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四話『初めての魔術戦』

「それでは、気を取り直して魔術訓練の続きをしましょう!」


 私の暴挙により、暗くなりかけた空気をなかった事にする様に、努めて明るい調子でフィーが告げる。

 それに便乗して、私も心機一転。ちゃんと魔術を使えるようになるぞ! と意気込んだ瞬間、聞いた者に、恐怖を植え付ける様な咆哮が響き渡ったかと思うと、正面の茂みから巨大な熊が姿を現した。


「どうしてこんな所に赤銅大熊(ブラッディグリズリー)が!?」


 赤黒い体毛に覆われ、そこらにある木など、容易くなぎ倒せそうな腕、そしてその先には鋭く尖った爪、目は爛々と獰猛に輝き、唸り声を上げている口元には、私など容易く噛み砕けるであろう牙が並んでいる。

 赤銅大熊というらしいのだが、そんな熊にしろ魔物にしろ聞いたことがない。


 フィーの様子を見る限りでは、対するよりも逃げる事の方が上策のようではあるが、生憎とアチラさんに逃がすつもりはないようで、こちらを捕食すべき獲物として捉えており、油断なくちらを睨んでいる。


「どうやら逃がしてくれるつもりはないみたいだけど、どうしたらいい?」


「私が囮になります。シグさんはその間に逃げてください」


「フィーを置いて逃げるなんてできない!」


「ですが、このままでは共倒れになってしまいます!

 そうなってしまっては意味がありません!」


「なにか方法があるはずだよ!」


 悲壮な覚悟を決めているフィーに食い下がっていると、待たせるなと言わんばかりに咆哮が響く。

そして、巨体にも関わらず俊敏な動作で距離を詰めてくる。


紅蓮の弓矢(フレイムアロー)!」


 フィーが緊迫した調子の声を上げると、空中に炎でできた弓矢が現れる。

 赤銅大熊へ狙いを定め弓を引き絞り、彼我の距離が半分程詰められた時、フィーが矢を放った。

 轟々と燃え盛る矢は、狙い違わず赤銅大熊を捉え周囲に爆音が鳴り響く。

 その余波で舞上げられた砂埃が視界を妨げる。


 初めて見る魔術だが、威力は充分の様に思えた。強ばっていた身体が、自然とほぐれ始めたその時、再度咆哮が響き砂煙を霧散させる。

 そこには、先となんら変わる事の無い赤銅大熊の姿があった。


「ここまで通用しないというのは、さすがに堪えますね…………」


 無傷の赤銅大熊を目にし、苦々し気にフィーが呟きながら、背後へ回り込む様に駆け出した。

 対して赤銅大熊は、まず目障りなフィーを始末しようと狙いを定めた様子だった。

 そんな光景を見ている事しかできない自分が歯痒い。


 またか……。またなのか…………?

 また、私は見ている事しかでかないのか!? なにかできる事があるはずだ!

 そう心が叫ぶが力無き意思のなんと無力な事であろうか?

 目の前でフィーが次第に追い詰められていく様を見ている事しかできないなんて……

 少しでも糸口はないのか? なにか出来ることはないのか?


【条件を満たしました。スキル:智慧の女神の加護の権能が解放されました】


【権能:鑑定を獲得しました】


【権能:直感(シックスセンス)を獲得しました】


【権能:思考加速を獲得しました】


【スキル:集中力向上を獲得しました】


 自分にできる事はなにかないか頭をフル回転させていると、そんな声が頭に響いた。

 その事に何割か思考を割きながらも、現状を打破できる物ではなく、事態は刻一刻と悪い方へと進んでいく。


【条件を満たしました。スキル:智慧の女神の加護の権能が解放されました】


【権能:並列思考を獲得しました】


【権能:高速思考及び、権能:並列思考の獲得により権能:演算能力を獲得しました】


【権能:高速思考及び、権能:並列思考が権能:演算能力に統合されました】


 待てよ? 先程獲得した『鑑定』とやらを使えば赤銅大熊の弱点などがわかるのでは?

 今は悩んでいる時間が惜しいので、私は迷わず鑑定を発動させる。

 すると目の前に半透明の映像が出現し、そこに赤銅大熊の情報が浮かび上がる。


【個体名称】

赤光大熊(グリズリーフランム)


【アーツ】

【絶対強者の咆哮/火炎放射/穿孔爪牙/豪腕一閃】


【スキル】

【絶対強者の威圧/絶対強者の眼光/絶対強者の領域/物理抵抗/紅蓮の加護/身体強化/赤光大熊の鋼毛】


 なんだこれは! そもそも赤銅大熊ですらないとか、なんかヤバそうなアーツやら、スキルやらがあって、絶望感がマシマシでどうしろと!? ええい! 赤光大熊ってのはなんなんだ!

 目の前に現れた情報に狼狽えながら、半ば無意識に『赤光大熊』という名前に意識を集中させる。


【赤光大熊】

大熊族(グリズリー)が火精霊の加護を獲得し派生進化(クラスアップ)した赤銅大熊(ブラッディグリズリー)の特異個体】

【大熊族より強靭な体躯を有し、その体毛は鋼の如く強靭のため強力な物理抵抗を持つ】

【紅蓮の加護を獲得した事により火属性に対して強力な抵抗を獲得】

【反面、赤銅大熊事態が然程魔術に対して耐性がないのは変化していない】


 これだ! 他属性の魔術が不得手なのか、先程からフィーは火を使った魔術を多用している。

 だが、それだとヤツには意味が無い。

 折角掴んだ情報をフィーに伝えようにも、声を掛けて危うい均衡を崩すのは愚行である。

 つまり、私がヤルしかないのだ。まだ魔術の入口にすら立っていない私にできるのか?


 いや、できるできないではなく殺るのだ。

 なに、この程度の逆境なんて、前世では日常だっただろう?

 さぁ、意識を集中させろ。既に攻略法は見つけた。

 そこまで解っていながらしくじるなんて無様、出来る訳がない!

 やるべき事が明確になったせいか、私の口元には知らぬ内に獰猛な笑が浮かんでいた。


 想像しろ。ヤツを確実に仕留める力を秘めた力を。

 創造しろ。歯牙にもかけない矮小な存在と侮った事を後悔させる為の力を。

 イメージは出来ている。後は実行するのみだ!!

 私の意思に呼応する様に周囲の空気がざわめき始める。


 そこで初めて、異常に気づいたのかフィーへの猛攻を止め、コチラに鋭い眼光を向けてくる赤光大熊。

 だが遅い。既に事は成った。ヤツにはもう猶予はない。出来る事は、確実に訪れる破滅を待つ事のみだ!


世界の法則(アカシックレコード)に新たな事象が追加されました】


【アーツ:氷結魔法・絶氷の棺(アイスコフィン)が作成されました】


【氷結魔法・絶氷の棺獲得により、職位:氷魔法使いを獲得しました】


【絶氷の棺発動…………ERROR】


【対象の魔力が不足している為絶氷の棺発動に失敗しました】


【不足している魔力を次元収納に蓄積されている魔力で補填します】


【絶氷の棺発動…………SUCCESS】


 私から発せられた魔力を、危険と判断したであろう赤光大熊が標的を私に移し、迫って来ていたが対処法さえわかれば脅威を感じる程の相手ではない。

 実際、ヤツがフィーから離れたと同時に私の魔法が完成し、ヤツの足元からゆっくりと全身を凍てつかせ始める。

 身体を侵食していく氷から逃れようと暴れ、咆哮を上げるがそれも徒労に終わり遂にはその巨体は決して溶けることの無い氷に覆われるのであった。


 そのまま放置しては万が一という事も有り得る。

 危険は出来る限り取り除こうではないか。そう思案した私は次の一手に着手した。

 氷漬けとなった赤光大熊に近づき、その表面に手を添えると対象を絞り込む為に意識を集中させる。

 何をしようとしてるかって?

 私にできるのは今の所、絶氷の棺以外に一つしかないじゃないか。

 あの時は対象を意識してなかったせいで、広範囲に効果が及んだと仮定し、先程聞こえた世界の声から更なる仮説をたてたのだから、後は実践するのみだろう?


 誰に告げるでもなく思考を散乱させながらも、獲得した演算能力とやらのお陰か、集中が乱されることは無い。私は仮説を実証する為に魔力吸収(ドレイン)を発動させた。

 すると、目の前にあった巨体な氷が見る間に溶けだし、同時に赤光大熊の根源とも言うべき何かを吸い取っている感覚があった。

 フィーと赤光大熊が戦闘を行ったせいで、先程よりも大分荒れてはいるが、周囲にはそれ以上の変化は見られず魔力吸収の影響は受けていないようだ。


【対象の容量以上の魔力増加を確認しました】


【今後は対象の安全の為、魔力吸収によって獲得した余剰魔力は自動で次元収納に蓄積されます】


 想定通りだな。自分の仮説が正しかった事を実証できた私は、自ずと満足気な笑みを浮かべる。

遂にはミイラとなったが、まだだまだ足りない。コイツからはもっと得られる。根拠の無い確信に従い更に搾り取る。


【アーツ:死霊魔法・魂喰い(ソウルイーター)を獲得しました】


【死霊魔法・魂喰いの獲得により、職位:死霊魔法使いを獲得しました】


【アーツ:死霊魔法・魂喰いの発動条件を満たしました】


【アーツ・死霊魔法・魂喰いを発動しますか?Yes/No】


 どんな効果を及ぼすかは分からないが、選ぶまでもないだろう。Yesだ。

 そう選択したとたん、あれ程の暴威を感じた赤光大熊の体が、細かな粒子となりそのまま私の中へ吸収された。


【対象の意思を確認しました】


【死霊魔法・魂喰いを発動させます】


【死霊魔法・魂喰いの効果により『赤光大熊の魂』を獲得しました】


【死霊魔法・魂喰いの効果により、魔力上限が増加しました】


【死霊魔法・魂喰いの獲得及び、赤光大熊の魂の獲得により、アーツ:死霊魔法・憑依を獲得しました】


 これにてようやく、今世で初めての死闘が終わり安堵の息を吐く。

 そうして改めて周囲を見ると、既に暗くなり始めていた。


 死闘後に感じる独特な高揚感はあるが、それから覚めるたら疲労が一気に訪れる事を考えると、先に進むのはやめておいた方がいいだろう。

 フィーと軽く打ち合わせをした後、私達は疲れた体に鞭打って夜営の支度に取り掛かるのだった。

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