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天使と悪魔は

もう何億年も昔の話です。


『はじまりの樹』の最初に芽生えた双葉から、違う宿命を持ったふたつの命が誕生しました。


ひとつは神の力をつかさどる兄に、ひとつは魔の力をつかさどる弟に。


兄は『神の世界』と『木々の世界』を創り、そこに新しい生命を住まわせました。

弟は『魔の世界』と『輪廻の世界』を創り、そこで従者と共に生きはじめました。


彼ら兄弟がいるかぎり、『世界』の均衡は保たれます。

彼ら兄弟は『世界』をとても愛していました。


彼らは『世界』をみて生きました。


彼らの創った命もまた、語られることのない自らの『世界』をみて生きました。


これは『彼ら』の物語。


いまからお話しする物語は、悲しくも愛すべき『彼ら』の生きた『世界』の物語でございます。



それは、輪廻の輪からはみだされた者たちへ送る


世界のカタチなのです。



***


快晴で、天気も良く、気温も温暖。

そんなありふれた人間界の日の午後、風が吹き抜ける木陰で、一人の悪魔が眠っていた。


彼の名はディラン・ア・ヴィクトル。種族は悪魔。


魔王の世話役をしている彼の、貴重な休日。

魔王の直下で働いている彼とその他に数人にあまり休みはないのだ。


そんな彼が何故人間界の木陰で居眠りをしているのかというと……簡単な事だ。


単純に、"余裕のある昼下がり"なのだ。

その為、こうやってゆっくりしているのである。


今日の約束も忘れて。 


不意に、不穏な突風が突き刺さった。

よく眠っていたディランだったが、突風のおかげなのか所為なのか目を開ける。


そしてのそりと起き上がり、まるでナマケモノのようにぼうっと向こうの空を眺めていた。

だが、そんな平和な寝起きも束の間。やっと思い出したのである。


とある、約束を。


「……やっべ」


彼は一瞬顔をしかめ、呟いた。

そして伸びをする時間もなく飛び起き、まるで鞭を打たれた馬のごとく木陰から飛び出していった。


風に逆らいながら、空気を裂きながら駆ける彼の向かう場所は……まだ…数キロ先である。



***


「……遅い」


此処にも、一人。


握りしめた手を背後の壁に思い切りぶつけ、苛立っている様子の天使がいた。


彼の名はエレクトラ・ミラージェ。


彼は可愛い顔をしてさらっと酷い事をいう、天使か悪魔かわからない天使であった。

故に、今の苛立った彼はどこからどうみても悪魔にしか見えない。


そんな彼は時間に遅れる事を嫌い、遅れられるのも嫌いだ。

しかし、なんていうことだろうか。


彼は今、もうすでに三十分以上も待たされていた。


最初の十分は機嫌も良好だった。次の二十分で少し悪くなった。

そして……この十分で、最悪なものへと変化した。


眉間の皺はきつく寄せられ、腕を組み、貧乏揺すりも酷くなっていく。 

顔に似合わず、そのオーラは極めてドス黒いものだった。


「悪い!遅れた!」


そんな時、運良く…いや、運悪く相手が到着してしまう。


「いやー、木陰で休んでたらいつの間にか寝ててよ~」


笑いながら言う彼は、さっきの悪魔だった。


彼らは天使と悪魔という異色の親友で、仲が良く、今日も会う約束をしていたのだ。 


「いっかい死ねばいいのに」


そんなディランに、エレクが不機嫌そうに言った。

そして鳩尾に一発入れる。


「!?」


急な攻撃を受け、ディランは腹を抱えて咳こんだ。

エレクは……満足そうである。


「いってぇなっ!何すんだよ!?」


「…貴方が遅れてきたから悪いんじゃないですか?」

「反省しなさい」


「だからそれは悪かったって謝ってんだろ!」


「そういう態度が反省してないんじゃないですか」


それだけ言うと、ぷいっと目をそらした。


しかしディランは諦めず、自分では完璧にしあがった出来の嫌味をいった。


「…お前、他人が思ってるより力あるんだからちょっとは手加減しろっての…」


そのままの意味である。


「誰が貴方なんかに」

「創世主に呼び出されておきながら…一昨日もその前も、待ち合わせに遅れなかったことがありますか?」


正論だ。


彼は三日前から上司である魔王の使いで創世主のいる天界へ足を運ぶ機会があった。

しかしそのつどそのつど、案内人のエレクを待たせていたのである。


「う…」


もともと口の弱いディランには、これが限界らしい。


彼の降参を確信したエレクは、「もう慣れましたけど」と小さく言った。

いつもならこのあと、エレクに一時間程度説教されてしまうのだが、今日は何故かなかった。


そのことにディランが内心ほっとしたことは……内緒である。


***


ディランとエレクの向かった天界は、神に仕える天使が多く居住をしている所である。

雲の上、美しい青空と白の世界だ。


悪魔が天界へ向かうなど普通の『世界論』ならありえないことかもしれないが、創世主が出入りを許した今となってはポピュラーなのである。


ポピュラーとはいってもほんの少しで、もとより別種族への偏見や見下しの強い性格の天使たちからはまだ受け入れきられていない部分のほうが多かった。


創世主の力が弱まり彼が眠りに入ってからの、今から6500年程前までは反悪魔族派の天使たちにより悪魔の出入りを完全に禁止されていたほどである。


エレクのようになれと理解を求めるほうが困難なことだろう。


それが、誰も口に出すことのできない彼らの世界なのだ。


しかしその禁止令も創世主がお目覚めになられたことによりほぼ強制的に解禁され、今に至る。


それまでの間、5000年戦争といった長きにわたる天界・魔界間での戦争が勃発するほど、2つの種族は犬猿の仲だったらしい。


これは昔の話だ。


グローバル化が進む人間社会の現代、天・魔界もグローバル化していく傾向にあるらしい。


「ディランちゃん!ごめんねぇ、待たせちゃって」


神殿の中、神様の書斎に通されてから10分程度彼を待った。


書斎の雰囲気は、重鎮な魔王のものとは打って変わり、彼の書斎はとても遊び心にあふれていた。

ふたりの性格の違いが見事に表されている。


ディランにとってはどことなく、何度きても落ち着かない書斎に感じた。


「デオさん!あ、そんな待ってねぇから大丈夫だです」


こんな飄々とした男でも創世主、ましてや自分の尊敬す|魔王(上司)の兄である。

彼は慣れない敬語を使い、笑う。


「そんな畏まらなくてもいいのに」


そう言ってデオも笑った。


「そういうわけにはいきません。この人も敬語なれさせないといけませんし。悪魔だからって成人して敬語使えないですなんて許されることじゃありませんし、いい加減に」


何故かエレクが答える。

ディランは膨れて『敬語苦手なんだよな』と呟いた。


エレクが溜め息をつく。


「それでね、早速なんだけど…今日の仕事は、やること昨日と変わらないから」


急いでいるらしい、彼にしては珍しくはやばやと仕事の話を持ち出した。


「書斎の書類整理ですよね。わかってる…ます」


「そうそう!エレクちゃんも、ディランちゃんのお手伝いよろしくね」


エレクは素っ気無く『はい』と返事をする。


「あと、今日は図書館からトリビアちゃんが新しい本を持ってきてくれるらしいから、彼が来たら受け取ってほしいんだ」

「本は僕があとで片付けるよ。デスクにおいておいてね」


「はーい」


「それじゃ、僕は出かけてくるね。後は任せました!」

「ディランちゃん派遣最終日、よろしくお願いします!!」


神様は顔の前で手を合わせ、にこっと笑った。穏やかな笑顔である。

そして『エレクちゃんもね』と付け足し、椅子に掛けてあったいつものショールを羽織って書斎を出た。


「よーし、やるかぁ…!」


ディランが大きく背伸びをする。


「そうですね。早く終わらせてしまいましょう」


彼らは作業に取り掛かる。



そんな日常。



冬のはじまり、乾いた風が窓を揺らした。

閲覧ありがとうございます。


不定期更新です。ゆっくりのんびりやっていこうと思います。

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