過去
悲惨な光景。
目前に広がるのは人々の死体と燃えたテント。
ミエラは隣にいる妹、カリューナの手をぎゅっと握りしめた。
「行こう。カリューナ。母さんを助けなきゃ」
カリューナがこくりと頷く。
二人は家へと歩き始めた。
まだ奴等がいる可能性を考え遠回りになるが森を通り、時々聞こえる葉のすれる音に怯えながら二人は歩いた。
十分ほどしてたどり着いたテント。
其処は奴等が来ていないようで、無傷だった。
「ただいま。母さん」
二人は声を揃えて言った。
母は二人を見ると目を見開いて驚いた。
何事かと、二人は顔を見合わせる。
そして、あることに気付いた。
母は、二人を見ているのではない。
二人の後ろにいる『何か』を見ているのだ。
「ミエラ!カリューナ!逃げなさい!」
母は叫び、二人を押し退けた。
母の悲鳴、回りの悲鳴、轟く銃声。
ミエラはカリューナの手をとって、入口にいる男の脇をすり抜け外に出た。
走らなければ。逃げなければ。妹を守らなければ。
ともかく遠くへ。
ミエラは走った。
突然、右の足首に激痛が走った。足首が熱い。
一発の銃弾が、ミエラの足首を貫いたのだった。
「逃げろ!カリューナ!」
転がったミエラを一瞥し、カリューナは走り出した。
最後に、微かに聞こえた妹の声。
「ごめんね」
ミエラはニッコリと微笑んだ。
ああ、足首が痛い。
ミエラは上半身を必死で起こし、傷口に手をやった。
「うぐっ!」
触うった瞬間、今まで以上の痛みが走る。
もう一度、傷口を触る。
傷は…ない。
これが、ミエラの『能力』だった。
「ほぅ。」
頭上から、突然声が聞こえた。
低い、覇気のある声が感嘆の声をあげる。
見上げると、そこには三十半ば程の男が立っていた。
「おもしろい。坊主、神子か…」
ミエラはキッと男を睨み付けた。
男はミエラを担ぎ上げ、言った。
「親は神子なのか?」
「ちげえよ!俺は人間だし、母さんも父さんも人間だ!」
「では、貴様、生まれつき神子なのか?」
「だから違って…」
「ふん。おもしろい。よし、坊主。私と共にこい」
文句を言うミエラを無視し、男は歩き始めた。
幸か不幸か。国王に気に入られたミエラは、こうして王族に迎え入れられたのだった。