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九話『初めての共同作業』

前回までの緊迫感が出せてない戦闘回とは打って変わって、今回はほのぼの回となりました!

文字数はちょっと多めかもですが、さらっと読める様にできていると思いますので、読んで頂けましたら嬉しいです。

 犬人(コボルト)族のディーリとのシャガルが決着した後、私に待っていたのは住居問題だった。

 聞けば、小鬼(ゴブリン)族も犬人族も家という概念がなく、雨風が凌げる洞窟で集団生活をしていたのだそうだ。


 これまではそれで良かったかもしれないが、今は二種族が共同生活を送るにあたって、それでは(いささ)かよろしくない。

 という事で私とフィー、小鬼族の先代族長ヤーデル、犬人族の言葉を代弁したナルアの四人で当面の住居問題をどうするか会議をしているのだった。


 え? 他の小鬼と犬人はどうしてるかって?

 急ぎでやってもらう事も特にないので、相互理解を深めて貰うために食料調達に行ってもらってます。


「にしても(かしら)ぁ。

 やっぱりオレにゃ家ってのを作る意味がわかんねぇんだが……」


「ナルア。族長の決定なのだから黙って従わんか」


「けどよヤーデル。オメェもそう思うだろ?」


「ワシの考えなぞどうでもよい。

 ワシらはただ言われた事をやってればよいのだ」


「いや、それじゃボクが困るよ。

 みんなには、自分で考える事をやめないでほしいと思ってるから」


「ですがシグ様。

 ワシら小鬼族は、頭のデキがよくないのは皆自覚してる事。

 そんなワシらが考えても、いい事があるとは思えないのです」


「それは違いますよ。

 確かに向き不向きはありますが、小鬼族が特別劣っているわけではありません」


「ほら。フィーもそう言ってるし、一緒に考えよう?

 視点が違えば考え方も変わるんだ。

 シャガルもそうだったけど、ボク達じゃわからない事を教えてほしい」


「はぁ。シグ様がそうおっしゃるなら、デキが悪いなりに考えてみます」


「うん。ありがとう」


 納得するまでには至らないけど、そう言ってくれたヤーデルに笑顔を向けながら礼を告げる。

 これで思考停止という一番怖い事態は避けられそうだと、内心一人頷いていると、ナルアが不思議そうな顔をしていた。


「どうしたの? 何か思う所があるのかな?」


「いや、大した事じゃねぇんですが、家を作る場所とか材料はどうするのかと思いやして」


「そうだね。幸い、ティラニエ大森林は人族(ヒューマン)にとって未開の地。

 切り開けば、場所や資材なんかはいくらでも確保できると思うけど、変な場所に作るわけにもいかないし、何があるかわからない。

 だから万一の事を考えると、あまり時間をかけずに済む場所がいいんだけど・・・」


「水辺が近くて開けた場所、更に言うと目立たない場所。

 なんていう都合のいい場所が、すぐに見つかるのは期待できませんからね」


 ボクの考えに同調するようにさりげなくフィーが条件を絞り込む。

 うん。駄女神なんかよりもよっぽど智慧の女神って感じがして助かる。

 などと思っていると、何故かナルアとヤーデルの二人がキョトンとした様子で見返してきた。


「お二人共、どうかしましたか?

 もしかして、場所に心当たりでも?」


「心当たりもなにも、なぁ?」


「えぇ。その条件でしたら、シャガルをされた広場が一番かと。

 あそこから少し行けば川がありますし、赤光大熊(グリズリーフランム)のねぐらが近かったせいで近づく者はあまりいません」


 何を言ってるんだ? といった様子の二人の言葉に思わずフィーと顔を見合わせる。

 そしてどちらともなく、顔に笑みが浮かび頷き合う。


「二人共ありがとう!

 ボクらには土地勘がないから、そういう情報はすごく助かるよ!

 これで場所は確保できたとして、後は資材が問題か……

 念の為聞くけど、どこかに資材があるなんてウマイ話ってあったりする?」


「すいやせん。さすがにそっちの方は……」


「えぇ。ワシらは基本的に洞窟で生活してるので、家を作るっていう考え自体がないので……」


「あぁ、そんなに気にしないでいいよ。

 そこまで都合のいい話があるとは、ボクも思ってなかったから」


 二人にそう言ったはいいが、どうしたものか……

 残念ながら私には、建築技術に関する知識などないが、最低でも木材で家を建てたい。欲を言えば石材で作れたらいいのだが、建築用に石を切り出すだけでどれだけ時間がかかるかわからない。


 ディーリみたいな奴がいつ再び現われるかわからないから、自衛の為も考えるとあまり時間はかけたくないが、この案件に関しては難航しそうだ……

 『三人寄れば愚者が賢者になる』という言葉はあるが、四人集まってもすぐにはいい案が出てこず、揃って一様に思考に耽る私たち。


 一度問題を整理しよう。

 まず問題だったのが、集落を作る為の場所と資材の確保だったが、幸いな事に場所はどうにかなった。

 そこで次の問題は資材に関してなんだけど、木材にしろ石材にしろ今すぐどうこうできる妙案がない。


 資材を集めている時にディーリみたいな奴が現れたら、戦えない者達に被害が出てしまう。それは頂けない話というものだ。

 そのため、時間をかけずかつ、あまり知られる事なく資材を集めるなんて魔法みたいな話は…………


 待てよ……? 魔法みたいな?

 脳裏に閃きを感じた私は更に思考を自身の中へと深く沈める。


 前世が騎士だったせいで、私には魔術がどこまでできて、どこからできないのかはわからない。わからないが、フィーが魔術で石壁を出していなかったか?

 犬人族の捕縛劇をもっとよく思い出してみよう。


 初めは土でできた巨大な手を多数作り、それで捕まえていたが、当然その手から逃れる者はいる。彼らを追い詰める時に使っていたよな……?

 アレを応用することはできないか?


「あ、あの、シグさん?

 そんなに真剣な眼差しで見られると、その、照れてしまいます」


 その白い頬をほんのりと赤く染め、肩先にある髪を所在なさげに弄りながら、フィーが声をかけてくる。


「ご、ゴメン!」


 言われて初めて気付いた私は、思わず謝っていた。

 あぁ、だけど、なんか、こう、イイよね? 美少女が恥じらっている様子って!

 前世の私は自己鍛錬に打ち込んでおり、浮いた話なんて一つもなかっただけに、余計琴線に触れる物があるように思う。


 そんなフィーの姿をもっと愛でていたかったのだが、残念ながらすぐに平静を取り戻したフィーは、『仕方ありませんね』とでも言いそうな感じで、薄く笑みを浮かべ再び思考へと戻った様子だった。


 あぁ残念……。だがなんだ?

 最後のあの苦笑されるのも、中々にイイものではないか?

 きっと私に賛同してくれる紳士は少なくないと思うのだが、いかがだろうか?


 などと気まずさから逃れる為、明後日の方向へ思考が脱線していたが、魔族の二人(ヤーデルとナルア)がニヤニヤしながらこっちを見ているのに気づく。


「な、なにかな? もしかして妙案が?」


「生憎そっちの方はさっぱりで。

 ですが、イイモノを見さしていただきやした。なぁ? ヤーデル」


「えぇ。とても仲睦まじくお似合いだと思いますよ」


「そ、そんなんじゃないよ!」


 二人が揶揄(からか)っているのだという事はわかっていた。

 けど、彼等がそこまで距離を詰めてくれた事が嬉しくて、その揶揄いに乗っかる。


「へぇ? じゃあ、どういった事で?」


「そ、それは、その、まぁ、いいじゃないか」


「ですがシグ様。想いは胸に秘めるだけでは伝わりませんぞ?」


「いやだから、そんなんじゃないんだって」


 本気で言っている訳ではなく、気心知れた者同士で言い合う冗談。

 お互いにそれが分かっているから、何故か生まれた桃色の空気に乗っかって言葉を重ねる。


 うん。いい傾向だ。小鬼と犬人には先の件で多少は遺恨が残るかと危惧していたけど、そんな様子は微塵も感じない。

 それに、私が族長とはいっても一方的な関係は好きじゃない。

 こういった気心の知れた対等な関係でこそ健全だと思う。


 と、そんな事を考えながら男同士でじゃれあっていると、ジト目でこちらを見ているフィーに気づく。

 しまった! 楽しくてやり過ぎた!


「楽しそうで何よりですね?」


 先程赤く色づいた頬を、今度は可愛らしく膨らませなが、らフィーが拗ねた様に言う。あぁ、でも、美少女ってのは何をやっても可愛いくなるんだなぁ……

 などといった場違いな思いを抱くが、そろそろ真面目にしなくてはフィーに申し訳ない。


「ごめん、ごめん。

 資材についてどうにかなりそうだって思ったら、気が緩んじゃって……」


「それはいいですけど…………

 ってどうにかできるんですか?」


「たぶんね。

 それで確認なんだけど、フィーの魔術で土壁を作れるよね?」


「えぇ。岩石の壁(ロックウォール)でしたらできますが、それが?」


「その岩石の壁って一時的な物なのかな?」


「いえ、周囲の土等を利用しているので……ってそういう事ですか?」


「うん。そういう事。この方法なら後は屋根の部分だけ木材を切り出せばいいから、格段に手間は少なくなると思うんだ」


「確かにそれなら大分楽になりますね。

 ですが、そんな発想は普通出てこないですよ?」


「そうかな? けど、それはボクが魔術に精通してないからかもしれないね」


「そうですね。その自由な発想はシグさんの大きな強みになると思います」


「あのぅ…………」


 私とフィーの間でトントン拍子に話が進んでいくが、それについて行けてない二人がおずおずと声をかけてくる。


「つまりはどういう事でしょうか?」


「あぁ、ゴメン。ちゃんと説明しなきゃだよね。でも簡単な事だよ?

 岩石の壁である程度の大きさを持った囲いを作って、その上に屋根を置いてあげれば簡易的にではあるけど、家がつくれるねって事なんだ」


「へ~。魔族でも魔術を使うヤツぁいやすが、そんな使い方聞いた事ありやせん」


「ですな。さすがはワシらの族長様じゃ」


 関心した様子のナルアと、何故か得意げなヤーデル。

 二人に共通しているのは、私を尊敬の眼差しで見ている事なのだが、なんだ?

 自分では大した事ではないと思っている事を手放しで褒められるというのは、こう、むず痒い物がある。


「けど、これには一つ問題があるんだ」


「問題、ですか? シグ様。

 とても理に適った案だと思うのですが、何が問題なのでしょう?」


「現状、岩石の壁を使えるのがフィーしかいない。

 けど全部をフィーにやってもらうのは、さすがに負担が大きいと思うんだ」


「言われてみりゃ、そっすね……」


「うん。だからさ、これを機に素質がありそうな人には魔術を憶えてもらうよ?」


「わかりやした! 食料調達から戻ったヤツから順に何人か見繕いやす!」


「承知致しました。どれだけいるか分かりませんが、あたってみます」


「お願いね。

 それでフィーには悪いんだけど、ボクを始めとして集まった皆に魔術を教えてくれないかな?」


「お安い御用です! 気遣いありがとうございます!」


 そう言って鮮やかな大輪の華の様な笑顔を浮かべるフィー。

 うんうん。やっぱり美少女は笑っていた方が絵になるね。

 などと益体もない事を考えつつ、期待に胸を膨らませ、ひとまずは会議を終えるのであった。

ここまで読んで頂きまことにありがとうございます!

ひとまずの問題に解決の目処がたったシグ君一行ですが、この後どうなるのでしょうか?

それは作者である私にもわかりませんが、今後もお付き合い頂けましたら幸いです。

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