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Tale 1

ひかり しょうと申します。

拙い文章になると思いますが、どうかよろしくお願いします。

 周囲の気配が変わる。


 今まで経験してきた感覚。高揚感と緊張感が混沌した奇妙な感覚。

 嫌が応にも思い知らされる、殺気。目の前にいる怪物が倒すべき目標であると、集中すべき相手であると分かる。


テイル:「荒野こうや街壊がいかい」 最終ストーリー[牛頭ごず凱旋がいせん


 廃墟の街に響き渡る足音。段々と見えてくる巨体。

 目測でも5mはあるだろう。


 「さあみんな!これが最終ストーリーだ。あいつを倒して祝杯をあげるよ!」


 ミルトワーズが皆を鼓舞し、それぞれが武器を構える。


 俺も短剣を構え、戦闘態勢に移行する。

 周りには武刀ぶとう、リュウウン、彩光さいこうがいる。ここまで様々なテイルやサイドを乗り越えてきた仲間たち。

 このメンバーならやれるはずだ。

 短剣を握りしめる。柄に汗がにじむ。緊張していないといえば嘘になる。

 だけど、心のどこかには戦闘を心待ちにしている自分がいる。


 (俺はいまこのゲームを心から楽しんでいるんだろうな)


 すっかり染まってしまったが、心から楽しめる何かがあるのは良いことだ。

 「Fableフェイブル Broaderブローダー」”伝説を広げる”物語。

 リアルとは違う、仮想世界で広げる、自分だけの”物語”。

 存在意義。俺はいま、この世界でなら存分に生きられる。

 いや、生きる意味を見出すことができる。

 

 グオオオオオオオ!!


 敵は待ってくれない。全開、全力でこの世界を楽しみ、絶対に、勝つ!


 「みんな、いくよ!」


 「「おお!」」「「うん!」」


 [戦闘開始]


-------------------



 「うおおおお!!」


 掛け声とともにリュウウンが敵に肉薄する。右手の片手剣が敵-牛頭-の皮を切り裂くも、大したダメージにはなっていない。だが、リュウウンの目的はダメージを与えることではない。


 「こっち向けやデカブツ!タウント!」


 牛頭の目がリュウウンにくぎづけになる。そしてその手にもつ巨大な斧がリュウウンに向かって振り下ろされ--弾かれる。

 彼の重量のある鈍色の鎧が太陽の光で輝く。はじめの頃の煌めきこそなくなってしまったものの、彼の傷だらけでくすんだその鎧にはどこか安心感があった。

 

 と、体が軽くなる。

 振り向けば彩光の杖から微量な光が周囲に舞っていた。


 「ラギ!よそ見しないでよ!」

 

 こちらに目を向けずに彩光が憎まれ口を叩く。思ったことをすぐに口に出すところはマイナスだが、その魔法技術は卓越したものがあることを俺は知っている。

 あらゆる付与、回復魔法を駆使する彼女は、このパーティの根底を支えている。


 「ラギさん!遊撃行きますよ!」


 そう言って武刀が前に走る。武刀の瞬間加速は全プレイヤーの中でも上位に入る。瞬間的に牛頭の目の前にまで移動した彼は、振り切られた無防備な腕に向かって蹴りを繰り出す。


 「豪脚!」


 蹴りが腕に当たった瞬間、爆発が起きた。[格闘]ウィズから取得できるスキル[豪脚]は、火属性の力を足に纏わせてぶつける技である。力を足先に集中させれば爆発も起こせる。

 通常のプレイヤーには難しい、武刀のPSプレイヤースキルがあるからこそ成せる技だ。


 そして俺も駆けだす。武刀の後に続く。

 瞬間加速こそ武刀に劣るものの、トップスピードでは誰にも負けない自信がある。更に[風魔術補助]ウィズのスキル[追い風]を重ね、スピードを上げる。

 牛頭の股下を抜け、[豪脚]でひるんだ牛頭の背中に攻撃を加える。


 「六連星すばる!」


 規則的に光る剣閃が、6つの点を穿つ。

 更に体を反転させ、攻撃を叩きこむ。


 短剣を装備している関係上、俺の攻撃力は微々たるものである。だからこそ、手数を増やす。苦労の末に身に付けた、スピードを殺さない攻撃方法は俺の努力の賜物だ。

 ひるみから立ち直った牛頭は、どうやら俺を攻撃対象に選んだようだ。ギラついた目をこちらに向け、威圧感と共に斧を振りおろしてくる。


 (でも)


 スピードを重視している俺にはその行動は止まって見えた。

 振り下ろす腕の軌道を見極め、わざとギリギリで回避、逆にその腕を駆けあがってスキルを叩きこんでやる。


 「突貫!」


 [短剣]ウィズのスキルの中でも少ない、一撃技の[突貫]は、短剣にしては攻撃力が高く設定されている。

 眉間にきちんとヒットしたそれを見届けながら、リュウウンのそばに着地する。


 グアアア!


 [豪脚]よりもダメージの少ない[突貫]であれだけの反応を返してくるということは、頭部が弱点ということだろう。


 「・・・ラギ、お前相変わらず人間辞めてんのな」


 「失礼な。」


 ゲームだからこそできることだ。

 ・・・まあこんなときのために練習していたことは誰にも言わないが。


 振り返り牛頭のほうを振り返ると、頭部をおさえて苦しんでいる様子が目に入った。これは頭が弱点で決まりだろう。


 と、頭をおさえる牛頭の手の付近に細かいキラキラしたものが浮かんでいることに気づく。

 同時に、周囲の温度が少し下がった。


 

氷柱雨ツララメ


 後ろから高く冷たい声が響いた瞬間、牛頭の頭上に無数の氷柱つららが発生し、降り注ぐ。


 [氷魔法]ウィズのスキル[氷柱雨]。これは[氷魔法]を専門に使用しているミルトワーズの攻撃魔法だ。

 詠唱者のレベルや意思に従って発生する氷柱の数も増えるが、ざっと見た限りでは30本以上ある。

 その全てが牛頭がおさえている手の合間を縫って、頭部・・にピンポイントで命中している。


 「人間を辞めてるってのはあれくらいのことを言うんだ」


 「・・・違ぇねぇな」


 もちろん現実に魔法は存在しない。武器の扱いはせめて自分の体という無意識のアシストがあるが、魔法は仮想世界で初めて扱うものである。

 それをまるで自分の手足のように扱うPSはいったいなんなのだろうか。


 「リュウウン!ラギ!ぼさっとしない、続け!」


 ミルトワーズから叱責が飛ぶ。彼女がこのパーティの指揮を行っている理由が、魔法を扱いながら周りを見ることができる才能に所以するものであった。それも手足のように扱うほどの努力があるからである。


 武刀、リュウウンが牛頭にラッシュをかける。彩光から付与魔法が飛ぶ。俺も負けじとスピードを生かしてあらゆる箇所を切りつける。


 「ラギさん!連携!」


 「おう!」


 武刀から声がかかると、体が勝手に動く。

 武刀が蹴りと殴打で牛頭の右側面を叩くと、俺は左側面に移動して無数の剣戟を浴びせる。そしてアイコンタクトをしあうと、それぞれ腹と背に向かってスライドしながら攻撃を浴びせ、垂直に叩く!

 

 グアアアアアア!


 二方向からの同時攻撃に、たまらず牛頭が呻く。


 「Fable Broader」の売りである固有ステータス「RAP」は魅力を表す数値で、パーティメンバーとの連携攻撃の確立を上げるものである。

 連携攻撃時は敵の動きも止まり、こちらがシステムアシストを受けて一方的に攻撃できる。ただ、確立を上げるといっても微々たるもので、5回の戦闘に一度発動すれば良い方である。

 この場面での連携攻撃は、かなりプラスに働いた。


 ラギと武刀によって、再度牛頭がひるむ。


 「でっかいのいくよ!離れて!」


 彩光から声が飛ぶ。

 とっさに牛頭から離れ、後ろへ飛ぶ。武刀もリュウウンを抱えて脱出に成功したようだ。

 振り向くと、ミルトワーズと彩光が本と杖を交差させて詠唱を行っている。

 どうやらこちらにも連携が発生しているようだ。今回の戦闘は、よほど運がいいらしい。


 「「連携魔法!」」


 氷柱が、光が牛頭を包みこみ--爆発する。

 さながら、地上で花火が起こっているようだ。


 「今回はよっぽど運がいいですね、次回が恐ろしいです」


 「武刀、変なフラグを立てないでくれ」


 土煙が舞い、牛頭が見えなくなる。

 流石に倒れているはずだろう。あと武刀、余計なことを言うんじゃない。


 「気を抜かないように」


 ミルトワーズが皆に聞こえるよう呟くが、その顔からは緊張感が解かれている。他の皆も同じのようだ。

 

 (でもあくまで、いちテイルの最終ボスだ。これで終わるか・・・)


 目をこらすとそこには


 土煙の中に




 赤を濃縮したような、血よりも濃厚な、光る目が見えた。


 「キャア!」「な!?」


 ものすごい早さで斧が飛んでくる。見えた時にはもう遅い。武刀と彩光がその一撃を直に喰らってしまう。


 二人のHPバーは、一撃でレッドゾーンに割り込んだ。


 (なんて攻撃力・・・!)


 すかさずリュウウンが前に立ち、二人の盾として立ちふさがる。


 「落ち着いて!彩光、とりあえず回復を!」


 俺がそう声をかけると、彩光も我に返ったのか、即時回復魔法を詠唱し始める。ミルトワーズも詠唱を行っているようだ。

 土煙は未だにはれず、視界はおぼつかない。


 「なんだ、最後の悪あがきだってのか?」


 リュウウンがそう呟く。土煙の中に赤い目は見えない。

 倒れたのか、あるいは・・・


 ふと、さきほどよりも地面が黒くなっていることに気付いた。

 

 濡れたわけじゃない、これは・・・影


 「上・・・!」


 見上げると、そこには斧を振り上げながら落ちてくる満身創痍の牛頭の姿があった。

 流石に行動が間に合わない、リュウウンのガードも間に合わない、武刀と彩光はこの一撃に耐えられない、ミルトワーズも・・・

 

 おれはパーティの壊滅を覚悟し目をつぶった。





 そして恐る恐る目をあけると



 粒子となってまさに消え去ろうとしている牛頭が目に入った。


 同時に、杖を振り上げているミルトワーズの姿が目に入った。


 「情けないねぇ、みんな。」


 そう言ってミルトワーズがこちらを振り向く。


 「飛んできた斧には角度があった。それも下方向にね。これは敵さんが飛んでから攻撃しましたよって言ってるようなものじゃないか。」


 じゃあ彩光が回復魔法を唱えたと同時に詠唱を始めていたのは回復魔法を重ねるためじゃなく、飛び上がった牛頭を仕留めるためだったのか。


 あんた、本当に人間ですか。


 「ラギ、なんか失礼なこと考えてないかい?」


 まさにその視線は絶対零度である。

 おれは必死でかぶりをふる。


 「そうかい?ほら、ほうけてるんじゃない!戦闘は終わった、テイルはクリアできた。・・・祝杯をあげようじゃないか!」


 絶対零度の視線から一転、太陽のような笑顔になるミルトワーズ。

 この人のこういうところがずるい。

 パーティを引っ張っていく才能というのか。

 

 みんなも、ぎこちないながらもようやく勝利を確信したようだ。


 「よっしゃあ!」


 リュウウンが叫ぶ。みんなに高揚感が広まっていく。

 やっぱり、楽しいなあ。


 「ああ、その前に反省会だからね」


 前言撤回。この人は鬼に近い人間以外の何かです。


 「ラギ」


 その太陽のような笑顔が非常に怖いです。


 町へ帰るみんなの足取りは、まるで重い枷を付けられているかのごとく、重いものでした。

・・・書くのって難しいなー

ご意見、ご感想お待ちしております。

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