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短編や短編集や中編。

大丈夫。問題ない。

下ネタ・下品注意。

「別れてくれる?」


 そう言ったのは、学年でもイケているグループのリーダー格にあたる滝川星夜(たきがわせいや)

リーダーと言われるくらいだから、かなり男前。イケメン。

そんな彼に、呼び出されたのは校舎裏でした。夕陽を受けて、色を抜いた髪色がキラキラと輝いて、イケメンオーラに拍車を掛けています。



「なんか、飽きたんだよね。お前って無愛想じゃん。俺の友達にも愛想がないしさ。冷めるんだよね」



 それは先日、あなたに無理矢理連れて行かれたカラオケの事を言っているのでしょうか。メンバーは、滝川君とその他イケてるメンバー。もちろん、イケてる女子も多数の大人数でした。

 見た目、文学少女の地味子な私は(眼鏡三つ編み装備)全然テンションについていけず、隅っこで文庫本を読んでいました。いや、ちゃんと最初は手拍子したり、マラカス振ったり、タンバリン叩いたり、料理の注文を聞いたりと色々と頑張っていたんですよ? でも、お酒を飲み出して(私はちゃんと止めました。未成年の飲酒は絶対ダメ!)テンションがおかしくなったので、諦めました。酔っ払っておかしくなったあなた達を、ちゃんと介抱した私に言ってるのでしょうか?



聡美(さとみ)は、今まで付き合った事がないタイプだったから、面白いかなって付き合ってみたけれど、やっぱ、見た目道りで地味で全然、面白くなかったし」


 そう言って、髪をかきあげたのです。


 名誉の為に言っておきますが、私が告白して付き合ったわけではありません。目の前の彼が「付き合って」と言ってきたから付き合ったのです。



 さて。


「わかりました」


パンッ


 私は、両手のひらを合わせて、柏手ひとつ打ちました。


「はい、今の時点で、別れました。私達の縁はこれで切れました。言いたい事は、それだけですか?」

「はぁ? 聡美、お前……」

「聡美さん(・・)ですよね? 今、別れたと言いましたよね? 赤の他人になったので、呼び捨てしないでくれませんか? それと、金輪際、彼氏でもなくなった滝川君にお前(・・・)呼ばわりされたくないんですけど」

「っ! なっ!」


 滝川君は、整った顔を歪ませました。

そうですか、御立腹ですか。同感です、私もそうですから。


「それと、ええ、別れました。しかし、私には、滝川君にまだ遣り残した事があります」

「さっきから、何言って……」






「跪いて赦しを請いなさい」






 サワサワと、風で雑草が揺れます。ススキがサワサワ。

もう、秋ですね。秋深し。風が爽やかです。



「お前!!」



 私の風流な気分を打ち破る怒声をあげて、向かってこようとした滝川くんに、ポケットの中から、“手のひらサイズの黒いもの”をチラつかせました。


「!! それって……」

「年頃の男性にこんな人気のないところに呼び出されて、私が何も用意していないと思いました? 便利ですよね。ネットって。どんなものでも、簡単に手に入ります。 何万Vでるんでしょうか。バチバチバチ。ああ、怖いですね」

「…………っ」

「何、まだ立ってるんですか? ほら、跪きなさい」


 滝川君の肩を押し、その場に跪いていただきました。

その折り曲げられた膝の上に私の足を乗せて踏みつけ、顎を掴み、私の方を向かせて。


「……なんですか? その反抗的な目は」

「何を謝ればいいんだよ。お前(・・)だって、俺と付き合えたんだぞ? 一生にあるかないかのいい思いしただろ?」


ぐいいいいいい。


 また、“お前”と言ったので、無言で足に力を入れます。彼には調教が必要ですね。



「……さ、聡美…さん」

「まったく、一回言ったら覚えていて下さいよ。成績はいいんでしょ? そんな成りなのに」


 プライドが北岳(日本二位)並みに高い中途半端な滝川君は、実は勉強が出来ます。でも、所詮、勉強が出来るだけで、基本、賢くないのが私の見解なのです。


 パシンと頭をはたいて、見下した目線を送ってやりました。しかし、視線を私が乗せている足に感じます。今日のパンツは黒の総レースです。見られても問題ない。滝川くんから、生唾を飲む音が聞こえました。


「……」


 別れる今となって彼とのお付き合いを振り返りますが、彼は12月24日生まれ。“星夜”じゃなくて“性夜”じゃねぇ? ってくらいガツガツしていて身の危険を感じた日々でした。色々、乙女の危機もありましたが、それらは華麗にスルーしたので、私はサラピンです。問題ない。



「最初に、私が謝りましょう。私は彼女でありながら、滝川君の事が好きになれませんでした。彼女になったのですから、一応の努力はしたのですが……他の女子が騒いでいるように、あなたのどこが良いのかちっともわかりませんでした」

「……え」


 あれ? 予想外です。さっきまで、私の黒レースをガン見していた滝川君は顔を青ざめ、ショックを受けているようです。まぁ、プライドが中途半端に高いので、私ごときが、虜になっていないのが許せないのでしょうか。


「じゃぁ、なんで俺と付き合ってたんだよ」

「“経験”の為です」


 滝川君の眉間にシワが寄りました。もう一度言います。私はサラピンです。彼の眉間のシワは「キスもさせなかった癖に、何を言ってんだ」のシワです。


「勘違いは困ります。先程貴方が言っていた事と同じなんですよ。『今まで付き合った事がないタイプだったから、面白いかなって付き合ってみたけれど、やっぱ、見た目道り、地味(・・)で全然、面白くなかったし』の“地味”の所を“派手だけ”に変えてくださるだけでいいいのです」

「……彼氏いたことあるんだ」

「なんですか? 地味でイケてないから、自分が私の初彼だと思ったんですか? 残念ながら、滝川君は、7人目の彼氏です。今までは、私から別れを切り出していたのですが……ああ、そうですね。そういった意味では、別れを切り出した初めての彼氏ですかね? おめでとうございます」


 眼鏡越しにニッコリ笑って見せたけれど、何やら引きつった様子。名誉の為にいいますが、今までの彼氏ともプラトニックなお付き合いでした。三度目になりますが大事なことなので、何度も言います。私はサラピンです。大丈夫。問題ない。



「滝川君に、謝って頂きたいのはこちらにあります」


 私は、スマートホンを取り出し、“動画”を観て頂きました。


「!!!……そ…れ……いつ? 俺?」

「ちゃんと、声も顔も映っていると思うのですが……ああ、酔っ払っているので、いつもより、赤ら顔で声もダミ声ですね」

「いや、……それって」

「はい。あのカラオケの日に、滝川君自ら、『撮って』と命令してきましたので、嫌々ながらも撮影させていただきました」


 スマートホンに映っていたのは、例のイケてるメンバーが集まった時の様子。そこでの彼は“全裸”で、はしゃいでいたのです。


「滝川君は、嫌がる私に、自らのシンボルを……」

「聡美!!……さん!! いや、言わなくていいから!! 女の子がそんな言葉なんて言わなくていいから!!」


 あら、意外です。滝川君は、女の子に幻想を抱いているようです。


「……わかった。ごめん、俺って飲むと記憶なくすし、それに脱いじゃうらしくて…」


 最初の勢いはどこにいったのでしょうか。項垂れた滝川君は雨の日に濡れた野良犬のように憐れです。これは、新発見ですね。


「裸を、俺のアレを見せた事を怒ってるんだよな……。ごめん。本当にごめん。謝るから、その映像……消して欲しい」

「また、勘違いしてませんか? どうして私が、滝川君の股間ごときを見ただけで怒ると思っているんですか?」


「ごときって……」何やらブツブツ言って、更に滝川君はショックを受けています。


「ちゃんと、映像の続きを観て下さい」


 滝川君の目の前に、スマートホンを押し付け、続きを観ていただきました。股間のアップの時はスマートホンを取り上げられそうになりましたが、例の四角い黒いものをちらつかせ、大人しくしていただきました。


 そしてーー映像は、はしゃいだ滝川君が近付き、天井が映って終了です。


「……この時、どこか怪我した…とか?」

「いえ、お気遣いなく。この通り、身体はぴんぴんしております……が、私の心は傷付きました」

「え?」


 何度でも言います。私はサラピンです。サラピ…ン……うッ。



「滝川君が!! 私の元にもつれ込んで倒れた時、わ、私の……頬に……キスをしたんです!!!」

「………………」


 わ、私は!! サ……サラピンです!! 顔が真っ赤になり、泣きそうになりましたが、滝川君はというと、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしています。イケメンが台無しですが、ムカつきました。


 私は、滝川君の膝を踏みつけていた足を、大きくあげ、股間めがけて落としました。


ドッ


「こんなもの、見たってどうって事、ありません!! 寧ろ、貴方のは小さいくらいです。屁でもありません。でも!! 貴方は、私の頬へのファーストキスを奪いました!! 私はサラピンのまま、大好きな人にあげるはずだったものをです!! 許しません!」



ドッ ドッ ドッ ドッ



 あ、滝川君が白目を向いています。ちょこっと、やり過ぎましたかね。


 私は滝川君から離れ、風の音を聞いて…心を落ちつかせる事にしました。


リーン。

リーン。


 鈴虫がないています。風流です。

冷たくなってきた風を顔に受け、私の心も穏やかになってきました。


「…………気が済みました」


 所詮、頬なのです。……野良犬に舐められたと思って……忘れるしかありません。



 私は、やる事が済んだので、次の為に編み込んだ三つ編みを解き、伊達眼鏡をはずしました。そして、上までとめていたシャツのボタンを2つ程外し、ネクタイを緩めたのです。


下腹部をおさえつつ、涙目だった滝川君は、私の姿を見て目を見開いています。


「さ……聡美さ…ん?」


 私が、今までキチンと着ていた制服を着崩し始めたのが、不思議なのでしょうか。


「不良系イケメン×地味系真面目少女の設定は先程をもち終了いたしましたので」

「はぁ?」

「今度は、男女逆バージョンにするんです。願わくば、次回は地味系男子×ギャル系女子の設定希望です」


 お化粧も明日からはしないといけないですね。髪は何色に染めましょうか。呆然と私の姿を見ている滝川君。まだ、若干シモの方は痛そうで、瞳は潤んでますが、ちょっと耳が赤くないですか? やり過ぎたでしょうか……。



「どうして、そんな事?」

「先程も言いましたが、“経験”です」

「経験……? マジ意味がわかんないんだけど」

「言葉が足りませんでしたね。私、実は小説家なのです。しかし、高校生の私では、人生の“経験”が足らないのです。その“経験”を積むために、色々な“設定”の女の子を演じて、どのような組み合わせのカップリングが面白く小説のネタになるか試していたのです。実体験に勝る取材方法はありませんから。そして、先程までの地味系真面目少女設定の時に、たまたま貴方が告白してくださいましたから、お付き合いさせていただいたわけです」


《プルルルルル》



 スマートホンが震えだしました。

画面表示は『担当さん』です。 いけません。次回作の打ち合わせの時間でした。


「はい、もしもし。すいません……まだ、学校なんですよ。はい。……地味系真面目少女に、イケてるグループ所属の彼氏は、現実問題……合いませんね。……そうですね。やはり、交友関係がストレスになるというか、価値観の違いでしょうか。……は、はい。なので、次回はギャル系でいってみたいと思います。…… あははははは。イヤだ。担当さんったら! 一ヶ月もしたら、また(・・)対象者から告白してくださいますから、大丈夫。問題ないですよ。あ、はい。ではー。お疲れ様です……」


《ピッ》


「…………」




 私がスマートホンをポケットにしまっていると、まだ跪き、私を見上げている滝川君と目が合いました。



「滝川君、まだ居たんですか? もう、怒ってませんから、いいですよ? 帰っていただいても?」

「…………い」

「あ、これだけは、言わせて頂きますね。今回は、滝川君の方から別れを切り出して下さって、大変助かりました。いつもは、すごく揉めるんですよ。泣かれたり、ナイフで脅されたり、『別れたら死ぬ!』なんて奇特な方もいらして。ストーカーになられる方もいたんですよ。それはそれでいい“経験”になりましたが、もう懲り懲りですね。歴代の彼氏の方々には随分と悩まされましたが、滝川君には感謝です。こんなに、スピーディーに別れて下さるなんて。最後は、色々ありましたが、これからは一切関わり合いもなく、他人として過ごしましょうね」

「別れた……くない」

「え?」


 大変です。滝川君が、歴代の彼氏みたいな状態になっています。私を見る目が、潤み、頬を赤く染めて、鼻息が荒い気がします。


「いや、もう、別れましたよ? ダメですから。それに、もう不良系イケメンはいりません」

「なら、俺、明日から地味系男子になる! それなら問題ないだろ? 頬へのファーストキスの責任もとるから!」



 そう言って、次の日には髪を真っ黒にして、黒縁メガネをかけてきた滝川君。

その姿で、再度、告白されてしまいました。……あれ? これでいいんでしょうか? 手っ取り早く、次の作品の為に経験が出来るから?


 その後も、別れを切り出す度に、次の日には次のターゲットに変身してくる滝川君。肥満系男子の時には、本当に太ってきてびっくりしました。どうやったんでしょうか。ミラクルです。そして、時々…股間を踏んでくれと、ハニカミながらお願いしてくるのは、やめて欲しいものです。


 外側が違うけど、中身は滝川君。“経験”の意味がないような気がします。その事を滝川君に伝えると「聡美だって、外側が違うだけで中身は聡美だし。同じようなもんだろ?」


 そう言って、一言。



「大丈夫。問題ない」



 










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