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レクサス逆転生――異世界育ちの俺、父さんの世界で科学文明を学ぶ  作者: しばたろう


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11/19

11昼休みの決闘

「ちょっと、武田! あんた、何言ってんのよー!」


 サクラが武田に詰め寄る。


「う、うるせえ……」


 武田はバツが悪そうに視線を逸らした。


 だが、その一言で火がついた。


「すげえ、果たし状だ!」

「どうした武田! やれやれ!」


 男子たちが一斉に騒ぎ立てる。


 教室の空気が、一気に熱を帯びた。


 ――果たし状。


 俺は、武田の言葉を頭の中でなぞる。


「俺と勝負しろ」


 勝負。


 ――仕合、か。


 その言葉が、自然と浮かぶ。


 王国では、仕合は日常の一部だった。


 己の鍛錬の成果を試すため。

 ライバルとの力の差を測るため。


 俺自身、何度も経験している。


 申し込んだこともあるし、

 申し込まれたこともある。


 一対一の、真剣勝負。


 ひとたび仕合となれば、観客が集まり、

 勝者には喝采が、敗者にも敬意が送られる。


 そして――


 戦士にとって、

 仕合を申し込まれることは、名誉だ。


 だから俺は、自然と問い返していた。


「剣術でか?」


 一瞬、教室が静まり返る。


 全員の視線が、こちらに集まった。


「ちがう!」


 武田が叫ぶ。


「拳と拳でだ!」


 ――なるほど。


 素手の格闘、というわけか。


 一口に仕合と言っても、種類は様々だ。


 剣術。

 格闘。

 魔法。

 時には異種の組み合わせさえある。


 思案していると。


「おい、高瀬、やめとけって」


 山下が小声で割って入る。


「武田、子どもの頃から空手やってるんだぞ」


 ――空手。


 聞いたことのない言葉であるが、

 格闘の鍛錬を積んでいる、ということだろう。


 だが――


 俺もまた、剣術ほどではないにせよ、

 格闘は叩き込まれている。


 母に。


 徹底的に。


 ――負けるつもりはない。


 むしろ、


 いい仕合になるかもしれない。


 自然と、口が開いた。


「いいだろう」


 その一言が落ちた瞬間――


 教室が、爆発した。


「うおおお! マジか!」

「やるのか!?」

「ガチじゃん!」


 歓声とざわめきが、一気に広がる。


 椅子を引く音。

 机を叩く音。


 まるで、祭りだ。


「なに、ばかなこと言ってんのよー!」


 サクラの叫びが響く。


 だが、その声は――


 完全に、歓声の中に飲み込まれていた。

 


 昼休みの体育館。


 その中央で、俺と武田は向かい合っていた。


 俺たちの仕合の噂は、あっという間に他クラスにまで広がり、

 周囲はすでに観客で埋め尽くされている。


 ざわめき。

 熱気。

 期待。


 歓声が、波のように押し寄せていた。


 武田は、じっと俺を睨みつけている。


 ――いい目だ。


 逃げも、迷いもない。


 真剣勝負の顔。


「ーーっ」


 武田が構えを取る。


 見慣れない型。

 だが、無駄がない。


 重心は安定し、間合いの取り方も自然だ。


 ――いい構えだ。


 俺も、静かに構える。


 その瞬間、


 武田の表情が、わずかに変わった。


 ――驚き、か。


 王国ではごく基本の構えだが、

 この世界では見慣れないのだろう。


 ざわついていた観客が、一瞬で静まり返る。


 空気が張り詰める。


 それが、合図だった。


「せいやッ!」


 武田が一気に踏み込む。


 鋭い突き。


 俺は半歩、後ろへ引く。


 間髪入れず、


 上段からの蹴りが、頭部を狙って飛んできた。


 ――速い。


 だが、


 腕で受ける。


 衝撃を流す。


 武田の攻めは止まらない。


 突き、蹴り、連撃。


 間断なく繋がる動き。


 それを、


 受ける。

 かわす。

 いなす。


「おお……!」


 観客のどよめきが広がる。


 武田の動きは、洗練されていた。


 軸がぶれない。

 連携も滑らかだ。

 スピードもある。


 ――鍛えている。


 よく分かる。


 だが――


 軽い。


 決定的に、軽い。


 再び、頭部を狙った蹴り。


 今度は、捕らえる。


 腕で受け、そのまま足首を絡め取る。


 体勢が崩れる、その一瞬。


 返す足で――払う。


 武田の身体が宙に浮き、


 次の瞬間、床へと転がった。


 だが、さすがだ。


 即座に受け身を取る。


 ――しかし。


 その時には、すでに。


 俺は、間合いに入っていた。


 踏み込む。


 拳を、伸ばす。


 止める。


 武田の顔面、わずか一センチ手前。


 寸止め。


「……え?」


 武田の口から、間の抜けた声が漏れる。


 一拍の静寂。


 そして――


「うおおおおお!!」

「すげえええ!!」


 爆発する歓声。


 体育館が揺れるほどのどよめき。


「くそっ……!」


 武田が歯を食いしばる。


「もう一本だ!!」


 叫び、立ち上がろうとした――そのとき。


「こら、お前ら! 何をやっている!」


 鋭い声が、体育館に響き渡った。


 入口に立つ教師の姿。


 空気が、一瞬で冷えた。

 


 職員室。


「お前たち、あんな大勢を集めて――喧嘩とは、何を考えているんだ!」


 教師の怒声が、室内に響き渡った。


 俺と武田は、机の前に並んで立たされている。


 武田はうつむいたまま、押し黙っていた。

 握りしめた拳が、小さく震えている。


「なんであんなところで、喧嘩なんてしたんだ!」


 怒りは収まる気配がない。


 ――どうやら、この教師は勘違いしている。


 あれは、喧嘩ではない。


 ここは、はっきりさせておくべきだ。


「先生」


 俺は顔を上げ、まっすぐに教師を見る。


「喧嘩ではありません。仕合です」


 一瞬、空気が止まった。


 教師が、口を開けたまま固まる。


 想定外だったのだろう。


 隣で、武田が驚いたようにこちらを見た。


「なにが仕合だ! あんなもの、ただの喧嘩だろうが!」


 教師が声を荒げる。


 ――理解できない。


 仕合と喧嘩を同列に扱うなど。


 戦いに身を置く者にとって、それは明確に異なるものだ。


「喧嘩と仕合を一緒にするとは――なにごとですか」


 自然と、言葉が強くなる。


 武田の目が、さらに見開かれた。


 そのとき、


「まあまあ、落ち着いてください」


 別の教師が間に入った。


 穏やかな声だった。


「いいかい、高瀬くん」


 諭すように続ける。


「剣道の試合のようにね、教師や大人の許可を得て行われたものなら、それは“試合”と呼べる。

 でも、無許可でやれば――それは、ただの喧嘩になるんだよ」


 ――なるほど。


 この国では、“許可”が境界線になるのか。


 知らなかった。

 目から鱗が落ちる。


 俺は小さく息を吐き、


「……考慮が足りていませんでした。申し訳ありません」


 素直に頭を下げた。


 先ほどまでのやり取りとの落差に、教師たちが一瞬言葉を失う。


「……分かればいい」


 怒鳴っていた教師も、少しだけトーンを落とした。


 それから、いくつか注意を受け、説教を聞かされる。


 武田は終始無言のままだった。


 やがて――


「もういい。戻りなさい」


 ようやく解放される。


 職員室を出ると、廊下の空気が妙に軽く感じられた。


 ――この世界の“仕合”は、少し窮屈らしい。


 そんなことを思いながら、俺は静かに歩き出した。

 

 

「……おまえ、あれ、どこで習ったんだよ?」


 先を歩いていた武田が、足を止めて振り向いた。

 ぽつり、と落とすような声だった。


 ――ああ。


 俺の格闘技術のことか。


「母に習った」


「母?」


 武田が素っ頓狂な声を上げる。


「ああ。母は、とても強い」


「……」


 一瞬、言葉を失う武田。


 俺は続ける。


「祖父は、もっと強い」


「じいちゃんもかよ……」


 呆れたような声。


「あと――」


 少しだけ間を置く。


「妹のミオは、俺より強い」


「……は?」


 武田が固まる。


 完全に理解が追いついていない顔だ。


 しばらくして、


「……格闘技一家かよ」


 小さく、そう呟いた。


 そして、そのまま歩き出す。


 その声は――


 さっきまでとは違って、どこか柔らかかった。



 教室に戻った瞬間、


 俺たちは、クラスメイトの男子たちに取り囲まれた。


「大丈夫だったか?」

「あの勝負、やばかったぞ!」

「あれ、プロじゃね?」


 口々に飛んでくる声。


 その輪をかき分けて、


 ずかずかと前に出てくる人物が一人。


 ――サクラだ。


「あんたたち」


 腕を組み、じっとこちらを睨む。


「ちょっと、こっちに来なさい」


 有無を言わせない口調だった。


 そのあと――


 俺と武田は並んで、


 みっちりと、


 サクラに説教されることになった。

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