殺し屋廃業
トラモントは、これまで数えきれないほどの命を奪ってきた。暗闇の中で射殺したターゲットたちの命を、彼は一瞬のうちに思い出していた。だけど今日、彼はルックという少年に出会った。この出会いは、彼の運命を大きく変えることになるとは、まだ誰も予測できなかった。
依頼を終えたトラモントは、いつも通りの冷静さで町を後にしようとしていた。だが、ルックの目が彼の心を引き留めた。柔らかい光をたたえたその目は、まるでリノの面影を映しているかのようだった。今は亡き彼女のことを想い出すたびに胸が締めつけられる思いがしていた。
「君の名前は?」トラモントは意を決して声をかけた。
「ルックです」少年は素直に答え、少し警戒心を抱いた表情で彼を見上げる。
トラモントの心の中で、何かがざわめいた。ルックは、かつて愛して別れた女性、リノとの間に生まれた息子だった。リノが病死してから、彼は親戚に引き取られていたが、冷遇され、孤独感を抱きながら日々を過ごしてきたのだ。トラモントは、彼が自分の息子であることに気づくには、そう時間はかからなかった。
不思議な感情がこみ上げてくる。かつて冷酷な殺し屋だった自分に、父親としての感情が芽生え始めているのを感じた。これまで誰かを守る気などなかった自分が、今やこの小さな存在を守りたいと思うようになっていた。
彼は家族を失ったことが、どれほどの痛みであるかを知っていた。彼自身、幼い頃に両親を事故で亡くし、孤児院で育った。だからこそ、彼は決心した。任務を終えた後、彼は仲間たちと自分の確固たる地位を築いてきた。しかし、そのすべてを捨て去ることにした。彼は組織のボスに向き合い、仲間ともども射殺した。そして何もかもを終わらせ、ルックを連れて逃げることにした。
「どこに行くの?」車を走らせていると、助手席に座っているルックが不安そうに尋ねた。
「安住の地へ。君が幸せになる場所だ」トラモントはルックを見つめながら答えた。
車は進んで行く。トンネルが徐々に明けていくように、トラモントの心も軽くなっていく。彼は今、自分の命を懸けて守りたいものがある。それは過去の自分とは正反対の道であり、これからの人生の希望だった。
終わりなき道の先に、トラモントが求めていた「幸せ」が待っていてくれることを信じて。




