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レクサス逆転生――異世界育ちの俺、父さんの世界で科学文明を学ぶ  作者: しばたろう


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1/9

01父の世界

 目を開けると、白い天井が見えた。


 自分が横になっていることに気づく。


 ――ここはどこだ?


 なぜ俺は寝ているんだ?


 ぼんやりしていた頭が、ゆっくりと回り始める。


 たしか俺は――


 鉱山都市ルウテスからベルセスへ、レクサスを運転していたはずだ。


 俺の勤めるタカセ運輸株式会社の仕事である。

 研究に使う大量の魔石をトランクに積み込み、荒野の中の一本道を走っていた。


 まだ舗装もされていない、砂と岩だらけの道だ。


 そういえば――


 運転中、突然、風景がぼやけた。


 霧でもないのに視界が白く霞み、身体がふわりと浮くような感覚に襲われた。


 浮遊感。


 そして、落ちる感覚。


 そこまでは覚えている。


 だが――


 気づけば、この状態だ。


 ……運転中に気を失ったのだろうか。


 誰かに救助されて、ここに寝かされているということなのか。


 俺はゆっくりと体を起こした。


 体に異常はないようだ。


 痛みもない。


 周囲を見回す。


 俺はベッドの上に寝かされていた。


 だが、このベッド――見たこともない形状だ。


 木でできていない。


 金属と、何か白い素材でできている。


 部屋の中には、同じ形のベッドが三台並んでいた。


 真っ白な壁。


 見たこともない部屋だ。


 そのとき――


「あ、気が付きましたか?」


 女性の声がした。


 声のした方を見ると、白い衣装を着た女性が立っていた。


 全身が真っ白な服だ。


 これも見たことのない服装だった。


 女性は驚いたような顔をしている。


「そのままでいてください。今、先生をお呼びします」


 そう言うと、慌ただしく部屋を出ていった。


 しばらくして、先ほどの女性に連れられて、一人の男が現れた。


 同じく白い衣装を着ている。


 「先生」と呼ばれているところを見ると、おそらく医者なのだろう。


「あの……あなたが俺を助けてくれたのですか?」


 俺はそう尋ねた。


 男は首を振った。


「いえ。あなたは救急車で運ばれてきたのです」


 俺の腕や瞳を確認しながら、医師は続ける。


「高速道路の路側帯で、車の中で気を失っていたそうです」


 救急車。


 高速道路。


 聞き慣れない言葉だ。


 だが――


 どこかで聞いたことがある。


 ……そうだ。


 父さんの昔話だ。


「痛いところはありませんか? 気分はどうです?」


「はい。特に問題はありません」


「それは良かった」


 医師は軽くうなずいた。


「あなたは丸一日眠っていたんですよ」


「ですが、今のところ異常はなさそうです。もう少し様子を見て、問題なければ帰ることもできるでしょう」


 そして医師は、思い出したように付け加えた。


「ああ、そうそう」


「警察の方が、あなたに話を聞きたいとのことです」


「警察?」


 また、聞き慣れない言葉だ。


 医師は一通り体を確認すると、部屋を出ていった。



 それからしばらくして、男が二人やってきた。


 その服装を見て、俺は思わず目を細める。


 ――あれは。


 昔、父さんが時々着ていた服に似ている。


 たしか、あれを「スーツ」と呼んでいたはずだ。


 二人の男は名乗った。


 タナカと、サトウ。


 タナカはハインツおじいちゃんくらいの年齢だろうか。


 サトウは、父さんと同じくらいに見える。


 簡単に体調を確認された後、タナカが口を開いた。


「君の名前を教えてくれるかい?」


 声は穏やかだった。


 だが、その目は鋭い。


 何かを警戒しているようだった。


「ハヤト。タカセ・ハヤトです」


 そう答えた瞬間――


「タカセ!」


 タナカが息を呑んだ。


 サトウが隣で目を見開く。


「タナカさん……タカセって、あの――」


「ああ」


 タナカはサトウを制し、再び俺を見た。


「君は、タカセ・タクミという人物を知っているかい?」


「タカセ・タクミは、俺の父さんですが?」


「タナカさん、これは!」


 サトウが思わず声を上げる。


 だがタナカはそれを手で制した。


 そして、静かに尋ねる。


「その……タカセ・タクミ。つまり君のお父さんは、今どこにいるんだ?」


 奇妙な質問だった。


 父はタカセ運輸株式会社の社長として、あちこちを飛び回っている。


 だが最近は、ベルセスの本社にいることが多い。


「おそらくですが、ベルセスのタカセ運輸株式会社の本社だと思いますが」


 すると、タナカは眉をひそめた。


「ベルセス?」


「それはどこだい?」


 さらに続ける。


「それより……君のお父さんは、生きているんだね?」


 ……どうも話がおかしい。


 ベルセスは王国でも有名な都市だ。


 知らないはずがない。


 それに――


 なぜ父の生死を確認するのだろう。


 俺の怪訝な表情に気づいたのだろう。


 タナカはゆっくりと言った。


「君の乗っていた車――レクサス」

「その車は、十八年前にタカセ・タクミ氏とともに失踪した車なんだ」

「以来、ずっと行方不明だった」



 タナカさんは、少し間を置いてから続けた。


「十八年前――タカセ・タクミ氏は、乗っていた車レクサスと共に突然姿を消した。失踪事件として扱われ、当時はかなり騒ぎになった」


 タナカさんの声は落ち着いていたが、その目は俺の反応を逃すまいとじっと観察している。


「そして昨日、そのレクサスが高速道路の路側帯で発見された。車内で気を失っていたのが……君だ」


 静かな口調で、そう締めくくった。


「つまり、君は当時の失踪事件の重要参考人ということになる」


 俺はしばらく言葉を失った。


 だが――。


 タナカさんの話を聞きながら、俺の頭には、ある記憶がよみがえっていた。


 昔、父さんが夜になるとよく聞かせてくれた昔話だ。


 父さんは言っていた。


「父さんは、元々この世界の人間ではないんだよ。」


 ある日突然、レクサスと共に――

 この世界に飛ばされたこと。


 そして、この世界で生きることになったことを。


 子供の頃の俺は、半分は冗談だと思っていた。

 


 だが――。


 もし、それが本当だとしたら。


 ということは。


 ここは――。


 父さんが元いた世界なのではないか?


 ふと、そんな考えが頭をよぎった。


 次の瞬間、俺はベッドから飛び起きていた。


「お、おい! まだ安静に――」


 驚くタナカさんたちの声を背中で聞き流しながら、俺は部屋の窓へ駆け寄る。


 そして――外を見た。


 青い空。


 雲一つない広い空だ。


 ここはかなり高い場所らしい。

 王都の城の塔か、崖の上の神殿にでも立っているような高さだ。


 だが――その下に広がっていた光景は、俺の知るどんな都市とも違っていた。


 灰色の建物が、無数に並んでいる。


 背の高い建物が、そこら中に立っている。


 王都に建つどんな塔よりも高く、巨大だ。


 そしてその合間を、灰色の道が縦横に走っている。


 その道を――


 なんということだ。


 無数のレクサスのような車が走っている。


 鉄の馬車のようなものが、途切れることなく行き交っているのだ。


 父さんが昔語っていた。


 空を飛ぶ鉄の鳥。


 夜でも明るい街。


 そして――


 鉄の馬が走る世界。


 その話の情景と、目の前の光景が、ぴたりと重なった。


 間違いない。


 ここは――


 父さんが元いた世界だ。


 父さんは、この世界から俺たちの世界へやってきた。


 ならば。


 俺が、この世界へ来ることだって――あり得る。


 理解した瞬間。


 胸の奥から、何かが一気に噴き出した。


「うわああああああああああああああああ!」


 気づけば、俺は叫んでいた。


 驚き。


 不安。


 混乱。


 そして――


 言葉にできないほどの、奇妙な歓喜。


 そのすべてが、一度に爆発したのだった。

 


 「おちついて。おちついて。」


 サトウさんになだめられ、俺はようやく我に返った。


 深く息をつきながら、再びベッドに腰を下ろす。


 すると、先ほどの白い服の女性が、コップに温かいお茶を入れて持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


 俺は礼を言い、コップを受け取る。


 湯気の立つお茶を一口飲むと、胸の奥で荒れていた呼吸が少しずつ落ち着いていった。


 ふう、と息を吐く。


 そして――


 心配そうな顔でこちらを見つめるタナカさんとサトウさんに向き直り、俺は話し始めた。


 父、タカセ・タクミがレクサスに乗って、この世界から別の世界へ転移したこと。


 その世界で父が物流会社を立ち上げたこと。


 父が母と出会い、結婚し、そして俺が生まれたこと。


 俺は十五歳で成人し、父の会社で働き始めたこと。


 そして――


 会社の仕事でレクサスを運転している最中に、どうやらこちらの世界へ来てしまったらしい、ということ。


 そこまで話したところで、


「ちょっと、まって」


 サトウさんが手を上げて口を挟んだ。


「ハヤト君。君、今、十五歳?」


「はい」


「で、レクサス運転してたの?」


「はい」


 サトウさんは、しばらく黙って俺を見つめていたが――


「未成年が車運転したら、だめでしょー!」


 突然、素っ頓狂な声を上げた。


「問題はそこじゃない!」


 すかさずタナカさんが突っ込む。


 そして、腕を組み、俺をじっと見つめる。


「……しかし、ハヤト君」


 低い声で言った。


「君が嘘を言っているようには見えない。だが、君の話はあまりにも奇天烈だ。にわかには信じがたい」


 俺は黙って聞いていた。


 それは当然だろう。


 俺だって、逆の立場なら信じない。


 タナカさんはしばらく考え込んだ後、言った。


「明日、別の人間を連れてくる。もう一度、その話をしてくれるかい?」


「……はい」


 こうして、その日の事情聴取は終わった。


 タナカさんとサトウさんは帰っていき、俺はしばらくこの施設に泊まることになった。


 どうやらここは病院という場所らしい。


 怪我人や病人を治療する施設だという。


 翌日。


 タナカさんとサトウさんは、もう一人、別の男を連れてきた。


 スーツ姿で、どう見てもタナカさんより偉そうな雰囲気の人だ。


 俺は、昨日と同じ話を最初から説明した。


 父のこと。


 異世界のこと。


 物流会社のこと。


 レクサスのこと。


 話が終わると、偉い人は、首を傾げ、「うーん」とうなった。


 そして――


 やはり、信じられないという顔をしたまま帰っていった。


 その次の日。


 タナカさんとサトウさんは、今度はさらに多くの人を連れてやってきた。


 スーツの人たち。


 白衣の人たち。


 何か機械を持った人たちまでいる。


 俺は、また同じ話をした。


 異世界の話を。


 父の話を。


 レクサスの話を。


 だが――


 やはり、みんな同じ反応だった。


 話を聞き終わると、皆、困ったような顔で首をかしげる。


 そして帰っていく。


 帰り際。


 タナカさんが、ふと思い出したように言った。


「そうそう」


 そして、少し優しい声で続けた。


「タカセ・タクミさんのご両親。つまり――君のおじいちゃんとおばあちゃんだ」


「君に会いたがっている」


 俺は思わず顔を上げた。


 タナカさんは言った。


「明日、ここへ連れてくるよ」


 その言葉を聞いた瞬間。


 胸の奥が、どくんと強く鳴った。

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