ブラックティー
「遅い、遅すぎる」
高い鐘楼のある真っ白な教会の前で黒い少し控えめなゴスロリの格好をした小動物が頬を膨らませている。
立ち枯れた様になっていた周りの木々には若葉が彩りを添え優しい色に包まれている。
これで青空でも出ていればいいのだが生憎の花曇だった。
「悪いな、待たせて。こいつを探すのに手間取ってな」
「綺麗だね、まるでチョコレート細工みたい」
「行こうか」
「うん」
教会の裏手にある木々たちが大量生産した若葉色の下を抜けると石のプレートが綺麗に規則正しく並んでいる。
御影石が多いが石の種類もまちまちだ。
そして石の下には愛する人たちが眠っている。
その中のひとつの前に二人で立っている。
プレートには『In Loving Memory of』『Tsukine Yukimiya』と赤茶色の墓石に刻まれている。
持ってきた薔薇を供える。
「月音さん好きだったもんね。チョコレート細工みたいなブラックティー」
「そうだな、白でも赤でもなくこの色だったよな」
「ねぇ、なんでアメフトのボールが供えてあるの?」
「東雲だろ。あいつなりに何かを感じたんだろ、『In Loving Memory of』愛する思い出の中にと言う事なんだろ」
「行こう。あれ雪?」
「違うな、桜の花びらだ」
一陣の風に吹かれ白い物が舞っている。
それは近くの桜から飛ばされてきた花びらだった。
「バイバイって言っているのかな」
「思い出の中にだよ」
「そうだね」
教会に戻るとそこは静寂に包まれていた。
大通りからも少しはずれ木々に囲まれているからかもしれない。
手に持ったアメフトのボールを天高く蹴り上げる。
鈍色の空に吸い込まれる様に楕円形のボールが消え。
鐘が優しい音色を奏で始めた。
「何をグズグズしているの?」
「そうだな、一歩を踏み出さないとな。でも……」
「怖いの? 大丈夫だよ、あの人を信じられないの?」
「菜露の言葉を信じるよ」
「うん!」
菜露が名の通り。
穢れの無い朝日に照らされた朝露の様な笑顔を俺に向けた。
ゆっくりと踏みしめるかのように一歩を踏み出す。
「ここで待っているからね」
返事の代わりに片腕を軽く上げる。