Tale 2
「踏み込み、攻撃、着地、攻撃、それぞれのタイムラグが多すぎるのよ!せっかく[武術]ウィズと[古武術]ウィズの合わせわざで初速の起動とコントロールの両立を保っているのに全然使えてないんだよ!それになんで腕を狙ったの?リュウウンの[弾き]で相手の攻撃パターンが変わったのに、そこにさらに腕に追い打ちをかけたら同じことの繰り返しでしょう?そこは足を攻撃して相手のバランスを更に崩す!違う!?聞いてるの!?」
第3の街「エルトリア」。この街は円形のつくりで、住居、商店、飲食店などの区画がそれぞれに分かれており、大都市によくある入り組んだ道が少ないため、人の往来が多く、そして歩きやすい。非常に栄えている町である。
また、比例するようにプレイヤーホーム、ギルドホームも多い。中央広場に行けば多くのプレイヤーたちが露店を開いており、様々なものも手に入る。それ相応の財力があれば、進度にそぐわない装備も手に入れることが可能である。だが、「Fable Broader」、略して「ブルブロ」はPSが非常に重要となるシステムが組まれているため、装備やステータスはあくまで指標にすぎない。
初心者から上級者まで、様々なプレイヤーが拠点として利用しているこの街は、交流の場としても有用である。街のいたるところで勧誘が行われ、ゲート付近は毎時プレイヤーで溢れている。
そんな非常に栄えている街の中でも、より一層の盛り上がりを見せているのが飲食店の区画のある一部分、「酒場」の区画である。
酒場といえば出会いの場であり、疲れを癒す場である。その喧騒は他の比ではなく、毎日熱気に溢れている。どこの酒場も人で溢れ、皆話に花を咲かせている。「ブルブロ」は現実時間の4時間で一日が過ぎるため、いつ来ても盛り上がっているという感覚が根付いていても何ら不思議はない。
その酒場の区画の中でも、いまここが一番熱気に溢れているのではないだろうか。
「初速と加速は完璧なの!流石は武刀!でも甘い、甘すぎる!砂糖とはちみつにさらに砂糖をいれて水の代わりに砂糖水をいれて水あめでとろみをだした甘すぎる何かより甘いの!戦闘は判断よ判断!見極め!それが大事なの!ひとりひとりがそれぞれの役割を行うことももちろん大事!だけど周りを見るの!見渡すの!ひろおおおく!そして考えるの!でもね、そこに時間をかけちゃダメ。普段の経験がものをいうんだよ!」
「ブルブロ」には酔いステータスは存在しない。酒場でも飲み物は提供され、それぞれに味がしっかり付いているが、酒にはアルコールに似せた(...)味が付いているだけで、実際にはアルコールが入っているわけではない。
そして未成年者に酒は提供されない。いくらゲーム内であっても、酔いがなくても、ゲームはゲームである。無理やりに飲ませようとしてもそこにはシステムからのブロックがかかる。
俺と、彩光と武刀は飲んでいない。いわゆる素面である。
彩光は先にミルトワーズの攻撃を受け、今は机に突っ伏している。いつもの活発な様子が見えない。
ミルトワーズとリュウウンはもちろん飲んでいる。
リュウウンは早々と寝てしまった。ミルトワーズは・・・見てのとおりである。大人は雰囲気でも酔えるものらしい。
「んぐ、んぐ、んぐ・・・ぷっはあー!!うめっ・・・でもね、さいっっこう!武刀あなた最高なんだよ!特に技のバリエーション!そしてヘイト値の軽減!これがうまい!あなたがいるからこのパーティは回ってる!敵の気をそらして、着実にダメージを積み重ねて、連携の発動を促して・・・本当にかけがえのない人、ありがとうね、ここにいてくれて。」
ミルトワーズは絶賛キャラ崩壊中です。武刀も終始苦笑いで誤魔化していたが、最後のミルトワーズの言葉に満面の笑みを浮かべている。
こういうところがこの人はずるい。流石にパーティをまとめるだけのことはある。・・・若干めんどうだが。
「・・・終わった?」
彩光が俺に視線を向け、ささやくような声で質問を投げかけてくる。ミルトワーズは未だ武刀のことを褒めちぎっていてこちらには気づいていない。武刀もさすがにいたたまれなくなってきたようで、先ほどからしきりにこちらに目配せを行っている。気のせいか、眼鏡の奥の目が若干潤んでいるように見える。
「・・・ついさっき褒めモードに入ったところだからもうすぐ終盤かな。そろそろ手助けしようか、武刀が限界っぽい」
未成年組の3人は、ミルトワーズの絡み酒の対処法として役割分担をしている。リュウウンが毎回寝てしまうため、標的は必然的に我々になるからである。
ミルトワーズの話は一人目、二人目、三人目と段々と長くなる傾向にある。特に三人目ともなると30分はざらである。それに対処するために、二人目の話の終盤付近から他の二人で口裏を合わせ、話題をつくり、話を流すようにしている。
ちなみになぜすぐに対処しないのかというと、一人目で話を止めるとその後ミルトワーズが暴走し、
「みんな私の話を聞いてくれないんだね・・・」
という言葉を皮切りに、泣き上戸に変貌した事例があるためである。あの時は本当に対処に困った。
ならば二人目のはじめに対処すればいいと思うかもしれないが、一人目には休憩が必要なのである。
様々な検討を加えた結果、二人目の最後、というタイミングで落ち着いている。
ミルトワーズは非常に頼りになり、パーティになくてはならない人物であるため、私たちにとってこの程度は苦ではない。ゲームくらいは色々と発散させてあげたい。というか、むしろこの状況や対処を楽しんでいる、というのが本音である。
(まあ、リュウウンにはいつもどおり制裁を加えるけどね・・・)
これもいつもどおりである。
「・・・じゃあラギ、口裏合わせてね」
彩光がブロンドの髪をひとまとめに結いながら囁いてくる。これは彩光の気合を入れるための動作だ。俺は首を縦に振ってそれに答える。
「ねえみんな!せっかく最新テイルもクリアしたし、ここは何か特別なことをしない?酒場でこうやって話すだけじゃなくて、もっと特別なこと!」
ミルトワーズが彩光の声に反応しこちらを向く。成功だ。
「いいね。たまには攻略を休みにして、みんなでゆっくりするのなんかどうかな?」
俺は武刀に目配せをしながら、合わせるよう促す。
「い、いいですね!そういえばサイドのクエストの中には、自然の中の秘湯を探すものもあるそうですよ。攻略には直接関係ありませんけどね」
ミルトワーズが隣のリュウウンを叩いて起こし始めた。叩くだけにおさまっていたが、段々とエスカレートしており、今は短髪で硬そうな黒髪を鷲掴みにしてグイグイ引っ張っている。・・・あれは痛そうだ。リュウウンはようやくまぶたを重そうに開け始めたが、盾役は皆ああも打たれ強いものなのだろうか。
「ううん、今回はね、もっと特別なこと!」
彩光が立ち上がって腰に手を当て、皆を見下ろすようにしてから口を開く。
「オフ会、なんかどうかな!」
オフ、会・・・?
「ほら、私たちずっと一緒に攻略を続けてきて、ここまでやってきたよね。お互いのことも色々知ってきたし、このメンバーなら、一度リアルでも会ってみたいなーって、そう思ったんだ!」
現実で、みんなに会う・・・
「いいねえ!私もみんなに会いたいよ!」
「ミルトワーズ、急に通常運転ですね・・・。いいんじゃないでしょうか。こういう交流も、醍醐味ですよね」
「んあ?・・・ああ、オフ会?俺もかまわないぞ。予定はあわせないといけないけどな」
みんなが同意する。確かにオフ会はこういったオンラインゲームの醍醐味であるし、仮想空間で出会った仲間と現実世界で交流をすることは、また違った楽しみがある、という意見があるのも分かる。
だけど、リアルにゲームの感覚を持ち込むということは、現実の自分をみんなの前にさらけ出すということだ。
俺は・・・
「俺は、反対、かな」
「ゲームはゲームとして楽しみたいんだ」
現実と仮想に接点は必要ない。
「だから、ごめん」
みんながおれを見てくる。酒場にいる人がみんなおれをみている気がする。
現実の、如月望が今ここに立っている。
俺はラギとしてこの場にいないといけないのに。
なんだか、キモチワルイ
恐怖感に、押しつぶされそうになる
「・・・ごめん、体調が悪いから今日は先にログアウトするよ」
彩光が何かを言いかけた姿が見えた気がする。
おれは、逃げるようにこの場を、仮想空間を去ることしかできなかった。
ご意見、ご感想お待ちしております。
次回は現実世界です。
追記
盾→盾役
8時間→4時間
に変更しました。