騎士団のパン職人4
ただパンを焼いているだけのお話第四弾です。
騎士団の朝は早い。
朝食の準備に取り掛かるレティシアは更に早い。明け方から起きて、騎士団宿舎の隣にある女子寮にて身支度をして朝食の準備-パンを焼き始めるのだ。昨夜仕込んだ発酵したパンをお昼の分、取り分けて騎士団30人分を焼く。
私は子爵家の次女だけども、貧乏子爵家の生まれ。貧乏子だくさんなんて言葉どおり。長男、長女、私、三女、次男、四女。あら?合ってるかしら。
私が実家にいた時は食事時は母は全員の名前を連呼していた。たまに飼い猫のミイまで呼んでた。
長男、長女までは13歳から入る学園にと両親は資金繰りに頑張った。
王都は近いが、我が子爵家にはタウンハウスなどない。兄姉は学園の寮に入った。
私も弟妹達も資金繰りに協力した。使用人に混じって家事の手伝い。その頃は使用人も最低限になっていたからね。
私は厨房で料理人と毎日の食事を作った。特にパン!譲れない。パン大好き。パチパチ天使の音がするバケットやブール。
たっぷりバターのクロワッサンやデニッシュ(貧乏でなかなか作れなかった。バターすごい使うんだもの!)。
ミルクや砂糖を使ったパンはキッチリ人数分しか焼けない。
ライ麦パンも焼いた。料理長はこだわり派だったから、ライ麦の全粒粉や挽き方の違うパンを焼き、粉の配合やパン酵母にもこだわっていた。
子爵家出入りの商会に頼んで、形の悪い野菜や果物を仕入れていた。だって味は同じ。料理しちゃえば気にしない!
セクシーな人参を見て使用人と笑って、料理長に「お嬢様!」と叱られた。
これは弟妹も大笑いして、お母様からみっちり叱られた。
お肉だって硬い部位や切れ端を仕入れ、細かく細かく刻み、丸めてシチューに入れていた。スネ肉やほほ肉はコトコト煮込み料理になった。
ひと手間かけて安い材料でも美味しいご飯!と料理長との節約レシピ、売れる?と笑いあった。
両親が自分への学園の資金繰りをやりくりし始めた頃に、学園には行かずに働こうとレティシアは決意していた。しかし、領主の令嬢が地元で働くのは外聞が悪すぎた。
そんな中、父の友人が騎士団でパンを焼ける職人を探してるとの話があったのだ。
契約して毎朝届けてもらっていたパンが、第五騎士団に届かなくなった、聞けば、他の騎士団からの嫌がらせ。パン屋さんに圧力をかけたらしい。
えっ、パンが無ければ何食べるの?ちなみに我が家は時々、じゃがいも。美味しい。
料理長からお墨付きのパン技術を売り込み、渋る父を説き伏せ、晴れて騎士団のパン職人になったのは半年前。
父から厳命されたのは「騎士とは接触禁止」はあ、お父様、私まだ13歳。
父の友人である団長さんは、パン屋さんへ支払っていた予算から材料費諸々引いた金額をキッチリ私へのお給料にしてくれた。すごくない?団長さんありがとう!
私はお給料の半分を実家へ仕送りし残りは貯金。令嬢としてのドレスは実家に置いてきた。
自分のことは自分でできていたけど、侍女長(そもそも侍女自体がひとり)から寮一人暮らしに困らないようにしっかり習って、
簡単楽ちんなワンピース。もう令嬢には戻れないな〜。
騎士団の朝食はダークさんの作る具沢山スープ、大きな焼きソーセージ、スクランブルエッグ、そして私の作るパン。
料理人はダークさん。補佐でマルタさん。お二人はそれぞれ騎士団の敷地内にある家族用の寮にお住まい。
料理見習いはトムとチャムさん。二人は仕込みの下処理。私もパンの焼きがひと息ついたらお手伝い。
ふふふ、野菜のトムより剥くのが上手なのだ。実家では皮を薄く薄くむかなくちゃいけなかったから。
昼食は肉料理が中心。鶏肉が多い気がする。ダークさんのハーブ香るチキンソテーは絶品。皮パリパリ。お肉じゅわ。
ソースはその日に寄って違うけど、私はフレッシュなトマトソースが好き。
時々、付け合わせで作るレティシア特製マッシュポテトも好評だ。時にはパスタもダークさんと相談しながら作る。じゃがいものニョッキとかもね!野菜もしっかりとってもらいたいからほうれん草練り込んだニョッキは不評だった。なぜ?
夜は、早く帰って家族とご飯を食べたいダークさんが、煮込み料理を仕込んでおくので、マルタさん、トムとチャムさんで配膳口から騎士さんへ配り、パンは取り放題にしておく。
ダークさんの煮込み料理はお肉がほろほろ。なのに旨味はしっかり残ってる。
コクのある煮込みに合わせてパンを準備する。騎士さん達が食べてる間に明日のパンの仕込み。
ちなみに酵母は実家からの持ち込み。でも早々に無くなったから、果物で酵母作り。毎日毎日様子を見る。
たまに予算とにらめっこしながら焼き菓子も作っちゃう。仕入れの商会に頼んで、形が悪かったり熟しすぎちゃった果物を仕入れてジャムを作る。
りんごの季節になったらキャラメリゼしてもいいな。砂糖あるし!楽しい!実家では砂糖も貴重だったからね。
最近はジャムの乗ったクッキーだけでなく、マフィンやパウンドケーキも焼く。甘いものは騎士さんにも好評!
騎士のひとりから絡まれた件やピザ祭りがあり、「厨房から出てこない訳アリな女の子」との認識が騎士団の中で浸透した。
噂もある。団長の隠し子。いやいや、団長さんは貴族で、きちんと令息、令嬢がいらっしゃる。しかも超がつく愛妻家。
一度だけ団長さんのお宅へお呼ばれした。同じ子爵で、領地はないけども武官を輩出してる名門。
奥様は伯爵家の令嬢だったけど「お嫁さんにしてくれるって言ったわね?」って押しかけて来ちゃったの!と、ころころ笑う素敵な方。
お昼をご馳走になった。前菜から始まった素晴らしいお食事。すんごく美味しい。
お母様から習ったテーブルマナーを思い出しながらなんとかなったかな?
しっかり味を覚えて帰ろうとしたら、団長さんは笑いながら、厨房へ案内してくれた。
奥様はお怒りだったけど。女の子にはドレスでしょう?って。着せ替え人形になりかけた!危ない。ワンピース生活に慣れてしまったら、窮屈なドレスには戻れない。
夕方まで、お邪魔になりながら団長さんの料理人から色々教わり、ホクホクしながら寮へ帰宅。お土産はチョコレートとキャンディ。嬉しい!
休日は寮で実家に手紙を書いたり、学園に通う兄姉と会ったりすることも出来るようになった。
おしゃれなカフェも行ってもいいけどなぁと、公園でお茶や果実水と私の焼いたクッキーとかでのんびり。
家のみんなはどうしてるかなとか。学園のちょっとした恋バナ!を聞く。
お兄様はお姉様を睨むけど、お友達の話よと、知らんぷり。
お姉様、目指せ玉の輿!です。
我が国は家同士の契約結婚もあるけども、たいていは学園でお相手を決めている。不思議と貴賤結婚はないらしい。やっぱりお育ちで決まるのかしら。
「レティシア、お前が休んでる間のパンはどうしてるんだ?」とお兄様がいう。
「レティシアは家でも上手くやってたじゃない。忘れたの?」とお姉様。
「ああ、あのデカいパンで、自分で挟むなんでもサンドイッチか。懐かしいな。あれ、美味いよな」
今度持ってきてもいいね、有り合わせサンドイッチ。騎士団の材料使ったら駄目だから、お給料で自分用に材料一式揃えようかな。
「レティシアは相変わらずパンね」微笑むお姉様。「元気なら良いか」とお兄様。
チャムさんと休みが合った時に、一緒に街で買い物して憧れのカフェに入った!
お兄様とお姉様には悪いけど、お給料もらってるし、良いよね?
メニューをチャムさんと見ながら、悩む。結局、いつも同じものになっちゃうのよ、と笑うチャムさん。笑うとえくぼ。可愛い。
チャムさんはチーズケーキと紅茶。私は悩んで悩んでフルーツタルトとミルクティー。
サーブされるケーキと紅茶。はちみつサービスしてくれた!嬉しい。
「レティシア、もっと食べないと。痩せてるんだから!あんなにたくさんのパン、体力いるわよ?」
「?たくさん食べてますよ。ダークさんの賄い美味しいです。トムやチャムさんの賄いも美味しいです!」と私。
私のパンが余った時にダークさんが作ってくれるパングラタンやパンプディングの美味しさで話が盛り上がる。
「もっとたくさんパン焼いて余らせて。あ、でもデニッシュも楽しみだから悩む。サンドイッチも美味しいわ」チャムさんもしっかり粉やバターの在庫を知ってる。うちの厨房は管理が行き届いてる。
街を歩いていたら、紅茶とジャムの専門店があった。庶民でも気軽に入れそうなこじんまりしたお店。
チャムさんが、「こういうお店は入れるわね。高そうな店はね、貴族の使用人のフリして、お使いにきましたって感じで入るのよ」えっ。そんなことして大丈夫?バレないのかしら。
お店に入ると元気な声で「いらっしゃいませ!」と20歳くらいのお姉さんが声をかけてくれた。
「ゆっくり見てくださいね!テイスティングは難しいですが、香りをお試しください。入れ方や美味しい飲み方をご説明します!」
おお、親切。お母様からストレートの紅茶は、まだ早いと言われていることを伝え、ジャムも見たいと伝えると、ミルクティーなら飲めますか?ミルクパンで入れる紅茶もありますよ!お砂糖少しでも美味しいです。お手頃なお値段の茶葉があります!と、丸いコロコロした紅茶を紹介してくれ、ミルクパンでの入れ方も教えてくれた。私でも買えそう。
隣国では紅茶にジャムを入れて飲むと教えてもらった!美味しそう!
あと、りんごの皮を使った紅茶の入れ方やいちごジャムの途中の灰汁を紅茶に入れても美味しいと色々教えてもらった。
ジャムも種類がたくさん。コンポートも美味しそう。
素敵なティーセットもある。夢みたいなお店。本当に庶民向けなのかしら?
チャムさんの存在を忘れ、お店の方と話し込んでしまっていた!
慌ててチャムさんのところへ行くと焼き菓子がある棚を真剣に見ていた。
「チャムさん、ごめんなさい。私だけお店の方とお話してしまって!」
と謝るとチャムさんは気にしないで、好きな紅茶を買っておいでとニコニコしていた。
お店を出たところで、「レティシア!お店にはパウンドケーキやクッキーに紅茶の茶葉を入れて焼いた菓子が売っていたわ!あなたなら作れるわね?」と真剣な顔つき。
騎士団の厨房にある茶葉で焼くことになった。失敗してもいいようにパウンドケーキで試作した。
細かい茶葉を使ったのが良かったのか、紅茶香る美味しいパウンドケーキが出来上がった。
チャムさんはパウンドケーキを頬張りながら、「レティシア、また街歩きしましょうね!」と嬉しそうに言った。私も嬉しい!
そんな楽しい毎日だったが、第三、第四騎士団が第五騎士団のパンが美味しいらしいことを噂で聞き、嫌がらせが上手くいっていないことに、ようやく気がついた。
そして、パン屋さんからも大口の顧客が無くなったとの陳情もあったって。そうよね。商売だもの。
団長会議の中で議題に上がったらしい。たかがパン、されどパン。
パン屋さんの配達が復活したら、どうしよう。解雇?トムやチャムさんとで、仕込みは足りている。ダークさんの補佐もマルタさんがしっかりやっている。
団長会議が終わり、団長さんから呼び出された。ああ、やっぱり解雇かな。
団長室に入ると団長さんは笑いながら「第三、第四のやつらに貸しができた。パン屋への圧力を認めなかったがな。あいつら。まったく、くだらない嫌がらせしやがって」と言った。
「パン屋からの陳情にはな、第三、第四のやつらがパンの発注を増やして対応する。レティシアはパン焼いてくれ。お前の親父に怒られちまうな」とのこと。やった!
嫌がらせ行為を第一騎士団やその上の方が問題視し、第三、第四騎士団はパン屋さんからの購入を増やし、代わりにしばらく肉や嗜好品の予算を減らされるとのこと。体が資本の騎士さんなのに可哀想だけど。
「レティシア、まだしばらくは頑張ってもらうからな?」と団長さんはニヤリと笑った。
第三、第四騎士団は肉だけでなく、お酒などの嗜好品の予算を減らされるツラい罰が下されました。




