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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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【BL】前世と今世のラプソディ

作者: ありま氷炎
掲載日:2026/10/13


「……嘘だったんですか?」


 また?

 派遣社員にまた犠牲者が出た。

 正社員の甘い言葉を信じて、誘いに乗ったけど、契約を更新してもらえなかったパターンか。


「嘘じゃないよ。君が優秀なら?って僕は言ったよね?だけど、君、馬鹿だから」


 最低な男だな。

 営業の三谷慶事。

 同期の中で一番ちゃらい男だ。

 独身。女性関係にダラシナイ。

 絶対にいつか誰かに刺されるだろう。まじで。


「私、あなたを信じて、初めてだったのに」

「だから、僕は嘘はついてない。君が優秀じゃなかったから」


 初めてか……。

 うわ、処女食い?


「ゆるせない。ゆるせない!」


 うわ。怒ってる。

 これはやばい。

 何か巻き込まれるのは嫌だから逃げよう。


「あ、野島!」


 なんで、背中を見て分かる?


「野島、君からも何か言ってよ」

「は?」

「君だって、山田さんの更新は難しいって言っていたでしょ?」

「本当ですか?」


 なんで話を振る。

 

「いや、俺は、」


 巻きこまないでほしい。

 本当。


 逃げ腰になって、数歩後ろに下がる。

 何かを踏んだ。


「?!」


 気が付いたら上下逆さまになって、酷い痛み。

 視界が真っ白になった。


★


「立川。わしは怖い。死にたくない」

「若様。申し訳ありません。私の力が及ばずに」

「いや、お前のせいではない。わしこそすまぬ。お前のことを道連れにしてしまい、すまぬ」


 腕の中の若様が泣きながらそう言う。


「いえ。私は若様を最後まで守ると誓いました。けれども、命に代えてもあなたの命を救えず、申し訳ありません。もしあなたが再び生まれ変わることがあれば、今度こそ必ずお守りいたします」

「生まれ変わり。それはいいな」


 若様は涙を流しながらも笑ってくれる。

 臣下の裏切りに遭い、成摩藩は宇大藩に乗っ取られようとしていた。

 永良家最後の生き残りであった多路丸様を私は連れ、城下町を脱出することができた。しかし追っ手は多く、今周りをぐるりと裏切り者に囲まれている。

 

「立川。わしを殺せ。あいつらに殺されるより、お前に殺される方がましだ」

「若様」


 裏切り者たちは下卑た表情で私たちを見ている。

 こいつらに捕まると何をされるかわからない。


「若様」


 私は若様の首を刎ね、自らの首に刃を当てた。


 それが私、俺の前世の記憶。


 ★


 目を開けると最初に目に入ったのは、三谷慶事だった。


「俺は、」


 なんで、こいつが?

 あ、そういえば、修羅場に遭遇して。


「転んで頭を打ったんだよ。野島」

「あ、そうなんだ」


 なんてことだ。

 間抜けな俺。

 こいつがここにいるってことは、助けてくれたのはこいつか。


「三谷が、病院に運んでくれたのか?」

「救急車を呼んだ。意識なかったから」

「そうなんだ。あ、えっと、あの子は」

「山田さん。帰ってもらったよ」

「そっか。ありがとう」


 体をゆっくり起こしてみたが、少しだけ頭が痛かった。

 後頭部を触るとコブみたいなのができていた。


「一応頭打ったから、検査入院だってさ。命には別状ないから、念のためってことみたい」

「あ、本当ありがとう」


 三谷ってあんまり話したことなかったけど、いいやつだったんだな。

 処女食いで、チャラ男だけど。


「で、立川。何か思いだした?」

「立川?」


 それは、俺の前世での苗字だ。

 なんでこいつが知ってるんだ?

 

「野島って立川でしょ?顔一緒だし。大体前世の記憶を思い出す時って、頭を打った時だし。僕もそうだったしね」


 前世?

 野島の前世はあの時代の奴なのか。

 俺の名前と顔を知っているということは、同じ藩の奴か?

 裏切り者?


「立川。そんな怖い顔しないで。僕だよ。僕。多路丸」

「わ、若様?!」


 そんな、嘘だ。

 あんた幼気な若様が、こんな……

 

「立川。わしの顔をよく見ろ」


 若様と同じ言葉遣い、彼は強引に私の顔を両手で包む。

 そして顔を近づけてきた。

 

「わ、若様」


 若様の顔ははっきり思い出せる。

 十歳だった若様、三谷の顔には若様の面影があった。


「やっと思い出してくれたか!長かった。本当に」


 三谷、いや若様は微笑むと、俺、私をがばっと抱きしめる。

 三谷の身長は俺より十センチ高く、百八十五センチくらい。

 もやしの俺と違って、体を鍛えているらしく、三谷、いや若様の腕の中に、俺はすっぽり収まってしまった。


「わ、若様、何を?」

「生まれ変わりっていいなあ。本当よかった!立川、これからもわしの側にずっといるのだぞ」

「はい!」


 俺は、私は若様の腕の中で反射的にそう答えてしまっていたのだが、何か違う気がする。

 え?

 

 ★


「野島。一緒にご飯食べよう」

「はい」


 若様は翌日から昼食に私を誘うようになった。

 俺は節約するために弁当だ。

 それに気がついた若様から、お弁当のリクエストもらい、俺は二人分作ることになった。

 まあ、一人も二人も一緒のようなものだから、負担はない。

 食事代としてなんだかいただくようになったのだが、褒美じゃと言われてしまい、受け取ってしまった。 

 情けない。


「野島、まだ終わっていないの?僕、手伝うよ」

「いえいえ、若様にそんなことしてもらうわけには」

「若様?!」


 外野から声が飛んだ。

 まずい。


「えっと、いや」

「ははは。野島って時代劇好きだもんね。それ大河ドラマの影響だよね?」

「あ、うん」


 社内でも積極的に話しかけられるため、俺は記憶の切り替えができなくて、ボロをだしてしまうが、若様、いや三谷はいつもフォローしてくれる。

 そのうち、いつも一緒にいるから、変な噂を立てられてしまった。

 最近、そういうドラマが放送されていた影響もあるだろう。


「違うから。恐れ多いこと言うなよ。俺がまさか、わか、いや三谷とそういう関係なわけないだろ。恐れ多い」

「恐れ多い?」

「ははは。またまた、野島、面白いこというよね」


 否定したつもりだけど、噂はなくならず、とうとう、応援してますみたいな女子社員も出てきた。

 だから違うって。

 俺は流石これは流石にまずいと思って、若様に直訴した。


「若様。これから若様は素敵な女性に会われるはずです。このような変な噂を立てられると大変です。俺たち距離を置きましょう」

「距離?面白いこというね。立川。お前はずっとわしを守ってくれるといったはずだぞ」

「それはそうですが、この時代においてはそこまで心配しなくても」

「立川。お前は嘘をついたのか?あの時」

「そんなことはございません。若様」


 結局俺の直訴は叶わず、若様とのおかしな関係は続いた。

 そんな時、強者(つわもの)が現れた。


「野島さん。あなた、三谷さんのこと好きなんですか?」

「す、好き?!」

「えっと、性的対象としてです」

「せ、性的対象?!まさか、ありえないですよ」


 強者は秘書課の花と言われる町前優里亜さんだった。

 俺たちより一つ後輩で、超美人。

 相手には困っていないタイプだけど、三谷に一筋だった。

 うん、知ってる。

 記憶を取り戻す前から、そのことを知っていた。

 だけど、三谷、若様はそんなこと構わず、色々な女子に手を出していたな。 

 ああ、若様。 

 どうして現世ではあんなにお軽くなってしまったのか。

 あの時代では多くの女性を侍らかすことは、後継者のことを考えるといいことだったんだけど、今は普通の人で、一夫一妻制だから。

 ああ、もしかしてだから結婚しないで遊んでいるのか。

 若様、なんてこと。


「野島さん?」

「あ、ごめん。本当に、俺はわか、いや三谷のこと性的に見てないから。単なる同僚だよ」

「同僚?それにしては仲良すぎるみたいですけど」


 町前さんは目を細めて怖い顔で俺を見る。

 いや、怖い。

 でもそんな風に見られても、俺は野島のことを若様であり、命がけで仕える対象としか思っていない。

 性的なんて恐ろしい。


「まあ、いいです。野島さんの気持ちはわかりました」


 町前さんはぺこりと頭を下げると、かつかつとハイヒールの音を立てて戻っていった。

 怖かった。

 だから、若様は町前さんから逃げてるのかな。

 怖いもんね。 

 美人だけど。


 それから数日、若様からの誘いが減った。

 お弁当も必要ないってメッセージをもらった。


 ……関係は、記憶を取り戻す前のような感じに戻った。


 うん。これでいい。

 俺は遠くから若様を見守る。

 もし何かあれば、俺は命がけで守る。 

 そうなる、やっぱり近くにいないといけないわけで。


 俺は心配になってしまい、その日から若様のストーカーになってしまう。

 だって、俺の知らないところで危ない目にあったら嫌だし。


 そうなると、町前さんと一緒にいるところ頻繁に見てしまう。 

 若様は町前さんと付き合ってから、他の女子を遊ぶのをやめたみたいだ。

 うん。それでいい。


 俺は若様が更生されて、とてもうれしかった。

 うん、うれしかった……。


「あ、やばい」


 ある日、俺はお弁当を二人分作ったことに気が付いた。

 馬鹿みたいだな。

 もったいないので、冷凍庫にしまってから会社に向かう。

 若様を見かけた。

 珍しく一人だった。


 若様は何を考えているのか、赤信号で飛び出した。


「若様!」


 俺は反射的に走り、彼の手を掴んで一気に横断歩道を渡り切る。

 ビービーと騒がしいクラクションの中をだ。


「何、やってるんだ!」

「あ、立川。いてくれたんだ。傍に」


 若様は俺の腕を引っ張り、腕の中に閉じ込めてしまった


「ずっと寂しかった。立川は、わしがおなごと添い遂げてほしいのだろう?だから、わしは町前とつきあった。だけど、本当に嫌で嫌で。だけど、立川はそれを望んでいる。だからわしは頑張った。だけど、やはり嫌なのじゃ」

「若様……」


 若様は、辛い思いをしていたのか。

 それなのに俺は自分の考えを押し付けて。


「若様。申し訳ありません。私は若様の幸せを祈っております。女性を添い遂げることができなくても、若様が幸せならそれで構いません。だいたい、町前さんは美人ですが少し怖いですし」

「そうだろう?あのおなごは怖いのじゃ。立川、わかってくれるか?」

「はい」


 頷くと、若様が両手を俺の顔を包む。


「ではいいのじゃな?」

「は、」


 聞き返すことができなかった。

 若様が俺にディープな口づけをしてきたのだ。


「ははは。これで既成事実。多くの証人がいるよね。立川、いや、野島。僕の恋人になって」

「え、あの」

「まあ、ゆっくり慣らしていこうね」


 戸惑っている俺の手を掴んで、若様が走り出す。


 わからない。

 本当にわからない。

 だけど、若様からの口づけがとても気持ちよかったのは事実だ。


 この一件があって、俺たちは社内で最初の公式LGBTQカップルになってしまった。

 社内恋愛には緩い弊社だけど、どうなんですか。これ。

 だけど、俺は若様には逆らえない。

 若様は毎日幸せそうだし。

 とりあえず、俺は若様を幸せにしたいので、彼が飽きるまではこの関係を続けるつもりだ。


 

 

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