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二話『フィーリス先生の魔術講座・前編』

 どうしてこうなった………………

 周囲には草木一本に至るまで枯れ果て、不毛の地と化した広場があった。

 私のすぐ側では、なにか信じられないモノを目にした様子で、呆然としたフィーが立ち尽くしていた。

 あぁ、ホントにどうしてこうなった…………

 始まりはそう、森の広場でフィーから魔術の使い方を教わっている所だったか。


************************************


 洞窟を後にしてから早数日、私達は道無き道を進んでいた。

 人里とはいっても、近くにはネリカだったモノ以外に人里はないのだが、村一つなくなる程の災厄があったのだから、調査団の一つも派遣されるだろう。という事で、魔術のお勉強を自粛していたある日の事だ。


「ねぇ、フィー。

 ネリカから大分距離が稼げたし、そろそろ魔術を教えてほしいんだけどダメかな?」


「そうですね。もういい頃合でしょうし、開けた場所を探して、そこでやってみましょう」


 いい加減焦れていた私の言葉に、ようやっとフィーからの賛同を得られた。

 これまでの道中で完全にお荷物だったから、これで汚名返上というものだ。

 俄然やる気になった私は、期待を胸に足取り軽く先を急ぐのだった。

 そうしてしばらく進むと、待望の開けた場所に出た。


「ここなら大丈夫そうじゃない?」


「そうですね。これぐらいの広さがあれば充分だと思います。少し休んでから早速始めましょう!」


 期待で逸る気持ちを抑えつつ、フィーにお伺いを立ててみると、期待通りの返事が返ってくる。

その後、風が木々の葉を撫でる音や、野鳥の鳴き声を聞きながら少しの間休んだ。


「休憩も取れた事ですし、そろそろ魔術の練習をしましょう」


「うん。よろしく先生」


「任せてください! それでは、まず魔術を発現させる為の過程を御説明しますね」


 いよいよ始まるフィーリス先生の魔術講座に、胸踊らせながら真剣に耳を傾ける。


「簡単に言ってしまうと、魔力を使い世界の法則に干渉して、事象を具現化させる事が魔術の使い方になります。

 使う魔力の量が多ければ、発現される事象も比例して大規模な物になりますが、当然ながらより難易度の高い法則を具現化させるには、要求される魔力量も増加しますので、基本的には適切な量の魔力を使わないと魔力切れを起こしてしまいます。

 また、適切な魔力量に関しては、感覚に依る所が大きいので回数をこなすしかありません」


 そう言いながらフィーは掌を上に向けると、小さな光球を出して大きさを変えたり、明滅させたりと実演してくれる。


「ボクの知る魔術師達は、杖や宝石を使って魔術を行使してたけど、話を聞く限りではその必要性がないように感じるけど?」


「宝石については鉱石魔術の一部ですね。

 これは、一部の鉱石が魔力を帯びやすく、固着できるのを利用した魔術です。

 一度固着した魔術であれば、起動時にごく僅かな魔力を使って発動させる事ができますので、魔術師以外の方でも魔術の行使を可能とします。

 なので戦闘用以外にも、日常で使う事の出来る魔道具の作成を専門にしている魔術師もいます」


「なるほど。それじゃ杖の方はどうなの?」


「それは、杖が世界の法則に干渉ための鍵の役割を担っているからです。

 もちろん無くても魔術を行使できますが、より楽に干渉できるので杖の使用が一般的ですね」


「なるほど。そういえば魔術師って、朗々と呪文を詠唱してるイメージなんだけど、アレも必須なものなの?

 今見せてくれた魔術では、詠唱なんてしてなかった様に見えなかったんだけど」


「必ずしも必要という訳ではありません。

 呪文は法則に干渉する為の補助をする為に詠唱されます。

 高位の法則になるにつれ、より深く法則に干渉しなければならないので、精神集中の補助というのが詠唱を行う一番の理由になります。

 また、どんな魔術なのかをイメージする補助。といった側面もあります。

 ですが、杖や詠唱の意味を知っている者は殆どいないので、必須と思っている方が殆どといった所でしょうか」


「なるほど。大体は理解できたと思う。

 鍵のかかった部屋を強引に蹴破る事はできるけど、開錠する為の道具が杖で集中する為の音楽が呪文って事かな?」


「物騒な例えだと思いますが、大体合ってます。

 さて、座学ばかりというのもつまらないですよね? 早速実践に移りましょう!」


 我ながら物騒な例えをしたものだと思っていたら、フィーが苦笑しながら肯定し、微妙な雰囲気にならぬよう明るい調子でそう口にする。

 いやはやなんと気の利く娘であろうか。

 などと益体もなく感心しながら、いよいよだと思うと一層期待が高まるというものだ。


「まずは、シグさんの中にある魔力を感じられる様になってもらいます。

 ちょっと手荒な方法ですが、許してくださいね?」


 極上の笑を浮かべながら、可愛らしく首をかしげるフィー。

 が、その愛らしさに和む事が出来たのは一瞬だった。


 前世で培った経験からか、第六感が盛大に警鐘をならす。まずいまずいまずい! ナニかはわからないがこのままではまずい! そう思うが、『なに』に対してどう対処すれば良いのかがわからない。

 感じた警鐘に対し、必死に頭を回転させるが、有効な対処手段が見いだせないまま、私はなにか波のような物に飲まれ、そのまま意識を失った。


****************************


「まだその程度なの? 予定ではとっくに次の段階へ移っているのだけど?」


 唐突に聞こえた声に目を開くと、いつぞやの不思議空間で、あの駄女神が偉そうに仁王立ちしていた。

 今思ったのだが、コイツなら私にやり直しをさせるより、自分で手を下した方が早いんじゃないか?


 いやまぁ、私の知らない縛りがあるのだろうというのは、想像に難くないのだが、それでも、抜け道の一つや二つ見つけて実行する。それぐらいわけもないと思うのだが……

 フィーの様な分体で、干渉する事ができるのだから尚更そう感じる。


「申し訳ありません。フィルファリア様。

 非常に重要な役割を仰せつかっていると理解していますので、慎重にならざるを得ず、歩みも遅々としたものになってしまいます」


「アンタの言う通り、とても重要な事をやらせてはいるわよ? にしても、ねえ?

 まぁいいわ。このままだとまた正史から外れてとんでもない事になりそうだし、アンタに加護を与えてあげるわ」


 駄女神が呆れた様子でそう言いながら、気怠げに腕をひと振りすると、私の身体が光に包まれる。


【スキル:智慧の女神の加護を獲得しました】


 なんと!? こんな簡単に神の加護を獲得してもよいのだろうか? いやまぁ、貰える物はありがたく貰っておくが、裏道を使っている気がして少々気が咎める。

 いや、やり直しなんてやっている時点で今更か。


「アンタに与えた加護は、力量や想いに応じて段階的に権能が解放されるようになっているわ。

 このワタクシ様がここまでしてあげたんだもの、失敗は赦さないわよ?」


 駄女神のその言葉を最後に、再び意識が遠のいていくのを感じる。

 しかし、女神の加護を貰えるとは……

 どうやら、私は想像以上に期待されていると同時に、厄介な事へ巻き込まれてしまっていたようだ。

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