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七話『シャガル・前編』

 なぜか小鬼族(ゴブリン)が忠誠を誓ってから早数日。

 私の目の前には、土でできた家屋に平和な様子で、小鬼族と犬人族(コボルト)共存している光景が見える。


 そこには、小鬼達への嘲りや、犬人達への遺恨など一切なく。

 互いに助け合い、協力して生活をしているのだった。


 さて、なぜそうなったか?

 それは、あの後なし崩しでやるハメになった『シャガル』のおかげなのである……


*****************************************


「あぁうん。

 貴方がたの忠誠は有難く頂くとして、犬人族に関してはどうするのかな?」


 頭を悩ませる案件については、ひとまず脇に置いておいて、騒動の落とし前について再度確認をしてみると、またなんとも予想外の答が返ってくる。


「種族は違えども、我々の族長はシグレイシア様です。

 我々一同は、シグレイシア様の決定に従います!」


 おう…………

 これはもはや逃げ道はないと見るべきか? いやそもそも彼等が跪いた時から、そんな物なかったのか……

 ここまで取り返しがつかないなら仕方ない。覚悟を決めてティラニエ大森林を活動拠点にしよう。

 さて、ここで問題なのは犬人族の処遇だが、お咎め無しでは遺恨が残る。けど皆殺しなんてのは論外だ。


「テメェら! 人間如きに従うだと? 魔族の面汚しが!

 まして、自分じゃ何もしてねえ臆病者のクソガキにとか救いがねぇな!!」


 いい落とし所はないものか? と考えていると最初にイチャモンをつけていた犬が負け惜しみを喚き始めた。

 そんなのに思考を割くのも勿体ないので、落とし所を探して更に思考を加速させる。


「おう! クソガキ! 聞こえてねえのか!

 テメエ如きなら俺様が負ける訳ねえんだ! シャガルだ!!」


 ん? シャガルってなんだ? 少なくとも前世では聞いた事の無い言葉だが……?


「人間相手にシャガルだなど、正気か貴様!?」


 おや? 小鬼族の皆さんは、シャガルが何かを御存知の様子。

 つまり、魔族にとっては常識って事なのか? もしくはこの地域特有の風習か?


「フィー。シャガルって何か知ってる?」


「魔族に伝わる伝統的な決闘という事しか……」


「あぁ、やっぱり魔族の風習だったのか」


「あまり心配はしていませんが、まだ魔術の行使に慣れていないと思うのですが大丈夫ですか?」


「ん〜。まぁ何とかなるとは思うけど、気乗りしないっていうのが正直な所だね」


 馴染みのない決闘方についてフィーと打合せしていると、一匹の小鬼がシャガルについて丁寧に説明してくれた。

 彼によると、シャガルとは遥か昔に戦争で魔族自体が滅びそうになった際、『誓約の神』が余計な血を流さぬよう、代表者達で決闘させた事に由来するらしい。


 シャガルで決まった取り決めは絶対であり、反故にする事は許されない。

 そのため、『誓約の神』に誓いを立て権能を限定利用する事で、絶対遵守の強制力となる。

 また、取り決めに関しては、双方の合意により決定され決着手段もそこに含まれるということだった。


「という事は、必ずしも受けなきゃならないって事はないんだね?」


「そうです。

 けどシャガルを断るっていうのは、オレら魔族にとっては最大の恥です。

 そうなっては他部族からはもちろん。

 同族からも臆病者と謗られ居場所なんてなくなっちまいます」


 おおぅ…………

 受ける義理もないし、断ってしまおうと思ってたけど、それではせっかく忠誠を誓ってくれた彼等に申し訳ない。

 それになにより、今後どうなるにしても、そんな風評が立つのはよろしくない。

 くそ! 合意なんて建前で挑んだ勝ちの強制決闘じゃないか!


「へへ! いいんだぜえ? シャガルから逃げてもよぉ。

 そうしたらどうなるだろうなぁ? テメェだけじゃねえ。

 テメェみたいなクソガキに忠誠を誓っちまったコイツらも笑い者にされるだろうなぁ?」


 あ、ダメだ、コイツ生かしとく理由が思いつかない。

 まぁ、魔術の練習相手ができたと割り切ってサクッと終わらせよう。


「安心しろ負け犬。そんなに煽ってこなくてもその決闘(ケンカ)買ってやる。

 釣りを返せなんてケチ臭い事は言わない。

 その代わりせめて代金に見合った買い物なんだろうな?」


「クソガキがぁ!!

 おい! 雑魚ゴブ共! とっとと準備しやがれ!

 このクソガキに身の程ってのを教えてやる!!」


 犬人に急かされた小鬼が地面に巨大な円陣を描く。

 そしてその周囲に複雑な模様の様な文字の様な物を描き足していく。

 その間も負け犬がなにやら喚いていたが、聞くだけ無駄なのでひとまず放置。

 それからしばらくして、描き終えた小鬼がそこから離れる。


「おいクソアマ! とっとと放しやがれ!」


 バカの言葉に従うはずもなく、確認するように私の方をみたフィーに軽く頷いて答える。

 そこでようやく拘束から解放された犬人が、無駄に自信たっぷりな笑みを浮かべ、円陣の中へ入る。

 それに続いて私も円陣の中へ歩を進める。


「そ、それでは、前例のない事ですがニンゲン対犬人のシャガルを執り行います。

 お互いに賭ける物を提示してください」


「んなもん決まってる! テメェら全員の命だ!!

 そんで? テメェはなんにする? ま、結末はわかりきってんだ。

 どんな要求だろうと受けてやるぜ?」


 そう言って下卑た笑いをする犬人。

 正気か? いや自身の欲望を満たす事しか考えていないのか。

 使える手段は多い方がいいから丁度いい。

 このバカを利用させてもらうとしよう。


「僕からは、犬人族による小鬼族への謝罪と不可侵条約を提示する」


 今後の遺恨をなくすため、賠償まで踏み込みたかったが、他の犬人を見る限りではこのバカに喜んで従ってるという訳でもなさそうだから、まともなのがいることを期待するとしよう。

 まぁ、他にバカがいれば、またシャガルをやればいいだろうしね。


「え〜。

 双方の要求が提示されましたが、よろしいでしょうか?」


「いいぜぇ。どうせこのガキがくたばって終いだからなぁ」


「僕も異論はない」


「双方の合意が得られましたので、これよりシャガルを開始します。

 両者中央で宣誓を行ってください」


「ティラニエ大森林犬人族の族長ディーリ。

 シャガルに敗れた時は、犬人族から小鬼族への謝罪と不可侵条約を結ぶ事をここに宣誓する」


「無所属の人族シグレイシア。

 シャガルに敗れた時は、僕達の命を差し出す事をここに宣誓する」


 進行役? の小鬼に促されるまま中央で犬人と向き合う形で互いに宣誓すると、地面に描かれた陣が仄かに光を発し、鎖状の光が伸びると腕に巻き付き定着する。

 その後、光が空へと向かって伸びた事で光壁で区切られた戦場が完成した。


「なるほど。決着が着くまで外に出られないって事か」


「そうさぁ。テメェに逃げ場なんざねぇって事だ!」


「いや、それは君にも言える事なんじゃないかな?」


「あぁ? 俺様が逃げるだぁ? んな事ある訳ねぇだろ!

 さっきは油断したが、今度はそうはいかねぇ。最初から全力で相手してやらぁ」


 そう言って不敵に笑いながら犬人、ディーリは懐から指輪を取り出す。

 どうやらその指輪が切り札であり、自信の源のようだ。


 そして、私に見せつける様にゆっくりとした動作で指輪を嵌めると、ディーリの全身から禍々しい瘴気の様なものが立ち上る。


 その事象にに対して、私の直感が警鐘を鳴らすのと同時に半ば無意識に鑑定を発動させると、赤光大熊の時の様に情報が浮かび上がってきた。


【???の指輪】

【???の加護がかけられた呪具】

【使用者の???を喰らい身体能力を一時的に強化する】

【効力は使用者の???に依存】


 なんだ? 情報の一部が伏せられている?

 権能とはいえやはり駄女神の加護はこの程度か……

 全ての情報を得られるとまでは思っていなかったが、苦々しい結果に警戒レベルを上げる。


「おぅ、準備はできたか?」


「あぁ、いつでも大丈夫だ」


「そうか。じゃ、すぐには死んでくれるなよ!」


 そう言うとディーリの姿が消えたと思った瞬間衝撃が襲い私の体は光壁に叩きつけられた。


「がっ!?」


「おいおい。この程度も避けられねえのか?」


 嘲る様に告げられ殴られたのだと遅れて気づく。


「んじゃ、次の行くぜ!」


 再びディーリの姿が消え衝撃が襲ってくる。

 それに対して有効な手段を見つけられていない私は、嵐に舞う木の葉の様にされるがままとなる。


「おら! おら! おら!」


「がっ!? ぐっ!? あ゛っ!?」


 来る事を予想して防御を固めるが、種族による身体能力の差に加えて、謎の呪具により強化されたディーリの攻撃に、なす術もなくいたぶられ続けるしかない。


 殴られ続ける内に、何本か骨が折れた感覚があるし、額でも切れたのか血が流れ視界を狭める。

 更に悪い事に、頭を揺らされたせいで眩暈まであるときたもんだ。


 さすがにこのままではマズイか……

 なにか突破口は無いものかと思考を巡らせている私の耳にフィーの声が届いた。


「シグさん! 惑わされないで!

 肉体ではなく魔力を視てださい!!」


「余計な口出してんじゃねぇ!」


 ディーリが反応して吠え、ガムシャラに光壁を殴る。

 まぁ、あれだけぶつかってもビクともていない光壁が破壊される事はないだろう。

 それを理解しているフィーが、挑発して注意を引き付けてくれる。


 これ以上の無様、ましてや助言までもらっているのだから、それを活かせないなどという愚かしさを見せる訳にはいかない。

 知らず昂っていた精神を落ち着ける様心がけ、魔力探知の精度を上げる様に意識を集中させる。

 すると、ディーリの姿がブレて見えた。


 どういうことだ ?一方は実体がある様に見え、もう一方は半透明のようで透けて見える。

 突然の事態に驚くが、それにかまけている場合でもないので、必死に事象を理解しようと頭を回転させる。

 ………………そういうことか?

 ディーリの様子を注視していると、半透明の方が先に動きその後に実体が付いて行くように動いていた。


【アーツ:未来予測を獲得しました】


【スキル:演算能力を所有している為、アーツ:未来予測をスキル:未来予測に変化できます】


【実行しますか? Yes/No】


 やはりそういう事らしい。これで反撃の糸口は見えた。

 だがまだ不慣れな能力だから変化させない方がいいだろう。


【対象の意思を確認しました】


【アーツ:未来予測の変化は実行されません】


【以後変化させる際は世界の法則(アカシックレコード)に干渉して任意変更してください】


 さあ、反撃をはじめるとしよう!

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