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レクサス逆転生――異世界育ちの俺、父さんの世界で科学文明を学ぶ  作者: しばたろう


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10学業と体育の授業

 日々の努力の甲斐もあって、転入後しばらくして行われた期末テストでは、

 数学、物理基礎、化学基礎――いずれも、ほぼ満点に近い点数を叩き出した。


 日頃の勉強態度も評価されたのだろう。

 クラスの中で、「高瀬は頭がいい」という認識が、自然と広まっていった。


 ――まあ、悪くない。


 昼休み。


「高瀬ってさ、なんでそんなに勉強頑張るんだ?」


 前の席の山下和樹が、弁当を頬張りながら聞いてきた。

 こいつとは席が近い縁もあって、昼はだいたい一緒に食べている。


「そうだな……俺は、車を作りたいんだ」


 おばあちゃんが作ってくれた弁当をつつきながら答える。


「なるほどな。自動車メーカー志望ってわけか。

 そりゃ、勉強も気合入るよな」


 ――まあ、中らずといえども遠からずだ。


 あえて訂正はしなかった。


 高校の勉強自体は順調だった。

 苦手な英語や国語も、想定よりは食らいつけている。

 及第点、といったところだろう。



 だが――


 問題は、別にあった。


 体育の授業だ。


 その日の種目は、バスケットボール。


 よく弾む球を床に突きながら走る。

 ドリブル、というらしい。


 ――なんだ、この反発力は。


 手に伝わる弾性。

 均一な形状。

 おそらくゴム系素材……いや、空気圧も関係しているのか?


 思わず分析に意識が向く。


 しかし、感心している場合ではない。


 俺は、この手の球技をまともに扱った経験がない。


 ボールを突けば、予測不能な方向へ跳ねる。

 強すぎれば暴れ、弱すぎれば止まる。


 制御が、できない。


 ようやく前に進めたかと思えば、すぐにボールが逸れる。

 追いかける。

 また逸れる。


 ――非効率極まりない。


 さらに、この球を、あの高い位置にある小さな輪に通すという。


 ゴール。


 狙って投げる。


 ――入る気がしない。


 そもそも、後ろの板にすら当たらない。


 その様子がよほど滑稽なのだろう。


 俺がドリブルを試みるたび、

 シュートを放つたび、


 周囲から、くすくすと笑いが漏れる。


 そして――


「おい高瀬! なんだそれ! 盆踊りかよ!」


 武田恒一だ。


 あの、目つきの悪い男。

 ここぞとばかりに、大声で笑っている。


 ――やけに楽しそうじゃないか。


 正直、腹が立つ。


 一方で、周囲の生徒たちは違う。


 誰もが当たり前のようにボールを操り、

 走りながら正確にドリブルを続け、

 軽々とシュートを決める。


 ――大したものだ。


 感心せざるを得ない。


 日本の生徒は、幼い頃からこうした球技に親しんでいるのだろう。



 別の日の体育は、サッカーという競技だった。


 サッカーボールなる球を足で蹴り、相手のゴールに入れれば得点。

 ルール自体は単純だ。


 しかし――


 この世界には、このような「ボールを扱う競技」が数多く存在し、

 しかも競技ごとに専用のボールが用意されているらしい。


 ――なんと洗練されているのだろう。


 思わず感心する。


 だが、


 やはり、感心してばかりはいられなかった。


 足でボールを扱う。


 ドリブル、というらしい。


 ――難しい。


 まず、飛んできたボールを蹴ろうとして――空振りする。


 タイミングが合わない。

 距離感も掴めない。


 ようやく当たったかと思えば、


 ボールは明後日の方向へと飛んでいく。


 ――制御不能。


 バスケットボール以上に、扱いが厄介だ。


 結果、


 俺はまたしても、クラスの笑いものとなった。


「おいおい高瀬! ボール避けてんのか!? 敵じゃねーぞそれ!」


 武田が手を叩いて笑う。

 やけに生き生きとしている。


「今の見たか? 空振り三連発! 才能なさすぎだろ!」


 ――こいつ、本当に楽しそうだな。


 腹が立つ。


 だが、


 周囲の生徒たちは違う。


 誰もが当たり前のようにボールを足元で操り、

 軽やかに相手をかわし、

 鋭いシュートをゴールへ突き刺す。


 ――見事だ。


 無駄がない。

 動きに淀みがない。


 バスケットボールだけではない。

 サッカーでも同じだ。


 日本の生徒は、こうした多様な競技を、当たり前のようにこなしている。


 ――大したものだ。

 


 そんなある日のことだった。


 その日の体育は――剣道。


 日本における剣術らしい。


 そういえば、


 元の世界では、日々欠かさず剣術の鍛錬をしていた。

 だが、こちらの世界に来てからは、日々の生活や勉強に追われ、剣を握ることもなかった。


 ――久しぶりに、剣を握れる。


 胸の奥が、わずかに高鳴る。


 武道場に集められ、手渡されたのは竹刀という模擬刀だった。


 ――これは……


 木刀よりも、しなやかで軽い。

 弾力があり、打撃の衝撃も分散される構造だ。


 なるほど。

 鍛錬中の安全性を考慮した道具、というわけか。


 ――実に合理的だ。


 思わず感心する。


 教師が素振りの方法を説明する。


 動きは――ほぼ同じだ。

 あちらの世界でやっていたものと、大差ない。


 ――これならいける。


 周囲の生徒たちが一斉に素振りを始めた。


 ぶおん。

 ぼおん。


 ばらばらの音が、道場に響く。


 そして、気づく。


 ――おや。


 誰一人として、まともに振れていない。


 力任せに振り回しているだけ。

 軌道も定まらず、重心もぶれている。


 ――なるほど。


 日本の生徒は球技には長けているが、

 剣術については、そうでもないらしい。


 俺は静かに竹刀を握った。


 軽い。


 だが――この感触。


 久しく忘れていた、“剣”の重みが、確かにそこにある。


 悪くない。


 構える。


 自然と、身体が動く。


 上段。


 呼吸を整える。


 息を吸い――


 意識を、剣先へと集中させる。


 ――振り下ろす。


 シュッ!


 空気を裂く音が、鋭く響いた。


 周囲の音が、一瞬止まる。


 もう一度。


 シュッ!


 無駄のない軌道。

 最短で、最速の一閃。


 気持ちがいい。


 身体が、覚えている。


 夢中で、何度か振り下ろした。


 ふと――気づく。


 視線。


 全員が、こちらを見ていた。


「すげえ……」


 誰かが、ぽつりと呟く。


「高瀬、お前……剣道、やってたのか?」


 ――まあ、そういうことになるのだろう。


 曖昧に頷く。


 そのとき、


 武田と目が合った。


 無言でこちらをにらみつけている。


 そして、面白くなさそうに目を逸らした。


 やがて、防具の装着に移る。


 面、胴、小手、垂。


 ――これは、随分と重厚だ。


 打撃の衝撃を受け止める構造。

 これなら、思い切り打ち込んでも大きなケガにはならない。


 この世界の「武道」は、実戦ではなく、技術の研鑽に重きを置いているらしい。


 簡単な打ち合いの説明があり、

 順番に相手を変えながら稽古が始まった。


 一人目。


 開始と同時に、相手が上段から振り下ろしてくる。


 ――単調だ。


 軌道が読める。


 半歩だけ身体をずらし、

 すれ違いざまに――


 コツン。


 竹刀の先で、相手の面を軽く打つ。


「……あ」


 間の抜けた声。


 二人目、三人目も同様だった。


 力任せに振りかかってくる攻撃を、

 かわし、いなし、打つ。


 ――やはり、初心者だ。


 日本は平和な国だ。

 剣を扱う必要など、日常には存在しないのだろう。


 授業の終わり際。


「高瀬」


 教師に呼び止められた。


「お前、剣道部に入らないか?」


 部活への勧誘。


 ――悪くない。


 日々、剣を振るえる環境。


 断る理由はなかった。


「……入ります」


 自然と、そう答えていた。



 着替えを終え、少し遅れて教室に戻る。


 その瞬間――


 男子たちに囲まれた。


「高瀬、お前やばいって!」

「あの素振り、なんだよあれ!」

「運動音痴かと思ってたわ!」


 口々に飛んでくる賞賛。


 さらに、


「なになに? 高瀬くん、剣道すごいの?」

「ハヤト、そんな特技あったのか!」


 サクラとハルカも加わり、場は一気に騒がしくなる。


 ――少し、照れる。


 そんな中、


 がたんっ!


 鋭い音が、教室に響いた。


 振り返る。


 椅子を倒し、立ち上がっている男。


 ――武田。


 顔は赤く、歯を食いしばっている。


 俺を指差すその手が、わずかに震えていた。


 そして、


「高瀬……!」


 一歩、踏み出す。


「俺と――勝負しろ」


 教室の空気が、凍りついた。

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