SS19 「家」
なんだか深読みできそうな文章ですが、そんなものはありません。
想像の中で家を一周するゲームをしてみただけです。
それ以上でも以下でもありません。悪しからず。
目を閉じ、玄関から家に入る。
瞼に圧しかかる夏の日差し消え、冷気が唇をかすめる。
蝉の声遠く、落雷の音微か。
壁を辿りつつ、窓を探す。
雲は速かった。……じきに雨が降る。
一階の窓を全て閉め、台所に隣接の階段から二階に上がる。
何かが細かく割れる音がする。
洋間に入り、ベランダに出る。観葉植物の葉がそよぎ、香る。
双頭のビルが崩れる。
窓を閉めなければ。
畳の部屋に入り、何かを跨ぎこす。
足裏に触れるブヨブヨした感触。
……お父さん、ごめんなさい。
妹達の部屋に入り、窓を閉める。
無数の紙に足を取られるが、誰もいない。
二階建てベッドを伝って、屋根裏に上がる。
山の保育園で作った紙ネンドの人形を押しのける。
歴史は埃の混じった匂いがする。
天窓を閉める時、雫が顔にかかる。
父のいた場所には何もいなかった。
畳に広がる液体に、ただ薄い殻が沢山落ちているだけ。
手探りで階段を探す。
流れ落ちる液体に足を取られながら、滑らないように進む。
壁を掻く無数の足音。
蛇腹状の体がきしむ音。
見ることのできない目が僕を見つめる。
壁一杯に無数のお父さんが追いかけてくる。