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【短編小説】ジェニファーはケチャップ袋

掲載日:2025/12/22

 大きく開いた白い胸の丘陵を、一粒の涙が伝っていくのを見ながら熱いお茶を飲んだ。

 また泣かせてしまった。

 だが泣く方が悪い。泣けば済むと思っている。産まれたところや皮膚や目の色で違いは無い。

 おれはジェニファーの胸元にお手拭きを放った。

「拭けよ」

 白いお手拭きは、ジェニファーのゆるいドレスを開き、柔らかい豊かな乳房を露出させた。


 おれはその乳房を見ながらもうひと口、熱いお茶を飲んだ。

 バイクで来たりするんじゃなかった。

 それともバイクは置いて、今日はタクシーで帰るべきか?

 まだメソメソとしている乳丸出しのジェニファーは、それでも手に箸を持ったままだった。

「ケチャップでいいよな?」

 そう訊くとジェニファーは少し悲しそうに頷いた。



 白人の癖に、天ぷらを塩で喰うなんてどこで覚えたんだ?

 どうせケチャップとマスタード、あとは精々がバーベキューソースの味しか分からない癖に。

 珍しく天ぷらを喰いたいと言うから連れてきてみれば、塩で食って格好つけられるのを見せたかったのか?

 お前ら白人は巨大なワニの棲んでいる池で釣ったナマズでも揚げてケチャップまみれにして喰ってりゃいいんだ。


 呼び出した仲居はジェニファーの乳に動じることなく「ケチャップをくれ」と言うおれの注文に黙って頷いた。

 個室を出て行く仲居の尻から、ジェニファーの乳に視線を戻す。白桃のような乳に生える生毛も金色に光っている様に見える。

 その皮膚の下には、細い葉脈のような血管が薄く見えた。

  本来、緑色の血をした白人は、ケチャップでどうにかその色を赤く保っているのだ。

 そんな奴らがインターネットで聞きかじった知識でもって天ぷらを塩で食べようなんて冗談じゃない。


 注文したハインツのケチャップを持って再び現れた仲居は、やはりジェニファーの乳に動じる事なく静かにケチャップを置くと、細い尻を向けて個室を出て行った。

 ハインツのケチャップを出されたジェニファーは、箸でつまんだ海老の天ぷらを口に含むと「美味しい」と言って笑った。

 おれはジェニファーの揺れる乳を見ながら

「そんな訳ねぇだろ」

 と言って塩をつまみ、ジェニファーの皿にある銀杏にかけてやった。乳丸出しのジェニファーは今度こそ嬉しそうに笑った。


 ジェニファーは乳を出したまま天ぷらを食べ終え、おれはそれを眺めながら熱いお茶を飲んだ。

 嬉しそうに塩で天ぷらを食う乳丸出しのジェニファーを眺めながら、お前ら白人にはカゴメのケチャップだって高級品だろう。今度はハニーマスタードソースでも買ってやるかと考えた。

 ジェニファーは乳を出したまま食べ終え、おれは乳を出したままのジェニファーを連れて店を出た。

 ジェニファーの乳首は紅潮してケチャップみたいな色になっていた。


 乳を出したままのジェニファーをリアシートに乗せて帰るとき、おれの背中にジェニファーの乳首が当たっているのを感じた。

 今日はパンツを穿いて来るなと言ったので、少し寒いかも知れない。

 まぁいいか、白人だから大丈夫だろう。


 結局、家に帰って来るまでジェニファーはずっと乳を出したままだったし、乳首はずっとケチャップ色に紅潮していた。

「いくよ」

 と言って一息入れてから耳たぶを抑えると、ケチャップ色の乳首をした乳丸出しのジェニファーが少し笑ったので

「何がおかしい?」

 と訊いた。

 ジェニファーは青い目でおれを見ながら

「だって開けられるのは私なのに、開けた方のあなたが覚悟をするみたいな言い方だったから」

 と言った。

 おれは何か腹が立った気がして、耳たぶを冷やしていた保冷剤をジェニファーの乳首に押し当てた。


 冷たいとはしゃぐジェニファーを見ながら、実際に他人の耳に穴を開けると言うことに対しては覚悟が必要だな、と思った。

 例えば、ヘッドギアを着けていてもスパーリングで他人を殴るのには覚悟が必要だ。

 特に、綺麗なボディが入ってガードが下がった顔面に躊躇なくパンチを放り込めるのはある種の才能と言える。

 同じように、いくら保冷剤で冷やして感覚が麻痺しているからと言って他人の耳に穴を開けるのには覚悟が要る。

 それが例え、青い血をした白人相手であっても。


 実際、初めてジェニファーとセックスする時より遥かに緊張する。

 ライターで炙って消毒した針がガイドを通り、その先端を見て少し落ち着いたジェニファーの耳を通る。

 針は耳の裏で抑えた消しゴムに到達した。



 別にジェニファーの耳に穴を開けたところで世界の配色が変わったりはしない。

 通りを行く人の声も車の音もいつも通りだ。初めて白人のジェニファーとセックスをした時も同じだった。

 世界はクソでつまらない。

 だがそれでも構わない。



「痛くない?」

「痛いわ」

 ジェニファーが笑う。

 おれはジェニファーが感じている痛みから逃げる様に煙草に火を点けた。



 ジェニファーが耳に開けた痛みと言うリアリティーを作ったのは、おれの指が持った針と消しゴムであり、つまりそのリアリティーはもしかしたらフェイクなのかも知れない。

 作られたリアリティーなんて言うものにどれほどの価値があるのか知らない。

 おれが作り物なのか、おれとセックスをする白人のジェニファーが偽物なのか、仮にどちらかだとしても、それを知る事になんの価値がある?


 ジェニファーの白い肌に飛び散った汗とミートソースを、白いティッシュで拭いながら、やはりまだケチャップ色をしたままの乳首があった。

 おれは途端に疲れてしまい、羽毛布団にくるまってケチャップ色の乳首に向かって話しかけた。

「処女とセックスをした事が無いから分からないけれど、似たような感じなのかな」

 ケチャップ色をしたジェニファーの乳首は笑った。

「さぁ、でも今日はまだ処女だよ」

 ジェニファーが邪悪に笑う。


 確かに、いま午前0時を過ぎたばかりだ。

「今日はケチャップの癖に」

 そう言えばアメリカ人はクリームパイも好きなんだったな。クリームパイにケチャップとは悪食だ。

 おれは再びジェニファーに手を伸ばした。

 中指と薬指の間にある乳首は、やはりケチャップの色をしていた。

 ジェニファーは「来てる、来てる」と言う。ジェニファーの白い肌はケチャップを溶かしたみたいに紅潮していく。



 おれはそのケチャップ袋の中を出入りしている。

 おれが向かう先はケチャップ袋だ。もうすぐ到達するのかも知れない。

 もしかしたら、ジェニファーにも赤い血が流れているのだろうか?

「あぁ、いくよ」

 ジェニファーの赤い乳首を見ながら、そう言って笑った。

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