日が照りつけ、汗は滴り、喉が乾いていた。
再びの目覚め、少年の意識が最初に認識したのは、木々が生い茂る森の中で大の字になって倒れていることだった。
「頭痛い………、てかここどこだ?」
先ほどまでとはまた風変わりした世界。白い覆面を被ったスーツ姿の女性曰く、名もなき星とか言ってた。
「なんか、ずいぶんと中二臭い夢だったな。てかマジここどこだよ………、えっ、ちょっ嘘だろッ………」
スマホがなかった。それどころかポケットに入っていたティッシュやら家の鍵やらも所持品だけが綺麗にすべてなくなっていた。
「夢じゃなかったのか………?とりあえずあのヨフミとか言うやつの言葉を整理してみるか」
バンは
話を全て鵜呑みにすると、獣人が存在していて、確かなりきることが重要で、そしてそれぞれ個人には属性がある―――――
「……属性ってなんだ?」
ここが本当にゲームの世界ならば、『火』や『水』のようなものだろうか。だとしても、その効果どころか自分の属性すらわからない。
ゲームやラノベでよくあるように頭の中で念じてみても、それっぽいものは何も見えはこず、こうすればいいというものも何も思い付かない。
バンは駄目元で目の前に手をつきだして「えいっ」と声を出すが当然のように何も起こらなかった。
「やっぱり何やってもでないよな。だとしたら……、情報収集するか。友好的な人間を探さないとな。獣人は………なしだ、言葉が通じるかもわかんねえし」
人より少し用心深かったバンは、現状には大きく動じず臨機応変に立ち回ることにした。
「獣人が、何だって?」
「いやー、やっぱ最初は人間でしょ。ケモ耳っ娘とかに興味がない訳じゃないけど、襲われでもしたらたまったもんじゃ…………え?」
どこからか割り込んできた声に反応しバンが振り向くと、そこにはフクロウのような顔をした、だが体は人間のそれである生き物がすぐ後ろに立っていた。
「―――――!!」
獣人と聞きまさかとは思っていたが、突然目の前に現れれば誰でも驚くだろう。バンは声にならない叫びをあげながら前方に転ぶように転がった。その結果、転がった勢いでおもいきり木に頭をぶつけ、そのまま気絶した。
またあの気持ち悪い感覚。これで累計三回目である。
「………なんなんだこいつ」
顔を見るやいなやいきなり騒がれ、勝手に倒れた。
騒がれた身としては、少なくともいい気はしない。
そして何を考えたのか、獣人は軽く頭を掻くとを担ぎ上げ森の奥へと消えていった。
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一日に何回、目を覚ますのか。
寝起きのバンが最初に考えたのはそんな下らないことだった。だがそんな他愛ない事はすぐに彼方へと飛んで行くほどの衝撃が視界に飛び込んでくる。
目の前には三十を過ぎた頃ぐらいの、筋肉質の男性が椅子にもたれ掛かりうたた寝していた。
しかしその腕は人間のものではなく、鳥の翼のような形をしていた。
「ひいぃっ!」
バンは裏返った声で悲鳴を上げた。
肩と翼との境界線は伸びた羽で隠れているが、まるで合成の映像であるかのように異質なのは違いない。
「んあっ、……そんな怯えなくてもとって食ったりしないから安心せい」
「俺食われんの?!」
バンは自分に掛けられていたシーツを握りしめ、後ろ向きに部屋の隅へ行き小さくなった。
よく分からない場所で謎の覆面に殺し合えと言われ、よく分からない場所で目を覚ましては気を失い、よく分からない場所で鳥人間と同じ屋根の下にいる。
一日で既にいろんなことが起こりすぎて、バンはもう半泣きで震え上がっていた。
「あぁもう、落ち着けって。その怯えようを見るとお前さんリレルクス族あたりのやつか?だとしたらなんでこんなとこに……」
「りっ、りれ………え?」
何をいっているのかさっぱりだった。様々な感情と考えが入り乱れ頭の整理が追い付かない。
持ち前の冷静うんぬんは想定外の混乱でどこかへと消えていた。
「……………また変なのがやって来たな。まあいい、俺はハンスってもんだ。適当に覚えといてくれや。ほんとはもう一人いるんだが……」
「ハンスさーん、たっだいまー」
そういって気の抜けた声で扉を開けたのは、ピンクのパーカーにジーンズを履いた、高校生ぐらいの赤髪の女性だった。
人だ。獣人じゃない。でも知らない顔だ。それでもいい。
バンは安心したのか、半泣きから涙が溢れる寸前にまでになった。否、もう溢れていた。
「ちょっとハンスさん誰その子?今にも泣き出しそう、てか泣いてる。………ハッ、まさかハンスさんそんな趣味が」
「ちげーよ!?こいつが勝手に泣いてるだけで俺はなんもしてないからな!!」
「そんな必死だと逆に怪しいよ………君、名前は?」
「ぇ、えっと、バンって言いましゅ…………、言います」
バンは少したどたどしく裏返った声で名乗り、噛んだのは訂正した。
そんな彼をハンスは翼で指し示して補足する。
「…こいつ、多分お前と同じ訳ありだわ」
「なるほど………、私はハルト!バン君、これからよろしくね!」
ハルトと名乗った女性は笑顔で答えた。
それを聞き鳥人間は一瞬でしかめっ面に変わる。
「お前まさか、俺に二人も養わせるつもりじゃないだろうな……?」
「違うの?だって私と同じなんでしょ、まさかこのまま山にでも捨てる気だったの?」
ハルトのやや煽り気味の返しにハンスは翼の腕を組み、しばし考え込む。
「…………行くあて見つかるまでだかんな」
ハンスと名乗った鳥人間の思考の末、バンは居候という形で、獣人と謎の女性の家に住まわせてもらうことになった。