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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

オッサンとオッサンの誕生日

作者: 一ろと

買った物を冷蔵庫にしまい、歯磨き粉を買い忘れたのを思い出し、再び買いに出た。


今朝方、文句を言ったばかりなのだ。


「エイジ、無くなったらゴミ箱に捨てろ」


「あー、悪いなハルカ」


「ったく、使った物は元の場所に戻せねぇのに、どうしてもう使えねぇ物は元の場所に返すんだか」


私生活まるでダメ男との生活は、ハルカの家事スキルを見事に鍛え上げてくれている。

これで重たい洗剤や米とかなら買って来いと言付けるが、小さな物や忘れたら困る物などは思い出した時に買いに行く。

食材はエイジの休みに合わせて大きなショッピングモールや近所の商店街だ。



再び、家に帰れば玄関にはエイジの靴。

綺麗に揃えている。だらしない所もあるが、基本的にマナーは良いのだ。


「…おかえり、帰ってたのか」


リビングへ続く扉を開ければテーブルの上で何かをモゴモゴと食べているエイジの姿。


「っ、ただいま。そしておかえりハルカ」


テーブルの上には無性に甘い物が食べたくて先ほどコンビニで買って来たケーキのフィルムがふたつ分。


エイジの皿の上にはケーキの欠片とフォーク。


「………そのケーキ、冷蔵庫に入ってたやつだよなぁ?」


「ああ。先日ランチで行った洋食屋のチョコレートケーキには劣るけど、まあ、コンビニにしては妥当な味だったぜ」


ハルカは至って健全な人間な為、自分が食べたくて買ってきた物を食ってしまった奴に味の感想を求めた訳でも、あまつさえ上から目線で講釈を垂れて欲しかった訳でも無い。


先ずは謝罪。そして倍にして弁償。


もしくは死、あるのみ。


今回は後者だ。

向こうに行ったらオレの奥さんによろしくなと思いながら買物袋の中からタコ焼きをクルクルするアレを取り出そうとした時、


「ちょっ、冗談だっての。恐い顔すんなよ」


「あ?」


冗談?お前の存在がか?


貫き殺せるほどの威力がありそうな視線でもって睨みつければ、エイジは立ち上がって冷蔵庫から大きめの箱を取り出した。


「ケーキ、買って来たんだ。今日はハルカの誕生日だろ?なのに、冷蔵庫にコンビニのケーキが入っていて妬けた」


「はっ、アホかお前は」


「妬けたってのは嘘だけど、買ってきたケーキが入んなくて、こいつ入れる代わりに食った」


「ったく、ふたつも食いやがって。夜にお前と食おうと思ったのに。けど、まあ、サンキュ」


さっきまで怒りの頂点だったのがニヤけてしまう。


「どういたしまして。だったらコレ、ふたりで食おうぜ」


「そっか、今日はオレの誕生日か」

カレンダーを見れば確かに今日だった。


「ん?だから自分でケーキ買ってたんじゃないのか?」


「ちげぇよ。オレみたいなオッサンが自分の誕生日に自分用ケーキ買っても寒いだけだっての」


「そんなことは無いと思うぜ」


「お前もオッサンだからな。ってか、早くケーキ食いたいんだけど。誰かさんがオレのケーキ食ってんの見て食いたくなった」


「OK」


テーブルの上を片し、エイジが座っていた向かいの椅子に座ったハルカの前でケーキを広げ、ロウソクを20本刺す。


「あん?ロウソク足りなくねぇか?」


「俺たちは永遠の20歳だろう?」


「人を道連れにしてサバ読むんじゃねぇよ、ジジィが」


それにしてもよく誕生日なんてわかったものだ。


「なんでオレの誕生日なんて知ってたんだ?」


「学生の頃に変な占いが流行ってて俺たちもやったろ」


「ああ、あのオレとエイジの相性が最悪だって出た奴な。今思うと当たってたな」


「ありゃあハズレだろう。こんなにラブラブなのに」


「ど、こ、が、だ」


「よし、火が全部着いたぜ」


昼間で明るいため、電気は着けていない。


チラチラと燃えるロウソク。歳の数ほど無いけれど、あの日エイジと出会わなければここに数本の光が灯ることも無かった。


「歌おうか?」


「いらねー」


顰めっ面で応え、思い切り吹けば炎は全て消えたが、肺活量の衰えを感じる。


「おめでとう、ハルカ」


「おう、ありがとうな。それにしてもお前ってこういう行事、マメだよな。学生の頃しか知らねぇけど、彼女とかにも結構ちゃんとしてたろ」


「まあな、夜景が見える高級レストランやナイトクルージングやらを予約したりしてな。けど、ハルカは奥さんと一緒にこの家で祝いたいだろ」


ケーキよりも甘く優しい笑み。いつだってこの男はハルカの気持ちを慮った言動を取るのだ。ケーキを食われた位で殺意が芽生えた自分が恥ずかしい。


「…ホント、サンキューなエイジ」


ハルカも相性云々のやり取りでエイジの誕生日を思い出したが、とっくに過ぎてしまっていた。


もしも祝うとしたら来年になってしまう。それまで居るのだろうか。


「じゃ、礼代わりに来年の俺の誕生日にもケーキ買ってくれよ。なんならコンビニのでも良いからさ。一緒に祝おうぜ」


見透かしたようなタイミングでだ。イケメンっていうのは人の心まで読めるのか。


「…仕方ねぇな、だったらお前の時は糖尿病が心配だからショートケーキにロウソク60本な」


「穴だらけになるな。食う所残るのかそれ。けど、ハルカが祝ってくれるなら何でも良いぜ」


こんなオッサンに祝われるなんて何処が楽しいんだかと思ったが、今、エイジに祝われて涙が滲むほど嬉しい自分も大概だ。



彼女もきっと祝ってくれているだろう。



来年になればエイジは出て行ってるのではと考え、無意識に寂しげな表情をしたオッサンと、会社を半日有給とってハルカを祝う為にケーキ屋で並んで、この後にディナーを作らせるため有名店のシェフを雇い家に呼んであるオッサン達の細やかな誕生日パーティー。


ちなみにケーキはハルカと奥さんに分けた後、大半はエイジが食べてハルカを呆れさせましたとさ。


「エイジ…マジで糖尿病になるぜ。それかすげぇ肥満体。オレたちはもう若く無いんだ」



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