ようこそ、そして、さようなら。
初めましての方は初めまして!
雪兎折太と申します。
読み始める前に、警告をば。
この小説は、即興で書いたものです
そのため、わけのわからない展開、ご都合主義、その他諸々なミスがあると思いますが、
どうか優しく厳しく見ていただけると嬉しいです。
そこは町外れにある森の、
深い深い奥の奥。
一つの大きな木で出来た、
お家がそこにはありました。
怪しい花と、真っ黒カラス。
可愛い子猫も黒色で。
けれどもドアは、白色で、
誰も行けない、不思議なお家。
誰もが知ってる、不思議なお家。
そんな不思議なお家には、
一人のメガネのおばあさん。
そして娘のお姉さん。
さらには息子の男の子。
さあさあそこいく皆々様、
兄ちゃん姉ちゃん旦那様、
綺麗な奥様、お止まりなされ。
ここは不思議な魔女の家。
迷いし仔羊、救います。
魔女の家の朝は早い。
太陽が昇る前から、彼女たちは目を覚ます。
「くあ・・・あぁ〜〜んん…今何時?」
目を覚ましたのは女性、それも若い。
寝服をだらしなく歪め、まだ完全に開ききっていない両眼は、黒目のはずの場所が真っ赤に染まっている。髪は語るまでもなく爆発済みだ。
服の上には慎ましくも成長を感じさせる双丘が、今こそ我ら自己主張せん、と小さな山を作っている。
そんなことは御構い無しにもしゃもしゃと自らの髪の毛をかき混ぜ、冴え切らない頭の電源を入れようとしている、彼女の名は ランカ。
魔女の家に住む16歳の少女で、この家の家事全般を担当している。
「午前3時26分・・・もう少し寝られるよね・・・」
「残念ながらもう起きる時間よそれ・・・」
そんなぁ〜と恨めしそうにランカを見つめてくるのは、幼げな容姿の少年だ。
寝服はランカと違って一つの乱れもなく、髪は綺麗におかっぱ頭になっている。
もう少し寝たいと訴える彼の姿は、さながら親に駄々をこねる子供のようだ。
しかしよく見ると彼の眼はランカと違い青色に染まっている。セルリアンブルーが淡く輝く両眼に涙を浮かべ、盛大に欠伸をした後、眠気に任せてそのまま二度寝しようとする。
すぐさまランカに止められ、ふてくされている少年の名は、ロゼ。
魔女の家に住む10歳の少年で、ランカの弟に当たる。
この家の事務、経営を担当している、縁の下の力持ちといった存在だ。
そして、その二人の部屋にゆっくりと近く気配が一つ。やばっ、と二人はあわてて背筋を伸ばし、その気配の到来に備える。
かたっ、ぎしっ、かたっ、ぎしっ、
と、木を叩くような音と軋む音が交互に聞こえ始め、だんだん大きくなり、そして止まる。
ガダァンッ!! と、不意に扉が開き、
「なんだい、起きてたのかい二人とも。」
と、にっこりと笑顔を浮かべて二人に声をかけたのは、一人の老婆だった。
銀縁の眼鏡をかけ、黒いフードを被り、木を加工して作られた杖を持ち、いかにも魔女といった風貌の老婆は、まだ起きたばかりの二人に告げる。
「今日は一人お客さんが来るよ、用意しなさい。」
笑みを崩さず、ゆっくりとかつはっきりと言葉を発する老婆に対し、ランカはえぇ〜と不満をこぼす。
「たったひとりぃ〜?少ない少ない!それぐらいなら今起きる必要無いじゃーん!」
「そうだよ・・・もう少し寝てようよおばあちゃん・・・」
寝させろ寝させろと片や寝たそうに、片や眠そうに抗議した二人に対し、おばあちゃんと呼ばれたその人はそれでも微笑みながら、
「だ、め。」
審議拒否。まごうことなく一刀両断。
バッサリと二度寝の未来を断ち切られ、渋々と起床する二人を尻目に、老婆は部屋を去った。
老婆の名はメリア。この魔女の家の主にして、ランカとロゼの祖母である。
年齢は78歳。瞳の色はダークブラウン。二人の孫に反して眼の色は比較的普通であり、本人も普通の人間だ。
黒いフードローブから覗く髪は白く、魔女の家と呼ばれる割には、性格も温厚で、万人を愛し、偏見も差別もしないという聖女のような性格。
しかし彼女の夫、デラィオはれっきとした魔法使いであったため、みんなは彼女のことも魔女だと呼び、迫害する人もいる。
彼女本人は魔法を使うことは全くできない。しかし、魔法使いとしての知識や魔法道具などは持っているため、ランカとロゼからは魔法使いだと思われている。
そんな彼女たちの言う「お客さん」とは、この魔女の家に招かれた、悩みを持つ人間のことである。
魔女の家は一般人に疎まれており、魔女に頼るのは最大の禁忌、とまで言われている。
しかし人間とは悩みを抱える生き物であり、その悩みが命を食らうこともある。
そんな悲劇を防ぐためにメリアが始めたのが、メリアの夫、魔法使いデラィオが残したこの家を使った、悩み相談所である。
相談所の評判は正直あんまり良くない。理由は魔女がやっているから、ただその一つだけだ。
たまに来る客も見物感覚なのがほとんどで、まともな悩みらしい悩みは今まで一つもない。
ビラ配りや宣伝もしたが、鳴かず飛ばずであった。
そんな祖母の思想を是とし、ランカとロゼは両親の反対を押し切り、自らこの家に住ませてもらうことを頼んだ。
メイアは最初こそ反対したものの、修行のためと言い張る二人に根負けし、彼女たちがここに住むことを許可したのである。
以来、二人はメイアにとって非常にありがたい存在となっいる。今やかけがえのない、世界で最も大事な二人の孫だ。
「おばあちゃーん、朝ご飯できたよー」
すっかり目を覚ましたランカが、台所のトースターから取り出したトースト三斤と、ブルーベリージャムの瓶を持ってリビングにやってきた。
魔女の家は2階建ての木造の家であり、1階にはリビング、台所、トイレ、風呂の4部屋。2階には三人の個室
がある。ちなみにランカとロゼは同室である。
「ありがとうよ、ランカ。」
「はいナイフとフォーク。ロゼー!あんたもさっさと降りてきなさーい!」
後半は未だ2階で睡魔と戦いながら布団を直しているロゼに向けたものだ。姉からのメッセージが聞こえたのか、とたとたという音が聞こえ、ロゼが姿を現した。
「姉ちゃんうるさい・・・おかげで頭痛い。」
「頭痛薬置いといたからそれ食べ終わったら飲みなさい。」
本当に痛いならね、と釘を刺し、自らも席に着くランカ。頬を膨らませ、むーっと姉を見つめるロゼ。そのやり取りを微笑ましく見守るメリア。
「さあ、食べましょう。今日のトーストは自信作なんだから!」
「ただ焼き加減がいつもより良かっただけでしょ」
「なんだとー!?」
「ほらほら、喧嘩は後にして早く食べましょう。せっかくの朝ごはんが冷めてしまうわ。」
はーい、とロゼ。まったくもう!とランカ。
パンパン、と両手を合わせ、いただきます、と斉唱し、トーストに手をつけ始める三人。
魔女の家の、いつもの一日の始まりである。
昼頃。
「ちょっとロゼ!ファスナーはちゃんと閉めてって言ってるでしょ!あーもう洗剤も切れてるしってうわああああああムカデええええええ!?助けて!助けてロゼええええええ!!!」
「うるさいなあもう!?こっちだって今忙しいんだよ空気読めよバカ姉!食費がこれだけで水代がこれだけで次の納金日がこの日だからそれまでにこのくらい稼がなきゃならないわけで・・・
うわああああ足りねえええええええ!!」
ベランダで洗濯物と格闘して足元にいたムカデに気づき悲鳴をあげる少女と、リビングで十露盤を高速で弾き、ペンを高速で動かして計算しながら、こちらも悲鳴をあげる少年。
魔女の家の昼はだいたいこんなもんであり、大抵はメリアが来て解決するので全く修行にならない。
「ロゼ!ロゼぇ!虫除け、虫除けとってええええ」
「うるっさいなそんくらい自分で取りに行けよ!
この日までにあと500は薬を売らないと・・・いやそれは無理だ現実的じゃない」
「はやくはやくはやくはやくギャアアアアア!!こっちきたああああああ!?」
「だあああもおおおおおうるさいうるさい!!」
計算を後回しにして自分を助けるよう大粒の涙を流して懇願する姉を余裕のない表情で跳ね除ける弟。
ロゼがやっているのは家計簿のまとめ作業と、来月の出費の計算、それに伴う経営方針の立案である。
魔女の家の主な収入源は、薬剤師をやってるメリアの薬を、町まで行って販売する露天商である。
「畑とか、作ってればよかったねぇ」
ふらっとリビングに現れた祖母の声を聞き、凄い速度でグルンッと振り向き、その勢いのままロゼは質問する。
「おばあちゃん!薬の在庫は!?」
「560はあるよ」
よっし!とガッツポーズするロゼだが、先ほど自分で不可能と決めつけたことを思い出し再び落胆する。
ベランダの方でも祖母の声が聞こえたのか、ギャーギャー言っていたランカが祖母に叫ぶ。
「おばあちゃん?おばあちゃんいるの!?助けて!ムカデ!ムカデがあああああ!」
女神が来たとばかりに祖母に助けを求めるランカ。
やれやれとため息をつき、メリアはベランダへ赴き、自分が調合した虫除け粉薬をムカデに対して振掛ける。するとムカデは一瞬ピクンっとはね、(この瞬間ランカもひぃっ!?と飛び上がっていた)その進路を180度転換し、森の中へと戻って行った。
「ありがとうおばあちゃん・・・」
涙目になるランカの頭をよしよしと撫で、ついでに持ってきた洗剤を渡して部屋に戻るメリア。その後ろ姿にランカはふと気になったことを尋ねる。
「そう言えばおばあちゃん、今日のお客さんってどんな人なの?」
尋ねられたメリアは穏やかな笑みを浮かべ、ランカに振り向き、
「まだ内緒だよ」
とだけ残し、再び背を向けてベランダを去った。
夕方
昼のちょっとした騒動のあと、2階にある自分の部屋でメリアは本を読んでいた。この家でメリアが義務付けられていることは正直あまりないので、暇になることがしょっちゅうなのだ。
一冊読み終わり、次は何にしようかと本棚から選んでいると、
こんこんっ、と門戸をたたく音がした。
「おや、お客さんが来たようだねぇ」
そう言うとメリアがゆっくりと腰をあげて玄関に向かう。
魔法使いデラィオが残したのは、家だけではない。彼の発明した、様々な魔法の道具も一緒にこの家に残っている。そのうちの一つが、「来客予言水晶」だ。
文字通り来客とその時間を予言するこの水晶は、悩み相談を開くのにうってつけな道具なのである。
これのおかげで、相談者が来たのに三人ともいない、なんで事態は避けられるのだから。
階段を降り、客の元へ向かうためにリビングを通る際に珍しく仲よさげに話しているランカとロゼを見かけた。
「どんな人だって?」
「さあ・・・内緒なんだって」
「まあ今にわかるか」
「だね」
二人がぼそぼそと内緒話をしているのを横目に通り過ぎ、玄関にたどり着く。
覗き穴から見ると、そこには一人の若い青年が立っていた。年はおよそ20代、体格はやや痩せ気味で、髪はショートの黒色。良くも悪くも普通といった感じの青年だ。落ち着かない様子で、何度も扉と足元と視線を往復させている。
服は泥で汚れており、青年の息は荒く、肩を大きく上下させている。
扉を開けると、青年は一瞬驚愕の表情をメリアに向けたが、すぐに思い詰めたような様子になり、目を閉じて俯いた。
「ようこそ、魔女の家へ。ご用件は何でしょうか?」
メアリが優しく尋ねると、青年は全身を震わせてこちらへ顔を上げる。その顔は、一言で言うなら恐怖で満ち溢れていた。今にも泣きそうな青年は、特に震える右手を左手で抑え、無意識のうちに早まった呼吸を抑え、そして口を開いた。
「私に、人殺しをやめさせてください」
ある平凡な町に、男がいた。
男には愛する人がいた。
男はその人に交際を申し込んだ。
その人は快くそれを受け入れた。
二人は幸せに暮らすはずだった。
ある日、その人は男を裏切り街を去ってしまった。
彼はひどく落ち込んだ。
何もかも投げ出してしまいたくなるほどに
そんな男を支えてくれた女性がいた。
男はその人に惹かれ始めた。
二人は一緒に暮らすようになった。
しかし、女性は他の男と付き合い男を捨てた。
男はひどく悲しんだ。
涙が出ない日はないほど悲しんだ。
半年が過ぎて、それでも悲しみが言えない男を
慰めてくれる人が現れた。
男は、生涯をその人に尽くすと決めた。
だが、男は知ってしまった。
その3人の女性は、同じ人であったことに。
怒り狂う男は、女性を殺してしまおうと思った。
自分の気持ちを弄んだこの人を、許せないと。
それでも、男は思い出したのだ。
1度目も、2度目も、優しい言葉をかけて立ち直らせてくれたその女の人の顔を。
男は街から逃げ出した。
その人を殺めてしまわないために。
すると、女性は男を追って街を出た。
その後、その女性の顔を見るたび、男は女性を殺めたくなってしまった。
その度に辛うじて凶行を止め、女性のいないところに逃げ出し、女性もまたそれを追う、というサイクルが出来上がってしまった。
このままでは、いつか我を忘れて女性を殺めてしまう。
自分の魔の手から女性を守るため、彼は最後の街と決めたところで、そこにいる魔女に頼ろうと決意した。
「・・・というわけなんです」
事の顛末を聞いたメリアは、どうしたものかと頭を悩ませた。
人の殺意というものは、そう簡単には消せないものだ。人の心というものは、人間が思っているほど単純にはできていない。
「お願いです、私を、私を殺してください。彼女を殺さないためには、僕が死ぬしか」
声を震わせながら頼む彼の顔は青ざめており、またいつ自分が殺意に目覚めてしまうのかと怯えているように見えた。
実際そうなのだろう、この家に入ってから、壁にかかったナイフや、ベランダにとぐろ状にしておいてあるロープ、果ては植木鉢にすらの一切目線を向けようとしなかった。凶器になりそうなものを一切自分の視界に入れまいとするその姿は、何も知らない人が見れば滑稽で、知っている者が見れば、とても痛々しいものであった。
「落ち着いてください、ここであなたが死んでしまっては、その女性も悲しむでしょう」
「あの人はまた新しい男を捕まえるはずだ。だから私一人が死んだところで、あの人は不幸になんてならない」
顔を俯かせ、認めたくないですが、と話す青年。
両眼からは涙が溢れ、時折首を横に振っている。
「僕は殺人者になりたくない、せめて普通の人間として死にたいんです。それに、あの人はかつて僕に優しく接してくれた。あの人を衝動のままに殺すなんて、僕はしたくない」
嗚咽を繰り返し、途切れ途切れに言葉を紡ぐ青年。
「・・・まだ、愛しているんですか。彼女のことを」
「・・・わからない、わからないんだ」
再び首を横に振る青年。震える両手をきつく握りしめて、顔を上げて、メリアの方を見ながら でも、と言う。
「あの人を見かけるたび、殺したくなるたびに浮かぶんです。今まで一緒に過ごした、あの人との時間が」
その度に心が揺れ動き、殺人をやめることができていたのだと、青年は語った。
「僕も本当はあの人と一緒にいたい。けど僕はこんなにまであの人を憎んでしまった。そんな男だったんですよ僕は。
あの人を愛する資格なんて最初からなかったんだ」
涙ながらに話す青年の膝下は、既に大量の涙と幾つもの切り傷で汚れていた。恐らくは、彼女から逃げつつこの家に来たため、服を変える暇がなかったのだろう。
(どうしましょう・・・いつもなら一度お帰りいただいて、落ち着いた頃にもう一度来てもらうのですが)
いかんせんこのまま返してしまうと彼女と鉢合わせしてしまったら大変だ。さりとてこの状況から答えは導けそうにない。
手詰まりなのか、己の未熟さと浅ましさを呪ったメリアがそう思った時。
「そんなことないよ」
はっと顔を上げると、ランカがいた。
手には薄く赤い色をした水晶玉を持っている。
「話を聞いていたんだろう?僕にはもう死ぬしか選択肢はないんだ!それとも君はみんなみたいに理想論を言いに来たのかい?」
皮肉交じりに言葉を荒げるその様に、ランカはしかし、落ち着いた様子でゆっくりと青年の方に歩みより、水晶玉を置いた。
「これはなんだい、僕をからかっているのかい?」
「いいから見てみなよ」
見上げるとロゼもそこにいた。どうやら二人で何かやっていたらしい。
青年も、メリアも、その水晶玉を食い入るように覗き込む。
その中に映っていたのは。
ある女の人がいました。
女の人は、名家の生まれでした。
ある日、女の人は男の人に恋をします。
男の人は、女の人に告白しました。
勿論、女の人はそれを快諾し、二人は恋人同士になりました。
ところがある日、二人の関係が両親に知られ、
女の人は街から連れ出されてしまいます。
「やめてください!彼の、彼のところに戻して!」
願いも虚しく、女の人は男の人と、離れ離れになってしまいました。
しかし、女の人は諦めませんでした。
家族や警備の監視をくぐり抜けるために変装し、ついに再び愛する人と会うことに成功しました。
会いに行くのはとても大変でしたが、愛する人に会いたい一心で、自分だと気づいてもらえていないのにもかかわらず、女の人は、何度も何度も会いに行きました。
ですがある日、女の人のお父さんが、言いました。
「お前の婚約者はこの人なのだよ、この人と一緒に暮らしなさい」
当然女の人は嫌がりました。
何度も何度も嫌がって、ついには家を飛び出してしまいました。
警備を欺くための変装衣装もボロボロで、しかし愛する人に会うために、女の人は足を進めます。
ようやくあの人に会える、あの人の姿が見えた!
その時、不意に後ろから誰かに手を掴まれます。
婚約者の男でした。
呆れ笑いを浮かべながら、帰らせようとする婚約者の男に、女の人は抵抗するも、男の人とその家族をひどい目に合わせるぞ、と脅されてしまい、帰るしかなくなってしまったのでした。
半年の時が経ち、女の人はとうとう家族を捨てることを決心しました。
自らの死を偽装し、家を飛び出し、ただ、愛する人の待つ街へ。
たとえ自分が誰かわからなくても、やっと、二人は結ばれる。
そう思った矢先、今度は男の人がいなくなってしまいました。
なんで、どうして、ひたすら泣き叫ぶ女の人の目に、
一瞬だけ、男の人の姿が見えました。
何か、事情があるに違いない。
もしかしたら、父と母、そして婚約者だったあいつが何かしたのかもしれない。
私が
「私が守らなきゃ!」
「そんな・・・全部、私の勘違いだった・・・?」
わなわなと震え、膝から崩れ落ちる青年に、ランカとロゼは優しく声をかける。
「あの人は今でもあなたを待ってる。ずっと、ずっとあなたが好きだったのね。」
「それも生半可な愛情じゃなく、深く、そして強い愛だったんだよ。」
貴方にも、彼女にも罪はなかったのだと。
だから、やり直せるのだと。
二人は、青年に告げた。
「でも、私は・・・彼女を殺そうとした・・・」
自責の念にとらわれている青年は、その肩を震わせ、ただひたすら泣いていた。
途切れ途切れに呟き、自らに罰を与えようとするその姿勢に、
メリアが、異を唱えた。
「その罪を自覚しているのなら、その分彼女を愛しなさい。」
はっ、と青年は顔を上げた。メリアは厳しさと優しさを混ぜ合わせたかのような表情で、かつ穏やかに告げる。
「彼女はあなたと共に暮らすことを望んでいる。あなたも、彼女と一緒にいたいと願っている。相思相愛じゃないですか。羨ましいくらいに。」
「私は・・・許されるのか?」
「許す許さないなんて、私達が決めることではありません。本人に決めてもらいなさい。」
そう言って玄関扉の方を指差すメリア。青年はまさかといった表情で扉を見つめた後、跳ね上がるように飛び出し、ドアノブに手をかけ、扉を開ける。
すると、そこには水晶に映っていた、彼の恋人の女性がいた。
「よかったねおばあちゃん!あの二人、うまくいきそうだったよね!」
「そうだねぇ、貴方達のおかげだね、ランカ、ロゼ。」
「それはいいんだけどさ、大丈夫なのかなあの二人」
「何よ、この結末が不服だって言いたいの?」
青年と女性が家から出て行った後、ランカとメリアは彼らの幸せな結末に対して素直に喜んでいた。
青年と女性が玄関を出て、ふと振り返ると、そこにもう魔女の家はなかった。この家の結界とは、強い悩みを持つ者だけこの家に導き、それ以外の者には見えなくなるというものだ。
「そうじゃなくてさ、また親とかにばれたらどうするんだよ。あの女の人、名家の娘なんだろ?とっくに偽装はばれてるだろうし、また連れ戻されるかもしれないだろ?」
「あの二人なら、きっと乗り越えるよ!ね、ばあちゃん?」
孫娘に名を呼ばれたメリアは、自分が見ていた薄い赤色の、先ほどランカが持ってきた水晶玉、「望視の水晶」をじっと見つめていた。
「ランカ、ロゼ、もうこれを使ってはいけないよ」
そう言うと、メリアはその水晶玉を棚の奥へと閉まい、厳重に鍵をかけた。
「え!?な、なんでよ!」
「これは見る者の望みを映す危険な水晶なんだ。人を騙すのにはうってつけってわけだね」
「そ、そんな!?」
「じ、じゃああの女の人は・・・」
驚愕に目を見開くランカとロゼ、とんでもないことをしてしまったのではないかと、その身を震わせる。
「さて、どうなったのだろうねえ・・・」
ため息とともに遠くを見つめるメリア。
泣き出しそうなロゼをなだめるランカ。
魔女の家に、夜の帳が下りる・・・
同時刻、とある街にて。
「お父様、私この人と一緒に暮らします!」
「バカなことを言うな!お前はこの人と結婚しなさい!」
ある親子が言い争っていた。
「親の道具にはならないわ!さあ、行きましょう!」
そう言って、女性は側にいた青年の手を取る。
女性の父親は威嚇するように青年をひと睨みした後、女性に怒鳴る
「私の顔に、泥を塗るつもりなのか!?今まで育ててやった恩を忘れたのか!!」
「泥でもなんでも、好きなだけ塗ったくってやるわ!私はね!」
青空の下で、女性は勝気な笑みを浮かべ、
高らかに宣言する。
「この人と、結婚するんだから!」
完
お読みいただき有難うございましたそしてごめんなさい!
この小説、バトルモノ以外の練習として書いたものなのです・・・やはり慣れないものは難しい!
いや、バトルものに慣れてるわけでもないのですが・・・
それはそれとして、ちょっとはお楽しみいただけるような作品になりましたでしょうか?
ちょっとでも、ほんのちょっとでも「ほお?」と思っていただけると嬉しいです!
本編最初のアレ、あれはあらすじでランカがばらまいたビラの内容です。本編から3〜4ヶ月ぐらい前のことだと思っていただければ。
そのおかげで、ちょっとだけ有名だったみたいですね、あの家は。
あとお気付きの方もいるかもしれませんが、三人の名前の由来は、それぞれ
カサブランカ→ランカ
ローズ→ロゼ
プルメリア→メリア
です、雑・・・
それではこの辺で!またお会いしましょう!