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第1話 社畜の俺と謎の男

 今日も散々だった。上司の罵声、過労働、パワハラ。他にもあるが挙げきれない。俺はブラック会社に勤めている、ようするに『社畜』であった。


 睡眠不足のせいで頭痛が酷いが、休む方法は殆ど無い。休暇は滅多に取れないため、ここ数年は会社に居る時間が半分以上を占めていた。

高校時代から勉強と並行して地道に貯めた金は微々たるものだったが、親からの援助や不動産屋の腕によりやっとの事で手に入れた愛着のあるマイホーム(アパートだが)の存在価値がすっかり薄れてしまった。

 現在時刻深夜一時、ようやく帰宅した俺はとにかく疲れて横たわる。定時は六時設定の筈だが、上司の前で帰れる訳もなく、ようやく帰ることができるのは終電の十二時。人々はそれを『第二定時』と呼んだりする。

 去年のお正月、セール中でとても安かった売れ残りの布団セット。睡眠不足の自分には十分過ぎる待遇である。

「風呂…メシ…、眠い…」

色々な欲が脳内を交差する中、本能が迷いなく選んだのは…。

「…。」

寝る事だった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「…ん、…さん、…かさん、…ざかさん、…松坂さん!」

自分を呼ぶ声がする。

「松坂さん!松坂さん!」

「うわぉオオオウウウウウ」

成人男性が上げる奇声など滅多に聞くことが無いだろうから、ふざけてる様に思えるかも知れないがいたって真面目である。何てったって今の状況、男の家に男が勝手に上がり込み、教えてもいない自分の名前を叫んでいるのだ。

「プッ、松坂さん。どんな声上げてるんですか。浜部さんに聞かれ無くて良かったですね」

浜部雪(はまべゆき)さん、当社(何度も言うがブラック)の受付嬢を勤めており、最寄り駅が同じな為運良く仲良くすることが出来た俺唯一のヒロインで、生き甲斐でもある。

自分の名前に加えマイヒロインの名前までリサーチ済みとか、ストーカーかよ?という疑念を押し込んだ。しかし想像したくもないがBでLな展開になってしまうのかと不安がよぎり、恐る恐る相手に尋ねた。

「あのぅ…一体貴方はどちら様でしょうk」

「突然ですが、社畜、辞めたいですか?」

「は?」

話を遮ってきたくせに笑顔で聞いてきたその男は、まるでここでハイと言えば二つ返事で社畜を辞められるような、そんな確信を持ってるような言い方だった…気がした。でも。

「辞められるならとっくに辞めてる」

そう、社畜でも辞めないのは訳があったのだ。

「…まーそりゃあ辞められませんよねぇ〜、だーぁい好きな雪ちゃんに会えなくなっちゃいますもんねぇ〜」

「なっ、」

間違いではないが、そんなに易しい問題ではない。たが、これ以上難しい話をする気にはなれなかった。

「と、に、か、く、お引き取りください。本来なら不法侵入で訴えてる所を、この心優しき俺が許してあげようとしてるんですよ」


「ったく、人の事情も知らないで…」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


次に気が付いた時には男はおらず、辺りを見回すと昨日会社から帰ってきて寝落ちしたのを思い出した。

「し、仕事?!」

昨日寝落ちしたあと、男が居たという記憶は確かにある、しかしその後の記憶がない。気がついたら意識を失っていた。

「まさか二度寝とか?1日エスケープしたってこと???」

自分に限ってそんな事は無いと信じたい。勿論根拠もある。今までこの会社に勤めてから寝坊なんてした事ない、案外几帳面な性格なのである。

携帯に表示された日付を見ても、多忙な毎日を過ごしてきた為曜日感覚がマヒしており、謎の解明には繋がらない。

「なーにしてるんですかー?それにしても早起きですねぇ〜」

「げっ」

昨夜(?)の男がまた音も立てずに現れた。

「またそんな声だして…心の片隅で会いたいって思ってたんでしょう?」

「…。おい、説明してくれや」

「まぁまぁ、会社の事はご心配なく。全く持って、心配はいりませんよ」

本当に全く持って、根拠の無い発言である。

「昨日はびっくりしましたよ〜、急に追い返さないで下さい。こちらにも事情ってもんがあるんですからァ」

男はニコニコしながら、それはもう能天気だった。

それが今の俺にとって腹立たしくて、最も腹が立ったのは高そうなスーツに整った顔立ち、人生勝ち組の風格だった。

「人の家に急に上がり込んで、俺の個人情報まで知ってて。俺が何したっていうんだよ!俺が…ゆ、雪さんが望みなのか?!じ、人生苦労もしてないようなお前に…」

我に返って慌てて言葉を止める。怒っただろうか。あのニコニコした顔を見ずに済むだろうか。

「…そうですか」

男は急に顔つきを変えた。

「貴方に私がどう見えているか分かりません。確かに急に上がり込んだのはやり過ぎでしたね、それは謝りましょう。ですが私、貴方に用があってきたんです。それを聞く事が出来ないくらい貴方が疲れていらっしゃるというなら、私は帰りましょう」

男はまたニッコリと笑顔を向けてきた。

「…聞くよ」


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